/ Domino City side
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「大丈夫? 僕だけで行ってこようか」
「えっ、……あ、いえ。私も行くわ」
獏良の呼びかけに千年秤を握る手に力が入った。どうやら闇の気配を探るのに集中してしまっていたらしい。獏良が心配そうに覗き込むので、名前も意を決して足を前に出した。
***
「『さぁ! 遊戯、お前のターンだ!』」
フィールドには噂にしか聞いたことのないレアカードが並んでいた。ゼラの次はホーリーナイト・ドラゴンまで召喚され、遊戯には撃破されるための守備モンスターを出すしかやれることがない。
「(さっきからキースの様子が変だ…… レアカードに頼ってマシンデッキじゃなくなってる。そこに隙があるはず……!)」
遊戯はドローしたカードを一瞥すると、守備表示で召喚する。今は耐えるしかない。
だがキースを操っている別の人格はそれを見通しているかのように目を細めた。
『(フン……レアカードはいくらでもコピーしてデッキに積んであるんだ。それらとトラップのオンパレードで追い込んでやる。必ず千年パズルの中の意識が現れるはずだ……)』
キースはカードを2枚伏せ、さらに魔法カード“守備封じ”で遊戯の守備モンスターを攻撃表示にさせた。ゼラの攻撃により破壊され、遊戯のライブも大幅に削られる。
『(出てこい、もう1人の遊戯…… お前はオレが思っている男なのか?)』
キースの目の奥で蠢く闇に、表の遊戯も気が付いていた。
「(出てきちゃダメだよ、もう1人の僕……!)」
遊戯のターン、守備封じの効果が切れ、再びモンスターを守備表示で出し、キースのターンで破壊された。
「(フン、所詮は“器”か)」
宿主の陰でバクラはそう吐き捨てる。
気付かれないように忍び込み、2人はデュエルリングを見下ろせるキャットウォークから遊戯とキースのデュエルを覗き見ていた。
「それにしても…… 本当にバンデッド・キースなの? 闇のゲームでもないみたいだし」
「慎重にね」
小声で話し合いながら、どう助けに入るべきか考えあぐねていた。下手に出て行っても遊戯のためにはならない。敵の正体だって掴めないだろう。
「(フン、キースは恐らく操られてるだけだ。ミレニアイム・アイテムの所持者がここにいねぇから闇のゲームになってねぇんだよ。……オレならここで割り込むのは簡単だが…… まだ“オレ”の存在を、遊戯やこの女にに知られるわけにはいかねぇ。
クソ!迂闊にコイツと行動したのは間違いだったか。)」
名前にそこまで見抜く力はやはり付いていなかった。しかし出しゃばれば闇人格のバクラに気付かれかねない。獏良は名前に聞こえない程度に、思わず小さく舌打ちする。
こうなると、この女は暫く邪魔だ。ゆっくりもしていられない。
遊戯はドローしたカードを見て、そのままフィールドに出した。
「ブラック・マジシャンを守備で出す」
「!」
名前の瞼が僅かに動く。自分のブラック・マジシャンではないとは言え、やはり緊張してしまうのは一生治りそうになかった。
「そして魔法カード“マジカル・シルクハット”!」
遊戯の得意とするブラック・マジシャンを軸にした展開に数ターンは凌げるだろうと思った矢先、キースは伏せていたカードに手を差し向ける。
「『得意技か…… では罠カード“マジック・ジャマー”を発動! このカードは手札を一枚捨てることで魔法カードの発動を無効にし、それを破壊する。』」
「なんだって?!」
マジカル・シルクハットの効果がかき消され無防備になったブラック・マジシャンが再びフィールドに現れる。
「『さらに魔法カード“邪悪な儀式”により、モンスターの表示形式を入れ替える。ブラック・マジシャンを攻撃表示にし、ゼラでバトル!』」
「させない! “聖なるバリア ミラーフォース”!」
「『罠カード“神の宣告”を発動! オレはライフを半分失うが、トラップの発動を無効にする。……だがこれでお前は、もっと追い詰められたな。』」
コストとしてキースのライフは250になったが、ブラック・マジシャンの撃破で遊戯のライフは100にまで削られた。もう後がない。
強力なデッキ構成を相手にしているとは言え、名前も簡単にブラック・マジシャンを破壊された遊戯に唇を噛んだ。……闇の人格の遊戯なら、そう簡単にブラック・マジシャンを破壊させなかっただろう。
「やっぱり行かなきゃ、」
「待って!」
腕を掴まれ、驚いて振り返る。
静かに千年リングの鉤が鳴る。
何が起きたのかもわからないまま、名前は瞼を落として心の部屋に引き摺り込まれた。
「チッ、手間掛けさせやがって」
倒れ込む名前を抱え、物音が立たないようにゆっくりとその場に寝かせる。
やりたくはなかったが、その場凌ぎだ。おそらく目が覚めるまで3分と保たないだろう。
獏良は名前の心の部屋に入り込ませた精神体の一部を通して、彼女を目覚めさせようと慌ただしく動き出した魔導士達を感じ取った。なるべく息をひそめ、心に寄生虫がいると気付かれないことを祈る。
名前の千年秤による力とは別の力、その謎も気になるところだが─── 今はそんな時間など無い。
「『このカードでトドメを刺してやる。“死者への手向け”! これは自分の手札を捨て、モンスターを一体破壊できる!』」
「それはどうかな?!」
遊戯は伏せていたカードを返した。
「“魔法効果の矢”で、自軍への魔法効力を敵に与える! 僕はゼラを破壊する!」
遊戯に振り向いた獏良の胸には千年リングが輝き、その人格は既に獏良のものでは無かった。その鋭い目は、すぐにキースの陰に潜む千年アイテムの所持者を射抜く。
「キースを操る闇の力…。千年リングで、その繋がりを断つ!!!」
雷に打たれたような衝撃がキースとキースを操っていた男の間に落とされる。
キースの目に光が宿った。千年ロッドを持った少年は、キースから切り離された驚きを隠せない。
「なんだ今の衝撃は……?! まさか闇の力…!
遊戯以外に、誰かいるのか?」
キースは衝撃から自分の意識を取り戻した。だがまだ現実離れしている感覚に、顔を覆って頭を支配する声に耳を塞ぐ。
「オ、オレはなにをしてるんだ……?」
そこへ“魔法効果の矢”がゼラに突き立てられ、キースのフィールドは崩壊の一端を見せた。ゼラが消滅して開けた向こうに、遊戯の姿を見たキースが驚く。
「君はデッキを無視し、レアカードに頼った…… それが敗因だったんだ!」
だが今までの一切を理解していないキースは、遊戯の言葉など聞き取りさえしなかった。
「遊戯! なんでお前が?! あ、ああアアア!!!」
「どうしたの?!」
錯乱を見せるキースに遊戯も尋常じゃない状況だと気付く。キースの頭にはまた千年ロッドのウジャド眼が見開かれ、その男の声を脳内に響かせる。
『キース! 千年パズルのもう1人の遊戯を誘い出すのだ! キース!』
───千年パズル?
「───ッ!誰だ?! オレの中に入ってくるな!」
キースの様子に遊戯はもう1人の自分が言っていた事を理解した。
『───誰かがオレの正体を見ているんだ』
「このことだったのか……! キースは操られているんだ!」
「えっ、……あ、いえ。私も行くわ」
獏良の呼びかけに千年秤を握る手に力が入った。どうやら闇の気配を探るのに集中してしまっていたらしい。獏良が心配そうに覗き込むので、名前も意を決して足を前に出した。
***
「『さぁ! 遊戯、お前のターンだ!』」
フィールドには噂にしか聞いたことのないレアカードが並んでいた。ゼラの次はホーリーナイト・ドラゴンまで召喚され、遊戯には撃破されるための守備モンスターを出すしかやれることがない。
「(さっきからキースの様子が変だ…… レアカードに頼ってマシンデッキじゃなくなってる。そこに隙があるはず……!)」
遊戯はドローしたカードを一瞥すると、守備表示で召喚する。今は耐えるしかない。
だがキースを操っている別の人格はそれを見通しているかのように目を細めた。
『(フン……レアカードはいくらでもコピーしてデッキに積んであるんだ。それらとトラップのオンパレードで追い込んでやる。必ず千年パズルの中の意識が現れるはずだ……)』
キースはカードを2枚伏せ、さらに魔法カード“守備封じ”で遊戯の守備モンスターを攻撃表示にさせた。ゼラの攻撃により破壊され、遊戯のライブも大幅に削られる。
『(出てこい、もう1人の遊戯…… お前はオレが思っている男なのか?)』
キースの目の奥で蠢く闇に、表の遊戯も気が付いていた。
「(出てきちゃダメだよ、もう1人の僕……!)」
遊戯のターン、守備封じの効果が切れ、再びモンスターを守備表示で出し、キースのターンで破壊された。
「(フン、所詮は“器”か)」
宿主の陰でバクラはそう吐き捨てる。
気付かれないように忍び込み、2人はデュエルリングを見下ろせるキャットウォークから遊戯とキースのデュエルを覗き見ていた。
「それにしても…… 本当にバンデッド・キースなの? 闇のゲームでもないみたいだし」
「慎重にね」
小声で話し合いながら、どう助けに入るべきか考えあぐねていた。下手に出て行っても遊戯のためにはならない。敵の正体だって掴めないだろう。
「(フン、キースは恐らく操られてるだけだ。ミレニアイム・アイテムの所持者がここにいねぇから闇のゲームになってねぇんだよ。……オレならここで割り込むのは簡単だが…… まだ“オレ”の存在を、遊戯やこの女にに知られるわけにはいかねぇ。
クソ!迂闊にコイツと行動したのは間違いだったか。)」
名前にそこまで見抜く力はやはり付いていなかった。しかし出しゃばれば闇人格のバクラに気付かれかねない。獏良は名前に聞こえない程度に、思わず小さく舌打ちする。
こうなると、この女は暫く邪魔だ。ゆっくりもしていられない。
遊戯はドローしたカードを見て、そのままフィールドに出した。
「ブラック・マジシャンを守備で出す」
「!」
名前の瞼が僅かに動く。自分のブラック・マジシャンではないとは言え、やはり緊張してしまうのは一生治りそうになかった。
「そして魔法カード“マジカル・シルクハット”!」
遊戯の得意とするブラック・マジシャンを軸にした展開に数ターンは凌げるだろうと思った矢先、キースは伏せていたカードに手を差し向ける。
「『得意技か…… では罠カード“マジック・ジャマー”を発動! このカードは手札を一枚捨てることで魔法カードの発動を無効にし、それを破壊する。』」
「なんだって?!」
マジカル・シルクハットの効果がかき消され無防備になったブラック・マジシャンが再びフィールドに現れる。
「『さらに魔法カード“邪悪な儀式”により、モンスターの表示形式を入れ替える。ブラック・マジシャンを攻撃表示にし、ゼラでバトル!』」
「させない! “聖なるバリア ミラーフォース”!」
「『罠カード“神の宣告”を発動! オレはライフを半分失うが、トラップの発動を無効にする。……だがこれでお前は、もっと追い詰められたな。』」
コストとしてキースのライフは250になったが、ブラック・マジシャンの撃破で遊戯のライフは100にまで削られた。もう後がない。
強力なデッキ構成を相手にしているとは言え、名前も簡単にブラック・マジシャンを破壊された遊戯に唇を噛んだ。……闇の人格の遊戯なら、そう簡単にブラック・マジシャンを破壊させなかっただろう。
「やっぱり行かなきゃ、」
「待って!」
腕を掴まれ、驚いて振り返る。
静かに千年リングの鉤が鳴る。
何が起きたのかもわからないまま、名前は瞼を落として心の部屋に引き摺り込まれた。
「チッ、手間掛けさせやがって」
倒れ込む名前を抱え、物音が立たないようにゆっくりとその場に寝かせる。
やりたくはなかったが、その場凌ぎだ。おそらく目が覚めるまで3分と保たないだろう。
獏良は名前の心の部屋に入り込ませた精神体の一部を通して、彼女を目覚めさせようと慌ただしく動き出した魔導士達を感じ取った。なるべく息をひそめ、心に寄生虫がいると気付かれないことを祈る。
名前の千年秤による力とは別の力、その謎も気になるところだが─── 今はそんな時間など無い。
「『このカードでトドメを刺してやる。“死者への手向け”! これは自分の手札を捨て、モンスターを一体破壊できる!』」
「それはどうかな?!」
遊戯は伏せていたカードを返した。
「“魔法効果の矢”で、自軍への魔法効力を敵に与える! 僕はゼラを破壊する!」
遊戯に振り向いた獏良の胸には千年リングが輝き、その人格は既に獏良のものでは無かった。その鋭い目は、すぐにキースの陰に潜む千年アイテムの所持者を射抜く。
「キースを操る闇の力…。千年リングで、その繋がりを断つ!!!」
雷に打たれたような衝撃がキースとキースを操っていた男の間に落とされる。
キースの目に光が宿った。千年ロッドを持った少年は、キースから切り離された驚きを隠せない。
「なんだ今の衝撃は……?! まさか闇の力…!
遊戯以外に、誰かいるのか?」
キースは衝撃から自分の意識を取り戻した。だがまだ現実離れしている感覚に、顔を覆って頭を支配する声に耳を塞ぐ。
「オ、オレはなにをしてるんだ……?」
そこへ“魔法効果の矢”がゼラに突き立てられ、キースのフィールドは崩壊の一端を見せた。ゼラが消滅して開けた向こうに、遊戯の姿を見たキースが驚く。
「君はデッキを無視し、レアカードに頼った…… それが敗因だったんだ!」
だが今までの一切を理解していないキースは、遊戯の言葉など聞き取りさえしなかった。
「遊戯! なんでお前が?! あ、ああアアア!!!」
「どうしたの?!」
錯乱を見せるキースに遊戯も尋常じゃない状況だと気付く。キースの頭にはまた千年ロッドのウジャド眼が見開かれ、その男の声を脳内に響かせる。
『キース! 千年パズルのもう1人の遊戯を誘い出すのだ! キース!』
───千年パズル?
「───ッ!誰だ?! オレの中に入ってくるな!」
キースの様子に遊戯はもう1人の自分が言っていた事を理解した。
『───誰かがオレの正体を見ているんだ』
「このことだったのか……! キースは操られているんだ!」