第5章 二人の女王
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『ラ〜ビ!』
そう声を掛けられて振り向くと、アイリーンがこちらに駆けて来ているのが目に入った。
『御帰り、ラビ、ブックマン』
「たっだいま~!アイリーン、今日は私服じゃないんさね」
『これから任務だもの』
これから…か…
本部の引越し後、任務が始まると皆との擦れ違いの生活に戻った。
ミランダがエクソシストになった時に合流してからずっと、リナリーやアレンと行動してたから何だかしっくりこない。
まぁ、レイが居ないのも理由の一つだろうけど…
『これから次の任務よ』
そう同じ様な事を二度言われて、一瞬思考が停止した。
「…え、アイリーンが?」
『私とラビとブックマンが』
何てこった…
「今帰って来たばっかなのに…」
「人使いが荒いのう」
少しくらい休ませてくれても…せめて明日出発とかさ~……
『移動中に寝なさいね。私が見張っとくから安心して』
気遣いは有難いけど、出来れば自分のベッドで目が覚めるまで寝たい。
「俺等三人だけか?」
『マリとチャオジーも居るわ』
「アレン・ウォーカーは別任務か」
『ブックマンとして気になる?残念ね、体勢が変わったのよ』
ジジィの言葉に、アイリーンはそう返してクスクスと笑った。
『アレン、ユウ、パールは“イスタンブール”クロウリー、ミランダはソカロと“ロシア”リナリーはクラウドと“ギリシャ”で、貴方達二人とマリとチャオジーは私と一緒に中国よ。
本当はマリとチャオジーはクラウド班だったんだけどね…非常時に私が動ける様にこうなったわ』
「ま~た、あの二人組まされたんか」
『これが最善だと思うわよ…ラビとブックマンを別任務にするわけにもいかないし』
確かにジジィと離されると仕事に支障が出る。
俺はブックマンを継ぐんだから…
『それにアレンとユウは喧嘩ばかりしてるけど、良いコンビだと思うわよ私は』
「それ、本人に言ったらぜってぇ怒られるさ」
アイリーンは悪戯っ子の様に楽しそうに笑った。
『そうね、今度言ってみようかしら』
=鍵=
『イアン』
水鏡越しにそう呼ばれて、俺は“その世界”に姿を現した。
呼べば大抵の場合は直ぐに姿を現す…そんな俺が目の前に現れて、──は嬉しそうに笑った。
やっと肩まで伸びてきた銀髪が小さく揺れる。
「何の用だ」
『え、用が無いと呼んじゃ駄目なの?』
少し驚いた様な顔でそう言われて、思わず頭を鷲掴みにする様にして──のこめかみを圧迫した。
『イタイイタイ、痛いですよ』
「どうせ餓鬼と喧嘩したから気を紛らわせようとでもしたんだろ」
『ぇ、何で分かったの?!』
自分の頭を掴む俺の手を掴んで退かす──の目がキラキラしてて少し痛かった。コイツは俺が水鏡を使って自分を見ているだなんて思ってもいない。
俺は自分に殆ど無関心だとさえ思っているかもしれないのだから…
『またサブだけを狙ったんだよ…しかも陰湿だったの!だから私…ね…』
「やりすぎたとでも思ってるのか」
『まあ…少し…』
「アイツ等は叱られる様な事をした。別にお前が気に病む事は無いだろ」
寧ろ縁を切られない方が不思議だ。
あの餓鬼共はその内調子に乗るだろうな…いや、今の時点で乗ってるか。
初めての友達という事もあり大目に見られる事もあるのだから…
いっそ見限られれば良い。
そして──の目の前から消えて…
『皆と同じ事を言うのね』
「……」
『家族達は余程の事が無い限り、私の良い様に言うから…貴方が皆と同意権だと安心するわ』
嬉しそうに笑う──を見て少し苛立ちを覚えた。
誤魔化す様に息を吐く…
『また溜め息…本当に皆と仲悪いよね、イアンは』
「なりたくも無い」
『え──…私はなって欲しいのに』
無理だ。
コイツを独占したい俺、コイツを独占しているアイツ等…
コイツの運命を握っている俺、それが面白く無いアイツ等…
仲良くだなんて無理に決まっている。
膨大な力を持ち、頭も良く、世間知らずだが歳に似合わず聡明、悪夢に魘され、殺しが嫌いで、鈍感で、御人好しで、泣き虫で……無邪気な笑顔で酷い事を言う。
「──…」
『なぁに?』
コイツをまだ死なせる気は無い。
この先コイツは恋をするんだろうか…
大人になって…
結婚をするんだろうか…?
無邪気に笑うコイツを俺は…
『どうしたの、イアン』
俺は見ていられるだろうか…
「イアン」
そう声を掛けられて、閉じていた目を開いた。
疲れているんだろうか…──が学生だった頃の夢を見るだなんて…ある意味酷い悪夢だ。
「どうした…」
「何でも無い」
来訪者であるトールに、イアンはそう答えると、横になっていた身体を起こした。
「それよりな、トール…そろそろ限界だ」
「どういう意味だ」
「あの世界の戦争が始まる」
聖戦という名の争いがな…
「始まる?既に始まってたんじゃないのか」
「餓鬼が人間との過ごした時間の記憶を封じられた。その上、人間に身内を殺されたと勘違いしてやがる……その時点で最悪だったのに…あの餓鬼、動き出しやがった。
アイツが今のあの世界の鍵だ。アイツが動き出したのだから色々とひっくり返る」
アイツが中立のままであればまた違う未来が来たかもしれないが……アイツが自力で記憶を戻すのは難しいだろう。
「…それは不味いな」
「──の奴…あの馬鹿、目の前で殺生が起きそうになったら何が何でも止めるからな」
自分に関わった奴…しかも気に入った奴が怪我を負おうものなら力を使い果たしても助けようとするだろう。
「最悪の場合も想定出来るな」
トールの言う“最悪の場合”それは世界が滅びて消え去る事…
世界が消えれば、もう物語は紡がれる事が無くなる。
そうなった場合、世界そのものである本は消滅してしまう…
そうなれば本の中に閉じ込められている──も…
とっとと本の中から──を引っ張り出さねぇと…
イアンは懐から真っ黒に染まった本を取り出した。
「直ぐに此の本の権利を取り戻す」
権利を取り戻せれば、此の中に入る事も──を引き出す事も、世界を壊す事さえ出来る。
「でも、どうやって」
「俺から権利を奪うくらいだ。此の本の中と外、二つを繋ぐ媒介がこちら側にある筈だ」
「媒介…まさかあの手帳か」
そう、──の作った手帳…──があの世界に引き寄せらた原因になった手帳だ。
「あの手帳は──の魔力が込められている。だから手帳と──自身があの世界とこちらを繋ぐ鍵になってるんだ」
手帳で世界自身である本を操る為、あの世界に魔力の根源である──を送り込んだ。
そして本を操る目的が、──をあの世界に閉じ込めて抹消する事なら……事は簡単に進む。
「それでシギュンの奴、最近頻繁にここに来ていたのか」
そう…あの女は俺達の目を盗んで本に細工をし、あの世界に異端者を作り…──が昔居た魔法の世界から手帳を盗み出して異端者の近くに置いた。
そして待ったんだ。
──があの世界の異変に気付き、異端者とあの世界に情が移るのを…
深く関わり出したら仕掛けを外して──を本の中に閉じ込め、処分する。
「アイツもある程度の魔力を所持している。本に触れなくても同じ空間に居さえすれば…」
「お前に会いに来たフリをしてその本に施した術式を発動させていたのか」
「あのクソ女…殺されないと分からないみたいだ」
狡賢い奴…しかし盗み出した手帳を持っているのをトールに目撃されるだなんて詰めが甘い奴で良かった。
もし目撃されていなかったら、俺はあの女が犯人だと分からず“アイツ”の所で無駄足を踏んでいただろうから…
「行くぞ、トール」
「あぁ」
「様子見なんてしてる場合じゃない」
全ての元凶である“アイツ”の──…
『ラ〜ビ!』
そう声を掛けられて振り向くと、アイリーンがこちらに駆けて来ているのが目に入った。
『御帰り、ラビ、ブックマン』
「たっだいま~!アイリーン、今日は私服じゃないんさね」
『これから任務だもの』
これから…か…
本部の引越し後、任務が始まると皆との擦れ違いの生活に戻った。
ミランダがエクソシストになった時に合流してからずっと、リナリーやアレンと行動してたから何だかしっくりこない。
まぁ、レイが居ないのも理由の一つだろうけど…
『これから次の任務よ』
そう同じ様な事を二度言われて、一瞬思考が停止した。
「…え、アイリーンが?」
『私とラビとブックマンが』
何てこった…
「今帰って来たばっかなのに…」
「人使いが荒いのう」
少しくらい休ませてくれても…せめて明日出発とかさ~……
『移動中に寝なさいね。私が見張っとくから安心して』
気遣いは有難いけど、出来れば自分のベッドで目が覚めるまで寝たい。
「俺等三人だけか?」
『マリとチャオジーも居るわ』
「アレン・ウォーカーは別任務か」
『ブックマンとして気になる?残念ね、体勢が変わったのよ』
ジジィの言葉に、アイリーンはそう返してクスクスと笑った。
『アレン、ユウ、パールは“イスタンブール”クロウリー、ミランダはソカロと“ロシア”リナリーはクラウドと“ギリシャ”で、貴方達二人とマリとチャオジーは私と一緒に中国よ。
本当はマリとチャオジーはクラウド班だったんだけどね…非常時に私が動ける様にこうなったわ』
「ま~た、あの二人組まされたんか」
『これが最善だと思うわよ…ラビとブックマンを別任務にするわけにもいかないし』
確かにジジィと離されると仕事に支障が出る。
俺はブックマンを継ぐんだから…
『それにアレンとユウは喧嘩ばかりしてるけど、良いコンビだと思うわよ私は』
「それ、本人に言ったらぜってぇ怒られるさ」
アイリーンは悪戯っ子の様に楽しそうに笑った。
『そうね、今度言ってみようかしら』
=鍵=
『イアン』
水鏡越しにそう呼ばれて、俺は“その世界”に姿を現した。
呼べば大抵の場合は直ぐに姿を現す…そんな俺が目の前に現れて、──は嬉しそうに笑った。
やっと肩まで伸びてきた銀髪が小さく揺れる。
「何の用だ」
『え、用が無いと呼んじゃ駄目なの?』
少し驚いた様な顔でそう言われて、思わず頭を鷲掴みにする様にして──のこめかみを圧迫した。
『イタイイタイ、痛いですよ』
「どうせ餓鬼と喧嘩したから気を紛らわせようとでもしたんだろ」
『ぇ、何で分かったの?!』
自分の頭を掴む俺の手を掴んで退かす──の目がキラキラしてて少し痛かった。コイツは俺が水鏡を使って自分を見ているだなんて思ってもいない。
俺は自分に殆ど無関心だとさえ思っているかもしれないのだから…
『またサブだけを狙ったんだよ…しかも陰湿だったの!だから私…ね…』
「やりすぎたとでも思ってるのか」
『まあ…少し…』
「アイツ等は叱られる様な事をした。別にお前が気に病む事は無いだろ」
寧ろ縁を切られない方が不思議だ。
あの餓鬼共はその内調子に乗るだろうな…いや、今の時点で乗ってるか。
初めての友達という事もあり大目に見られる事もあるのだから…
いっそ見限られれば良い。
そして──の目の前から消えて…
『皆と同じ事を言うのね』
「……」
『家族達は余程の事が無い限り、私の良い様に言うから…貴方が皆と同意権だと安心するわ』
嬉しそうに笑う──を見て少し苛立ちを覚えた。
誤魔化す様に息を吐く…
『また溜め息…本当に皆と仲悪いよね、イアンは』
「なりたくも無い」
『え──…私はなって欲しいのに』
無理だ。
コイツを独占したい俺、コイツを独占しているアイツ等…
コイツの運命を握っている俺、それが面白く無いアイツ等…
仲良くだなんて無理に決まっている。
膨大な力を持ち、頭も良く、世間知らずだが歳に似合わず聡明、悪夢に魘され、殺しが嫌いで、鈍感で、御人好しで、泣き虫で……無邪気な笑顔で酷い事を言う。
「──…」
『なぁに?』
コイツをまだ死なせる気は無い。
この先コイツは恋をするんだろうか…
大人になって…
結婚をするんだろうか…?
無邪気に笑うコイツを俺は…
『どうしたの、イアン』
俺は見ていられるだろうか…
「イアン」
そう声を掛けられて、閉じていた目を開いた。
疲れているんだろうか…──が学生だった頃の夢を見るだなんて…ある意味酷い悪夢だ。
「どうした…」
「何でも無い」
来訪者であるトールに、イアンはそう答えると、横になっていた身体を起こした。
「それよりな、トール…そろそろ限界だ」
「どういう意味だ」
「あの世界の戦争が始まる」
聖戦という名の争いがな…
「始まる?既に始まってたんじゃないのか」
「餓鬼が人間との過ごした時間の記憶を封じられた。その上、人間に身内を殺されたと勘違いしてやがる……その時点で最悪だったのに…あの餓鬼、動き出しやがった。
アイツが今のあの世界の鍵だ。アイツが動き出したのだから色々とひっくり返る」
アイツが中立のままであればまた違う未来が来たかもしれないが……アイツが自力で記憶を戻すのは難しいだろう。
「…それは不味いな」
「──の奴…あの馬鹿、目の前で殺生が起きそうになったら何が何でも止めるからな」
自分に関わった奴…しかも気に入った奴が怪我を負おうものなら力を使い果たしても助けようとするだろう。
「最悪の場合も想定出来るな」
トールの言う“最悪の場合”それは世界が滅びて消え去る事…
世界が消えれば、もう物語は紡がれる事が無くなる。
そうなった場合、世界そのものである本は消滅してしまう…
そうなれば本の中に閉じ込められている──も…
とっとと本の中から──を引っ張り出さねぇと…
イアンは懐から真っ黒に染まった本を取り出した。
「直ぐに此の本の権利を取り戻す」
権利を取り戻せれば、此の中に入る事も──を引き出す事も、世界を壊す事さえ出来る。
「でも、どうやって」
「俺から権利を奪うくらいだ。此の本の中と外、二つを繋ぐ媒介がこちら側にある筈だ」
「媒介…まさかあの手帳か」
そう、──の作った手帳…──があの世界に引き寄せらた原因になった手帳だ。
「あの手帳は──の魔力が込められている。だから手帳と──自身があの世界とこちらを繋ぐ鍵になってるんだ」
手帳で世界自身である本を操る為、あの世界に魔力の根源である──を送り込んだ。
そして本を操る目的が、──をあの世界に閉じ込めて抹消する事なら……事は簡単に進む。
「それでシギュンの奴、最近頻繁にここに来ていたのか」
そう…あの女は俺達の目を盗んで本に細工をし、あの世界に異端者を作り…──が昔居た魔法の世界から手帳を盗み出して異端者の近くに置いた。
そして待ったんだ。
──があの世界の異変に気付き、異端者とあの世界に情が移るのを…
深く関わり出したら仕掛けを外して──を本の中に閉じ込め、処分する。
「アイツもある程度の魔力を所持している。本に触れなくても同じ空間に居さえすれば…」
「お前に会いに来たフリをしてその本に施した術式を発動させていたのか」
「あのクソ女…殺されないと分からないみたいだ」
狡賢い奴…しかし盗み出した手帳を持っているのをトールに目撃されるだなんて詰めが甘い奴で良かった。
もし目撃されていなかったら、俺はあの女が犯人だと分からず“アイツ”の所で無駄足を踏んでいただろうから…
「行くぞ、トール」
「あぁ」
「様子見なんてしてる場合じゃない」
全ての元凶である“アイツ”の──…