夜空を歩く




ぱき、と割れる音がした。





足元に目線を落とすと、うすぅく氷のはった水溜まりの上に自分の靴がある。

気付かず踏んでしまった薄氷が、靴の下で粉々になっていた。




西ブロック特有の喧騒から離れ、人の気配がないところへ出ると、ふと脳裏を過ぎったことをついつい考え込んでしまう。

まったく、我ながら悪い癖だ。
いつ、誰に襲われるともわからないこの地で、物思いに耽る。
――何と浅はかな。



ふ、と苦笑した口端から、はふりと白い息が漏れた。







凍った水溜まりをよくよく見ると、そこには夜空が映っている。


暗闇に浮かぶ星たちが足元でも煌めいて、気を抜いたらそこに引き込まれてしまいそうな。

己でも気付かぬうちに、身を前屈みにして薄氷の中の星空を覗き込んでいた。







「……綺麗、だな」







粉々になった小さな破片のひとつひとつにも、小さな星々が瞬いていて。

普段見上げる星空とはまた少し違う美しさだった。







――これを、あんたに見せてあげたら…あんたは何と言うだろうか。







ふと、星空を氷の破片に閉じ込めたまま、紫苑の許(もと)まで持って帰れるような…そんな気がした。


しゃがみ込み、ひとつの欠片を拾い上げる。
薄く、半分溶けたようなそれは、手にした瞬間に崩れてしまった。





崩れて消えた欠片を目の前にし、急に冷静になる。
夜空を閉じ込めた氷を、そのまま紫苑に見せる、なんてことができるわけがない。

自分の子供じみた、不可解な行動に苦笑して――あちらこちらに輝く夜空を故意に踏み締めながら、我が家に向かって再び歩き始めたのだった。






End.



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予定外ですが、1月中にもうひとつupです。


しばらくの間、拍手御礼として、拍手内に掲載していたものです。



2013.01.13
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