/ Domino City side
名前変換
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最初は気のせいだと思っていた。だけどあのとき、全てはあのキースのように、僕も名前も千年アイテムに操られていたように思い始めている。
あの火事に巻き込まれてから数日……いや、デュエリスト・キングダム以来。遊戯が感じている“なにか”は間違いなく迫り来ていた。
「『ダメよ、私はあなたを二度も失ったりはしない!』」
「(あのときの名前は、……やっぱり名前じゃなかった。)」
漠然とした考えしかないが、遊戯はそれが答えだと感じていた。自分にもう1人の人格があるように、千年リングを持っていた獏良にも闇の人格があった。
それならあの時の名前は───
「ん?」
道の向こう側を歩く遊戯を杏子が見つけた。
「遊戯〜!」
手を振って声を上げるが、遊戯は気付かずに行ってしまう。
「遊戯! ちょっと待ってよ!」
しかし追いかけようとしたところで、信号が変わって足止めされてしまった。遊戯の背中はどんどん小さくなり、街並みの中へ消えてしまう。
「遊戯……」
信号の反対側に残された杏子が、振り上げていた手を下ろして握った。その後ろの電気屋のショーウィンドウに並ぶテレビの数々。そこに、赤銅色の肌と民族衣装を纏った女が映された。
『エジプトからいらしたイシズ・イシュタールさんです。』
『こんにちは、日本のみなさん。』
遊戯が見えなくなっても、杏子は呆然とその方向を見つめていた。頭上では胸に引っかかり続けている“彼女”を思い出させるような赤信号が煌々と足元を照らしている。
西の空はオレンジから赤に差し掛かり、東の空は紫色の陰に星々を飾り立て始めていた。
『日本の童実野町で古代エジプト展を開催できることを、光栄に思っています』
パソコン画面に反射するその空の色を、海馬がキーボードを叩きながら眺めていた。1日の一区切りを世界中に告げる太陽は嫌いだが、胸に引っかかり続けている“彼女”を思い出させる夕方のこの空の色を、海馬はどうしても嫌いになれない。
『今回は特別展示として、古代エジプト第18王朝の、王の葬祭殿に遺されていた壁画の一部を持って参りました。この壁画がエジプト国外へ持ち出され、展示されるのは、世界で初めてのことです』
「すげぇや、世界で初めての展示だって、兄様」
先程からモクバが観ているテレビの音声が部屋のバックサウンド代わりになっている。興味ありげなモクバの反応とは打って変わり、海馬は鼻で笑ってパソコンの画面を注視する。
「フン、くだらん。オレは考古学などに興味はない」
「結構おもしろいんだけどな〜」
相変わらずの反応に挫けるでもなく、モクバはまたテレビに顔を向ける。
そこへ電話が鳴り、海馬は受話器をとって明滅する内線ボタンを押した。
「なんだ。」
『イシズ・イシュタール様からお電話が、……』
「(イシズ・イシュタール?)」
ついさっきテレビで聞かされた女の名前に海馬はテレビを見上げる。イシズという女は、テレビ越しに海馬へ微笑んだ。
『ぜひ、壁画を見に足をお運びください』
***
『ありがとうな。』
月明かりだけが差す暗い部屋。遊戯はベッドの上で膝を抱えていた。そこにもう1人の遊戯が声をかける。
『命をかけて千年パズルを組み立ててくれた。』
「助けてくれたのは名前と本田くんと城之内くんだよ」
『オレたちは、いい友達を持った』
目を伏せたまま身動き一つしない遊戯に、闇人格の方の遊戯が不安げな目で覗き込む。
『……今、なにを考えてる?』
***
「お嬢さま」
ノックの音のあと、年老いた女性が名前の部屋に顔を出した。
「あの、石津 さん? ……という女性からお電話が」
「……?」
聞き覚えのない名前だったが、とりあえず出てみようと思い千年秤をテーブルに置いたまま立ち上がると、名前はその家政婦と共に部屋を後にした。
千年秤が、いま僅かに音を立てて傾く。
***
「ここで待ってろ。オレ1人で行く」
灯りひとつついてない童実野博物館。その前に停めた車から海馬が降りると、頭を下げる運転手にそう行って建物内へ足を進めた。
階段を登った先でひとつだけ灯るライトと開け放たれた扉。海馬は目を細めてそこに向かう。
広大なエントランスに足を踏み入れると、ライトが全灯されて海馬を呼び出した張本人が奥に現れた。
「フン……」
目を細めて鼻で笑う。海馬とイシズは互いに歩み寄って、古代エジプトの壁画のプリントがされた壁の前で対面した。
「お会いできて光栄です、ミスター海馬」
古代エジプトらしい様相をした、椅子に座ったファラオと対面する神官の壁に、海馬とイシズの陰がそれぞれ落ちている。だが海馬はそれに目を向けるわけもなく、イシズの首に取り巻かれたウジャド眼を見た。
「海馬コーポレーションの躍進ぶりは、よく存じております」
「下らん挨拶は無用だ。用件をさっさと言え」
イシズは海馬の態度に眉一つ動かさず、ただ不適に笑って「どうぞこちらへ」と先導した。
「我々エジプト考古局は、1857年に遺跡の盗掘者から重要な歴史の宝物 を守るために発足した、政府機関です。」
「ミイラ探しなら他を当たってもらおうか。……オレはお前が電話で言っていた“レアカード”に用はあるが、数千年を経た石盤などなんの興味もない。」
「では申し上げましょう。デュエルモンスターズの原点が古代エジプトにあるとしたら、どうでしょう? かつてペガサス・J・クロフォードがエジプトの地を訪れ、そして封印した幻のレアカード…… その封印に関わったのが、我々エジプト考古局」
「幻の、レアカードだと」
明らかに顔色を変えた海馬に、イシズは「フッ」と笑った。
「どうぞ地下へ。特別展示室です」
あの火事に巻き込まれてから数日……いや、デュエリスト・キングダム以来。遊戯が感じている“なにか”は間違いなく迫り来ていた。
「『ダメよ、私はあなたを二度も失ったりはしない!』」
「(あのときの名前は、……やっぱり名前じゃなかった。)」
漠然とした考えしかないが、遊戯はそれが答えだと感じていた。自分にもう1人の人格があるように、千年リングを持っていた獏良にも闇の人格があった。
それならあの時の名前は───
「ん?」
道の向こう側を歩く遊戯を杏子が見つけた。
「遊戯〜!」
手を振って声を上げるが、遊戯は気付かずに行ってしまう。
「遊戯! ちょっと待ってよ!」
しかし追いかけようとしたところで、信号が変わって足止めされてしまった。遊戯の背中はどんどん小さくなり、街並みの中へ消えてしまう。
「遊戯……」
信号の反対側に残された杏子が、振り上げていた手を下ろして握った。その後ろの電気屋のショーウィンドウに並ぶテレビの数々。そこに、赤銅色の肌と民族衣装を纏った女が映された。
『エジプトからいらしたイシズ・イシュタールさんです。』
『こんにちは、日本のみなさん。』
遊戯が見えなくなっても、杏子は呆然とその方向を見つめていた。頭上では胸に引っかかり続けている“彼女”を思い出させるような赤信号が煌々と足元を照らしている。
西の空はオレンジから赤に差し掛かり、東の空は紫色の陰に星々を飾り立て始めていた。
『日本の童実野町で古代エジプト展を開催できることを、光栄に思っています』
パソコン画面に反射するその空の色を、海馬がキーボードを叩きながら眺めていた。1日の一区切りを世界中に告げる太陽は嫌いだが、胸に引っかかり続けている“彼女”を思い出させる夕方のこの空の色を、海馬はどうしても嫌いになれない。
『今回は特別展示として、古代エジプト第18王朝の、王の葬祭殿に遺されていた壁画の一部を持って参りました。この壁画がエジプト国外へ持ち出され、展示されるのは、世界で初めてのことです』
「すげぇや、世界で初めての展示だって、兄様」
先程からモクバが観ているテレビの音声が部屋のバックサウンド代わりになっている。興味ありげなモクバの反応とは打って変わり、海馬は鼻で笑ってパソコンの画面を注視する。
「フン、くだらん。オレは考古学などに興味はない」
「結構おもしろいんだけどな〜」
相変わらずの反応に挫けるでもなく、モクバはまたテレビに顔を向ける。
そこへ電話が鳴り、海馬は受話器をとって明滅する内線ボタンを押した。
「なんだ。」
『イシズ・イシュタール様からお電話が、……』
「(イシズ・イシュタール?)」
ついさっきテレビで聞かされた女の名前に海馬はテレビを見上げる。イシズという女は、テレビ越しに海馬へ微笑んだ。
『ぜひ、壁画を見に足をお運びください』
***
『ありがとうな。』
月明かりだけが差す暗い部屋。遊戯はベッドの上で膝を抱えていた。そこにもう1人の遊戯が声をかける。
『命をかけて千年パズルを組み立ててくれた。』
「助けてくれたのは名前と本田くんと城之内くんだよ」
『オレたちは、いい友達を持った』
目を伏せたまま身動き一つしない遊戯に、闇人格の方の遊戯が不安げな目で覗き込む。
『……今、なにを考えてる?』
***
「お嬢さま」
ノックの音のあと、年老いた女性が名前の部屋に顔を出した。
「あの、
「……?」
聞き覚えのない名前だったが、とりあえず出てみようと思い千年秤をテーブルに置いたまま立ち上がると、名前はその家政婦と共に部屋を後にした。
千年秤が、いま僅かに音を立てて傾く。
***
「ここで待ってろ。オレ1人で行く」
灯りひとつついてない童実野博物館。その前に停めた車から海馬が降りると、頭を下げる運転手にそう行って建物内へ足を進めた。
階段を登った先でひとつだけ灯るライトと開け放たれた扉。海馬は目を細めてそこに向かう。
広大なエントランスに足を踏み入れると、ライトが全灯されて海馬を呼び出した張本人が奥に現れた。
「フン……」
目を細めて鼻で笑う。海馬とイシズは互いに歩み寄って、古代エジプトの壁画のプリントがされた壁の前で対面した。
「お会いできて光栄です、ミスター海馬」
古代エジプトらしい様相をした、椅子に座ったファラオと対面する神官の壁に、海馬とイシズの陰がそれぞれ落ちている。だが海馬はそれに目を向けるわけもなく、イシズの首に取り巻かれたウジャド眼を見た。
「海馬コーポレーションの躍進ぶりは、よく存じております」
「下らん挨拶は無用だ。用件をさっさと言え」
イシズは海馬の態度に眉一つ動かさず、ただ不適に笑って「どうぞこちらへ」と先導した。
「我々エジプト考古局は、1857年に遺跡の盗掘者から重要な歴史の
「ミイラ探しなら他を当たってもらおうか。……オレはお前が電話で言っていた“レアカード”に用はあるが、数千年を経た石盤などなんの興味もない。」
「では申し上げましょう。デュエルモンスターズの原点が古代エジプトにあるとしたら、どうでしょう? かつてペガサス・J・クロフォードがエジプトの地を訪れ、そして封印した幻のレアカード…… その封印に関わったのが、我々エジプト考古局」
「幻の、レアカードだと」
明らかに顔色を変えた海馬に、イシズは「フッ」と笑った。
「どうぞ地下へ。特別展示室です」