王国編 /1
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「遊戯!無事でよかった~」
デュエルリンクから遊戯が降りてくると、杏子が真っ先に駆け寄る。
城之内や本田、獏良、そして舞も追って駆け寄り、名前は少し離れてそれを見ていた。
「にしても、何だったんだ?さっきの光…」
城之内がデュエルリンクに目を向けるが、本田は気に止めていない様子で同じくデュエルリンクを見る。
「炎のせいで、3Dバーチャルシステムが壊れたんじゃねぇの?」
少しばかり納得のいかない顔つきの城之内を見て、本田は まぁ遊戯もこうして無事だったんだからよぉ、と続けると、城之内もやっと笑った。
「遊戯…見事だったわ。」
舞は一歩近付いて遊戯に向き合う。
「舞、このチップはお前のものだ。」
遊戯が舞にチップを差し出すが、舞はそれを受け取ろうとはしなかった。
「そのスターチップは受け取れない。アタシはこの島を去るわ。」
その返答に杏子や本田、遊戯が引き止める。
「確かに遊戯と闘うのが私の夢だった…。でもそれは次の機会になるわね…。でも次こそは必ずそのチャンスを掴んでみせる。」
舞は振り返って名前を見た。
「その時は名前、アンタもよ!」
名前は指差されて少し驚いた顔で舞を見た。
「どんな強いデュエリストの中でも、同じ女のデュエリストとして、アンタだけはいつか必ず超えてみせる。クイーンの名を背負うと云う重みを、アンタが理解しているならね…!」
「!…クイーンの、名の…重み…」
名前の口から小さく溢れたのを、舞や遊戯は聞き逃さなかった。
「…それは、理解しているつもりよ。舞さんが闘う気があるなら、私はいつでも応じるわ。…それこそ、クイーンと闘うと云う重みと、貴女がクイーンを背負えるだけの器だと自負したならね…!」
舞はドキリと心臓が高鳴ったが、それでも震えや畏れに耐えて 名前のその紫に光る目を真っ直ぐ見つめて対峙した。
「でも、貴女はまだその資格をこのデュエリスト・キングダムで失った訳ではないわ。…遊戯の手を取れば、貴女は私とも、遊戯とも闘うチャンスを掴めると言うのに。」
舞はそこで やっと名前から目を逸らす。それを見兼ねた城之内だけは、ため息を吐いた。
「ったくよ~。…ウダウダ言ってもラチがあかねェぜ。」
そして舞に差し出された遊戯の手から、スターチップを取り上げた。
「いらねぇんなら、このオレが全部貰ってやるぜ!へへへへ~ん」
舞は流石にそこで素に戻り、ムキになって城之内に詰め寄った。
「ハァ?! ちょっと待った!それだけは許さないわよ!?」
「だっていらねぇんだろ?」
城之内は背伸びして 舞に届かないほどに手を上げた。
「返せコラ!」
スターチップを握った城之内の手に向かって舞が手を伸ばすと、城之内はその手を重ねてスターチップを渡した。
「ほらよ」
「! …城之内……」
舞は思わず手に返ってきたスターチップを見て、その目を見開いた。
「そのスターチップで闘うのは プライドが許さねぇってんなら、こっそり海にでも捨てな。それはアンタの自由だぜ。…だがオレなら捨てねぇな。チップも、夢もな!」
呆気にとられた舞から顔を逸らすと、城之内は照れを隠すように背伸びをしながら振り返って去ろうとする。
「さ~~て、寝るとするか~~。」
本田は自分の方に歩いてくる城之内に、「相変わらず言う事がクセぇな」と、揶揄いながらも その顔は晴れやかで城之内を褒めていた。
「うるせぇよ!」
「まあまあ…」
城之内はやはり照れているのか、その顔はもう舞には向けず、獏良や杏子も足を進める城之内に着いていった。
遊戯もそれに満足したのか、去っていく仲間の元へ歩を進める。
「遊戯!」
それを舞が呼び止めた。
「このスターチップは借りておくわ。この借りがある間は、アタシはあなたと闘う資格はない。でも…その資格を手にしたら、その時はアナタに挑戦するわ! 正々堂々と!」
力強く笑う舞に、遊戯も闘志ある微笑みで返した。
「あぁ、まってるぜ!」
***
名前は去ろうとしたが、表の人格へ戻った遊戯と 獏良に捕まってしまった。
「名前、今夜は僕たちと一緒に居よう。君が話してくれる限りのことで良いから、教えてほしいんだ。」
「…遊戯…。」
千年パズルを首から提げた遊戯と、千年リングを提げた獏良。
そして千年秤を腰のベルトに差した名前。
名前は少し諦めたように息を吐くと、わかったわ、とだけ返して遊戯達と行動を共にした。
***
「海馬瀬人が私の島に向かっている?」
もう明け方も近い夜中に、ペガサスはまだモニタリングパネルのある部屋に居た。しかしモニタリングパネルにはデュエルの様子ではなく、海馬コーポレーションのビッグ5からの連絡を映し出している。
「ご心配なく。すぐに手を打ちます。」
「永遠に海馬がデュエリスト・キングダムに辿り着けないように。」
ビッグ5のうちの2人が口を開くが、ペガサスはすぐにそれを差し止める。
「No~。海馬瀬人に手を出してはなりまセ~ン。」
画面に映るビッグ5達は、騒めきながらお互いを見た。
「契約は私が遊戯ボーイを倒した瞬間に成立しますから ノープロブレムね。その時海馬コーポレーションは私達のものになる。…海馬コーポレーションの技術と共に、その開発者である天才 海馬瀬人の頭脳もね。」
話が終わると早々にペガサスはビッグ5との連絡を切ってしまった。そして楽しげに笑って息をつきながら、背もたれに体を預ける。
「海馬瀬人、…出会えるのが楽しみデ~ス。」
***
海馬は1人 ヘリコプターを自ら操縦しながら島へ向かっていた。
ナビゲーションモニタの操作パネルには、名前から受け取ったデータカードが差されている。
海馬は既に水平線の向こうに見える島の影を捉えていた。
「(遊戯…ヤツの闘いは見事だった…。)」
海馬は遊戯との初めてのデュエルを思い出していた。…あのエグゾディアの召喚を成功させ、海馬が大敗を期した闘いを。
『いくら強いカードでも、心の通わないカードでは意味がない! カードと心を1つにすれば、奇跡は起きるんだ!』
そしてあの学校の屋上での出来事…。名前が倒れる瞬間、確かにブラック・マジシャンは、自ら意思を持って彼女に手を伸ばした。
カードが心を持っている事、そして名前はカードと心を通わせている事を確かに目にしたのだ。
「(俺はもう一度、奴等と闘いたい…!)」
名前とは、自ら仮面を被り正体を隠した状態の彼女と 大会の決勝でしか闘った事がなかった。
だが次こそは、彼女自身と闘う!それがどういう結果をもたらすのか。…何としても、彼女ともう一度闘いたい…!
「(だがその前に、このデュエルディスクシステムで 倒さねばならないヤツがいる!!!
海馬コーポレーションを手に入れるため、裏切り者共と密約を交わし、モクバまで連れ去った男…ペガサス・J・クロフォード! お前だけは俺がこの手で倒す!!!)」
***
野宿ではあるが城之内や本田、杏子が森の木陰で睡眠をとる中、海に面して崖になっている森の拓けた場所に遊戯と獏良、そして名前が向き合って座っていた。
2人の首にはそれぞれ千年パズルと千年リングが、そして名前は座った足元に千年秤を置いていた。
すると獏良が、千年リングを取り出した。
「どうしたの?獏良くん」
遊戯と名前がそれを覗き込む。
「これを見てよ。」
獏良の手にした千年リングは、1つの鋲が光って何かを差していた。
「千年リングの針がペガサスの城を指し示しているんだ。ボクが童実野高校に転校して来た日…、その時も反応したんだ。遊戯君の千年パズルに。」
そして獏良は名前の顔を見た。
「実は、名前ちゃんが遊戯君と同じ“何か”を持っている事にも気付いてたんだ。」
名前は獏良の顔を見返す。
「…隣のクラスの前の廊下で、たまたま君とすれ違った事があって、その時も同じ反応があった。…それが千年秤だって事は、最近知ったんだけどね。」
「…そう。」
名前は小さく返すと、また少し俯いた。
「それじゃあ、その千年リングはペガサスの持っている千年アイテムに?」
遊戯は光って反応を示す千年リングに視線を戻した。
「千年アイテム?」
獏良は聞きなれない単語に興味を示すが、名前は特に動かなかった。
「ひょっとして、千年リングは千年アイテムの探知機の役目もあるのかもしれないね。」
獏良は手に持った千年リングを自分の顔に寄せてまじまじと眺める。
遊戯は自分の千年パズルに触って少し持ち上げた。それを獏良が見て、口を開いた。
「千年アイテムがなんなのか、…どこから来たのか。今の僕には何もわからない。」
「うん…。千年アイテムは、僕の千年パズルだけじゃなかったんだ…。…あ、」
遊戯は自分の千年パズルから視線を移して、ふと 口を閉ざしたままの名前を見た。
「それで… 名前は何か知っているの? もし何か知っていたら、僕たちにも教えてほしいんだ。」
名前は俯いて視線を真っ直ぐどこかへ向けていたが、やっと千年秤を手に持ち 自分の顔に寄せてそれを見た。
「私もこの千年アイテムについて何か詳しく知っているわけじゃないわ…。ただ、…」
名前の脳裏に、白い民族服を纏い、千年錠を携えた褐色の肌の男が過ぎる。
「(シャーディー、…)…」
急に押し黙る名前に、遊戯と獏良が顔を合わせる。
「いえ、なんでもないわ。」
名前はそれきり口を開こうとはしなかった。
「(…千年パズルを解いた日から、僕の中に “もう1人の僕” が存在するようになったんだもん。僕も知りたい、その謎を…! その謎が解ければ じいちゃんを闇の世界から助け出すことができるかも…! そのヒントは間違いなく名前も握っていると思うんだ…。待っててね、じいちゃん!!)」
遊戯は少し強気な顔で尋ねる。
「千年秤を使った時 名前は必ずダメージを受けていたみたいだけど、名前には闇の力の所有者ではないの? それに名前が、君のデッキに眠るブラックマジシャンや、魔術師達を ソリッドビジョンも無い所に呼び出す事が出来るのも その千年秤の力?」
「…」
「君の事は、まだわからない事だらけだ。…でも、君は闇のプレイヤーキラーとのデュエルで、もう1人の僕を炎から守ってくれた…。だから決して僕たちの敵ではないって、そう思っているよ。だから、これからも力を貸して欲しいんだ。」
名前は応えあぐねた様子でいたが、ふと海の向こうを見て立ち上がった。
「…名前ちゃん?」
獏良が立ち上がった名前の顔を見上げる。
「……いま、海馬に呼ばれたような…」
風が海に向けて吹く。
名前の灰色掛かった赤い髪が、明け方の濃紺の海と 大きく口を開けた闇に向かって流れる。
「え?」
遊戯も海馬の名前に反応して、闇に包まれる海の向こうを見た。そして翻った髪が彼女の顔を覆うところで、遠くから空気を震度させる大きな音が迫ってきた。
それはヘリコプターの飛行音であった。
崖の下から大きくライトを此方に照らし、そのヘリは現れた。凄まじい風が、名前の顔を覆っていた長い髪を今度は後ろへ飛ばす。
「…あれは!」
名前は強いライトが逆光になり見えなくなった操縦席を確かに見た。
流石の轟音と強風に、木陰で寝ていた城之内や本田、杏子も飛び起きた。
「誰だ!こんな真夜中にヘリ飛ばしやがって!」
城之内はライトを腕で遮りながら見上げた。
デュエルリンクから遊戯が降りてくると、杏子が真っ先に駆け寄る。
城之内や本田、獏良、そして舞も追って駆け寄り、名前は少し離れてそれを見ていた。
「にしても、何だったんだ?さっきの光…」
城之内がデュエルリンクに目を向けるが、本田は気に止めていない様子で同じくデュエルリンクを見る。
「炎のせいで、3Dバーチャルシステムが壊れたんじゃねぇの?」
少しばかり納得のいかない顔つきの城之内を見て、本田は まぁ遊戯もこうして無事だったんだからよぉ、と続けると、城之内もやっと笑った。
「遊戯…見事だったわ。」
舞は一歩近付いて遊戯に向き合う。
「舞、このチップはお前のものだ。」
遊戯が舞にチップを差し出すが、舞はそれを受け取ろうとはしなかった。
「そのスターチップは受け取れない。アタシはこの島を去るわ。」
その返答に杏子や本田、遊戯が引き止める。
「確かに遊戯と闘うのが私の夢だった…。でもそれは次の機会になるわね…。でも次こそは必ずそのチャンスを掴んでみせる。」
舞は振り返って名前を見た。
「その時は名前、アンタもよ!」
名前は指差されて少し驚いた顔で舞を見た。
「どんな強いデュエリストの中でも、同じ女のデュエリストとして、アンタだけはいつか必ず超えてみせる。クイーンの名を背負うと云う重みを、アンタが理解しているならね…!」
「!…クイーンの、名の…重み…」
名前の口から小さく溢れたのを、舞や遊戯は聞き逃さなかった。
「…それは、理解しているつもりよ。舞さんが闘う気があるなら、私はいつでも応じるわ。…それこそ、クイーンと闘うと云う重みと、貴女がクイーンを背負えるだけの器だと自負したならね…!」
舞はドキリと心臓が高鳴ったが、それでも震えや畏れに耐えて 名前のその紫に光る目を真っ直ぐ見つめて対峙した。
「でも、貴女はまだその資格をこのデュエリスト・キングダムで失った訳ではないわ。…遊戯の手を取れば、貴女は私とも、遊戯とも闘うチャンスを掴めると言うのに。」
舞はそこで やっと名前から目を逸らす。それを見兼ねた城之内だけは、ため息を吐いた。
「ったくよ~。…ウダウダ言ってもラチがあかねェぜ。」
そして舞に差し出された遊戯の手から、スターチップを取り上げた。
「いらねぇんなら、このオレが全部貰ってやるぜ!へへへへ~ん」
舞は流石にそこで素に戻り、ムキになって城之内に詰め寄った。
「ハァ?! ちょっと待った!それだけは許さないわよ!?」
「だっていらねぇんだろ?」
城之内は背伸びして 舞に届かないほどに手を上げた。
「返せコラ!」
スターチップを握った城之内の手に向かって舞が手を伸ばすと、城之内はその手を重ねてスターチップを渡した。
「ほらよ」
「! …城之内……」
舞は思わず手に返ってきたスターチップを見て、その目を見開いた。
「そのスターチップで闘うのは プライドが許さねぇってんなら、こっそり海にでも捨てな。それはアンタの自由だぜ。…だがオレなら捨てねぇな。チップも、夢もな!」
呆気にとられた舞から顔を逸らすと、城之内は照れを隠すように背伸びをしながら振り返って去ろうとする。
「さ~~て、寝るとするか~~。」
本田は自分の方に歩いてくる城之内に、「相変わらず言う事がクセぇな」と、揶揄いながらも その顔は晴れやかで城之内を褒めていた。
「うるせぇよ!」
「まあまあ…」
城之内はやはり照れているのか、その顔はもう舞には向けず、獏良や杏子も足を進める城之内に着いていった。
遊戯もそれに満足したのか、去っていく仲間の元へ歩を進める。
「遊戯!」
それを舞が呼び止めた。
「このスターチップは借りておくわ。この借りがある間は、アタシはあなたと闘う資格はない。でも…その資格を手にしたら、その時はアナタに挑戦するわ! 正々堂々と!」
力強く笑う舞に、遊戯も闘志ある微笑みで返した。
「あぁ、まってるぜ!」
***
名前は去ろうとしたが、表の人格へ戻った遊戯と 獏良に捕まってしまった。
「名前、今夜は僕たちと一緒に居よう。君が話してくれる限りのことで良いから、教えてほしいんだ。」
「…遊戯…。」
千年パズルを首から提げた遊戯と、千年リングを提げた獏良。
そして千年秤を腰のベルトに差した名前。
名前は少し諦めたように息を吐くと、わかったわ、とだけ返して遊戯達と行動を共にした。
***
「海馬瀬人が私の島に向かっている?」
もう明け方も近い夜中に、ペガサスはまだモニタリングパネルのある部屋に居た。しかしモニタリングパネルにはデュエルの様子ではなく、海馬コーポレーションのビッグ5からの連絡を映し出している。
「ご心配なく。すぐに手を打ちます。」
「永遠に海馬がデュエリスト・キングダムに辿り着けないように。」
ビッグ5のうちの2人が口を開くが、ペガサスはすぐにそれを差し止める。
「No~。海馬瀬人に手を出してはなりまセ~ン。」
画面に映るビッグ5達は、騒めきながらお互いを見た。
「契約は私が遊戯ボーイを倒した瞬間に成立しますから ノープロブレムね。その時海馬コーポレーションは私達のものになる。…海馬コーポレーションの技術と共に、その開発者である天才 海馬瀬人の頭脳もね。」
話が終わると早々にペガサスはビッグ5との連絡を切ってしまった。そして楽しげに笑って息をつきながら、背もたれに体を預ける。
「海馬瀬人、…出会えるのが楽しみデ~ス。」
***
海馬は1人 ヘリコプターを自ら操縦しながら島へ向かっていた。
ナビゲーションモニタの操作パネルには、名前から受け取ったデータカードが差されている。
海馬は既に水平線の向こうに見える島の影を捉えていた。
「(遊戯…ヤツの闘いは見事だった…。)」
海馬は遊戯との初めてのデュエルを思い出していた。…あのエグゾディアの召喚を成功させ、海馬が大敗を期した闘いを。
『いくら強いカードでも、心の通わないカードでは意味がない! カードと心を1つにすれば、奇跡は起きるんだ!』
そしてあの学校の屋上での出来事…。名前が倒れる瞬間、確かにブラック・マジシャンは、自ら意思を持って彼女に手を伸ばした。
カードが心を持っている事、そして名前はカードと心を通わせている事を確かに目にしたのだ。
「(俺はもう一度、奴等と闘いたい…!)」
名前とは、自ら仮面を被り正体を隠した状態の彼女と 大会の決勝でしか闘った事がなかった。
だが次こそは、彼女自身と闘う!それがどういう結果をもたらすのか。…何としても、彼女ともう一度闘いたい…!
「(だがその前に、このデュエルディスクシステムで 倒さねばならないヤツがいる!!!
海馬コーポレーションを手に入れるため、裏切り者共と密約を交わし、モクバまで連れ去った男…ペガサス・J・クロフォード! お前だけは俺がこの手で倒す!!!)」
***
野宿ではあるが城之内や本田、杏子が森の木陰で睡眠をとる中、海に面して崖になっている森の拓けた場所に遊戯と獏良、そして名前が向き合って座っていた。
2人の首にはそれぞれ千年パズルと千年リングが、そして名前は座った足元に千年秤を置いていた。
すると獏良が、千年リングを取り出した。
「どうしたの?獏良くん」
遊戯と名前がそれを覗き込む。
「これを見てよ。」
獏良の手にした千年リングは、1つの鋲が光って何かを差していた。
「千年リングの針がペガサスの城を指し示しているんだ。ボクが童実野高校に転校して来た日…、その時も反応したんだ。遊戯君の千年パズルに。」
そして獏良は名前の顔を見た。
「実は、名前ちゃんが遊戯君と同じ“何か”を持っている事にも気付いてたんだ。」
名前は獏良の顔を見返す。
「…隣のクラスの前の廊下で、たまたま君とすれ違った事があって、その時も同じ反応があった。…それが千年秤だって事は、最近知ったんだけどね。」
「…そう。」
名前は小さく返すと、また少し俯いた。
「それじゃあ、その千年リングはペガサスの持っている千年アイテムに?」
遊戯は光って反応を示す千年リングに視線を戻した。
「千年アイテム?」
獏良は聞きなれない単語に興味を示すが、名前は特に動かなかった。
「ひょっとして、千年リングは千年アイテムの探知機の役目もあるのかもしれないね。」
獏良は手に持った千年リングを自分の顔に寄せてまじまじと眺める。
遊戯は自分の千年パズルに触って少し持ち上げた。それを獏良が見て、口を開いた。
「千年アイテムがなんなのか、…どこから来たのか。今の僕には何もわからない。」
「うん…。千年アイテムは、僕の千年パズルだけじゃなかったんだ…。…あ、」
遊戯は自分の千年パズルから視線を移して、ふと 口を閉ざしたままの名前を見た。
「それで… 名前は何か知っているの? もし何か知っていたら、僕たちにも教えてほしいんだ。」
名前は俯いて視線を真っ直ぐどこかへ向けていたが、やっと千年秤を手に持ち 自分の顔に寄せてそれを見た。
「私もこの千年アイテムについて何か詳しく知っているわけじゃないわ…。ただ、…」
名前の脳裏に、白い民族服を纏い、千年錠を携えた褐色の肌の男が過ぎる。
「(シャーディー、…)…」
急に押し黙る名前に、遊戯と獏良が顔を合わせる。
「いえ、なんでもないわ。」
名前はそれきり口を開こうとはしなかった。
「(…千年パズルを解いた日から、僕の中に “もう1人の僕” が存在するようになったんだもん。僕も知りたい、その謎を…! その謎が解ければ じいちゃんを闇の世界から助け出すことができるかも…! そのヒントは間違いなく名前も握っていると思うんだ…。待っててね、じいちゃん!!)」
遊戯は少し強気な顔で尋ねる。
「千年秤を使った時 名前は必ずダメージを受けていたみたいだけど、名前には闇の力の所有者ではないの? それに名前が、君のデッキに眠るブラックマジシャンや、魔術師達を ソリッドビジョンも無い所に呼び出す事が出来るのも その千年秤の力?」
「…」
「君の事は、まだわからない事だらけだ。…でも、君は闇のプレイヤーキラーとのデュエルで、もう1人の僕を炎から守ってくれた…。だから決して僕たちの敵ではないって、そう思っているよ。だから、これからも力を貸して欲しいんだ。」
名前は応えあぐねた様子でいたが、ふと海の向こうを見て立ち上がった。
「…名前ちゃん?」
獏良が立ち上がった名前の顔を見上げる。
「……いま、海馬に呼ばれたような…」
風が海に向けて吹く。
名前の灰色掛かった赤い髪が、明け方の濃紺の海と 大きく口を開けた闇に向かって流れる。
「え?」
遊戯も海馬の名前に反応して、闇に包まれる海の向こうを見た。そして翻った髪が彼女の顔を覆うところで、遠くから空気を震度させる大きな音が迫ってきた。
それはヘリコプターの飛行音であった。
崖の下から大きくライトを此方に照らし、そのヘリは現れた。凄まじい風が、名前の顔を覆っていた長い髪を今度は後ろへ飛ばす。
「…あれは!」
名前は強いライトが逆光になり見えなくなった操縦席を確かに見た。
流石の轟音と強風に、木陰で寝ていた城之内や本田、杏子も飛び起きた。
「誰だ!こんな真夜中にヘリ飛ばしやがって!」
城之内はライトを腕で遮りながら見上げた。