第4章 最後の元帥
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89
『“吸血鬼伝説”』
床にしゃがみ込んだアイリーンは、そう拾い上げた本のタイトルを読み上げた。
クロウリーが吸血鬼だと思われてた時に使った資料かしら?
出しっぱなしにしてるだなんて…まだ古い書類が出てきそうだ。
アイリーンは“吸血鬼伝説”を自分の脇に積み上げた本の山の一番上に置いた。
「アイリーン、本括る紐どこだっけ~!」
そう声を掛けられ、アイリーンは皆がワイワイと騒がしく荷物整理を進める科学班室を見回した。
『あぁ、そこの棚にあるのがそうじゃないかしら、ジョニー』
「ありがと、アイリーン!」
アイリーンが“黒キ乙女達 ”で本棚の空いたスペースに置かれた紐の玉を取って手渡すと、ジョニーはお礼を言ってブンブンと手を振った。
アイリーンは軽く手を振り返すと直ぐに次の本を山に積んだ。
「いやホント、アイリーンがクロス元帥に付いて行かないで、本部の引越し手伝ってくれて助かるな」
『私は行く意味が無いもの』
「いんや~俺、絶対にクロス元帥が連れて行くと思ったんさ」
『私が行っても何も出来無いわ。引越しの手伝いも…資料とか良く分からないから本を纏めるしか出来無いんだけど』
「アイリーンが“黒キ乙女達 ”出してくれてるから助かってるさ!」
『御免なさいね、これ細かい動きさせるには五人が限度なのよ』
「充分だろ!アイリーン一人で六人分働いてるのと一緒なんだから!」
「さっさと手を動かせ、馬鹿者!」
「あ~、はいはい。まったく、パンダは恐ぇさ~」
「お前は向こうの重たい机でも運んどれ!」
楽しそうに笑いながら駆けて行くラビはもうすっかり怪我は治った様だ。
他の子達も…
「アイリーン、それもそろそろ纏めていいだろ、私が結ぼう」
『有難う、ブックマン』
魔法とか使って大丈夫なら直ぐ終わるんだけど…見せるわけにもいかない。
スピードはかなり劣るが、地道に片していくしかないか。
「おい、お前待…ッ!アイリーン、ブックマン!!!」
『ぇ?』
リーバーに名前を呼ばれて振り返ると、丁度瓶が床に落ちる瞬間だった。
ガシャンッという瓶が割れた音…
次の瞬間、私達は煙に包まれた。
=本部壊滅事件=
「だから油断するなって言っただろ!」
困った様な顔をする者、顔色を悪くする者、目をそらす者…色んなタイプが居るが、総じて“あ~ぁ、やっちゃったな”と顔に書いてある科学班の面々をバックに、リーバーが少し困った様にそう言った。
それに直ぐに反論したのはラビとユウだった。
「科学班が変な薬作り過ぎなんさッ!!」
「テメェ等、実は仕事しねぇで遊んでたんじゃねぇのか?」
殺気のこもったユウの言葉に科学班が顔色を悪くする中、ユウの隣でアイリーンは自分の頭に付いたモノを引っ張っていた。
これはまた…肌触りも良いし、可愛いから良いが…
歳を考えると恥ずかしい。
「アイリーンが可愛いのは許すけどな!!!」
“そこはお前等良くやった!”と親指を立てて言うラビに、科学班の面々は誇らしげにグッと親指を立てた。
「阿呆かテメェ等!!」
“下らない”と怒って声を荒げるユウを宥めながら頭を撫でたらキッと睨まれてしまった。
慌ててユウを撫でてた右手を左手でギュッと包む様に握って制する。
「ほら~!ユウが睨むからアイリーンのウサ耳が垂れちゃったさ!まあ、それも可愛いけど!!」
『いや、それは…恥ずかしいな…この歳になって兎の耳だなんて…』
割れた瓶の煙を浴びて…気が付いたら頭に兎の耳が生えていた。
予告も無しにこんなモノを生やすなんて、とんだ辱めだ。
まあ、瓶を割ってしまったのはわざとじゃ無い様だから仕方無いけど…
「何言ってるんですかアイリーン、とっても可愛らしいですよ」
「アレンの言う通り!抜群に似合うじゃんか~!銀髪に緋眼、完璧な白ウサギさんだぜ」
アレンとラビにそう言われて“ありがとう”と微笑んだアイリーンは、ふとラビとユウを見据えた。
今の二人はいつもの二人じゃない。
同じく違う瓶の煙を浴びたらブックマン並のちびっ子サイズに…って…駄目だ……もう我慢出来無い…
『ッ…!』
アイリーンは硬く握り締めていた手を離すと、二人をギュッと抱き締めた。
『二人共、すっごく可愛い!』
こんな可愛いモノを前に我慢しろと言うのが無理なんだ。
何て愛らしいんだろう…!
「アイリーンも可愛いさ~!あ、でもアイリーンはセクシーなバニーさんの格好の方が似合いそうだけど」
「お前、その煩悩どうにかならねぇのか?」
「アイリーン、離した方が良いですよ」
『ん~ん、アレン…私、このままが良いわ』
アイリーンは小さな二人を抱き締めたまま目を閉じた。
はぁ~…可愛くて仕方無い。
「服どうしようか?」
「ブックマンので良いんじゃないか?」
リナリーの問いにマリが良い案を出したが、ブックマンは…今落ち込んでるから無理だと思うなぁ…
隣に座ったブックマンは、泣きながら頭に生えた兎の耳を掴んでいる。
無理も無い話だった。
あの煙が晴れたら、大切にしていた髪が兎の耳に変わっていたのだから。
「ワシの…ワシの髪がウサ耳に…」
泣いてるブックマンを見て、少し“良かった”なんて思ってしまった。
私には何故か髪が残ってる…兎の耳が生えたくらいでなんだ。
髪が消えて兎の耳だけにならなくて良かった。
「な~んで、こんな事になったんかね」
「……髪の一部が耳になったんじゃねぇのか」
ユウの言葉に、ラビは思わずブッと噴出した。
「髪が少ねぇから全部なくなったんか!」
アイリーンは自分の膝の上に座ってゲラゲラ笑っているラビの頭にそっと手を置いた。
『ラビ、失礼よ……ブックマン、時間が経てば戻るみたいだから…』
「ワシの…髪…」
『少し我慢して…二人に服を貸してあげてくれないかしら』
ぐずぐずと泣きながらソファーから飛び降りて部屋に向かって歩き出したブックマンをリナリーが“手伝う”と言って追い掛けて行った。
「おい、アイリーン」
『なぁに?』
「いつまで抱いてる気だ」
「俺はいつまででも抱いてて良いさ!」
ラビがそう言った瞬間、ユウは凄い勢いでラビの顔面をグーで殴った。
“グフォッ”と痛々しい奇妙な声がラビの口からもれた。
『ん~…じゃあ、ブックマンが服を持って来てくれるまでね』
そう言って嬉しそうに笑ったアイリーンは、再びギュッと二人を抱き締めた。
「俺、今日は殴られ過ぎさ」
「テメェが悪いんだろ」
「セクハラは犯罪ですよ、ラビ」
「ま、今が幸せだから良いさ!」
「…ラビ、また神田とアレンに殴られるぞ」
アイリーンに擦り寄るラビに、マリは困った様にそう言った。
「神田、ラビ!服持って来たよ~」
「おい、終わりだアイリーン」
『聞こえな~い』
「俺も聞こえないさ~」
「はっ倒すぞ」
「埋めますよ」
「スミマセン」
三人のやり取りを聞いてアイリーンはクスクス笑った。
本当に…この子達は兄弟みたいで可愛いな…
「…アイリーン」
『はいはい』
ユウに名を呼ばれ、アイリーンはそっと手を離して両手を軽く上げた。
私の膝から飛び降りて服を受け取った二人は、そのまま着替えに行ってしまい、私の癒しの時間は終わりを迎えた。
少ない時間だったが満喫出来たから良しとしよう。
『さて、再開しようか』
「そうだな、ウサギさん」
そう言って差し出された手を取り立ち上がる。
『紳士的ね、リーバー…でもそんな事言うと私の影で貴方を黒兎にしちゃうわよ』
「遠慮しとく」
瞬間、また硝子が割れる音と共に煙が上がり、アイリーンはリーバーに握られていた手をギュッと握り返してニッコリと微笑んだ。
『薬…まだあるの?』
「いや、あの…」
『あるのね』
「いやでも、所詮俺等ごときが作るもんだしそんな常識はずれなの作んないよ」
「充分、はずれてんだよ」
ユウの言う通りだ。
髪が伸びる薬と若返りの薬は兎も角…兎の耳が生える薬なんて何に使うんだろうか?
少し離れた所でブックマンとリナリーが“ニャーニャー”言っているが…あれも使い道が分からない。
『危険な物は無いのね?』
「劇薬とかあったらヤバイですよ」
「コムイ室長のみたいな」
「あるの?」
ジョニーはアハハと楽しそうに笑いながら話したが、アレンに詰め寄られると顔色を青く染めた。
「い、いや、でも、ホント危険なのはちゃんと室長から取り上げて、倉庫に隠してあるから」
ジョニーが言い切る前に、照明がフッと落ちた。
「停電か?」
一斉に片付けをしてるからブレーカーが落ちたのかしら?
…でも今は研究機材を殆ど動かしてない。
電力が足りないだなんて事、無い筈だけど…何かトラブルが…?
『リーバー、私と一緒に…』
“配電室に行きましょう”そう言おうとした瞬間“ヒヒヒヒヒ…”と誰かが笑う声が辺りに木霊する様に響いた。
リナリーの手を取ったミランダは恐怖でガチガチ震えている。
「おっおっおっおばけ…ッ?!」
「「まさか」」
「コムイの悪ふざけだろ」
『あら、霊は存在するわよ』
“まさか”と言っていたアレンとラビが固まってしまったが…苦手なのだろうか。
「おかしいぞ…どこからしてるか分からない」
マリの耳でも特定が不能…じゃあ霊の可能性が尚高いな。
『配電室を見てくるわ』
「アイリーン」
『大丈夫よリーバー、何か居たら除霊もしてくるから』
「大丈夫なのか?」
「僕、一緒に行きますよ」
『大丈夫よ、私の本職は陰陽師だし』
「アイリーン、何でも出来るんだな」
『“何でも”じゃないわよ…配電室はどこに?』
「地下…第七倉庫の隣だ」
アイリーンは握りっぱなしだったリーバーの手を離すとニッコリと微笑んだ。
『ちょっとここで待ってて』
ひらひらと小さく手を振ったアイリーンは、科学班室を出て配電室に向かって走り出した。早く電気を点けてあげないとミランダが恐がる。
それにしても…此の世界でも除霊をする事になるなんて…
アイリーンは吹き抜けまで走って行くと、階段を使わずに地下へと飛び降りた。
リーバーに言われた倉庫の近くまで来ると、確かに近く…斜め前の部屋に配電室があった。
御丁寧に扉に“配電室”と書いてあるが、これでは侵入者に親切過ぎる。
アイリーンはやれやれと扉を開くと、溜め息を吐いた。
『困ったな…』
面倒な事になりそうだ──…
『“吸血鬼伝説”』
床にしゃがみ込んだアイリーンは、そう拾い上げた本のタイトルを読み上げた。
クロウリーが吸血鬼だと思われてた時に使った資料かしら?
出しっぱなしにしてるだなんて…まだ古い書類が出てきそうだ。
アイリーンは“吸血鬼伝説”を自分の脇に積み上げた本の山の一番上に置いた。
「アイリーン、本括る紐どこだっけ~!」
そう声を掛けられ、アイリーンは皆がワイワイと騒がしく荷物整理を進める科学班室を見回した。
『あぁ、そこの棚にあるのがそうじゃないかしら、ジョニー』
「ありがと、アイリーン!」
アイリーンが“
アイリーンは軽く手を振り返すと直ぐに次の本を山に積んだ。
「いやホント、アイリーンがクロス元帥に付いて行かないで、本部の引越し手伝ってくれて助かるな」
『私は行く意味が無いもの』
「いんや~俺、絶対にクロス元帥が連れて行くと思ったんさ」
『私が行っても何も出来無いわ。引越しの手伝いも…資料とか良く分からないから本を纏めるしか出来無いんだけど』
「アイリーンが“
『御免なさいね、これ細かい動きさせるには五人が限度なのよ』
「充分だろ!アイリーン一人で六人分働いてるのと一緒なんだから!」
「さっさと手を動かせ、馬鹿者!」
「あ~、はいはい。まったく、パンダは恐ぇさ~」
「お前は向こうの重たい机でも運んどれ!」
楽しそうに笑いながら駆けて行くラビはもうすっかり怪我は治った様だ。
他の子達も…
「アイリーン、それもそろそろ纏めていいだろ、私が結ぼう」
『有難う、ブックマン』
魔法とか使って大丈夫なら直ぐ終わるんだけど…見せるわけにもいかない。
スピードはかなり劣るが、地道に片していくしかないか。
「おい、お前待…ッ!アイリーン、ブックマン!!!」
『ぇ?』
リーバーに名前を呼ばれて振り返ると、丁度瓶が床に落ちる瞬間だった。
ガシャンッという瓶が割れた音…
次の瞬間、私達は煙に包まれた。
=本部壊滅事件=
「だから油断するなって言っただろ!」
困った様な顔をする者、顔色を悪くする者、目をそらす者…色んなタイプが居るが、総じて“あ~ぁ、やっちゃったな”と顔に書いてある科学班の面々をバックに、リーバーが少し困った様にそう言った。
それに直ぐに反論したのはラビとユウだった。
「科学班が変な薬作り過ぎなんさッ!!」
「テメェ等、実は仕事しねぇで遊んでたんじゃねぇのか?」
殺気のこもったユウの言葉に科学班が顔色を悪くする中、ユウの隣でアイリーンは自分の頭に付いたモノを引っ張っていた。
これはまた…肌触りも良いし、可愛いから良いが…
歳を考えると恥ずかしい。
「アイリーンが可愛いのは許すけどな!!!」
“そこはお前等良くやった!”と親指を立てて言うラビに、科学班の面々は誇らしげにグッと親指を立てた。
「阿呆かテメェ等!!」
“下らない”と怒って声を荒げるユウを宥めながら頭を撫でたらキッと睨まれてしまった。
慌ててユウを撫でてた右手を左手でギュッと包む様に握って制する。
「ほら~!ユウが睨むからアイリーンのウサ耳が垂れちゃったさ!まあ、それも可愛いけど!!」
『いや、それは…恥ずかしいな…この歳になって兎の耳だなんて…』
割れた瓶の煙を浴びて…気が付いたら頭に兎の耳が生えていた。
予告も無しにこんなモノを生やすなんて、とんだ辱めだ。
まあ、瓶を割ってしまったのはわざとじゃ無い様だから仕方無いけど…
「何言ってるんですかアイリーン、とっても可愛らしいですよ」
「アレンの言う通り!抜群に似合うじゃんか~!銀髪に緋眼、完璧な白ウサギさんだぜ」
アレンとラビにそう言われて“ありがとう”と微笑んだアイリーンは、ふとラビとユウを見据えた。
今の二人はいつもの二人じゃない。
同じく違う瓶の煙を浴びたらブックマン並のちびっ子サイズに…って…駄目だ……もう我慢出来無い…
『ッ…!』
アイリーンは硬く握り締めていた手を離すと、二人をギュッと抱き締めた。
『二人共、すっごく可愛い!』
こんな可愛いモノを前に我慢しろと言うのが無理なんだ。
何て愛らしいんだろう…!
「アイリーンも可愛いさ~!あ、でもアイリーンはセクシーなバニーさんの格好の方が似合いそうだけど」
「お前、その煩悩どうにかならねぇのか?」
「アイリーン、離した方が良いですよ」
『ん~ん、アレン…私、このままが良いわ』
アイリーンは小さな二人を抱き締めたまま目を閉じた。
はぁ~…可愛くて仕方無い。
「服どうしようか?」
「ブックマンので良いんじゃないか?」
リナリーの問いにマリが良い案を出したが、ブックマンは…今落ち込んでるから無理だと思うなぁ…
隣に座ったブックマンは、泣きながら頭に生えた兎の耳を掴んでいる。
無理も無い話だった。
あの煙が晴れたら、大切にしていた髪が兎の耳に変わっていたのだから。
「ワシの…ワシの髪がウサ耳に…」
泣いてるブックマンを見て、少し“良かった”なんて思ってしまった。
私には何故か髪が残ってる…兎の耳が生えたくらいでなんだ。
髪が消えて兎の耳だけにならなくて良かった。
「な~んで、こんな事になったんかね」
「……髪の一部が耳になったんじゃねぇのか」
ユウの言葉に、ラビは思わずブッと噴出した。
「髪が少ねぇから全部なくなったんか!」
アイリーンは自分の膝の上に座ってゲラゲラ笑っているラビの頭にそっと手を置いた。
『ラビ、失礼よ……ブックマン、時間が経てば戻るみたいだから…』
「ワシの…髪…」
『少し我慢して…二人に服を貸してあげてくれないかしら』
ぐずぐずと泣きながらソファーから飛び降りて部屋に向かって歩き出したブックマンをリナリーが“手伝う”と言って追い掛けて行った。
「おい、アイリーン」
『なぁに?』
「いつまで抱いてる気だ」
「俺はいつまででも抱いてて良いさ!」
ラビがそう言った瞬間、ユウは凄い勢いでラビの顔面をグーで殴った。
“グフォッ”と痛々しい奇妙な声がラビの口からもれた。
『ん~…じゃあ、ブックマンが服を持って来てくれるまでね』
そう言って嬉しそうに笑ったアイリーンは、再びギュッと二人を抱き締めた。
「俺、今日は殴られ過ぎさ」
「テメェが悪いんだろ」
「セクハラは犯罪ですよ、ラビ」
「ま、今が幸せだから良いさ!」
「…ラビ、また神田とアレンに殴られるぞ」
アイリーンに擦り寄るラビに、マリは困った様にそう言った。
「神田、ラビ!服持って来たよ~」
「おい、終わりだアイリーン」
『聞こえな~い』
「俺も聞こえないさ~」
「はっ倒すぞ」
「埋めますよ」
「スミマセン」
三人のやり取りを聞いてアイリーンはクスクス笑った。
本当に…この子達は兄弟みたいで可愛いな…
「…アイリーン」
『はいはい』
ユウに名を呼ばれ、アイリーンはそっと手を離して両手を軽く上げた。
私の膝から飛び降りて服を受け取った二人は、そのまま着替えに行ってしまい、私の癒しの時間は終わりを迎えた。
少ない時間だったが満喫出来たから良しとしよう。
『さて、再開しようか』
「そうだな、ウサギさん」
そう言って差し出された手を取り立ち上がる。
『紳士的ね、リーバー…でもそんな事言うと私の影で貴方を黒兎にしちゃうわよ』
「遠慮しとく」
瞬間、また硝子が割れる音と共に煙が上がり、アイリーンはリーバーに握られていた手をギュッと握り返してニッコリと微笑んだ。
『薬…まだあるの?』
「いや、あの…」
『あるのね』
「いやでも、所詮俺等ごときが作るもんだしそんな常識はずれなの作んないよ」
「充分、はずれてんだよ」
ユウの言う通りだ。
髪が伸びる薬と若返りの薬は兎も角…兎の耳が生える薬なんて何に使うんだろうか?
少し離れた所でブックマンとリナリーが“ニャーニャー”言っているが…あれも使い道が分からない。
『危険な物は無いのね?』
「劇薬とかあったらヤバイですよ」
「コムイ室長のみたいな」
「あるの?」
ジョニーはアハハと楽しそうに笑いながら話したが、アレンに詰め寄られると顔色を青く染めた。
「い、いや、でも、ホント危険なのはちゃんと室長から取り上げて、倉庫に隠してあるから」
ジョニーが言い切る前に、照明がフッと落ちた。
「停電か?」
一斉に片付けをしてるからブレーカーが落ちたのかしら?
…でも今は研究機材を殆ど動かしてない。
電力が足りないだなんて事、無い筈だけど…何かトラブルが…?
『リーバー、私と一緒に…』
“配電室に行きましょう”そう言おうとした瞬間“ヒヒヒヒヒ…”と誰かが笑う声が辺りに木霊する様に響いた。
リナリーの手を取ったミランダは恐怖でガチガチ震えている。
「おっおっおっおばけ…ッ?!」
「「まさか」」
「コムイの悪ふざけだろ」
『あら、霊は存在するわよ』
“まさか”と言っていたアレンとラビが固まってしまったが…苦手なのだろうか。
「おかしいぞ…どこからしてるか分からない」
マリの耳でも特定が不能…じゃあ霊の可能性が尚高いな。
『配電室を見てくるわ』
「アイリーン」
『大丈夫よリーバー、何か居たら除霊もしてくるから』
「大丈夫なのか?」
「僕、一緒に行きますよ」
『大丈夫よ、私の本職は陰陽師だし』
「アイリーン、何でも出来るんだな」
『“何でも”じゃないわよ…配電室はどこに?』
「地下…第七倉庫の隣だ」
アイリーンは握りっぱなしだったリーバーの手を離すとニッコリと微笑んだ。
『ちょっとここで待ってて』
ひらひらと小さく手を振ったアイリーンは、科学班室を出て配電室に向かって走り出した。早く電気を点けてあげないとミランダが恐がる。
それにしても…此の世界でも除霊をする事になるなんて…
アイリーンは吹き抜けまで走って行くと、階段を使わずに地下へと飛び降りた。
リーバーに言われた倉庫の近くまで来ると、確かに近く…斜め前の部屋に配電室があった。
御丁寧に扉に“配電室”と書いてあるが、これでは侵入者に親切過ぎる。
アイリーンはやれやれと扉を開くと、溜め息を吐いた。
『困ったな…』
面倒な事になりそうだ──…