王国編 /2
名前変換
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「サウザンド・アイズ・サクリファイスの特殊能力!“千眼呪縛”!」
隙間なく身体中についた眼が開かれ、青緑色の光でフィールドが照らされる。ブラックカオスも例に漏れずその光に当たり、自由を奪われてしまった。
「ブラックカオス!」
「フフフフ……これでユーのモンスターの動きは封じられた。この千眼呪縛の効力は、これから場に出されるモンスターに対しても有効。…つまり、ユーは永続呪縛の罠にかかったのデ〜ス! あとはサウザンド・アイズ・サクリファイスのもうひとつの効力、“邪眼”を発動させユーのモンスターを吸収し、能力を奪うのみ!
終わりです、遊戯ボーイ……。邪眼発動!」
「魔法カード オープン!」
サウザンド・アイズ・サクリファイスの邪眼がブラックカオスを襲おうとしたその瞬間、ブラックカオスを覆うように大量のクリボーが出現した。
「ワッツ?! クリボー?!」
「お前はミスを犯したぜ。伏せ表示で場に出しておいたクリボーも、千眼呪縛の効果によって表になっていたのさ! さらにセットしておいた“増殖”のカードを発動させたことで、…クリボーは増殖しつづける!」
「(なに!? 無数のクリボーが邪眼の光を……!)」
ブラックカオスを覆うだけでは足りず、遊戯の周りにまで増殖し続けた大量のクリボーたちが、邪眼の念力によって目を回しはじめる。
「全てのクリボーは邪眼の光を受け、サクリファイスに吸収される!」
サウザンド・アイズ・サクリファイス(攻/300 守/0)
「サウザンド・アイズ・サクリファイスの全身に、無数のクリボーが取り込まれた……」
何千という数のクリボーが身体中に取り込まれ、サウザンド・アイズ・サクリファイスの身体中の目を全て塞ぐほどクリボーが表面に現れる。
「フ……だがオレの狙いはそれだけじゃない。クリボーの特殊能力は、敵に触れた瞬間機雷となって、自爆する能力さ!」
「機雷化?!」
ペガサスが驚くのと同時に、クリボーが次々に自爆した。爆風に背けた顔を戻した先には、煙が上がり続ける、身体中の目を失って満身創痍のサクリファイスがフィールドに残るのみだった。
「クリボーの玉砕によってオレのライフポイントは300ポイント減る。……だがサウザンド・アイズ・サクリファイスの千眼は全て潰したぜ! この瞬間にブラックカオスの呪縛は解けた!」
遊戯 LP:100
ブラックカオスが杖を手にしたとき、ペガサスはついに敗北を見た。その決定打が打たれる瞬間を、彼はただ見ているためにしか費やすことが許されない。
「覚悟はいいな、ペガサス! オレのターン! ブラックカオスの攻撃!!! 滅びの呪文、デス・アルテマ!
サウザンド・アイズ・サクリファイス、撃破!!!」
「ノォ───ゥ!!!」
ペガサス LP:0
闇が晴れ、デュエルデスクに手をついて俯いていた背中を杏子たちが見た。その顔が挙げられた時に見たのは───表の人格の遊戯のものだった。
「ペガサス……ボクたちの勝ちだ!!!」
***
───ダンッ と、大きな銃声の後、反動に痺れる腕をぶら下げたまま牢獄の扉を蹴り飛ばした。鉄の檻は銃声を吸収してまだ僅かにビリビリと反響している。
ゆっくりと中に入ったあと、震える両手を片方ずつ銃から離し、壁の方へ投げ捨てた。その先で壁に凭れて座らされている海馬に思わず足が速くなる。
だが名前は立ち止まって、しばらく考えた。傷口を押さえてるために縛っていた上着は緩まり、足を伝って生ぬるい血が床に落ちている。だいぶ前から顔は熱いのに、身体中は冷たく、自分の出血量が多いことを悟っていた。
千年秤の力を使うには、もう精神力も体力も殆ど残されていない。
じわじわと背後に迫っていた闇が、もう背中から体を蝕んでいることにも気付いていた。もしこの力を使えば……3人の魂の解放と引き換えに、自分の魂を闇に奪われるかもしれない。
大げさな言い方をしなくても、このまま行けば死すらその選択肢に入るだろう。
名前は千年秤を引き抜いて、煩わしい上着も解いた。血と油を吸って重くなっていた上着は、足元に「べチャリ」と音を立てて落ちる。
デッキケースから3枚のカードを取り出すと、名前は片方の盃においた。
銃創と出血に加えて心の負担も酷く掛かるだろう。それでも、名前はもう恐れなかった。海馬とモクバを助ける。遊戯のおじいさんも。その約束を果たせるのだから。
「闇を唯一裁く千年秤よ。この盃に上げられた魂を、所有する肉体に戻してほしい。私の肉と魂で贖えるなら、その腕を等しく示し、私の願いを叶えて……!」
舌を噛まないように歯を食いしばってから腹の傷口を引っ掻いて血を掬い、震える手で千年秤の空いた方の杯に落とした。
千年秤は血の重みによって量りの腕を等しく指すと、飲み干すように杯の名前の血を全て吸い込んで見せた。ウジャド眼が強い光を放ったところで咄嗟に目を覆うと、次に目を開けた時には、“魂の牢獄”のカードから絵柄は全て消えていた。
ハッとして海馬に目を向けると、暗い中ではあるがその顔色は随分と戻ったように見える。あと数十秒と保ちそうにない意識と、急に重く…震えすら起こらなくなった身体を引きずって海馬に寄った。
手を伸ばしたところで躊躇ってから、まだそんなに血の付いていない手の甲の方でその頬を撫でてみる。
「……う、」
海馬の喉が小さくなるのを見た。
「海馬、」
声を掛けてから海馬の瞼がわずかに開くまでの1秒にも満たない時間で、名前の視界は暗転した。
「あは、……よ、かっ───」