/ Domino City side
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「これから2枚の壁画をお見せします。第18王朝の王の葬祭殿に残されていた壁画です。デュエルモンスターズの起源をご覧あれ」
一斉に点けられたライトに海馬は目を細めた。だが目に飛び込んできた壁画に、思わず心臓が高鳴る。
「───これは」
「ペガサスはその壁画を基にデュエルモンスターズを生み出したのです。あなたも……その壁画から最初に生み出された幻のレアカードをご覧になっているはず。
“トートの書”から生み出された魔導書をその手で束ね、デュエリスト・クイーンとして蘇った……その女王の魂と共に!」
「───!!!」
***
「ちょっと寒いかな」
ドアの鍵を閉めて門のところへ来てから、やっと肌寒さに耐えられる自信が無いこと気付く。
また庭を突っ切って、ドアの鍵を開けてセキュリティのボタンを押して…… 考えただけで面倒くさい。名前は僅かに白く色付く息を吐いて、門を閉めてセキャリティガードを通した。
腰のベルトに差した千年秤が、服越しに分かるほど今日は一段と冷たい。冬だって気にした事なかったのに、なぜか今だけはそれが気になった。
「(まぁ、体を動かせば問題ないよね)」
ジャケットのポケットにカードキーを仕舞い、スニーカーの爪先で道を小突く。冷たくなった鼻先を擦り、都心部に向けて下る坂道を小走りに駆け出した。
***
トキの頭をもつ神の姿を壁面の頂点に掲げ、8つの書物と12の魔術師に囲まれた女王のレリーフ。その下には“封印されしエグゾディア”そのままの5枚のカードと魔物が描かれ、古代文字が続く。
海馬は女王のレリーフに「バカバカしい」と震えながら、どうしても名前の姿が浮かんで消せない。
イシズはその海馬の反応すら淡々と眺めながら、エグゾディアの中心に描かれた千年錠を見上げた。
「(未来が動こうとしている。シャーディー、これが王の望んだ未来になるのか、または王妃の望んだ未来になるのか…… 今の私 に、この結末までを見通すことはできない。それでも、私は与えられた使命を果たしてみせる───!)」
女王のレリーフの胸に開けられた大穴にはウジャド眼が彫り込まれていた。イシズは目を細めてその眼を見た。あの深淵にこそ、石盤が語ろうとしている闇の秘密が隠されている。
「かつて人間は魔物と共に生き、世の全ての苦しみは魔物によって齎されていると考えていたのです。そして王に仕える魔術師たちが魔物を具現化し、石板に封じ込めることで平和が保たれていた……
しかし石板はやがて邪悪な力を蓄積していき、王に背いた神官が、その石板を使って争いを始めたのです。それがもう1枚の壁画───!
じっくりご覧になってください。……かつてペガサスもそうしたように。」
イシズが近寄った壁画に歩み寄ると、その視線の先へ海馬も目をやった。
1枚目の朧げなビジョンよりも明確に、より鮮明に海馬はその人物が誰なのか繋がった。間違いない、これは───
「遊戯……! そしてその上には、ブラック・マジシャン」
「その王と争っているのが、若き神官です。そして彼の上に描かれている魔物こそ、“青眼の白龍 ”……!
黒き魔術師操る若きファラオ、白き幻獣使いの神官…… 紛れもなく、この壁画はデュエリストたちの闘いの刻印。
ファラオと神官の闘いの上には、千年パズルと6つの千年アイテムについての碑文があります。この7つの千年アイテム全てが集まったとき、想像を絶する力が現れるという伝説がありますが、今重要なのは、この王と神官の闘いの記なのです。
そして、今も闘いは繰り返されている……」
***
「君は本当は誰なの? 僕、知りたいんだ!」
暗い部屋に透けて見えるもう1人の自分に、遊戯はついにそう言い放った。
ずっと長い間、見て見ぬ振りをしてきた。それがデュエリスト・キングダムでお互いを認め合い、もう嘘はつけない。
聞くのが怖かった事実を、いま遊戯はもう1人の自分に問いかける。
『どうしてだ?』
質問に質問で返されて、遊戯は俯いた。
「ど、……どうしてって、それは、」
『何もわからない。』
「えっ、」
『いつか聞かれるとは思ってた。その時は、嘘偽りなく答えようと思ってたんだ。』
ベッドの上に転がる千年パズル。そこに月の光が差し込んでいる。
もう1人の遊戯は真っ直ぐに遊戯を見た。膝を抱えていた遊戯も起き上がって側に寄る。
『オレには、お前と出会う前の記憶というものが一切ない。自分が誰なのか、わからないんだよ……』
***
千年タウクによって見せられたビジョンに海馬は膝を付いていた。イシズはそれに構うでもなく続ける。
「ここに描かれているのは、第18王朝のファラオ…… つまり、王の姿です。しかしこの王の名は、何者かによって削り取られ、墓や神殿にも、どこにも残されていない。
つまり、歴史上からこの王だけが完全に抹消されているのです。」
「バカバカしい! こんなものはまやかしだ! 無駄足だったようだ」
海馬は立ち上がって背を向けた。イシズはそれに振り向きもせず、ただ壁画の最上段へ顔を上げる。
神に心臓を捧げる女の横顔─── それはまさしく勝者にのみ与えられる、“王”の称号。
「では、極めて現実的な話しをしましょう。先ほどお話しした、幻のレアカード……
あれをご覧なさい。最上部に描かれている3枚の絵。
“オベリスクの巨神兵”
“オシリスの天空竜”
“ラーの翼神竜”
3体の幻獣神…… 我々はこれを“神のカード”と呼んでいます。ペガサスはこれらの絵を基に3枚のレアカードを世に残していたのです。そして3枚全てを手に入れた者は永遠不敗の伝説と共に、《キング・オブ・キングス》の称号を得られると。
あのペガサスですら恐れたカードです。かつて、我々は彼の依頼を受けて王家の谷にこれらのカードを封印しました。ところが、いまそのカードは盗まれてしまったのです。───グールズによって!」
海馬もいつしか耳にしたことがある名前だった。
「世界で暗躍する、レアカード・ハンターズか…… 強奪したレアカードを密売し、密造にまで手を染めていると噂の窃盗団。だが、その実態は不明……」
イシズの胸の千年タウクがチラリと光る。それを抑えるように手で覆うと、イシズは振り返って海馬の目を見つめた。
「この壁画にはデュエリストたちを呼び寄せる力があると、私は確信しています。さらに、……」
イシズは海馬に歩み寄ると、1枚のカードを差し出した。
「───! これは、」
「“オベリスクの巨神兵”……! 奪われたのは、残り2枚のカードです。それらを取り戻すために、このカードをあなたに託します。」
一斉に点けられたライトに海馬は目を細めた。だが目に飛び込んできた壁画に、思わず心臓が高鳴る。
「───これは」
「ペガサスはその壁画を基にデュエルモンスターズを生み出したのです。あなたも……その壁画から最初に生み出された幻のレアカードをご覧になっているはず。
“トートの書”から生み出された魔導書をその手で束ね、デュエリスト・クイーンとして蘇った……その女王の魂と共に!」
「───!!!」
***
「ちょっと寒いかな」
ドアの鍵を閉めて門のところへ来てから、やっと肌寒さに耐えられる自信が無いこと気付く。
また庭を突っ切って、ドアの鍵を開けてセキュリティのボタンを押して…… 考えただけで面倒くさい。名前は僅かに白く色付く息を吐いて、門を閉めてセキャリティガードを通した。
腰のベルトに差した千年秤が、服越しに分かるほど今日は一段と冷たい。冬だって気にした事なかったのに、なぜか今だけはそれが気になった。
「(まぁ、体を動かせば問題ないよね)」
ジャケットのポケットにカードキーを仕舞い、スニーカーの爪先で道を小突く。冷たくなった鼻先を擦り、都心部に向けて下る坂道を小走りに駆け出した。
***
トキの頭をもつ神の姿を壁面の頂点に掲げ、8つの書物と12の魔術師に囲まれた女王のレリーフ。その下には“封印されしエグゾディア”そのままの5枚のカードと魔物が描かれ、古代文字が続く。
海馬は女王のレリーフに「バカバカしい」と震えながら、どうしても名前の姿が浮かんで消せない。
イシズはその海馬の反応すら淡々と眺めながら、エグゾディアの中心に描かれた千年錠を見上げた。
「(未来が動こうとしている。シャーディー、これが王の望んだ未来になるのか、または王妃の望んだ未来になるのか…… 今の
女王のレリーフの胸に開けられた大穴にはウジャド眼が彫り込まれていた。イシズは目を細めてその眼を見た。あの深淵にこそ、石盤が語ろうとしている闇の秘密が隠されている。
「かつて人間は魔物と共に生き、世の全ての苦しみは魔物によって齎されていると考えていたのです。そして王に仕える魔術師たちが魔物を具現化し、石板に封じ込めることで平和が保たれていた……
しかし石板はやがて邪悪な力を蓄積していき、王に背いた神官が、その石板を使って争いを始めたのです。それがもう1枚の壁画───!
じっくりご覧になってください。……かつてペガサスもそうしたように。」
イシズが近寄った壁画に歩み寄ると、その視線の先へ海馬も目をやった。
1枚目の朧げなビジョンよりも明確に、より鮮明に海馬はその人物が誰なのか繋がった。間違いない、これは───
「遊戯……! そしてその上には、ブラック・マジシャン」
「その王と争っているのが、若き神官です。そして彼の上に描かれている魔物こそ、“
黒き魔術師操る若きファラオ、白き幻獣使いの神官…… 紛れもなく、この壁画はデュエリストたちの闘いの刻印。
ファラオと神官の闘いの上には、千年パズルと6つの千年アイテムについての碑文があります。この7つの千年アイテム全てが集まったとき、想像を絶する力が現れるという伝説がありますが、今重要なのは、この王と神官の闘いの記なのです。
そして、今も闘いは繰り返されている……」
***
「君は本当は誰なの? 僕、知りたいんだ!」
暗い部屋に透けて見えるもう1人の自分に、遊戯はついにそう言い放った。
ずっと長い間、見て見ぬ振りをしてきた。それがデュエリスト・キングダムでお互いを認め合い、もう嘘はつけない。
聞くのが怖かった事実を、いま遊戯はもう1人の自分に問いかける。
『どうしてだ?』
質問に質問で返されて、遊戯は俯いた。
「ど、……どうしてって、それは、」
『何もわからない。』
「えっ、」
『いつか聞かれるとは思ってた。その時は、嘘偽りなく答えようと思ってたんだ。』
ベッドの上に転がる千年パズル。そこに月の光が差し込んでいる。
もう1人の遊戯は真っ直ぐに遊戯を見た。膝を抱えていた遊戯も起き上がって側に寄る。
『オレには、お前と出会う前の記憶というものが一切ない。自分が誰なのか、わからないんだよ……』
***
千年タウクによって見せられたビジョンに海馬は膝を付いていた。イシズはそれに構うでもなく続ける。
「ここに描かれているのは、第18王朝のファラオ…… つまり、王の姿です。しかしこの王の名は、何者かによって削り取られ、墓や神殿にも、どこにも残されていない。
つまり、歴史上からこの王だけが完全に抹消されているのです。」
「バカバカしい! こんなものはまやかしだ! 無駄足だったようだ」
海馬は立ち上がって背を向けた。イシズはそれに振り向きもせず、ただ壁画の最上段へ顔を上げる。
神に心臓を捧げる女の横顔─── それはまさしく勝者にのみ与えられる、“王”の称号。
「では、極めて現実的な話しをしましょう。先ほどお話しした、幻のレアカード……
あれをご覧なさい。最上部に描かれている3枚の絵。
“オベリスクの巨神兵”
“オシリスの天空竜”
“ラーの翼神竜”
3体の幻獣神…… 我々はこれを“神のカード”と呼んでいます。ペガサスはこれらの絵を基に3枚のレアカードを世に残していたのです。そして3枚全てを手に入れた者は永遠不敗の伝説と共に、《キング・オブ・キングス》の称号を得られると。
あのペガサスですら恐れたカードです。かつて、我々は彼の依頼を受けて王家の谷にこれらのカードを封印しました。ところが、いまそのカードは盗まれてしまったのです。───グールズによって!」
海馬もいつしか耳にしたことがある名前だった。
「世界で暗躍する、レアカード・ハンターズか…… 強奪したレアカードを密売し、密造にまで手を染めていると噂の窃盗団。だが、その実態は不明……」
イシズの胸の千年タウクがチラリと光る。それを抑えるように手で覆うと、イシズは振り返って海馬の目を見つめた。
「この壁画にはデュエリストたちを呼び寄せる力があると、私は確信しています。さらに、……」
イシズは海馬に歩み寄ると、1枚のカードを差し出した。
「───! これは、」
「“オベリスクの巨神兵”……! 奪われたのは、残り2枚のカードです。それらを取り戻すために、このカードをあなたに託します。」