magnet





なぜかぼくは今、ネズミの上に座っている(流石に向かい合うことはしない、照れ臭いから)。

今日のネズミは機嫌が良くてぼくに甘い気がする。
なんとなく。




「ねえ、ちゅーしてよ、ちゅー。」
「珍しいね、そんなこと言うなんて。いつものネズミはぼくの意思なんてお構いなく押し倒して事に至ろうとするのに」
「うるさい。黙ってちゅってしてくれたら可愛かったのに」
「悪かったね」
「でもそんなあんたも好きだ」




そのまま腰をぎゅうと抱かれ、鎖骨の窪みに顎を載せるように密着される。首をくすぐるネズミの髪。くすぐったくて、ふふ、と笑ってしまう。



「もう…本当にどうしたんだよ?腐ったものとか食べた?」
「失礼だな。おれは正気だけど」




顔を少し傾けてネズミの方を見ると、ちゅ、と甘い音をたててキスをされる。





「ねえ紫苑、磁石って知ってるよな?」
「…は?そりゃあ、知ってるけど」
「…磁石っていいよね」
「どうしたのネズミ。本当に今日のきみは変だ。きっと変なもの食べたりしたんだろ?熱はない?」
「磁石ってさ」
「人の話聞いてる? 3+7は?」
「10。磁石ってさ、N極とS極なんだよね」
「……そんなこと、知ってるけど。何が言いたいんだ」
「おれたちみたい」
「…………は?」
「ていうか、おれたち、磁石みたい」
「…こうやってくっついてるから?」
「それもだけど。あんたのイニシャルは?」
「…S」
「そ。おれのイニシャルは?」
「…N……」
「ほら、おれたち磁石みたい」
「磁石…」






ぼくたちは磁石?


ならば、互いが離れてしまっても不思議な引力によって また出逢えるのか。

ぼくがあの嵐の夜、不思議な衝動によって窓を開け放ち、君を招き入れたのも この磁力のせいかもしれない。


もしぼくたちが本当に磁石なら。


ぼくたちはずっと一緒に居られる。ぼくはネズミの傍に、ネズミはぼくの傍に。 ただただ、互いを引き合い、互いに惹かれ合って。少なくとも、ぼくはきみに惹かれているよ、ネズミ。









背中に感じる、とくんとくん、という静かな拍動。ネズミが、ぼくが、生きている証。規則正しく刻まれるそれがとても心地好くて。

ぼくは、ゆっくりと眠りに誘われていった。









End.
→あとがき
1/2ページ
スキ