王国編 /2
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「サレンダーするかい? 遊戯君」
「遊戯! ダイスを振ってくれ、頼む!」
「また喋った!」「犬のくせに!」と詰る女子陣に城之内は怒鳴りつける。
「うるせぇ!!! これだけは言うぜ!」
城之内の鬼気迫る顔にチアガールズは固まって口を閉ざす。城之内は
犬の被り物をずらしてもう一度遊戯に振り返った。
「闘うんだ! 遊戯! オレのために闘えって言うんじゃねえ。沢山のデュエリスト達のためだ、遊戯。熱い思いでお前と戦い、全力を出し切って破れていった者達のために!
お前が1人のデュエリストに戻した名前、王座から降ろしたあのペガサス……! アイツらも全力を出し切って、そして破れていった。
デュエルモンスターズの王者だったら、たとえゲームは違ってもお前に破れていった者たちのためにも、全力で最後まで闘う責任ってもんがあるだろう!!!」
「……!」
心の中で、ペガサスとの闇のゲームの時に見た精神世界の闇の中で、遊戯は赤灰色の髪が靡く後ろ姿を思い出していた。「ほらね」と笑って振り返る名前。たとえ闇の断絶の向こうにあっても、そして今同じ場所にいなくても、彼女は確かに遊戯を見ていた。
名前の手から孤独なデュエルクイーンの剣を下ろした時から。
「ありがとう、城之内君。オレはデュエリストとしての本分を見失うところだった。カードとダイスの違いはあるが、ゲームはゲームだ。
全ての意識をダイスに集中して、最後まで諦めずに振るぜ。そしてキング・オブ・デュエリストとしての誇りを守ってみせる!」
───いくぜ相棒!
「(オレは勝つ、奇跡を生んでみせる! 相棒のために、そして全てのデュエリストのために!)」
遊戯のダイスロール、レベル4の召喚クレストが揃った。しかし御伽は鼻で笑って遊戯の陣地を見渡す。
「フン! 君の陣地にモンスターをディメンジョンする場所などないよ!」
「フフ……それはどうかな。」
遊戯は召喚クレストを掲げたダイスを手に取る。
「見せてやるよ、ディメンション・ダイス!」
斜めにマスが連なった僅かな隙間。遊戯はそこにダイスを展開 してみせた。
「しまった! そんなディメンジョンが!」
「いくぜ───…… “ブラック・マジシャン”を召喚!!!」
『御伽ボーイ、事前にこのゲームに、いくつか改良を加えておきました。よろしいですね?』
デュエリスト・キングダムのペガサス城、その一室で初めて対面したペガサスはそう笑った。
『はい、……でも、どんなところを?』
『デュエルモンスターズのモンスター達とリンクさせておきました。新しいモンスターの持つ特殊効果で、ダンジョン・ダイス・モンスターズは、さらにパーフェクトなゲームになりマ〜ス』
「(僕の作った初期バージョンに“ブラック・マジシャン”は組み込まれていなかった。これがペガサスの言っていた、特殊効果を持つ新しいモンスターの一体……!)」
開発者からの傲りか、御伽はスリリングな展開を求めて全てのモンスターを検証してはいなかった。いままさかそれが裏目に出るとは─── 御伽は焦りを見せる。
ブラック・マジシャンはついに御伽の主力であるゴッド・オーガスを撃破した。
「(こうなったらクレストの溜まらないうちにさっさと片付けてやる! そのために切り札は残してあるのさ!)」
御伽のターン、“闇の暗殺者”をまだ姿を見せていないアイテムボックスに移動させる。そしてついにその宝箱は開けられた。
「レア・アイテム! “モンスター・キャノン”!」
光に煙る中から、キャノン砲を背中に乗せたモンスターが現れる。
「モンスター・キャノンは、モンスターを弾丸として敵のモンスターを破壊するレア・アイテムのひとつさ! 狙いはもちろん…… ブラック・マジシャン!」
破壊の手を振り下ろされたその瞬間、ブラック・マジシャンは4つのシルクハットに隠される。発射されたモンスター砲は無為に終わり、残ったハットから飛び出すブラック・マジシャンに御伽は焦りを隠せない。
「ブラック・マジシャンの特殊効果、罠クレスト2つで発動する“マジカル・シルクハット”は、敵の攻撃を撹乱することが出来る! 逃しはしないぜ!」
守りを固めようとした御伽に遊戯はもう容赦しなかった。遊戯のターン、最後のダイスが振られる。
「ブラック・マジシャン、魔法クレスト2個で特殊効果発動! “死のマジック・ボックス”!」
フィールドに2つのボックスが現れた。ナイフが刺されたボックスが開くと、御伽の最後のモンスターの腕が垂れる。
「ヤランゾ……! 僕のモンスターが全滅?! バカな……ッ」
「いけ! ブラック・マジシャン! ダンジョン・マスター御伽に攻撃!」
───ブラック・マジック!
***
夢であればいいのに。
全て、全て。
「また連絡する。」
名前の自宅。庭先でアイアンの門扉を挟んで、海馬は何事も無かったかのように背を向けて道に止めてある車に戻っていく。
足元には制服の入った紙袋とスクールバッグ、あと海馬が買って寄越したカードパックが1カートン。夢から醒めろとそれらが纏わり付き、背後には灯りひとつ点いていない、寒々として誰もいない自分の家がじっと名前を見つめている。
「待って」
熱い吐息と一緒に漏らされた子供のような我が儘が、僅かに白く霞んで夜の中に消えた。それでも海馬は振り返ってくれる。
「あ、……の」
家に上がって行かない? そう言いたい気持ちがゆるゆると喉を締め付ける。……言ってしまったらどうなるのだろう。
アイアンの柵が罪人を隔てる檻のように冷たい。言葉が続かない名前を急かすでもなく、海馬は柄にもなくゆっくりとその続きを待った。
「おやすみなさい」
唇を噤む名前が本当は何を言いたいのか、海馬には分かっていた。それでも今はまだこの僅かな距離を歩み寄る勇気が、2人には無かったのかもしれない。
「ああ」
そう短く返して再び車に向けて足を進める海馬を見送る。いつまでも見ているのも気恥ずかしくて、海馬が車に乗り込んでこちらをもう一度見る前に名前はスクールバッグを持ち上げるなり鍵を取り出して、自分を待っている人が誰もいない家に向き直った。
***
「もうおしまいだ…… 全ての夢は消えてしまった」
ゲームショップの上階、御伽の居住階の応接室で、DDMのゲームボードとノートパソコンを前に御伽は項垂れる。
「僕はずっと1人であのゲームを開発してきたんだ。ダンジョン・ダイス・モンスターズで夢を掴むために。……でもその夢が潰えてたら、僕には何も残らない」
「そんなことないよ!」
表の人格に戻っていた遊戯が励ますように笑う。
「ダンジョン・ダイス・モンスターズは、素晴らしいゲームだよ!」
「そうよ、デュエルモンスターズと同じように、ダンジョン・ダイス・モンスターズも世界中のみんなにきっと受け入れられると思うわ」
杏子からの後押しに御伽がやっと顔を上げる。毒気の抜けた照れたような顔に、遊戯や城之内も頷く。
「ホントに、……ホントにそう思うかい?」
「ああ! オメェは気に入らねぇが、このゲームは気に入ったぜ。」
「オレにも遊び方教えてくれよ」
本田からの申し出にも御伽が「あ、ああ!」と答える。
「それから、約束通り城之内君は自由にさせてもらうよ。それに、デュエルモンスターズはこれからもやり続けるよ」
「ああ、勿論だ遊戯君。城之内君には本当に酷いことをしてすまなかった。」
御伽は遊戯のゲームの才能を認めた。ペガサスへの傾倒から彼の敗北を認めたくなかった自分がいたのだと今なら素直に理解できる。彼は本当にゲームというものから、そして勝負の女神から愛されているのだと。
「僕は思うんだ、御伽君。ゲームは相手からなにかを奪ったり、憎しみあったりするためにやるんじゃない。素晴らしいゲームをした相手は、みんな友達なんだって。」
遊戯の真っ直ぐな目に御伽はたじろぐ。少し視線を伏せたが、御伽は思い切って顔を上げた。
「遊戯君、僕は、……君の友達になれるかな?」
「もちろんだよ!」
「遊戯! ダイスを振ってくれ、頼む!」
「また喋った!」「犬のくせに!」と詰る女子陣に城之内は怒鳴りつける。
「うるせぇ!!! これだけは言うぜ!」
城之内の鬼気迫る顔にチアガールズは固まって口を閉ざす。城之内は
犬の被り物をずらしてもう一度遊戯に振り返った。
「闘うんだ! 遊戯! オレのために闘えって言うんじゃねえ。沢山のデュエリスト達のためだ、遊戯。熱い思いでお前と戦い、全力を出し切って破れていった者達のために!
お前が1人のデュエリストに戻した名前、王座から降ろしたあのペガサス……! アイツらも全力を出し切って、そして破れていった。
デュエルモンスターズの王者だったら、たとえゲームは違ってもお前に破れていった者たちのためにも、全力で最後まで闘う責任ってもんがあるだろう!!!」
「……!」
心の中で、ペガサスとの闇のゲームの時に見た精神世界の闇の中で、遊戯は赤灰色の髪が靡く後ろ姿を思い出していた。「ほらね」と笑って振り返る名前。たとえ闇の断絶の向こうにあっても、そして今同じ場所にいなくても、彼女は確かに遊戯を見ていた。
名前の手から孤独なデュエルクイーンの剣を下ろした時から。
「ありがとう、城之内君。オレはデュエリストとしての本分を見失うところだった。カードとダイスの違いはあるが、ゲームはゲームだ。
全ての意識をダイスに集中して、最後まで諦めずに振るぜ。そしてキング・オブ・デュエリストとしての誇りを守ってみせる!」
───いくぜ相棒!
「(オレは勝つ、奇跡を生んでみせる! 相棒のために、そして全てのデュエリストのために!)」
遊戯のダイスロール、レベル4の召喚クレストが揃った。しかし御伽は鼻で笑って遊戯の陣地を見渡す。
「フン! 君の陣地にモンスターをディメンジョンする場所などないよ!」
「フフ……それはどうかな。」
遊戯は召喚クレストを掲げたダイスを手に取る。
「見せてやるよ、ディメンション・ダイス!」
斜めにマスが連なった僅かな隙間。遊戯はそこにダイスを
「しまった! そんなディメンジョンが!」
「いくぜ───…… “ブラック・マジシャン”を召喚!!!」
『御伽ボーイ、事前にこのゲームに、いくつか改良を加えておきました。よろしいですね?』
デュエリスト・キングダムのペガサス城、その一室で初めて対面したペガサスはそう笑った。
『はい、……でも、どんなところを?』
『デュエルモンスターズのモンスター達とリンクさせておきました。新しいモンスターの持つ特殊効果で、ダンジョン・ダイス・モンスターズは、さらにパーフェクトなゲームになりマ〜ス』
「(僕の作った初期バージョンに“ブラック・マジシャン”は組み込まれていなかった。これがペガサスの言っていた、特殊効果を持つ新しいモンスターの一体……!)」
開発者からの傲りか、御伽はスリリングな展開を求めて全てのモンスターを検証してはいなかった。いままさかそれが裏目に出るとは─── 御伽は焦りを見せる。
ブラック・マジシャンはついに御伽の主力であるゴッド・オーガスを撃破した。
「(こうなったらクレストの溜まらないうちにさっさと片付けてやる! そのために切り札は残してあるのさ!)」
御伽のターン、“闇の暗殺者”をまだ姿を見せていないアイテムボックスに移動させる。そしてついにその宝箱は開けられた。
「レア・アイテム! “モンスター・キャノン”!」
光に煙る中から、キャノン砲を背中に乗せたモンスターが現れる。
「モンスター・キャノンは、モンスターを弾丸として敵のモンスターを破壊するレア・アイテムのひとつさ! 狙いはもちろん…… ブラック・マジシャン!」
破壊の手を振り下ろされたその瞬間、ブラック・マジシャンは4つのシルクハットに隠される。発射されたモンスター砲は無為に終わり、残ったハットから飛び出すブラック・マジシャンに御伽は焦りを隠せない。
「ブラック・マジシャンの特殊効果、罠クレスト2つで発動する“マジカル・シルクハット”は、敵の攻撃を撹乱することが出来る! 逃しはしないぜ!」
守りを固めようとした御伽に遊戯はもう容赦しなかった。遊戯のターン、最後のダイスが振られる。
「ブラック・マジシャン、魔法クレスト2個で特殊効果発動! “死のマジック・ボックス”!」
フィールドに2つのボックスが現れた。ナイフが刺されたボックスが開くと、御伽の最後のモンスターの腕が垂れる。
「ヤランゾ……! 僕のモンスターが全滅?! バカな……ッ」
「いけ! ブラック・マジシャン! ダンジョン・マスター御伽に攻撃!」
───ブラック・マジック!
***
夢であればいいのに。
全て、全て。
「また連絡する。」
名前の自宅。庭先でアイアンの門扉を挟んで、海馬は何事も無かったかのように背を向けて道に止めてある車に戻っていく。
足元には制服の入った紙袋とスクールバッグ、あと海馬が買って寄越したカードパックが1カートン。夢から醒めろとそれらが纏わり付き、背後には灯りひとつ点いていない、寒々として誰もいない自分の家がじっと名前を見つめている。
「待って」
熱い吐息と一緒に漏らされた子供のような我が儘が、僅かに白く霞んで夜の中に消えた。それでも海馬は振り返ってくれる。
「あ、……の」
家に上がって行かない? そう言いたい気持ちがゆるゆると喉を締め付ける。……言ってしまったらどうなるのだろう。
アイアンの柵が罪人を隔てる檻のように冷たい。言葉が続かない名前を急かすでもなく、海馬は柄にもなくゆっくりとその続きを待った。
「おやすみなさい」
唇を噤む名前が本当は何を言いたいのか、海馬には分かっていた。それでも今はまだこの僅かな距離を歩み寄る勇気が、2人には無かったのかもしれない。
「ああ」
そう短く返して再び車に向けて足を進める海馬を見送る。いつまでも見ているのも気恥ずかしくて、海馬が車に乗り込んでこちらをもう一度見る前に名前はスクールバッグを持ち上げるなり鍵を取り出して、自分を待っている人が誰もいない家に向き直った。
***
「もうおしまいだ…… 全ての夢は消えてしまった」
ゲームショップの上階、御伽の居住階の応接室で、DDMのゲームボードとノートパソコンを前に御伽は項垂れる。
「僕はずっと1人であのゲームを開発してきたんだ。ダンジョン・ダイス・モンスターズで夢を掴むために。……でもその夢が潰えてたら、僕には何も残らない」
「そんなことないよ!」
表の人格に戻っていた遊戯が励ますように笑う。
「ダンジョン・ダイス・モンスターズは、素晴らしいゲームだよ!」
「そうよ、デュエルモンスターズと同じように、ダンジョン・ダイス・モンスターズも世界中のみんなにきっと受け入れられると思うわ」
杏子からの後押しに御伽がやっと顔を上げる。毒気の抜けた照れたような顔に、遊戯や城之内も頷く。
「ホントに、……ホントにそう思うかい?」
「ああ! オメェは気に入らねぇが、このゲームは気に入ったぜ。」
「オレにも遊び方教えてくれよ」
本田からの申し出にも御伽が「あ、ああ!」と答える。
「それから、約束通り城之内君は自由にさせてもらうよ。それに、デュエルモンスターズはこれからもやり続けるよ」
「ああ、勿論だ遊戯君。城之内君には本当に酷いことをしてすまなかった。」
御伽は遊戯のゲームの才能を認めた。ペガサスへの傾倒から彼の敗北を認めたくなかった自分がいたのだと今なら素直に理解できる。彼は本当にゲームというものから、そして勝負の女神から愛されているのだと。
「僕は思うんだ、御伽君。ゲームは相手からなにかを奪ったり、憎しみあったりするためにやるんじゃない。素晴らしいゲームをした相手は、みんな友達なんだって。」
遊戯の真っ直ぐな目に御伽はたじろぐ。少し視線を伏せたが、御伽は思い切って顔を上げた。
「遊戯君、僕は、……君の友達になれるかな?」
「もちろんだよ!」