第4章 最後の元帥
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「ミランダ…」
マリに耳元でそう名前を囁かれて、力を使い過ぎて気を失い掛けていたミランダは顔を上げた。
「ぁ…」
「ミランダ…」
自分がつくり出した結界の外には、何体もの…女性の形をした黒い塊が中の様子を窺う様に集まっていた。
「アレを見るんだ」
「…?」
「少し見え難いと思うが…あそこだ」
マリの指差す先を見て、ミランダは目を見開いてイノセンスを解除した。
「よかった…無事だったのね」
雨の様に降り注ぐ水を浴びながら歌うアイリーンの姿が遠くに小さく見えた。
雨音の中、微かに聴こえるその歌は…
「きれいね…」
=新たな一歩=
『バク、リーバー!!!』
雨の様に降り注いでいた水が止んだ瓦礫と水溜りだらけの第五研究所を駆け抜けたアイリーンは、そう言って床に座り込む傷だらけのバクとリーバーに抱き付いた。
『良かった…貴方達さっき意識が無かったから』
「痛たたたたたたたた」
「馬鹿者、締め過ぎだアイリーン!」
バクにそう一喝され、アイリーンは慌てて二人から離れた。
『御免なさい…』
弱々しい二人の声…バクの怒鳴り声にもいつもの様な覇気は無かった。二人共身体中ボロボロだ。
一方自分達から離れたアイリーンを見て、二人は目を見開いた。
「アイリーン、それどうしたんだ」
「お前もあちこち傷だらけではないか」
『あぁ、これは…』
「レベル4と戦って攻撃を食らったんだ」
『……ラビ…』
振り返った先に居たのはラビだった。
完全に回復したわけでは無いのに無茶して…
「皆がやられた事に腹立てて、レベル4を痛め付けて…その時にわざと受けたんさ」
「わざと?!」
「何を考えてるんだ貴様は!!」
『ラビ、何でわざわざ…』
「俺、怒ってるって言っただろ?」
ラビの言葉に、アイリーンは困った様に眉を寄せた。
『私はどうしてもあのこを苦しめたかった。あの子の魂には申し訳無い事をしたが…お前達を傷付けられて酷く腹が立ったんだ…だから嬲り壊す事にした』
私はいつも我慢が出来無い。
どうしても手を出してしまう…
『その過程で、あのこを嬲り壊す醜い私をあのこの手で殴らせただけさ』
そして出した後で後悔するんだ。
私が関わった事によって優しい子が傷付いたと感じたら、もっともっと…
『殺生は嫌いだ。だから仕方無い事とはいえ、アクマを壊すのも正直気分が悪い…奴等は自我があるからな』
元々嫌いだし、私は沢山の命を奪ってきた。
その魂と記憶が私を今もキツク締め付ける様に縛るから…尚、嫌いだ。でも…
『嫌いだ等と言いながら私は、あのこを壊すだけでは飽き足らず、恐怖を与え痛め付けた。そんな醜い私だからこそ…殴らせた』
“それが当然だ”と言うアイリーンの頬にバクはそっと触れた。
『バク…?』
そして次の瞬間、パチンとその頬を軽く叩いた。
酷く弱々しい音だった。
「お前が傷付いたら僕達は悲しい。それを第一に考えろ、アイリーン」
アイリーンは困った様にでもどこか嬉しそうに笑った。
『今日は良く叩かれる日ね』
優しい人達…
出逢ったばかりの…身元も分からない私に…
「アイリーン元帥、ちょっといいですか」
そう科学班に声を掛けられて連れて行かれたのは、先程まで方舟のゲートがあった所だった。
そこには守化縷がジョニーに抱き抱えられて床に横になっていた。
「なおせますでしょうか…」
『…タップか』
「アイリーン…お願い助゙けて!!」
『……』
「アイリーン…」
『…済まない…タップ』
「しょうがない…貴女にだって出来無い事はあるさ」
「何で…何で?!!アイリーンは僕の傷を治してくれたじゃないか!!」
「ジョニー!!」
確かにジョニーの傷は治した。
でもタップは…どうしてこうなったか分からない状態で手を施すのは危険な事だし、これが術だとしても術式を調べるのに時間が掛かる……恐らくそれまでタップはもたない…
それどころかあと少しで…
『タップ、力を抜いて…』
そう言ってタップの頬を一撫でしたアイリーンは、立ち上がると謳い始めた。
アイリーンの影が丸く広がり、詩に合わせる様に影から出た茨がタップを優しく包む。
「俺…今、生きられるんだったら…」
“残業でもいいや”と笑って言った瞬間、タップは砂となって崩れ去った。
自分の指の間をすり抜けてゆくそれを見て、ジョニーは泣き崩れた。
「アイリーン元帥…」
『大丈夫よ』
「辛い役回りをさせてしまい…済みません」
『……大丈夫よ』
“きっと私が適役だった”と小さく口にしたアイリーンは、担架に乗せられるバク達の近くに立っていたコムイに歩み寄った。
「アイリーン元帥、お疲れ様でした」
『まだよ』
「アイリーン…」
『私なら医療班の手伝いが出来るもの』
まだ力は残ってる。
なら使えべきだ。
『ここは崩れる危険がある…食堂に移動しましょう。……こう言ってはあれだけど“順番”はあるかしら』
「ノアが攻めて来る可能性が無いとも言えません。重傷者とエクソシストを優先して下さい」
当然といえば当然の判断だろう。
『重傷者とエクソシストを談話室へ、軽傷者とその他の人を食堂に運んで…重傷者とエクソシストは急を要するから私が診て治癒するわ』
「直ぐに医療班を振り分けます」
“それと”とアイリーンはコムイに聞える程度に声のトーンを抑えた。
『イノセンスを使った様に見せるから、術の事は口にしない事』
私がエクソシストとして以外の力を使える事を知っているのは、クラウドとソカロ以外のエクソシスト全員とバク、レニー、ジョニー……それとコムイかしら。
下手に広がると面倒な事になるしな。
『そうだ…対アクマ武器を直す要員も欲しいわよね』
そう言って担架に寝たリーバーの頬に触れたアイリーンを見て、ラビは顔色を青く染めた。
「アイリーン、何を…」
「アイリーン!!!駄目さ、それやったら傷が治ってもクロス元帥に殺されるさ!!」
クロスに殺され…あぁ…
『セクハラだものねぇ…』
「いや、そうじゃなくて」
「え、何?俺、何されるんすか室長?」
「え、キス」
「あぁ、キス……キスぅ?!!」
思わず担架から起き上がりそうになったリーバーの隣でバクの全身に蕁麻疹が浮かび上がり、アイリーンは“あらあら”と楽しそうに笑った。
「神田くん、二回も奪われたらしいよ」
「はぁ?!」
『これ楽なんだけどなぁ』
「楽ってだけでやりやがったら殺すぞ」
『あぁ、クロス』
突然現れたクロスが“相手をな”と小さく続けたのを聞くと、ラビは何とも言えない…悲鳴にも似た声を上げて走って行ってしまった。
「ぁ、逃げた」
『ほらほら、移動するわよ!』
「やる事が山済みだ…エクソシストは治療が終わったら片付け手伝ってもらうからね~」
「……」
「クロス元帥サボらないでくださいね」
『大丈夫よ、繋いどくから』
「その前にお前をベッドに縛るぞ」
『馬鹿な事言ってると二度と姿現さないわよ』
そうアイリーンに切り捨てられたクロスを見てニヤニヤと笑っていたコムイの頭をクロスがガンッと殴ったが、アイリーンは構わずパンパンと二度手を叩いた。
『さ、今日は夜まで忙しくなるわ。さっさと始めましょ、室長』
「皆、移動するよ!!」
傷を癒して…
もう一度立て直すんだ──…
「ミランダ…」
マリに耳元でそう名前を囁かれて、力を使い過ぎて気を失い掛けていたミランダは顔を上げた。
「ぁ…」
「ミランダ…」
自分がつくり出した結界の外には、何体もの…女性の形をした黒い塊が中の様子を窺う様に集まっていた。
「アレを見るんだ」
「…?」
「少し見え難いと思うが…あそこだ」
マリの指差す先を見て、ミランダは目を見開いてイノセンスを解除した。
「よかった…無事だったのね」
雨の様に降り注ぐ水を浴びながら歌うアイリーンの姿が遠くに小さく見えた。
雨音の中、微かに聴こえるその歌は…
「きれいね…」
=新たな一歩=
『バク、リーバー!!!』
雨の様に降り注いでいた水が止んだ瓦礫と水溜りだらけの第五研究所を駆け抜けたアイリーンは、そう言って床に座り込む傷だらけのバクとリーバーに抱き付いた。
『良かった…貴方達さっき意識が無かったから』
「痛たたたたたたたた」
「馬鹿者、締め過ぎだアイリーン!」
バクにそう一喝され、アイリーンは慌てて二人から離れた。
『御免なさい…』
弱々しい二人の声…バクの怒鳴り声にもいつもの様な覇気は無かった。二人共身体中ボロボロだ。
一方自分達から離れたアイリーンを見て、二人は目を見開いた。
「アイリーン、それどうしたんだ」
「お前もあちこち傷だらけではないか」
『あぁ、これは…』
「レベル4と戦って攻撃を食らったんだ」
『……ラビ…』
振り返った先に居たのはラビだった。
完全に回復したわけでは無いのに無茶して…
「皆がやられた事に腹立てて、レベル4を痛め付けて…その時にわざと受けたんさ」
「わざと?!」
「何を考えてるんだ貴様は!!」
『ラビ、何でわざわざ…』
「俺、怒ってるって言っただろ?」
ラビの言葉に、アイリーンは困った様に眉を寄せた。
『私はどうしてもあのこを苦しめたかった。あの子の魂には申し訳無い事をしたが…お前達を傷付けられて酷く腹が立ったんだ…だから嬲り壊す事にした』
私はいつも我慢が出来無い。
どうしても手を出してしまう…
『その過程で、あのこを嬲り壊す醜い私をあのこの手で殴らせただけさ』
そして出した後で後悔するんだ。
私が関わった事によって優しい子が傷付いたと感じたら、もっともっと…
『殺生は嫌いだ。だから仕方無い事とはいえ、アクマを壊すのも正直気分が悪い…奴等は自我があるからな』
元々嫌いだし、私は沢山の命を奪ってきた。
その魂と記憶が私を今もキツク締め付ける様に縛るから…尚、嫌いだ。でも…
『嫌いだ等と言いながら私は、あのこを壊すだけでは飽き足らず、恐怖を与え痛め付けた。そんな醜い私だからこそ…殴らせた』
“それが当然だ”と言うアイリーンの頬にバクはそっと触れた。
『バク…?』
そして次の瞬間、パチンとその頬を軽く叩いた。
酷く弱々しい音だった。
「お前が傷付いたら僕達は悲しい。それを第一に考えろ、アイリーン」
アイリーンは困った様にでもどこか嬉しそうに笑った。
『今日は良く叩かれる日ね』
優しい人達…
出逢ったばかりの…身元も分からない私に…
「アイリーン元帥、ちょっといいですか」
そう科学班に声を掛けられて連れて行かれたのは、先程まで方舟のゲートがあった所だった。
そこには守化縷がジョニーに抱き抱えられて床に横になっていた。
「なおせますでしょうか…」
『…タップか』
「アイリーン…お願い助゙けて!!」
『……』
「アイリーン…」
『…済まない…タップ』
「しょうがない…貴女にだって出来無い事はあるさ」
「何で…何で?!!アイリーンは僕の傷を治してくれたじゃないか!!」
「ジョニー!!」
確かにジョニーの傷は治した。
でもタップは…どうしてこうなったか分からない状態で手を施すのは危険な事だし、これが術だとしても術式を調べるのに時間が掛かる……恐らくそれまでタップはもたない…
それどころかあと少しで…
『タップ、力を抜いて…』
そう言ってタップの頬を一撫でしたアイリーンは、立ち上がると謳い始めた。
アイリーンの影が丸く広がり、詩に合わせる様に影から出た茨がタップを優しく包む。
「俺…今、生きられるんだったら…」
“残業でもいいや”と笑って言った瞬間、タップは砂となって崩れ去った。
自分の指の間をすり抜けてゆくそれを見て、ジョニーは泣き崩れた。
「アイリーン元帥…」
『大丈夫よ』
「辛い役回りをさせてしまい…済みません」
『……大丈夫よ』
“きっと私が適役だった”と小さく口にしたアイリーンは、担架に乗せられるバク達の近くに立っていたコムイに歩み寄った。
「アイリーン元帥、お疲れ様でした」
『まだよ』
「アイリーン…」
『私なら医療班の手伝いが出来るもの』
まだ力は残ってる。
なら使えべきだ。
『ここは崩れる危険がある…食堂に移動しましょう。……こう言ってはあれだけど“順番”はあるかしら』
「ノアが攻めて来る可能性が無いとも言えません。重傷者とエクソシストを優先して下さい」
当然といえば当然の判断だろう。
『重傷者とエクソシストを談話室へ、軽傷者とその他の人を食堂に運んで…重傷者とエクソシストは急を要するから私が診て治癒するわ』
「直ぐに医療班を振り分けます」
“それと”とアイリーンはコムイに聞える程度に声のトーンを抑えた。
『イノセンスを使った様に見せるから、術の事は口にしない事』
私がエクソシストとして以外の力を使える事を知っているのは、クラウドとソカロ以外のエクソシスト全員とバク、レニー、ジョニー……それとコムイかしら。
下手に広がると面倒な事になるしな。
『そうだ…対アクマ武器を直す要員も欲しいわよね』
そう言って担架に寝たリーバーの頬に触れたアイリーンを見て、ラビは顔色を青く染めた。
「アイリーン、何を…」
「アイリーン!!!駄目さ、それやったら傷が治ってもクロス元帥に殺されるさ!!」
クロスに殺され…あぁ…
『セクハラだものねぇ…』
「いや、そうじゃなくて」
「え、何?俺、何されるんすか室長?」
「え、キス」
「あぁ、キス……キスぅ?!!」
思わず担架から起き上がりそうになったリーバーの隣でバクの全身に蕁麻疹が浮かび上がり、アイリーンは“あらあら”と楽しそうに笑った。
「神田くん、二回も奪われたらしいよ」
「はぁ?!」
『これ楽なんだけどなぁ』
「楽ってだけでやりやがったら殺すぞ」
『あぁ、クロス』
突然現れたクロスが“相手をな”と小さく続けたのを聞くと、ラビは何とも言えない…悲鳴にも似た声を上げて走って行ってしまった。
「ぁ、逃げた」
『ほらほら、移動するわよ!』
「やる事が山済みだ…エクソシストは治療が終わったら片付け手伝ってもらうからね~」
「……」
「クロス元帥サボらないでくださいね」
『大丈夫よ、繋いどくから』
「その前にお前をベッドに縛るぞ」
『馬鹿な事言ってると二度と姿現さないわよ』
そうアイリーンに切り捨てられたクロスを見てニヤニヤと笑っていたコムイの頭をクロスがガンッと殴ったが、アイリーンは構わずパンパンと二度手を叩いた。
『さ、今日は夜まで忙しくなるわ。さっさと始めましょ、室長』
「皆、移動するよ!!」
傷を癒して…
もう一度立て直すんだ──…