/ Domino City side
名前変換
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「どこ行くんだよ、杏子」
カフェを出て人の雑踏が行き交う街を適当に進む。
「別に、どこって決めなくてもいいじゃない!」
杏子がそう言って歩き進める通りに、遊戯もフラッと着いていく。CDショップの試聴コーナーに立ち寄ったり、公園でハトにエサをやってみたり、映画館に並ぶポスターを眺めたり。
目に入る“興味がありそうなもの”は街中の至るところに転がり落ちていて、溢れていた。同じように行き場のない人々が其々に惹かれる場所へ足を向け、行き場がある人も其々に意思を持って足を進め、……そんな雑踏を杏子と肩を並べて歩く。
本当は相棒が杏子とこうして歩くべきだと言うのに。
ちくりと胸が痛んだ。ショーウィンドウに映る杏子と、遊戯の体。中身のオレは、本当に遊戯と同じ姿なのだろうか。
ガラスに映った街並みと自分の姿。その後ろ、ふと反対車線の歩道の中に見慣れた赤い髪の人物が走っていくのが見えた。高鳴る胸に足を止めて振り返る。
「……! 遊戯?」
立ち止まった遊戯に杏子も振り返るが、どこかに向けられたその顔を見ることは出来ない。
「(名前……)」
相棒が杏子と並ぶべきだと思うのと同じくらい、自分が一緒に並んで歩きたいと思える彼女への気持ちが日増しに強くなっていると感じていた。だが心の中で呟く彼女の名前には、あの海馬が陰のように寄り添っている。
振り返って見回した先に名前の姿は見当たらなかった。
こうなると分かっていたなら、自分は遊戯に断りもせず、名前をデートに誘っただろうか。
「なんでもない。見間違いだったみたいだ」
そう言って向き直ると、杏子の少し不安げな顔に罪悪感が込み上げた。
***
「遊戯も携帯持ってればよかったのに、もう……!」
名前は息を切らせて街中を走っていた。もう2時間も出来る限りの魔導士たちを仕って遊戯を探している。
それなのに、遊戯どころか闇の力の気配すら感じ取れない。よりにもよって千年秤に千年リングのような探知能力があるわけでもない。自力で探すしかないのだ。
でも、こうしているうちに……また遊戯が襲われていたら。
遊戯に限って約束を破るはずがない。その確固たる信頼こそが名前に不安に直結していた。
肩で息をするのも惜しんで、名前はまた駆け出す。
反対車線の歩道で、杏子とデートしているとも知らずに。
***
「へぇ、こんな所にカード屋があったんだ」
再び足を止めた遊戯に振り返れば、彼はカードショップのショーウィンドウを眺めていた。
杏子も遊戯の横に立って貼り出されたチラシに目をやる。
「知らなかった? 最近できたのよ」
「ふ〜ん」
「入ってみる?」
「ああ!」
即答する遊戯に、杏子はつい口端が上がった。
店内に入って一直線にデュエルモンスターズの新パックコーナーへ向かう遊戯。杏子はその背中を見ているしかできない。
新しい戦士族モンスターが収録されたパックを手に取って真剣に悩む遊戯に、店に入る前の笑顔は少し残念そうな色を含んだ。
「(なんか今日一番楽しそう)」
「……ん? あの、広告にあった魔法使い族の新規パックはもう無いのか?」
「ああ、すいませんねお客さん。この前箱買いしてった人が居てね、それから切らしてんですよ」
店員からのその回答に、杏子はつい笑いが溢れる。
「箱買いって、海馬君もやりそうじゃない?」
「え? あ、あぁ。そうかもな……」
突然杏子から出てきた海馬の話題に遊戯は困惑を見せた。動揺を隠すように、手にしていたパックをひとつそのままレジに出す。
「おっ! ツイてるぜ。“光の封殺剣”か。いいカードだ。」
店を出てすぐにパックを開ける。3枚入っていた中には、デッキに組み込みやすく使い勝手もいい罠カードが当たった。
「やったじゃん!」
喜ぶ遊戯に杏子も笑顔が溢れる。
「相棒も喜ぶぜ。」
「次はあそこ行こ! あそこ!」
杏子が立ち止まって指差す先、そこには大型のゲームセンターが待ち構えていた。
***
「見つかんない……」
人目につかない路地裏で膝に手をやり肩で息をすれば、情けなさにうっすらと涙すら浮かぶ。
呼吸が落ち着いてきてから汗のにじむ額をハンカチでぬぐうと、髪留めを外して大きく三つ編みにした毛先からゆっくりと解いていった。
正直言って、海馬が強引にデートに仕立て上げた夕食よりも、遊戯とのデートの方が楽しみだった。
恋愛感情とは違う、遊戯との不思議な繋がりは、ずっと前から心地が良いと思っていたのだ。そう、まるで家族のような、そんな暖かいもの。きっと仲良くなれる、そう期待して自分なりに服やアクセサリーを選んで、髪を結った。
それなのに。こうなるなら体操着で来ればよかったと思えるほど今日は走った。もう見た目も気にしてられず、名前は前髪をかきあげる。
「ヘイ彼女」
降りかかった声に視線だけ向ければ、3人組の男がニタニタと笑って名前を見下ろしていた。
そのうちの1人が壁に手をついて名前に詰め寄る。
「カワイーじゃん。1人? 彼氏いないの?」
「オレたちと遊ぼーぜ?」
「携帯持ってんの?! 番号教えてほし〜な〜」
思わず舌打ちをして、機嫌の悪さから魔導士の中で一番怖いヤツを呼んでやろうかと男たちを睨みつけた。だがいくら呼び掛けたところで魔導士は出てこない。
「(あ、……しまっ、)」
遊戯を探すために全員出払わしてる。それを思い出す間にも、1人の男が手を伸ばしてきたのが目に映っていた。
「キャ……ッ」
肩を掴まれて壁に押しつけられる。咄嗟の事で腕を胸を前に出し、千年秤を落としてしまった。
「あ……」
青ざめた顔で怯えを見せた名前に、3人組の男は顔を見合わせて笑う。1人の男が手を伸ばしてきたとき、名前はギュッと目を瞑った。
カフェを出て人の雑踏が行き交う街を適当に進む。
「別に、どこって決めなくてもいいじゃない!」
杏子がそう言って歩き進める通りに、遊戯もフラッと着いていく。CDショップの試聴コーナーに立ち寄ったり、公園でハトにエサをやってみたり、映画館に並ぶポスターを眺めたり。
目に入る“興味がありそうなもの”は街中の至るところに転がり落ちていて、溢れていた。同じように行き場のない人々が其々に惹かれる場所へ足を向け、行き場がある人も其々に意思を持って足を進め、……そんな雑踏を杏子と肩を並べて歩く。
本当は相棒が杏子とこうして歩くべきだと言うのに。
ちくりと胸が痛んだ。ショーウィンドウに映る杏子と、遊戯の体。中身のオレは、本当に遊戯と同じ姿なのだろうか。
ガラスに映った街並みと自分の姿。その後ろ、ふと反対車線の歩道の中に見慣れた赤い髪の人物が走っていくのが見えた。高鳴る胸に足を止めて振り返る。
「……! 遊戯?」
立ち止まった遊戯に杏子も振り返るが、どこかに向けられたその顔を見ることは出来ない。
「(名前……)」
相棒が杏子と並ぶべきだと思うのと同じくらい、自分が一緒に並んで歩きたいと思える彼女への気持ちが日増しに強くなっていると感じていた。だが心の中で呟く彼女の名前には、あの海馬が陰のように寄り添っている。
振り返って見回した先に名前の姿は見当たらなかった。
こうなると分かっていたなら、自分は遊戯に断りもせず、名前をデートに誘っただろうか。
「なんでもない。見間違いだったみたいだ」
そう言って向き直ると、杏子の少し不安げな顔に罪悪感が込み上げた。
***
「遊戯も携帯持ってればよかったのに、もう……!」
名前は息を切らせて街中を走っていた。もう2時間も出来る限りの魔導士たちを仕って遊戯を探している。
それなのに、遊戯どころか闇の力の気配すら感じ取れない。よりにもよって千年秤に千年リングのような探知能力があるわけでもない。自力で探すしかないのだ。
でも、こうしているうちに……また遊戯が襲われていたら。
遊戯に限って約束を破るはずがない。その確固たる信頼こそが名前に不安に直結していた。
肩で息をするのも惜しんで、名前はまた駆け出す。
反対車線の歩道で、杏子とデートしているとも知らずに。
***
「へぇ、こんな所にカード屋があったんだ」
再び足を止めた遊戯に振り返れば、彼はカードショップのショーウィンドウを眺めていた。
杏子も遊戯の横に立って貼り出されたチラシに目をやる。
「知らなかった? 最近できたのよ」
「ふ〜ん」
「入ってみる?」
「ああ!」
即答する遊戯に、杏子はつい口端が上がった。
店内に入って一直線にデュエルモンスターズの新パックコーナーへ向かう遊戯。杏子はその背中を見ているしかできない。
新しい戦士族モンスターが収録されたパックを手に取って真剣に悩む遊戯に、店に入る前の笑顔は少し残念そうな色を含んだ。
「(なんか今日一番楽しそう)」
「……ん? あの、広告にあった魔法使い族の新規パックはもう無いのか?」
「ああ、すいませんねお客さん。この前箱買いしてった人が居てね、それから切らしてんですよ」
店員からのその回答に、杏子はつい笑いが溢れる。
「箱買いって、海馬君もやりそうじゃない?」
「え? あ、あぁ。そうかもな……」
突然杏子から出てきた海馬の話題に遊戯は困惑を見せた。動揺を隠すように、手にしていたパックをひとつそのままレジに出す。
「おっ! ツイてるぜ。“光の封殺剣”か。いいカードだ。」
店を出てすぐにパックを開ける。3枚入っていた中には、デッキに組み込みやすく使い勝手もいい罠カードが当たった。
「やったじゃん!」
喜ぶ遊戯に杏子も笑顔が溢れる。
「相棒も喜ぶぜ。」
「次はあそこ行こ! あそこ!」
杏子が立ち止まって指差す先、そこには大型のゲームセンターが待ち構えていた。
***
「見つかんない……」
人目につかない路地裏で膝に手をやり肩で息をすれば、情けなさにうっすらと涙すら浮かぶ。
呼吸が落ち着いてきてから汗のにじむ額をハンカチでぬぐうと、髪留めを外して大きく三つ編みにした毛先からゆっくりと解いていった。
正直言って、海馬が強引にデートに仕立て上げた夕食よりも、遊戯とのデートの方が楽しみだった。
恋愛感情とは違う、遊戯との不思議な繋がりは、ずっと前から心地が良いと思っていたのだ。そう、まるで家族のような、そんな暖かいもの。きっと仲良くなれる、そう期待して自分なりに服やアクセサリーを選んで、髪を結った。
それなのに。こうなるなら体操着で来ればよかったと思えるほど今日は走った。もう見た目も気にしてられず、名前は前髪をかきあげる。
「ヘイ彼女」
降りかかった声に視線だけ向ければ、3人組の男がニタニタと笑って名前を見下ろしていた。
そのうちの1人が壁に手をついて名前に詰め寄る。
「カワイーじゃん。1人? 彼氏いないの?」
「オレたちと遊ぼーぜ?」
「携帯持ってんの?! 番号教えてほし〜な〜」
思わず舌打ちをして、機嫌の悪さから魔導士の中で一番怖いヤツを呼んでやろうかと男たちを睨みつけた。だがいくら呼び掛けたところで魔導士は出てこない。
「(あ、……しまっ、)」
遊戯を探すために全員出払わしてる。それを思い出す間にも、1人の男が手を伸ばしてきたのが目に映っていた。
「キャ……ッ」
肩を掴まれて壁に押しつけられる。咄嗟の事で腕を胸を前に出し、千年秤を落としてしまった。
「あ……」
青ざめた顔で怯えを見せた名前に、3人組の男は顔を見合わせて笑う。1人の男が手を伸ばしてきたとき、名前はギュッと目を瞑った。