NEO UNIVERSE




「…あんたって、花みたいだな」
「花?」




チチッ、と読み聞かせをねだるツキヨにふわりと笑った紫苑を見て、ネズミは突然呟いた。




「名前が紫苑だから?」
「いや、なんとなく」




柔らかく笑う紫苑を見ると、なんとなく、花を思い出す。
おれのためだけに笑って、と囁きたくなる。




「なら、きみは風みたいだ」
「風?」
「〝紫苑〟の花を揺らす、優しい風だ」




ふふ、と紫苑が再び笑う。
さあ、どうかな。冷たい冷たい、冬の突風で…あんたを散らすかもしれないぜ。
――そんな言葉は、紫苑の柔らかい笑みを目の前に、胸の奥に飲み込まれた。




「なら…鳥とか?」
「鳥?」
「きみは、どこまでも自由だ。何にも縛られない」
「はっ、なるほどね」




あながち間違ってないかもな、とネズミは呟いた。




「あんたは…なんだろうな」




おれを助けてくれたこと。
ぬくもりを教えてくれたこと。
太陽?
…いや、違うな。




「……星、かな」
「星?」
「太陽じゃない。だけど、いつもおれのそばで輝く……から…」




語尾を濁したネズミの耳が、瞬時に紅く染まる。

何を言ってるんだ、おれは。
どこかのキザなやつだって、こんな言い回し、女を口説くとき以外には口にしない。

紫苑の反応が気になって、ネズミはちらりと紫苑を見た。




「輝いているかは分からないけれど――、きみのそばに居られるなら、それでいい」




彼は一体、どこまで天然なのか。
いつも、言葉を真っ向から、そのままの意味で受け取る。






「なあ、紫苑」
「なに?」
「手を、放すなよ」




相変わらず、意味を理解したのかしていないのか――紫苑はふわりと優しく微笑んだ。




「当たり前だよ」
「…ならいい」




手を……放すなよ、紫苑。

いつか、いつか。

NO.6が消えたとき――新しい世界が始まる。

それがどんなものかは分からない。

ただ、紫苑には、目覚める世界をしっかり感じていてほしい。



新しい世界が、紫苑の手の上にあるような――そんな予感が、しているから。





恐がらないで、紫苑。
あんたなら出来るはずだから――









End.

→あとがき
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