愛の言葉




「ねぇ、ネズミ」
「ん?」


本を読んでいた紫苑が突然おれを呼んだ。


おれも読んでいた本から顔を上げ、紫苑の方を見る。 紫苑は、眉を寄せ難しそうな顔をして、あるページを指差した。



「これ…、何て読むんだ」
「どれ?」
「これ」



紫苑の白い指の先には《I Love You》の文字。



「あー…それはかつてこの世に存在してた言語で」


愛してる、って意味だ。




なんだか恥ずかしい。言葉の続きが、喉につかえている。こんな愛の言葉、舞台でも幾度となく口にしているのに。なのに、どうして出てこない。あんたが目の前にいるから?




「どういう意味?どう読むの?」
「発音は、《アイ ラブ ユー》」


単語を指で指しながら発音する。


「…意味は?」



ああ、そんな目で見るなよ。キスしたくなるだろ。




「…《愛してる》、だ」




なんだか恥ずかしくて、紫苑に背を向けベットに向かう。





「ネズミ」
「……」
「なぁ、ネズミ」
「………」
「ネズミったら!」
「…なんだよ」


顔をあげると、綺麗な薄紫がかった目と視線が交わった。





「ネズミ。 アイ、ラブ、ユー。」
「…紫苑…」
「この気持ちは、愛してる、だろう?」
「…やっぱりあんたの言語能力はチンパンジー以下だ」



紫苑を抱き寄せ、耳元に口づける。
そして、そのまま小さく


「おれも、あんたを愛してる」



と囁いた。









End.


→あとがき
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