Merry Christmas!




静かな夜。


雪を踏んだとき独特の、軽くて軋んだような音と自分の息遣い以外は、何も聞こえない。





少し、後ろを振り返ってみる。





真っ白な雪原に刻まれた足跡には、既に新しい雪が積もろうとしていた―――








Merry Christmas!









地下室から少し離れた場所に、モミの木が植わっている。

植わっている、というと少し語弊があるかもしれない――なぜならそれを植えたのは、他でもない、ぼく自身なのだから。





モミの木自体は、イヌカシに貰ったものだ。
NO.6内から流れてくる「ごみ」の中にあったらしい。

本物のモミを使うなんて、と思いながら木をよく見ると、幹に小さなキズがあり、枝の長さにもばらつきがある。
どんな些細なことが原因でも、NO.6に〝認められなかった〟その瞬間に、それはNO.6から弾き出されてしまう。


そんなモミの木に、自分を重ねた。


状態を見る限り、まだ根付く可能性があると思った。

力河さんから諸々の器具を借りて、土を掘って植え付けたモミの木は、願った通りに西ブロックの地に根を張った。









そして――明日がクリスマスイブ。

明日の夜、みんなでこの木を見たいと思っていた。
出来れば、立派に飾り付けた〝ツリー〟を。


しかし、西ブロックの、しかも人が集まる地域から離れたここでは、十分な電力は確保できない。


例え電気を引っ張ってくることが出来たとしても、イルミネーションなんて無駄なことに割くのは勿体ないとネズミなら言うだろう――ぼくだって、それはよく分かる。







力河さんに借りた枝切りハサミで、枝を切り落としていく。

遠目から見ると、かなりみっともない姿だろう。

でも、こうすることで、モミを「ツリー」にしてあげられる自信があった。




落ちた枝を一カ所にまとめ、少し離れた場所からモミを眺める。




――上出来だ。




明日の夜のことを想像しながら、あたたかい我が家に戻った。











+++




「ネズミ、出掛けるよ」
「…何、どうしたんだ急に」
「着いて来て。きみに見せたいものがある」
「嫌だ。寒い」
「早く。時間は限られてるんだ」



無理矢理に上着を着せ、ネズミを外に連れ出す。
昨日降った雪はまだ地上に残っていて、銀色の月あかりを反射していた。




「う…寒っ」
「お待たせ、イヌカシ、力河さん!」
「遅えよ紫苑!寒かったんだからなっ」




外にはイヌカシと力河の姿。
どちらも鼻を赤くしている。
二人とも、紫苑に連れられてここまで来たようだ。




「みんな着いてきて、すぐ近くだから」




白髪の少年を先頭に、四人と数頭の犬の影を、雪に映しながら歩いていく。




モミの木のそばまで行くと、紫苑は三人を並べて立たせた。




「どういうつもりだ、紫苑? 生憎、おれ、ただの木をクリスマスイブに喜んで見に来るような趣味はないんだけど。しかも、なんかあの木、隙間だらけだし」
「いやきっと紫苑のことだ、何かあるんだろ、そうだよな紫苑?」
「おっさんは黙っててくれる?おれは今、紫苑に話しかけてる」
「力河さん、さすがですね。その位置から動かず、しゃがんでみて下さい。ネズミも、イヌカシも」
「…なぁネズミ、何を言い出すんだ、あんたのとこのおぼっちゃんは?」
「さあな。おれにも分からない」




力河につられるように、イヌカシとネズミも、訝しがるような どこか苦い表情でその場にしゃがみ込む。




「メリークリスマス」




ネズミの横で、同じようにしゃがみ込んだ紫苑が呟いた。




「何を…したんだ」




イヌカシが息を吐いた。
こんなの、初めて見た。
西ブロックの夜空とは、こんなにも美しいものだったのか。

一見しただけでは、ただただ枝にばらつきのある――むしろ、美しいとは言い難いシルエットの――モミの木。
だが、紫苑が前日に枝を切って開けた穴からは、美しい月と星が窺える。

枝がないそこから、丁度顔をのぞかせるように、月が木の中にある。

それだけではなく、他の隙間からは冬を代表する星座が見えた。




「綺麗だろ? ちゃんと角度や時間を計算して、葉の隙間を作ったんだ」




時間がない、とはこのことだったのか。
地球の自転のせいで、夜空はゆっくりと動く。
今日のこの時間に、あの葉の隙間から見える星や月は、数日も立てば同じ時間に見ることは叶わない。





「このモミの木ね」




三人のうち、特定の誰かに向けてというわけでなく、空中に言葉を彷徨わせる。




「イヌカシにもらったんだ…NO.6から追放された木だ」
「ま、さか…あの時おれがあげた木か?」




紫苑の言葉を聞いて、イヌカシは信じられないというように目を見張った。




「あの、ひょろひょろの木が…こんな、大きく」
「そう。しかも、肥沃とは言えない西ブロックの地に、しっかりと根を張った」
「……紫苑みたいだな」




ぽつりと、力河が呟いた。




「確かに。たまにはマトモなこと言うんだな、おっさんも」
「失礼だな、イヴ。おれはいつもマトモさ」




確かにぼくはこの地に根付いた。
NO.6から追放されても、西ブロックに居場所を見つけた――ネズミの隣という、とても心地好い居場所を。




「お、おれ…紫苑がこっちに来てくれて良かったと、思ってるぜ」
「イヌカシ…」




ふいっと紫苑から顔を背け、照れたように俯くイヌカシ。
そんな仕種に柔らかな笑みが零れた。




「ありがとう、イヌカシ。ぼくも…ここに来て、良かったと思う」
「おれはいつも紫苑が来てくれて良かったと思ってるぞ!…あ、あわよくば、火藍にも来てほしかっ」
「おれに感謝するんだな、紫苑」
「イヴ…おれの台詞を遮るとはいい度胸だな」
「…さ、そろそろ帰ろうか。冷えてきたし…月も星も、位置が変わってきた」
「そうだな。早く温かいシャワーを浴びたい」
「おれのことは無視か、紫苑……」













+++

あれ。何がしたかったのかな。笑


四人が出て来る話を書きたいなあ、と思いまして。
クリスマス用に書いていたのですが、収拾がつかなくなったのでボツ!

そして時間がなかったせいで、推敲を一度もしておりません。←
かなり読みにくかったのでは…本当にすみません(>_<)


とーっても早いですが、メリークリスマス!



2012.12.05
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