誰そ彼、
夜の影が近づく、西ブロック。
いつもの道を、おれは歩く。
沈みきった太陽の影が、西の空に浮かぶ雲に映って、朱く燃えていた。
遠くに人影が見える。
が、顔は確認できない。
この時間帯特有の薄暗さに邪魔をされて、自信のあるおれの視力でも、人影が誰なのか分からない。
でも、あれは紫苑に違いなくて。
ちょうど家の前、たまにああして出迎えてくれるのだ。
だから、あの人影は紫苑。
間違うわけがない。
愛しいその人影に向かって、少しだけ歩くスピードを上げる――なんだか照れ臭いから、紫苑には気付かれない程度に。
突如、近づいているはずの人影が揺らいだ…ように見えた。
――目眩か。
ぐらり、とわずかに歪んだ視界に相変わらず映り続ける、真っ暗なシルエット。
ふいに、紫苑だと思っていた影を、あれは別人だ と感じた。
紫苑ではない――そんな、直感的な、第六感。
―――…あれは、誰だ?
あれは――紫苑のはずだった、のに。
紫苑でなければならないのに。
…紫苑でなければならない?
――そうだ。あそこでおれを待つ人物は、紫苑でなければならない。
紫苑じゃなきゃ、意味がない。
他の「誰か」だなんて、あってはならないのだ。
彼は、いつからそんなに大きな存在になったのだろう。
彼は、いつからおれの心の大部分を占めて――心の中に居続ける存在になったのだろう。
だけど、紫苑。
おれにはあんたが分からない。
すぐそばに、いるというのに。
あんたは一体、何者なんだ――?
誰そ、彼。
黄昏は人の本性を隠す、魔の刻――
End.
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黄昏時に犬の散歩をしていて、突如浮かんだ話です。
「誰そ彼(たそかれ)」と言われるくらい、日没直後って本当に人の顔が判断できないですよね。
(とくに私、元々あまり目は良くないのですが、それに加えどうやら鳥目みたいで、暗くなると急に見えなくなります。笑)
そんな「魔の刻」を、ネズミはどこかで紫苑を おそれているような、そんな感情に重ねてみました。
…が、展開があまりにも意味不明なのでボツネタ!
個人的に黄昏時の、西の空の色がとても好きです。←
2012.10.18
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