/ Domino City side
名前変換
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「やったな城之内」
公園から街中へ戻る道を、城之内と本田を先頭に進んでいた。杏子と双六が続き、一番後ろを名前が歩く。
「でもさ、なんでグレート・モスを貰わなかったんだ? あっちの方がレアカードの価値高いんじゃないのか?」
「素人はこれだからイヤになるぜ。いいか? オレはラーバモスも進化の繭のカードも持ってねぇから、グレート・モスだけ受け取ったって使えねえんだよ」
「とかナントカ言っちゃって、ホントは羽蛾君からトレードマークのグレート・モスを奪うのは、気が引けちゃったんじゃないの?」
そう覗き込む杏子に「そ、そんなんじゃねえよ!」とムキになる城之内。思わず名前も笑いがこみ上げて、双六も城之内を見上げた。
「ハッハッハ! それでいいんじゃ。城之内も随分とデュエリストらしくなったのう」
「そうね、私もウカウカしてられないみたい」
「イヤァ、それほどでもあるけどよぉ」
杏子がふと遠くを見つめる。
「(遊戯…… 今ごろどうしてるのかな)」
「じゃあ、私もそろそろ相手を探しに行かないと」
名前が携帯を取り出して時間を確認する。まだ昼前とは言え、城之内のデュエルを見届けてすっかり時間を忘れてしまっていた。
「まあそうじゃが…… この先のセンター街まで一緒に行かんかのう」
「え、」
思いがけない双六の申し出に名前が顔を向ける。城之内や本田も意外だったのか顔を見合わせた。
「いや、実は名前ちゃんに前からお願いがしたくてのぅ。……名前ちゃんの幻のレアカードデッキ、一度でいいからこの手で拝みたかったのじゃ」
ガクッと肩を落とす。そんな事……と思いつつ、まあ遊戯のお爺さんだし、レアカードマニアだって聞いてたし……
城之内と本田も呆れた顔をした。
「じぃさん、今はバトルシティ真っ最中だぞ!」
「うぅ……」
「まぁまぁ、別にそれくらい構わないから。どこかベンチとか探しましょうか」
そう言って城之内を嗜めると、双六が嬉しそうに目を輝かせた。もう少し一緒に行動しても、別にバチが当たるわけでもない。そう考えて名前は皆んなと一緒にまた前へ進み始めた。
その後ろ、電柱の陰から覗き見る男…… その額に千年アイテムの紋章を輝かせて、男の目を通してマリクが監視しているとも知らずに。
***
「フフフ…… 見つけた、もう1人の標的。だがまずは武藤遊戯だ。我が一族に呪われた運命を背負わせた憎き
水平線の向こうには童実野町の背の高いビル群の頭が既に見え始めている。そこへ向かって海面を走るクルーザーの船首、そこにマリクは立っていた。
「マリク様、……人形を動かすのですか?」
目深くフードを被った男…… リシドが出てきてその背中に声をかけた。
「あぁ。僕はこれから人形に入り、あの男と闘う。そして
***
「このひと、昨日からずっとこの格好のままでいるの?」
「すげぇよな、ピクリとも動かねぇんだぜ?」
駅前広場の端、そのベンチの上に立つ《寡黙な人形》。その異常性から流石に人の目が集まって、いまひと組のカップルがちょっかいを出していた。
「人形じゃないよね?」
クスクスと笑いながら女がそのパントマイマーの前で手を振ってみせる。
───『動け』
パントマイマーの額に千年アイテムのウジャド眼の模様が現れる。ピクリと動かした目蓋に驚いた女が手を引っ込めた。
「ヒッ……! ご、ゴメンナサイ!」
キリキリとゆっくり顔がそのカップルの方へ向けられる。一緒にいた男も驚きのあまりサングラスがズレた。
まるで何かのスイッチが入ったかのように、機敏な動きでデュエルディスクを装着するパントマイマー。大きく飛躍してベンチからカップルを跨ぎ着地すると、そのまま走り去ってしまった。
「な、なんだアレ……」
パントマイマーに周りの声など聞こえてはいない。ただマリクの思う通りに体を動かす。脳内に響くマリクの声、その通りに《寡黙な人形》は行動した。
───『走れ、走るんだ。……遊戯のもとに!』
***
川の水面が遊戯を映していた。肉体がある方の遊戯だけを。
表の人格の遊戯が水面に映る自分から顔を上げて横を見る。隣にはもう1人の自分、闇人格の方の遊戯が、自分の映らない水面を凝視していた。
「僕、知ってるよ。このバトルシティで、君がなにを求めて戦っているのか…… それは君自身の記憶だって」
そうだよね? と念をおすように尋ねる表の遊戯に、闇遊戯が視線を向けた。
『知っていたのか』
「……始めは全然分からなかったよ。どうして君がレアカードしか手に入らないこの大会に出場しようとしたのか。でも君は、本当に大切なものを追い求めていたんだね」
……僕は小さい頃から、何年もかかって千年パズルを完成させた。
遊戯はパズルを完成させたときのことを、今でも昨日のことのように思い出す事ができる。それだけ遊戯の人生の中で、とても大きなターニングポイントだった。闇人格としての自分、もう1人の心という彼に出会ったことが。
「そして君という大切な心と出会う事ができた。友達もできず、弱虫だった僕に勇気をくれたんだ。そして僕には、たくさんの友達ができた! 君がいてくれたお陰だって思ってる」
『そうじゃない。それはお前自身の力さ』
闇人格の遊戯がそう笑い返した。
「今度は僕が力を貸すよ。僕も君と一緒に闘う! 大して役に立てないかもしれないけど……」
『そんなことはないさ、相棒。お前が側にいてくれるからオレは頑張れるんだ。今までも、……そしてこれからもな』
「……! うん!」
表の遊戯がそう頷いて顔を上げれば、闇遊戯は何かの気配を感じて顔を逸らしていた。
『……なにか来る───』
そう口走るが早いか、河川に架かる端から飛び降りて堤防ブロックを滑り降りてくる人影が遊戯の前に滑り込んだ。
顔中にピアスを開けて、大きな錠前を首に下げたスキンヘッドの男。だがその異様な風貌が霞むほどに目に付くのは─── その額に光るウジャド眼。
「お前は?!」
寡黙な人形の目を通してマリクが笑えば、その声すら寡黙な人形の喉を通して遊戯に届けられる。
「『フッフッフ…… 器の遊戯、また会ったね』」
「マリク!」
「『フフッ 覚えていてくれたんだね。そう、この人形を操っているのはこの僕……マリクだ。そしてこの“寡黙な人形”はただの器さ』」
「器?!」
海面を走るクルーザーのデッキ。マリクはそこに立ち、人形を通して遊戯と接触していた。その目には近付いてくる童実野町、そして河川敷で対峙する遊戯…… そしてさまざまなもの。
「そう、僕の千年ロッドの力でみのパントマイマーは心の奥に蹲っている。だから今は感情と呼べるものは無いに等しい。……空っぽの器さ」
千年パズルの輝きをマリクは人形の中から覗いていた。人格が入れ替わり、マリクの望む相手─── 名も無き王の魂、闇人格の遊戯が姿を現す。
「許さねぇ! 千年アイテムの力を利用し、人々を意のままに操るキサマをオレは絶対に許さねえぜ! マリク!!!」
***
「見えなくても、……私には感じることができる」
イシズが俯いて千年タウクを撫でた。千年タウクの見せる未来……それがどんな形であれ、そこに至るまでの道筋の傍らに目を向けなくてもイシズ自身の感性がその心をざわめかせた。
「マリク、もうすぐそばまで来ているのですね。……この街でもうすぐ始まろうとしている、三千年前の偉大なる
振り向いた先のテーブルに整然と畳まれたマント。その横に頭を飾っていたヘアーカフを外して置くと、イシズはマントを肩にかけてフードを目深く被った。
「全ては避けられない未来。男には男の、……そして女には女の闘いがある。たとえ奪い合うものが失われていたとしても。」
***
「ええのぉ〜、名前ちゃんの《ブラック・マジシャン》! 欲しい〜」
「絶対にダメ」
「もう持ってるでしょ」と言って名前は双六の手から《ブラック・マジシャン》のカードを取り上げた。
城之内達は少し離れたところでおしゃべりをしている。いくら友達とはいえ同じ大会に出ている対戦相手に変わりはない。デッキの中身を見るわけにはいかないと、城之内から離れてくれたのだ。
「アレは遊戯に譲ってしまったんじゃ」
「そんな惜しむほど大切なレアカードなら、譲らなければよかったじゃない……」
双六の手に広げられた自分のデッキも「もうおしまい」と言わんばかりに撤収させると、名前はブラック・マジシャンのカードを適当なところに差し込んでカットを始めた。
その手をまだ名残惜しそうに眺める双六。ショボンとしょげる遊戯の祖父に、名前は「(遊戯の性格とはあんま似てないな)」となんとなく思う。
「じゃがのう……なぜか譲ってしまったんじゃ。あの千年パズルを遊戯が組み上げた時にの、何故か譲らなくてはならんと思ってな」
カットシャッフルしていた名前の手が止まる。脳裏にはあの石盤が蘇っていた。
「(……遊戯が石盤に描かれていた
……なにか、ブラック・マジシャンと私に他の運命があるというの?)」
膝に置いたデッキケースに触れる。双六にも見せなかった2枚のカードがセパレーターに挟まれて名前を覗く。
「(あの壁画に描かれた過去、そしてその続きの未来─── でも、そんなものに従って海馬を選んだなんて言いたくない。私は私の意思で海馬を好きになったんじゃないの? ……そうでないなら、どうして私は、こんなにも海馬の気持ちを知ることを恐れているのよ)」
***
「運命に導かれたデュエルなら、避けることはできない。このデュエル受けてたつぜ!」
「(それでいい。キサマこそが僕の標的!)」
海面を前にマリクはひとつの視界に集中していた。デュエルディスクを腕に対峙する遊戯、三千年の時を超えた闘い。
「『このデュエルで僕が勝ったら、この人形がキサマを殺す。どこへ逃げようが、この人形はお前を殺すまで追いかけ続ける。どこまでもな。フフフ……』」
「フッ 果たして貴様にオレが倒せるかな?」
『気をつけて! アイツは神のカードを持っているよ』
「(神のカード?)」
表の人格に遊戯が目を向ける。
「フッ ……ならば、神を倒す!」
デュエルディスクを構える遊戯に合わせてマリクの精神が入った人形も腕を振り上げる。その向こうではマリクが笑った。
「(勝つのは僕さ。そして貴様を倒したあと、僕はこの街で海馬の持つ最後の
3枚の神のカードは僕に
そのとき僕は、全てを手にする事ができるんだ!)」
「(オレは負けるわけにはいかない。自分自身の失われた記憶を取り戻すために、このデュエルを制するぜ!)」