王国編 /2
名前変換
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「(この私が、……負けた……)」
ペガサスは闇が晴れゆく中で、ただ視界に映り始めた天井を仰いでいた。失った左目の代わりに瞼を埋めるミレニアム・アイは、もう誰の心も写さず、また闇の開けたフィールドをも写さない。
「(ミレニアム・アイの力を持つ、この私が……)」
ゆっくりと首を下ろし、両の手を眺めてすぐに、その手で頭を抱えて膝をつく。
「(私の創造したゲームで、……負けた!)」
そこら中に散らばるカードにも今は目を向けることができない。モンスターのいなくなったフィールドは余りにも広大で、勝者と敗者の差がどれほどのものかを物語るような距離が、ペガサスと遊戯の間に横たわっていた。
***
《もう1人の僕……》
遊戯の中で二つの人格が向かい合っていた。闇に幾分蝕まれてはいたが、面の人格の遊戯はボロボロながらも顔色も回復している。闇の人格の遊戯はそれを見て安心したように頷いた。
「(やったな、……相棒!)」
面の人格の遊戯が、パッと顔を明るくする。
《みんなが心を分けてくれたんだ!》
2人で振り返った先に、遊戯の心と繋がる仲間たちの陰が見える。はにかんで頷いてから、2人は手を取り合った。
***
「あっ……!」
3人は誰からともなく声をあげた。
薄らいだ闇の向こうに、その仲間の背中を見て駆け出す。
「遊戯!!!」
3人の顔は明るい。言葉を交わさずとも、彼らには遊戯の晴れやかな心が通じていたからだ。
***
海馬はまず、自分の体が呼吸をしていることに気がついた。意識が肉体を認知し、後頭部には冷たい壁を感じている。瞼の開け方を思い出しながらゆっくりと首を動かしたところで、体にバサリと重たいものが降ってきて叩き起こされた。
「───ハ! ……ッ 名前……?」
目を強制的に開けられて、先に文句が喉元までこみ上げそうになる。だいぶ久し振りに開けた視界の先で、薄暗い牢屋の中で腰を下ろしている自分の体と…その胸に見覚えのある髪の女がもたれ込んでいた。
とりあえず…名前が胸に飛び込んできたから起こされたということを理解して、海馬は大きく息をついたあと「何のつもりだ」と言いかけた。
言いかけたところで、名前は無抵抗に ズル… と海馬の胸から落ちた。頭を大きく打たれたような衝撃が走り、麻痺れ切れた体の悲鳴も忘れてその身体を抱き起す。
「オイ……!」
暗い中でも、その顔が異様に白い事だけは見えていた。固く閉ざされた瞼や唇は動く気配がない。体制を変えようとしたところで、何かの液体に触れた。
油のような滑り…そして冷たいその液体に驚き、海馬は暗い石床を見渡す。名前がどこかからか出血をしているのは容易に理解できた。
海馬はためらったあと、意を決して名前の服を少し捲った。
白い肌、そのわき腹を裂傷がはしっている。押さえてはいたらしく、その傷から垂直に赤い結束痕があるのも見えた。海馬は舌打ちをしたあと自分のスラックスから腰のベルトを引き抜いた。
チラリと光が反射する物に気付き目をやれば、名前は千年秤を握りしめたままだ。
ウジャド眼が海馬を見つめている。
名前のことは、自分なりに好ましい存在ではあった。だがこのオカルティックな悪趣味だけは許容できない。目覚めてから二度目の舌打ちが出たあと、海馬はまだ目覚めて間もないぼんやりとした頭をフル回転させ、思いつく限りの応急処置を黙々と名前に施すが、その手の動きとは裏腹に、今、……遊戯とペガサスはどうなっているのか、モクバは無事なのか───その事だけが心に引っかかっていた。
「モクバ、───……遊戯」
「うっ……」
ハンカチを当て、ベルトできつく腹を締め上げたところで名前が僅かに声を出す。現実に再び引き戻された海馬は、名前を抱き上げようとその肩に手を伸ばした。
ガツ……と何か硬いものがつま先に当たる。
千年秤ではない。暗い中でさらに影の中に隠れていたもの。
「……」
顔をしかめたままの海馬がそれを拾い上げた。中口径のオートマ・アーミーモデル……アメリカ仕様でペガサスの黒服のものだろう。同じものを猿渡が所持していたのを海馬は見ている。
「(なぜこんなものが……)」
後に海馬が名前を抱えて牢屋を出たところで、その理由を察する。…オートロックの牢屋の制御端末が撃ち抜かれていたのだ。その頃には海馬の頭も冴えていて、……海馬は地上に出るために通路を進みながら、眠ったままの名前の顔に疑問や考えを巡らせた。
もし名前があれを撃ったなら───…銃の扱いを知らないで使えば、たとえ小口径でも肩を外すくらいタダでは済まない。少なくともあそこにあったのはアーミーモデルの中口径だ。初見で扱えるようなものではない。
なぜ名前はそれが扱えた?
「(名前はまだ何か隠している───…… 苗字、…偶然かと思ったが、調べる必要はありそうだ。)」
ペガサスは闇が晴れゆく中で、ただ視界に映り始めた天井を仰いでいた。失った左目の代わりに瞼を埋めるミレニアム・アイは、もう誰の心も写さず、また闇の開けたフィールドをも写さない。
「(ミレニアム・アイの力を持つ、この私が……)」
ゆっくりと首を下ろし、両の手を眺めてすぐに、その手で頭を抱えて膝をつく。
「(私の創造したゲームで、……負けた!)」
そこら中に散らばるカードにも今は目を向けることができない。モンスターのいなくなったフィールドは余りにも広大で、勝者と敗者の差がどれほどのものかを物語るような距離が、ペガサスと遊戯の間に横たわっていた。
***
《もう1人の僕……》
遊戯の中で二つの人格が向かい合っていた。闇に幾分蝕まれてはいたが、面の人格の遊戯はボロボロながらも顔色も回復している。闇の人格の遊戯はそれを見て安心したように頷いた。
「(やったな、……相棒!)」
面の人格の遊戯が、パッと顔を明るくする。
《みんなが心を分けてくれたんだ!》
2人で振り返った先に、遊戯の心と繋がる仲間たちの陰が見える。はにかんで頷いてから、2人は手を取り合った。
***
「あっ……!」
3人は誰からともなく声をあげた。
薄らいだ闇の向こうに、その仲間の背中を見て駆け出す。
「遊戯!!!」
3人の顔は明るい。言葉を交わさずとも、彼らには遊戯の晴れやかな心が通じていたからだ。
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海馬はまず、自分の体が呼吸をしていることに気がついた。意識が肉体を認知し、後頭部には冷たい壁を感じている。瞼の開け方を思い出しながらゆっくりと首を動かしたところで、体にバサリと重たいものが降ってきて叩き起こされた。
「───ハ! ……ッ 名前……?」
目を強制的に開けられて、先に文句が喉元までこみ上げそうになる。だいぶ久し振りに開けた視界の先で、薄暗い牢屋の中で腰を下ろしている自分の体と…その胸に見覚えのある髪の女がもたれ込んでいた。
とりあえず…名前が胸に飛び込んできたから起こされたということを理解して、海馬は大きく息をついたあと「何のつもりだ」と言いかけた。
言いかけたところで、名前は無抵抗に ズル… と海馬の胸から落ちた。頭を大きく打たれたような衝撃が走り、麻痺れ切れた体の悲鳴も忘れてその身体を抱き起す。
「オイ……!」
暗い中でも、その顔が異様に白い事だけは見えていた。固く閉ざされた瞼や唇は動く気配がない。体制を変えようとしたところで、何かの液体に触れた。
油のような滑り…そして冷たいその液体に驚き、海馬は暗い石床を見渡す。名前がどこかからか出血をしているのは容易に理解できた。
海馬はためらったあと、意を決して名前の服を少し捲った。
白い肌、そのわき腹を裂傷がはしっている。押さえてはいたらしく、その傷から垂直に赤い結束痕があるのも見えた。海馬は舌打ちをしたあと自分のスラックスから腰のベルトを引き抜いた。
チラリと光が反射する物に気付き目をやれば、名前は千年秤を握りしめたままだ。
ウジャド眼が海馬を見つめている。
名前のことは、自分なりに好ましい存在ではあった。だがこのオカルティックな悪趣味だけは許容できない。目覚めてから二度目の舌打ちが出たあと、海馬はまだ目覚めて間もないぼんやりとした頭をフル回転させ、思いつく限りの応急処置を黙々と名前に施すが、その手の動きとは裏腹に、今、……遊戯とペガサスはどうなっているのか、モクバは無事なのか───その事だけが心に引っかかっていた。
「モクバ、───……遊戯」
「うっ……」
ハンカチを当て、ベルトできつく腹を締め上げたところで名前が僅かに声を出す。現実に再び引き戻された海馬は、名前を抱き上げようとその肩に手を伸ばした。
ガツ……と何か硬いものがつま先に当たる。
千年秤ではない。暗い中でさらに影の中に隠れていたもの。
「……」
顔をしかめたままの海馬がそれを拾い上げた。中口径のオートマ・アーミーモデル……アメリカ仕様でペガサスの黒服のものだろう。同じものを猿渡が所持していたのを海馬は見ている。
「(なぜこんなものが……)」
後に海馬が名前を抱えて牢屋を出たところで、その理由を察する。…オートロックの牢屋の制御端末が撃ち抜かれていたのだ。その頃には海馬の頭も冴えていて、……海馬は地上に出るために通路を進みながら、眠ったままの名前の顔に疑問や考えを巡らせた。
もし名前があれを撃ったなら───…銃の扱いを知らないで使えば、たとえ小口径でも肩を外すくらいタダでは済まない。少なくともあそこにあったのはアーミーモデルの中口径だ。初見で扱えるようなものではない。
なぜ名前はそれが扱えた?
「(名前はまだ何か隠している───…… 苗字、…偶然かと思ったが、調べる必要はありそうだ。)」