Trick or...






「Trick or Treat!」





目の前には何故か白い猫耳をつけた紫苑。
可愛すぎる、けど。
欲情するとか以前に、何を言い出すんだこのおぼっちゃん。





「…は?」
「だから、Trick or Treat!」
「…どういうつもり」
「今日ハロウィンだろ?」
「いや確かにそうだけど」
「お菓子くれなきゃイタズラする」
「何で半分脅すんだよ」





苦笑しながら、ポケットからクラッカーを取り出し、紫苑に差し出す。





「…イヌカシから盗んだやつか」
「手間賃にね」
「他のものはないのか」
「ない」





イヌカシから盗ったクラッカーを受け取っても良いものかと悩む紫苑を改めて見る。
頭に着けられた白い耳が、紫苑の白髪によく似合う。しかも、今日紫苑が着ているのは白い服。
白にアメジスト色の瞳が映えて、本物の白猫みたいだ。

ああ、本当に可愛い。

ネズミがネコを襲うなんて変な話だが、そんなことを言っている場合ではない。
もうだめ、あんたが欲しいよ、紫苑。







「…Trick or Treat」
「え?」



きょとん、と音が聞こえそうな顔で首を傾げる紫苑。




「Trick or Treat、お菓子くれなきゃイタズラする、だろ?」
「…あいにく、お菓子は持ってないんだ」
「じゃあイタズラするよ?」
「……あの、ネズミ?顔が怖…っんぅ、ッ!」






紫苑の腕を強く引っ張り、キスをしながら転がるようにしてベッドになだれ込む。




「おい、ネズ…!どういうつも、」
「猫耳なんかつけちゃってさ。欲情しないわけないよね」




くいくい、と耳を引っ張ると紫苑は顔を歪めた。




「や、やめろよっ!痛いだろっ」
「…は?偽物じゃ、ない…のか?」
「バカ!本物だよっ」





よく見ると、薄紫の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。






まさか、と思い紫苑の背中に手を回し、そこからゆっくりと下に手を滑らせると。





「ッ、触っちゃだめ!」
「え」





そこには。






「しっ、ぽ…?」






ゆっくりと尻尾に手を滑らせる。滑らかな手触り。ふわふわの白い毛…。







「やめろってば!」





シャアッ、と短く息を吐きながら牙を見せ、おれを威嚇?する仕種をする紫苑。
耳が付いてるだけで迫力も半減…というより寧ろ、可愛い。


尻尾に滑らせていた手を紫苑の太ももに持って行き、さわさわと撫でる。







「ん、っ」




頬を赤く染めて身をよじる。そんな仕種に、おれの欲望がどんどん膨らむのを感じた。







「悪いけど手加減なしね」





紫苑の唇に食いつき、激しくキスをする。
そんなキスに夢中になっていると。





「っ?!」





己を強く掴まれた、かと思うとぐるりと体が反転した。目の前には黒い笑みを浮かべた紫苑の顔。
優しくおれの自身を撫でながら放った言葉は、その手つきとは真逆のそれで。







「ネズミは大人しくネコにいたぶられてればいいんだよ。 ね?」
「え、あ、紫苑さん…?ちょっと、あの、『ね?』じゃなくて…」
「聞かない。今日は ぼくの番」
「や、そんな、しお……っん!」









おれの抵抗も虚しく、普段の仕返しだと言わんばかりの紫苑との情事は夜が明けるまで続いた……




…続いた、はずだった。






気付けばおれは、本を開いたままいつものように椅子に座っていて、部屋の隅にあるベッドでは紫苑が小ネズミたちと昼寝をしていた。






「……夢、か?」




思わず呟いてしまい、慌てて口をつぐむ。
紫苑を見ると、当然そこには白い猫耳なんかついていないわけで。

少し残念なような、そんな気分のまま再び本に目を落としたのだった。






End.

→あとがき
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