第5章 二人の女王
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「アイリーン・ネイピア元帥」
そう声を掛けられて、机に向かうリーバーの首に腕を回して後ろから抱き付いていたアイリーンは、リーバーから離れて振り返った。
『何かしら…えぇと……レゴリー・ペック第二班長』
科学班が増員、三班に分かれる事になった為に中央庁から移動してきた科学班員、レゴリー・ペック…相手を良く知りもしないでこういうのもなんだが…何だか苦手なタイプだ。
「何故、科学班室に?仕事の邪魔は困りますよ」
『差し入れに来たんだけど…邪魔になっていたなら済まなかったわ』
困った様に“リーバー、御免ね”と言うアイリーンに、リーバーは慌てて両手を顔の前で振って否定した。
「いや、別に邪魔じゃ…!差し入れ作ってきてくれたんだし……まぁそりぁ…抱き付かれてちゃ心臓には悪いけど」
『心臓に?御免なさい…』
「いや、だから謝る様な事じゃなくて…」
心臓に悪いとは…何だか凄く申し訳無い。
「…差し入れはリーバー班長だけにですか」
『え?あ、いや…全員分ある』
そう言って影の中から三台のワゴンを出すと、レゴリー・ペックは“ふむ”と声をもらした。
「では僕にも頂けますか」
『えぇ、勿論』
全員分作ってきて良かった…これの所為でリーバー達に会いに来れなくなるのだけは避けたい。
まあ…禁止されても来るけど。
『ケーキなんだけど良いかしら?ルベリエ長官やジュリーの作るモノの方が美味しいけど…甘い物が良いかと思って』
「構いませんよ」
アイリーンはケーキを一切れ皿に取ると、レゴリー・ペックに差し出した。
ジッと見てから食べるのは止めて欲しい…適当に切っちゃったのに…
「華やかさには欠けますが、美味しいと思いますよ」
御免なさい、以後気を付けます。
「ちょっと、ペック班長…食べといてケチつけないでくださいよ」
「別にケチつけてませんよ。見た目が地味だと言っただけです」
「アイリーンのケーキは無駄にクリーム盛ったりしてゴテゴテしてないんっすよ。糖分を取らせつつ健康にも気を遣ってるんです。アイリーンのケーキは絶品ですよ、他の差し入れもね」
『リーバー…』
思わずギュッと抱き付いて……レゴリー・ペックに文句を言われる前に慌てて離れた。
「まあ、良いでしょう。味は良い事ですし、本人が色々と魅せてくれますし……食べたら美味しそうですしね」
そう言って上から下までジロジロと見られた。正直居辛い。
休日だからって私服なんか着ない方が良かったかな…年甲斐も無くスカートなんか履いたのがいけなかったのか………もしかしてそもそも似合って無いとか…?
今度から差し入れの飾り付け以外に、服装ももっと考えなきゃ……今日は反省点が多過ぎる…
「そうそう…リーバー班長は集中力を欠く様ですし、仕事中に抱き付くなら僕にどうぞ」
『はぁ…』
リーバーだと癒し効果があって落ち着くから抱き付かせてもらっていただけで、誰でも良いってわけじゃないんだけど…
『リーバー…』
アイリーンはリーバーに“アジア支部に行って来る”と耳打ちすると、そっと離れた。
『ワゴンは一班につき一台ずつあるわ。上段がケーキで下段がお茶のポット……あの、私、出掛けてくるわね』
小さく笑ったアイリーンが科学班室を出て行くまでジーっと見詰めていたレゴリー・ペックを見て、リーバーは溜め息を吐いた。
「手、出さない方が良いですよ…色目も使わない方が…」
「恋人いるの?あぁ、それとも俺のだから手ぇ出すなって事?」
「俺のじゃありません。アイリーンはそういう目で見られるのが苦手みたいですし……恋人はいませんが“鬼”がいますんで」
「鬼?」
「さっきの見られたら殺されますよ」
=魔女の休日=
「アイリーン、済まなかったと言ってるだ ろう」
アジア支部の三人組に囲まれたアイリーンを前に、バクは困った様にそう言った。
アイリーンは拗ねた様に頬を膨らませている。
『バクったら酷いのよ、私と目が合っただけで青くなっちゃって…』
「うっわ~」
「支部長、だらしないです」
「支部長、サイテー」
「し、仕方無いだろう」
三人の白い目に、バクはふらりと後退った。
『感染した私、そんなに怖かったかしら?』
「……コメントは控える」
『まあ、酷い…』
「月殿、どうか大目に…バク様はゾンビと化した皆さんを前に、怖がりながらも頑張っていました!」
「ウォン!!」
バクとウォンのやり取りを見ていたら、ずっと堪えていたモノが我慢出来無くなった。
『分かってるわ。可愛いからからかっただけよ』
楽しそうに声を上げて笑うアイリーンを見て、涙目のバクはわなわなと震えた。
「貴様、からかってたのか!」
『そう言ったじゃない。愛らしい貴方が悪いのよ』
「月殿、それ以上言うとバク様に蕁麻疹が…」
「ウォン!!」
「愛らしいそうですよ、支部長」
「全身真っ赤…今にも蕁麻疹出そうっすよ」
「支部長、可愛らしいですね~」
「貴様らぁぁ!!」
三人組を部屋から追い出したバクは“まったく”と言って咳払いをすると、自分の席に腰を降ろした。
「お前もだぞ、アイリーン…」
『はいはい』
「……で…皆はどうだった?」
『もう、皆を宥めるの大変だったわ…特にユウとパールが』
ラビはブックマンとして色々前もって知っていたけどあの二人は…何度聞いても整理が出来無いのだろう。
「…ウォーカーはどんな様子だ」
『アレンは…見た目は大丈夫そうよ。ただ14番目に喰われる気は無い様だし、14番目が教団を攻撃するならば自分が止めるとも言っていた…でもね、問題は中身よ…』
「そうだな…ウォーカーは任務中だろ?お前は護衛だった筈だ、一緒に行かなくて良いのか?」
『私は新本部への移動の際限定の護衛よ』
「何故だ、お前が付いているのが一番安全だろう」
『私は教団に顔を出す前からクロスと知り合いだったわけだから、私も14番目の関係者じゃないかって怪しんでいるんでしょ』
申し出たのに断られた…一緒に居させたくないんだろう。
今回の任務はユウやミランダ、ハワードも付いているから大丈夫だとは思うけど…
「月殿、何故アジア支部に?」
『暇だから』
あそこに居るとずっと監視されてるし、唯一監視が外れる所の一つだった化学班室は居辛かったから出て来ちゃったし…バクをからかいたかったし。
それに、今の段階では私に出来る事は任務をこなすだけだが、生憎今日はオフだ。
「ここは暇潰しの場所じゃ無いぞ…まあ、お前らしいと言えばお前らしいな」
『フフ、有難う…何だか本部は居辛くて』
「…実際の所どうなんだ」
『何が?』
「14番目の関係者か…」
『秘密よ』
「お前はいつもそればっかりだな」
笑って誤魔化した。
瞬間、ノック音と共に蝋花が部屋に入って来た。
「月さ~ん、お迎えですよ!」
『お迎え?』
迎えに来る者等検討も付かなかったが、蝋花の後ろから顔を出した男の顔を見て納得した。
本部の科学班員だ。
「アイリーン、迎えに来たよ~」
『ロブ!』
「ルベリエ長官がお呼びですよ」
『まあ…何か面倒臭そうね』
「否定はしませんが…ちゃんと戻って下さいよ」
“仕方無いわね”と言って立ち上がったアイリーンは、ひらひらとバクとウォンに手を振った。
『御仕事頑張ってね』
「お前もな」
「月殿、またいらっしゃって下さいね」
『えぇ、是非』
アイリーンはロブと部屋を出ると、真っ直ぐ方舟へと向かった。
『アレン達は任務から帰って来た?』
「帰って来たよ。リナリー達も少し前に帰って来た」
『暇なのは私だけね』
かといって長期の任務とか与えられちゃうと困るんだけど…
「アイリーンにはアイリーンの仕事があるさ…長官に呼ばれてるのもその所為じゃないか?」
『仕事をもらえるのは外に出る口実になるから良い事だけど…今は帰りたくないわ』
「ダメですよ」
『はいはい』
分かってる。
干渉したのだから従わなくてはならないって…
『帰りましょ』
従わなくちゃいけない事もあるって──…
「アイリーン・ネイピア元帥」
そう声を掛けられて、机に向かうリーバーの首に腕を回して後ろから抱き付いていたアイリーンは、リーバーから離れて振り返った。
『何かしら…えぇと……レゴリー・ペック第二班長』
科学班が増員、三班に分かれる事になった為に中央庁から移動してきた科学班員、レゴリー・ペック…相手を良く知りもしないでこういうのもなんだが…何だか苦手なタイプだ。
「何故、科学班室に?仕事の邪魔は困りますよ」
『差し入れに来たんだけど…邪魔になっていたなら済まなかったわ』
困った様に“リーバー、御免ね”と言うアイリーンに、リーバーは慌てて両手を顔の前で振って否定した。
「いや、別に邪魔じゃ…!差し入れ作ってきてくれたんだし……まぁそりぁ…抱き付かれてちゃ心臓には悪いけど」
『心臓に?御免なさい…』
「いや、だから謝る様な事じゃなくて…」
心臓に悪いとは…何だか凄く申し訳無い。
「…差し入れはリーバー班長だけにですか」
『え?あ、いや…全員分ある』
そう言って影の中から三台のワゴンを出すと、レゴリー・ペックは“ふむ”と声をもらした。
「では僕にも頂けますか」
『えぇ、勿論』
全員分作ってきて良かった…これの所為でリーバー達に会いに来れなくなるのだけは避けたい。
まあ…禁止されても来るけど。
『ケーキなんだけど良いかしら?ルベリエ長官やジュリーの作るモノの方が美味しいけど…甘い物が良いかと思って』
「構いませんよ」
アイリーンはケーキを一切れ皿に取ると、レゴリー・ペックに差し出した。
ジッと見てから食べるのは止めて欲しい…適当に切っちゃったのに…
「華やかさには欠けますが、美味しいと思いますよ」
御免なさい、以後気を付けます。
「ちょっと、ペック班長…食べといてケチつけないでくださいよ」
「別にケチつけてませんよ。見た目が地味だと言っただけです」
「アイリーンのケーキは無駄にクリーム盛ったりしてゴテゴテしてないんっすよ。糖分を取らせつつ健康にも気を遣ってるんです。アイリーンのケーキは絶品ですよ、他の差し入れもね」
『リーバー…』
思わずギュッと抱き付いて……レゴリー・ペックに文句を言われる前に慌てて離れた。
「まあ、良いでしょう。味は良い事ですし、本人が色々と魅せてくれますし……食べたら美味しそうですしね」
そう言って上から下までジロジロと見られた。正直居辛い。
休日だからって私服なんか着ない方が良かったかな…年甲斐も無くスカートなんか履いたのがいけなかったのか………もしかしてそもそも似合って無いとか…?
今度から差し入れの飾り付け以外に、服装ももっと考えなきゃ……今日は反省点が多過ぎる…
「そうそう…リーバー班長は集中力を欠く様ですし、仕事中に抱き付くなら僕にどうぞ」
『はぁ…』
リーバーだと癒し効果があって落ち着くから抱き付かせてもらっていただけで、誰でも良いってわけじゃないんだけど…
『リーバー…』
アイリーンはリーバーに“アジア支部に行って来る”と耳打ちすると、そっと離れた。
『ワゴンは一班につき一台ずつあるわ。上段がケーキで下段がお茶のポット……あの、私、出掛けてくるわね』
小さく笑ったアイリーンが科学班室を出て行くまでジーっと見詰めていたレゴリー・ペックを見て、リーバーは溜め息を吐いた。
「手、出さない方が良いですよ…色目も使わない方が…」
「恋人いるの?あぁ、それとも俺のだから手ぇ出すなって事?」
「俺のじゃありません。アイリーンはそういう目で見られるのが苦手みたいですし……恋人はいませんが“鬼”がいますんで」
「鬼?」
「さっきの見られたら殺されますよ」
=魔女の休日=
「アイリーン、済まなかったと言ってるだ ろう」
アジア支部の三人組に囲まれたアイリーンを前に、バクは困った様にそう言った。
アイリーンは拗ねた様に頬を膨らませている。
『バクったら酷いのよ、私と目が合っただけで青くなっちゃって…』
「うっわ~」
「支部長、だらしないです」
「支部長、サイテー」
「し、仕方無いだろう」
三人の白い目に、バクはふらりと後退った。
『感染した私、そんなに怖かったかしら?』
「……コメントは控える」
『まあ、酷い…』
「月殿、どうか大目に…バク様はゾンビと化した皆さんを前に、怖がりながらも頑張っていました!」
「ウォン!!」
バクとウォンのやり取りを見ていたら、ずっと堪えていたモノが我慢出来無くなった。
『分かってるわ。可愛いからからかっただけよ』
楽しそうに声を上げて笑うアイリーンを見て、涙目のバクはわなわなと震えた。
「貴様、からかってたのか!」
『そう言ったじゃない。愛らしい貴方が悪いのよ』
「月殿、それ以上言うとバク様に蕁麻疹が…」
「ウォン!!」
「愛らしいそうですよ、支部長」
「全身真っ赤…今にも蕁麻疹出そうっすよ」
「支部長、可愛らしいですね~」
「貴様らぁぁ!!」
三人組を部屋から追い出したバクは“まったく”と言って咳払いをすると、自分の席に腰を降ろした。
「お前もだぞ、アイリーン…」
『はいはい』
「……で…皆はどうだった?」
『もう、皆を宥めるの大変だったわ…特にユウとパールが』
ラビはブックマンとして色々前もって知っていたけどあの二人は…何度聞いても整理が出来無いのだろう。
「…ウォーカーはどんな様子だ」
『アレンは…見た目は大丈夫そうよ。ただ14番目に喰われる気は無い様だし、14番目が教団を攻撃するならば自分が止めるとも言っていた…でもね、問題は中身よ…』
「そうだな…ウォーカーは任務中だろ?お前は護衛だった筈だ、一緒に行かなくて良いのか?」
『私は新本部への移動の際限定の護衛よ』
「何故だ、お前が付いているのが一番安全だろう」
『私は教団に顔を出す前からクロスと知り合いだったわけだから、私も14番目の関係者じゃないかって怪しんでいるんでしょ』
申し出たのに断られた…一緒に居させたくないんだろう。
今回の任務はユウやミランダ、ハワードも付いているから大丈夫だとは思うけど…
「月殿、何故アジア支部に?」
『暇だから』
あそこに居るとずっと監視されてるし、唯一監視が外れる所の一つだった化学班室は居辛かったから出て来ちゃったし…バクをからかいたかったし。
それに、今の段階では私に出来る事は任務をこなすだけだが、生憎今日はオフだ。
「ここは暇潰しの場所じゃ無いぞ…まあ、お前らしいと言えばお前らしいな」
『フフ、有難う…何だか本部は居辛くて』
「…実際の所どうなんだ」
『何が?』
「14番目の関係者か…」
『秘密よ』
「お前はいつもそればっかりだな」
笑って誤魔化した。
瞬間、ノック音と共に蝋花が部屋に入って来た。
「月さ~ん、お迎えですよ!」
『お迎え?』
迎えに来る者等検討も付かなかったが、蝋花の後ろから顔を出した男の顔を見て納得した。
本部の科学班員だ。
「アイリーン、迎えに来たよ~」
『ロブ!』
「ルベリエ長官がお呼びですよ」
『まあ…何か面倒臭そうね』
「否定はしませんが…ちゃんと戻って下さいよ」
“仕方無いわね”と言って立ち上がったアイリーンは、ひらひらとバクとウォンに手を振った。
『御仕事頑張ってね』
「お前もな」
「月殿、またいらっしゃって下さいね」
『えぇ、是非』
アイリーンはロブと部屋を出ると、真っ直ぐ方舟へと向かった。
『アレン達は任務から帰って来た?』
「帰って来たよ。リナリー達も少し前に帰って来た」
『暇なのは私だけね』
かといって長期の任務とか与えられちゃうと困るんだけど…
「アイリーンにはアイリーンの仕事があるさ…長官に呼ばれてるのもその所為じゃないか?」
『仕事をもらえるのは外に出る口実になるから良い事だけど…今は帰りたくないわ』
「ダメですよ」
『はいはい』
分かってる。
干渉したのだから従わなくてはならないって…
『帰りましょ』
従わなくちゃいけない事もあるって──…