Last Day
――――風は魂をさらい…
窓から入ってきた風と共に、ふと、あの懐かしい声が聞こえた気がした。
あの日、再会を約束した、あの凛とした声。
しかし、ついぞ彼に再びまみえることはなく、ただひたすらにこの都市を良くしようと年月を顧みずあがいているうちに、紫苑の年老いた体は自力では立ち上がることすら許してくれなくなってしまった。
白く清潔な部屋でベッドに横たわったまま、やわらかな午後の光を纏って風に揺れるカーテンにぼんやりと目を遣る。
あの日、若くして真っ白になってしまった髪も、いつのまにか老人性のそれに置き換わってしまったのだろう。
髪に指を絡めゆっくりと梳くようにするだけで、痩せて細くなりかつての白というよりもむしろ銀に近いような髪が数本抜けて落ちていった。
もしかしたらあの地下室でほんの一瞬で経験したのかもしれない、そして沙布やあの西ブロックに住む人たちから残酷にも一瞬で奪われ、ぼくもあの人から一瞬で奪ってしまった老いと死を、こうしてゆっくりと味わっていることを自覚すると、黒く濁ったような罪悪感に襲われる。
かつてNO.6という都市に存在した黄昏の家のような場所ではなく、あの出来事を糧にこの都市はまっすぐに死と向き合う強さも手に入れたおかげで、ぼくは今こうして生物にとって不自然でない形の死に向かうことが許されている。
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もう叶わないだろうけれど、最後くらい、たったもう一度だけでいい、きみの声を聴きたかった。
あの夜明け前の空の色をした、唯一無二の灰色に、もう一度だけぼくを映してほしかった。
いざこの命を手放そうという瞬間に、なんと強欲なことか。
そしてこの長い人生で、ほんのわずかなあの日々のなんと鮮やかなことか。
なあ、ネズミ。
きみの年老いた姿は想像がつかないな。
再会を必ずと誓ったのに、なぜ一度も会いに来てくれなかったんだ――いや、たまに小さく鳴くネズミたちの声は聞こえていた気がするから、きみもどこかで見守ってくれていただろうか。
それとも、あの鳴き声もぼくが聞きたかっただけの幻聴だろうか。
風に揺れていた午後の光がなんだかやけにまぶしく思えて、紫苑は窓から目を背けた。
――なんだか、疲れたな。
抗えない眠気に従うように、紫苑はゆっくりと目を閉じた。
「おい、紫苑、情けないなあんたは。いつもそうだ」
また、懐かしい声が聞こえた気がした。
「再会を必ずと、約束しただろう。なのにあんたはもう行くのか」
顔に影が落ちるのを感じる。まさか。そんなわけがない。
もう寝かせてくれと訴える重たいまぶたを無理やり開く。
ゆっくりとピントが合った視界には、ずっと求めていたあの濃灰色。
あぁ、何も変わらない。
あれから何もかも変わってしまったと思ったけど、これだけは何も変わらずにいてくれた。
「……ネズ、ミ?」
目の前の灰色がにやりときらめく。
「ふふ。もうおれのことなんざ忘れちまったかと思った。何もかも背負ったまま、よくここまで生きたな」
「それは……きみだって」
ぼくの体温と同じくらいの、少しひんやりとした手のひらが額に触れる。
懐かしい声、懐かしい匂い、まるであの日々を過ごしたふたりきりの地下室に戻ったみたいだ。
「なぁ、紫苑。歌ってやろうか。……最期の餞に」
「…あぁ……」
こんなにも幸せなことがあっていいんだろうか。
あの日の混乱のなかで、ぼくは人を殺めた。
都市を再建するなかで、悲しい思いやつらい思いをさせてしまった人だってたくさんいる。
なのに、こんな、贅沢すぎるご褒美を最後にもらってしまっていいのだろうか。
静かな部屋にネズミの声が心地よく響く。
せっかく会いに来てくれたのに、ごめん、もう、眠たくて……
ネズミにきちんと言葉が届いたのかはわからないが、微睡に沈んでいく意識のなか、彼が微笑むのを感じた気がした。
目覚めたらきみに、これまでの長い長い、きみが隣にいなかった人生の話を、きっとたっぷりと聞かせてやろう。
end.
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終わり方が迷子になりました!
クリスマスも近づいてきた年末のハッピーシーズン(?)なのにほんのり暗くてすみません!
そして久しく原作も読み返せていないので、キャラ崩壊していないことを願うばかりです。
6ミュを観て、紫苑とネズミは再会を必ずと約束したけど結局会うことはなかった未来を想像しつつ、でも最後くらい再会を果たしてほしいという願望の産物です。
そもそもネズミが本当に来てくれたのか紫苑の幻覚なのか、最後の紫苑が眠っただけなのか人生を終えたのか、それすらも曖昧であればいいと思います。
(Last Dayなんてタイトルつけておいてよく言う!笑)
2024.12.06
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