王国編 /2
名前変換
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───ん」
夢を見ているような浮遊感から、肌に触れる綿布の感覚がだんだんと鮮明になってくる。やっと瞼越しに感じる光に、自分の視界が真っ暗だと言うことに気がついて、名前は目を開いた。
「ここ……」
白い部屋。ゆっくりと目だけで見回す。病室にしては広いし、ホテルにしては白く、殺風景すぎる。自分の身体の感触を確かめながら首を起こし、そして身体を起こした。
「…!」
腕に走る嫌な感じに、やっと点滴が繋がれているのを知る。痛いような痛くないような、この変な圧迫感は大嫌いだ。だがこれでやっと、ここが医療施設である事は理解した。
「(ナースコール……)」
ぐるりと背後を見てもそれらしきものは無い。どれくらい眠っていたのかという考えもすっ飛ぶくらい、今は誰かをここに呼びたかった。
***
「あの、苗字… 名前さんの病室は、ここですか?」
金持ちってのはどうして意味もなく黒服の男を側に着けるのか。獏良は内心舌打ちをしていた。…どうせ海馬が付けたのだろう。まぁ、大人しく通してくれなくても、隠し持った千年リングを出せば済む話だ。
「あなたは?」
「あ……えっと、獏良 了です。クラスメイト…ていうか、隣のクラスなんですけど、名前ちゃんとはお友達で」
ペガサスや海馬が連れてる黒服とは違い、この男は意外と聞き分けがありそうな柔和な態度を見せた。獏良は背筋を伸ばしていかにも良い学友を装う。
男はアイウェアの奥で「友達」という単語に迷いを見せたが、それほど長い時間を考えるでもなく、彼は扉の前から横にずれた。どうやら入ってもいいという意味らしい。
「15時の回診までにはお引き取り下さい。」
「ありがとうございます。」
獏良は軽く一礼したあと、病室のドアに手を掛けた。
***
「じいちゃんは人のカードを盗んだりしない!」
遊戯の抗議にレベッカは感情を露わにして「Nooooo〜〜!!!」と叫んで続けた。
「ぬ す ん だ! の!!!」
今なら遊戯もバンデット・キースに行われた仕打ちを哀れんだりはしない。とんだ汚名を着せられていたと知っていたなら、遊戯はもっと前から手を打っていただろう。
だが考えるだけため息が出るだけだ。遊戯はとにかくレベッカの誤解を解くために、彼女に真摯に向き合おうとした。
「おじいちゃんがあのカードをどれほど大切にしていたか…… アタシ! 絶対に許さないんだから!」
遊戯がレベッカの誤解をどう乗り越えるべきか考えているところで、双六が先にレベッカへ声を掛けた。
「友達の話しをさせてくれんか。……ワシの大切な友人、そしてキミのおじいさん、アーサー・ホプキンスの話しを。」
レベッカは言い訳なら聞きたくないと撥ね付けたが、双六は真剣な目で話しを辞めなかった。
「キミがアーサーの孫だと知った以上、どうしても聞いてもらわねばならんのじゃ。
───今から数年前…ワシがエジプトに行った時の事だ。」
当時ワシはまだあまり知る人のなかったデュエルモンスターズに、非常に興味を持っておった。とんな時、エジプトの市場にかなりレアなカードが出回っていると聞いてな…… はるばる出掛けて行ったというらわけじゃ。
そうして、そこで彼と出会った。
《よかったら、私の水をどうぞ。》
《おぉ、こりゃ、すまんのう》
アーサーは遺跡の発掘に来ていた。老いてなお、少年のような笑顔の、素晴らしい男じゃった。
……じゃが彼はまだ、考古学の世界で異端視されていた。ワシと同様、デュエルモンスターズに非常に興味を持っていたからじゃよ。非常に興味を抱いていたからじゃよ。
彼は遺跡の研究を進めていくうちに、あるワードが頻繁に登場することに気づいたのじゃ。
そのワードとは、“ ゲーム ”!
それをキーワードにして、彼は古代エジプトの文献を解析し直した。そして、ある驚くべき結論に達した。
《太陽神のお告げにより、偉大なる王の明日を占うべく、札を交換せり。》
《札を……交換?》
《そうです。彼らは王や民衆の未来を予言するために、ある儀式を頻繁に行っていた。それは札の交換、……すなわちゲーム。そう、一種のカードゲームをしていたんです。》
教授は一枚のデュエルモンスターズのカードを差し出した。双六はそのカードの絵と、実際に描かれた壁画を見比べて感嘆の声をもらす。
《ここからインスピレーションを得たんですよ。古代エジプト人も、これと同じゲームをしていたんじゃないか、ってね……》
《それは凄い発見じゃ! 学会で発表すれば、古代エジプト史がひっくり返るわい!》
興奮を隠せない双六に、教授は顔を曇らせるしかなかった。
《それが───
ところが考古学の世界で、アーサーの学説は一笑に付された。それでも彼は諦めずに遺跡を掘り返して、自分の学説を実証できるような証拠を探し求めていた。
ワシは彼の学説に興奮し、意気投合したんじゃ。
さらに彼は、神のカードの存在も提唱していた。
《世界に数枚の神の札あり。この札すべて集まりしとき、この札の主は太陽神に代わり、月神の心臓を得て、世界の王とならん。》
《世界の王?》
《この予言によれば、そのカードが一箇所に集まったとき、所有者は「太陽神に代わる」世界を支配できる力を得て、「月神の心臓」…つまり世界の支配権を得られる、という事でしょう。
しかしこの神のカードの謎は、そう簡単には解けないでしょう。……私はこの研究に、残りの生涯をかけるつもりです。》
「そのホプキンス教授から、青眼の白龍を貰ったのね。」
杏子の問いに双六が「そうじゃ」と言うと、レベッカが即座に反応した。
「嘘よ! うそうそうそ! きっとその時おじいちゃんのカードを盗んだんでしょ!」
だが双六はレベッカの癇癪に少しも動じる事なく、より真剣にレベッカに向き合った。
その見覚えのある眼差しに、レベッカも少しだけ息を止める。
「レベッカ、実はそのとき、遺跡の中で落盤事故が起きてな。」
───ホプキンス教授と双六は、崩れた遺跡の中の、僅かな空間に閉じ込められた。僅かな荷物の中からランプを取り出し、あるだけの水と食料だけを命綱に、2人は救助を待った。
救助隊はなかなか来なかった。食料は尽き、残ったのは……1人分の僅かな水だけ。
《双六さん》
《なにかな》
《ゲームをしませんか?》
まるで突飛な提案に、双六は体力の温存も忘れて《え?!》と勢いよく返した。それに笑う教授が、ポケットからデュエルモンスターズのカードを取り出して手の中に広げて始める。
《最後まで希望を捨ててはいけない。だが万が一ということもある…… せめてゲームでもしながら、運命に身を任せましょう。》
《……そうじゃな。》
双六と教授は、適当な石をプレイデスクに選んでランプを置くと、まずは手で砂を払いはじめる。双六は教授の方を見ると、彼はちょうど良さそうな石に腰掛けようとしていた。
《ホプキンス教授……こういうのはどうしゃろう。残りの水は、あとほんの僅かじゃ。じゃが少しでも命を繋ぐために、いずれどちらかが飲まねばならん時が来る。このデュエルに勝った者が、最後の水を飲むのじゃ。》
───そのデュエルの最初のターン、アーサーが出して来たのが、“黒き森のウィッチ”じゃった。
その戦略、アーサーに教わったんじゃな?」
説教を受ける子供のように唇を尖らせていたレベッカも、静かに聞くのをやめて手を振り上げた。
「もう聞きたくな〜〜い!!! アンタの言ってることが本当だって証拠は、どこにもないんだから!」
「なによその言い方!」と杏子が突っかかるが、レベッカは「フン!」とそっぽを向く。
「さぁ、今度はアタシのターンよ!」
レベッカは外野を無視して勝手にデュエルを再開する。
「おい!まだじいさんの話しは終わってねぇだろうが!」
「いや、いいんじゃ。」
城之内を止めたのは双六だった。その目はレベッカを見たまま、首を横に降る。
「このまま続けさせてみよう。遊戯、続けるんじゃ。」
遊戯もそれに頷いてレベッカに向き直る。手札を握りしめる手はもう恐れてはいなかった。思惑で複雑に入り組んでいた遊戯の頭も、今では考えるべき事がクリアに映っている。
「……不思議なものじゃ。いま、あのリングにはアーサーが居るような気がしてならん。」
夢を見ているような浮遊感から、肌に触れる綿布の感覚がだんだんと鮮明になってくる。やっと瞼越しに感じる光に、自分の視界が真っ暗だと言うことに気がついて、名前は目を開いた。
「ここ……」
白い部屋。ゆっくりと目だけで見回す。病室にしては広いし、ホテルにしては白く、殺風景すぎる。自分の身体の感触を確かめながら首を起こし、そして身体を起こした。
「…!」
腕に走る嫌な感じに、やっと点滴が繋がれているのを知る。痛いような痛くないような、この変な圧迫感は大嫌いだ。だがこれでやっと、ここが医療施設である事は理解した。
「(ナースコール……)」
ぐるりと背後を見てもそれらしきものは無い。どれくらい眠っていたのかという考えもすっ飛ぶくらい、今は誰かをここに呼びたかった。
***
「あの、苗字… 名前さんの病室は、ここですか?」
金持ちってのはどうして意味もなく黒服の男を側に着けるのか。獏良は内心舌打ちをしていた。…どうせ海馬が付けたのだろう。まぁ、大人しく通してくれなくても、隠し持った千年リングを出せば済む話だ。
「あなたは?」
「あ……えっと、獏良 了です。クラスメイト…ていうか、隣のクラスなんですけど、名前ちゃんとはお友達で」
ペガサスや海馬が連れてる黒服とは違い、この男は意外と聞き分けがありそうな柔和な態度を見せた。獏良は背筋を伸ばしていかにも良い学友を装う。
男はアイウェアの奥で「友達」という単語に迷いを見せたが、それほど長い時間を考えるでもなく、彼は扉の前から横にずれた。どうやら入ってもいいという意味らしい。
「15時の回診までにはお引き取り下さい。」
「ありがとうございます。」
獏良は軽く一礼したあと、病室のドアに手を掛けた。
***
「じいちゃんは人のカードを盗んだりしない!」
遊戯の抗議にレベッカは感情を露わにして「Nooooo〜〜!!!」と叫んで続けた。
「ぬ す ん だ! の!!!」
今なら遊戯もバンデット・キースに行われた仕打ちを哀れんだりはしない。とんだ汚名を着せられていたと知っていたなら、遊戯はもっと前から手を打っていただろう。
だが考えるだけため息が出るだけだ。遊戯はとにかくレベッカの誤解を解くために、彼女に真摯に向き合おうとした。
「おじいちゃんがあのカードをどれほど大切にしていたか…… アタシ! 絶対に許さないんだから!」
遊戯がレベッカの誤解をどう乗り越えるべきか考えているところで、双六が先にレベッカへ声を掛けた。
「友達の話しをさせてくれんか。……ワシの大切な友人、そしてキミのおじいさん、アーサー・ホプキンスの話しを。」
レベッカは言い訳なら聞きたくないと撥ね付けたが、双六は真剣な目で話しを辞めなかった。
「キミがアーサーの孫だと知った以上、どうしても聞いてもらわねばならんのじゃ。
───今から数年前…ワシがエジプトに行った時の事だ。」
当時ワシはまだあまり知る人のなかったデュエルモンスターズに、非常に興味を持っておった。とんな時、エジプトの市場にかなりレアなカードが出回っていると聞いてな…… はるばる出掛けて行ったというらわけじゃ。
そうして、そこで彼と出会った。
《よかったら、私の水をどうぞ。》
《おぉ、こりゃ、すまんのう》
アーサーは遺跡の発掘に来ていた。老いてなお、少年のような笑顔の、素晴らしい男じゃった。
……じゃが彼はまだ、考古学の世界で異端視されていた。ワシと同様、デュエルモンスターズに非常に興味を持っていたからじゃよ。非常に興味を抱いていたからじゃよ。
彼は遺跡の研究を進めていくうちに、あるワードが頻繁に登場することに気づいたのじゃ。
そのワードとは、“ ゲーム ”!
それをキーワードにして、彼は古代エジプトの文献を解析し直した。そして、ある驚くべき結論に達した。
《太陽神のお告げにより、偉大なる王の明日を占うべく、札を交換せり。》
《札を……交換?》
《そうです。彼らは王や民衆の未来を予言するために、ある儀式を頻繁に行っていた。それは札の交換、……すなわちゲーム。そう、一種のカードゲームをしていたんです。》
教授は一枚のデュエルモンスターズのカードを差し出した。双六はそのカードの絵と、実際に描かれた壁画を見比べて感嘆の声をもらす。
《ここからインスピレーションを得たんですよ。古代エジプト人も、これと同じゲームをしていたんじゃないか、ってね……》
《それは凄い発見じゃ! 学会で発表すれば、古代エジプト史がひっくり返るわい!》
興奮を隠せない双六に、教授は顔を曇らせるしかなかった。
《それが───
ところが考古学の世界で、アーサーの学説は一笑に付された。それでも彼は諦めずに遺跡を掘り返して、自分の学説を実証できるような証拠を探し求めていた。
ワシは彼の学説に興奮し、意気投合したんじゃ。
さらに彼は、神のカードの存在も提唱していた。
《世界に数枚の神の札あり。この札すべて集まりしとき、この札の主は太陽神に代わり、月神の心臓を得て、世界の王とならん。》
《世界の王?》
《この予言によれば、そのカードが一箇所に集まったとき、所有者は「太陽神に代わる」世界を支配できる力を得て、「月神の心臓」…つまり世界の支配権を得られる、という事でしょう。
しかしこの神のカードの謎は、そう簡単には解けないでしょう。……私はこの研究に、残りの生涯をかけるつもりです。》
「そのホプキンス教授から、青眼の白龍を貰ったのね。」
杏子の問いに双六が「そうじゃ」と言うと、レベッカが即座に反応した。
「嘘よ! うそうそうそ! きっとその時おじいちゃんのカードを盗んだんでしょ!」
だが双六はレベッカの癇癪に少しも動じる事なく、より真剣にレベッカに向き合った。
その見覚えのある眼差しに、レベッカも少しだけ息を止める。
「レベッカ、実はそのとき、遺跡の中で落盤事故が起きてな。」
───ホプキンス教授と双六は、崩れた遺跡の中の、僅かな空間に閉じ込められた。僅かな荷物の中からランプを取り出し、あるだけの水と食料だけを命綱に、2人は救助を待った。
救助隊はなかなか来なかった。食料は尽き、残ったのは……1人分の僅かな水だけ。
《双六さん》
《なにかな》
《ゲームをしませんか?》
まるで突飛な提案に、双六は体力の温存も忘れて《え?!》と勢いよく返した。それに笑う教授が、ポケットからデュエルモンスターズのカードを取り出して手の中に広げて始める。
《最後まで希望を捨ててはいけない。だが万が一ということもある…… せめてゲームでもしながら、運命に身を任せましょう。》
《……そうじゃな。》
双六と教授は、適当な石をプレイデスクに選んでランプを置くと、まずは手で砂を払いはじめる。双六は教授の方を見ると、彼はちょうど良さそうな石に腰掛けようとしていた。
《ホプキンス教授……こういうのはどうしゃろう。残りの水は、あとほんの僅かじゃ。じゃが少しでも命を繋ぐために、いずれどちらかが飲まねばならん時が来る。このデュエルに勝った者が、最後の水を飲むのじゃ。》
───そのデュエルの最初のターン、アーサーが出して来たのが、“黒き森のウィッチ”じゃった。
その戦略、アーサーに教わったんじゃな?」
説教を受ける子供のように唇を尖らせていたレベッカも、静かに聞くのをやめて手を振り上げた。
「もう聞きたくな〜〜い!!! アンタの言ってることが本当だって証拠は、どこにもないんだから!」
「なによその言い方!」と杏子が突っかかるが、レベッカは「フン!」とそっぽを向く。
「さぁ、今度はアタシのターンよ!」
レベッカは外野を無視して勝手にデュエルを再開する。
「おい!まだじいさんの話しは終わってねぇだろうが!」
「いや、いいんじゃ。」
城之内を止めたのは双六だった。その目はレベッカを見たまま、首を横に降る。
「このまま続けさせてみよう。遊戯、続けるんじゃ。」
遊戯もそれに頷いてレベッカに向き直る。手札を握りしめる手はもう恐れてはいなかった。思惑で複雑に入り組んでいた遊戯の頭も、今では考えるべき事がクリアに映っている。
「……不思議なものじゃ。いま、あのリングにはアーサーが居るような気がしてならん。」