第4章 最後の元帥
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師匠達、元帥も見当たらない…
下の階と繋がる様にして破壊された、見る影も無くなったラボを飛び出した僕は、漸くそこに辿り着いた。
そして見た…
片腕を肩からごっそりと失ったレベル4が、残された右手で掴んでいたルベリエを蹴り飛ばして手を前へ突き出した。
その先には…
「アイリーン!!!!」
僕の声に反応してピクリと身体を震わせた瞬間、アイリーンは吹き飛ばされた。
ラボを壊した力でアイリーンを飛ばしたのだろう。
神田とラビの叫び声の響く中、下の層に飛び降りてアイリーンの貫いた壁を覗いたが、何枚も壁を突き破り、終わりが分からない程に続いたその穴では、覗くだけではアイリーンの姿を見付ける事は出来無かった。
「アレン、俺が行く!!」
ラビがそう言って穴に飛び込み、僕はレベル4へと向き直った。
「またおまえか、えくそしすと」
「絶対に許さないぞ」
=朝の終わり=
「助けようなんて思うから悪いんだ」
イアンはきっとそう言うだろう。
でもこれは“私が遊んだから”悪いんだ。
こちらからイアンに連絡が取れずとも、イアンは変わらず此の世界を見ているかもしれない。
あの人が完全にキレてしまう前に、最低でもレベル4を倒せるだけ動ける事を示さないと…もう此の世界に来れない様にされてしまう。
「アイリーン、アイリーン!!!」
そう名を呼ばれて、すっと閉じていた目を開いたアイリーンは、ラビを確認すると口を開いた。
『…問題無いわ』
「そうは見えないさ」
『血が出てるだけよ…先、に行って…皆を助けてあげて…私も直ぐ行くわ』
アイリーンが瓦礫の山に横たわりながらそう言ってラビを押すと、ラビは大人しく立ち上がって来た方へ向かって歩き出した。
何か言いたそうだったが、今は聞いている時間等無い。
『ラビ』
呼び止めた声は思ったよりも随分小さかったが、ラビに届いた様だ。
「…何さ」
『無茶しちゃ駄目よ』
「そっくりそのままアイリーンに返すよ」
そう言って振り返ったラビの表情が古い友人に良く似ていて嫌気がさした。
「そんなボロボロになって…」
『ラ…』
「俺、結構怒ってんだ」
自分から離れ、戦場に戻って行くラビの足音を聞きながら、アイリーンは小さく息を吐いた。
『いやね、もう…』
皆を傷付けられて腹が立った。
沢山の人を殺したアクマに、忌々しい記憶が重なって吐き気がした。
血塗れの皆を見たら頭の中が真っ白になった。
だから苦しめてから壊そうとした。じわじわと…
自分が人間に与えたモノを味わえる様にじわじわじわじわと…
でもそれが間違っていたのかしら?
さっき一瞬聞こえた声からして今、あそこではアレンが戦っている。
ラビやユウ達もきっと…
『こんなつもりじゃ無かったのに』
どれだけ時が経っても、私はいつもこうだ…
『馬鹿みたいね』
もう無理だ…少しそう思った。
掌からのエネルギー砲…さっきアイリーンが撃たれた攻撃を受けきれずにいると、ラビと…信じられない事に、神田までもが支えてくれた。
しかし、三人で踏ん張っても相殺するのは勿論、受けきる事さえ出来ず、僕らは吹き飛んだ。
レベル4の力なんだろう…頭を掴む事無く持ち上げられてうっすらと目を開くと、そこにはやっぱりレベル4がいた。
もうイノセンスを使って無理矢理身体を動かす事も無理か…
そう考えた瞬間、目の前の違和感に気付いた。
レベル4は何かを見て動きを止めていた。
「なんだ、あれは…」
そう小さく口にしたレベル4の視線を追ったアレンは“それ”を見て目を見開いた。
アイリーンの身体が貫いた深い横穴から、うねうねと動く黒い闇が溢れていたからだった。
あれは…
「……常闇ノ…調…?」
それ以外に思い付くものが無かった。
しかしあれは、さっきラボで戦っていたアイリーンの影とは明らかに違う動きをしている。
気持ち悪いくらいに静かになった辺りに、コツコツコツコツとヒールの音だけが響いていた。
「あのおんな、まさか…」
徐々に近付くヒール音が止んだ瞬間、穴から顔を出したのはさっきまでのアイリーンじゃなかった。
緩く巻かれた長い黒髪に黒いドレス、石造りの黒いチョーカーと赤い唇。
全身を黒い茨の痣が這うその姿は…
「永久ノ魔女…」
イノセンスを纏って横穴から出た瞬間、目の前の光景に…やっぱり自分がした事を少し後悔してしまったし、やっぱり酷く腹が立ってレベル4を苦しめたくなってしまった。
地を蹴ったアイリーンが一瞬でレベル4の背後に立つと、その首を右手で鷲掴みにしたと同時に新しいイノセンスを身に付けたリナリーが突き出されたままのレベル4の腕へと着地した。
『リナリー』
アイリーンがそう口にした瞬間、リナリーがアレンを抱いて飛び上がり、アイリーンはレベル4を振り上げる様に持ち上げて、床に叩き付けた。
「ガ…ッ!!」
もう誰も傷付けたく無い。
私が遊んだ所為にラビ達は無駄に傷付いた。
リナリーはもう一度エクソシストになった。
でも…
『ラビにも怒られちゃったし…もう一発も殴らせ無いわよ』
感情の無い…人形の様にニコッ笑ったアイリーンは、目を開くとその冷たい瞳で地に伏せる形でアイリーンに足蹴にされているレベル4を見下ろした。
『一方的に襲ってあげる』
アイリーンは、レベル4を踏み付けていた足をその身体の下に滑り込ませると高く蹴り上げた。
蹴っては飛び上がり、空中でまた蹴っては術で飛び上がる。
数回繰り返して今度はアイリーンは、レベル4を連続で攻撃し出した。
宣言通り一方的に。
レベル4にやり返したり逃げ出す隙さえも与えずに、ひたすら殴り…蹴りまくる。
少しでもレベル4との距離を開くと直ぐにアレンとリナリーが加勢してレベル4を攻撃しだしたので、二人の間を縫って体当たりをする様に、二人からレベル4を突き放した。
「ッ…!ど…ういう、つもりだ!!」
殴られながら良く喋れるものだ。
『貴方は私が少し嬲ってから優しく壊して上げるわ』
喋れるという事は、まだ足りないという事だろう。
『もう少し苦しみなさい』
そう言って両腕を張って少し突き放すと、ドレスから伸びた何本もの漆黒の茨がレベル4を貫いた。
そこから引き抜く為に蹴り飛ばすと、少し逃げる素振りを見せたので、逃がさぬ様に優しく茨で絡めとった。
『逃がすわけ無いでしょう?』
吸い寄せられる様に茨が縮み、徐々に距離が埋まる。
『でも最後に少し遊んであげる』
クスリと笑ったアイリーンは、鞭の様に茨を操ってレベル4を高く放り投げると、近くの連絡通路の着地した。
足元から影が広がり、ふわっと長い黒髪が浮いた瞬間、何匹もの影の狼がグルルル唸りながら浮かび上がった。
『逝‥』
「アイリーン」
瞬間、そう声を掛けられて後ろから抱き締められた。
鮮やかな緋色が肩口に広がる。
『……クロス?』
少し泣きそうになって、慌ててレベル4と戦うアレンとリナリーに加勢する為に、驚いて解けかけた狼達を生成し直した。
「あいつ等に任せろ」
『でも…!』
あの子達がこれ以上怪我をしたら…
「もうそんな顔をしなくて良い。俺もいる…大丈夫だ」
『……』
「そうだろ?」
『そう…ね…』
レベル4は、アレンの大剣に貫かれて、地面に縫い付けられている。
クロスが居ればもう…
「撤退は中止だ、コムイ」
《クロス元帥?!》
クロスの無線機から聞こえる“本当か”問うコムイの驚いた声に、思わず笑みが浮かんだ。
離されたアイリーンは、クロスに向き合うと、そっとクロスの頬に触れた。
『良かった…生きてたのね』
「何だ、死んだと思ったのか?」
『人間だもの。何があるか分からないわ』
「俺が死ぬわけないだろう」
はっと鼻で笑った後にニヤリと口角を上げたクロスにそう言われて、思わず声を出して笑ってしまった。
『えぇ、そうね』
「…今の…聞こえてたか?」
『勿論』
クロスの無線から小さく聞こえたリーバーのコムイへのSOS…リーバー達は生きている。
火の中…ミランダの力で…
「行ってやれ。お前が消火した方が早い」
そう言われて銀髪に戻ったアイリーンは、連絡通路の手摺りを足場に飛び上がり、コムイの隣へ着地した。
「…やぁ、アイリーン」
コムイの表情は硬く、少し困惑している様にも見えた。
『……私が恐い?』
「いや…そんな事は無いよ。君は皆の為に戦ってくれた」
そんな綺麗な事を言われては困る。
『クロスが居ればここは大丈夫よ。私は消火の方に手を貸すわ』
「分かった。…クロス元帥、聞こえますか?」
私はレイの所から帰ってきてから“皆を救う為”には闘っていなかった。
《何だ》
私は…
「私はアイリーン元帥と上に戻ります。アレン、リナリーと目標の撃破…頼めますか?」
唯、腹が立ったから力を振り翳しただけだ。
《…言われるまでもない》
皆の為にだなんて言葉を向けてもらう必要は無いし、そもそも資格も無い。
《行っていいぜ“室長”》
クロスの言葉に小さく息をついたコムイは、手摺りに手を付くと、声を張り上げた。
「神田くん!ラビ、大丈夫か?!」
「もぉ、動けねぇ~」
疲れ切ったラビの気の抜けた…弱々しい声が聞こえた。
『コムイちょっと待ってて、応急処置してくるわ』
そう言ってラビ達の元に向かうべく飛び上がったアイリーンに“あぁ”と返事をして、コムイはまた直ぐに声を張り上げた。
「すまない、武器のないキミ達を戦わせて…!」
「はぁ?テメェに謝られる筋合いはねぇ、アクマと戦 んのが俺の仕事だ」
ボロボロの身体を壁に預けて座り、荒く息を吐くユウの言葉を着地をしながら聞いた私は、思わず笑ってしまった。
『フフ、かっこい~♪』
「ユウってばマジ男前~」
嬉しそうに笑ったアイリーンは、ユウの前に膝を折って座ると、ユウの頬を包む様に両手を添えた。
「…お前、まさかまた」
『御免ね』
困った様に笑ったアイリーンは、先程そうした様にユウに口付けた。
そして少しして唇を離すと、今度はラビの額に口付けた。
「…また俺はデコさ」
そう不服そうに呟いたラビは、アイリーン越しに見えたクロスに気付くと、顔色を真っ青に染めた。
『じゃあ、私はコムイと行くから…気を付けてね』
ラビの頭を優しく撫でたアイリーンがコムイの元へと飛び移り、ラビは小さく呟いた。
「ユウ…」
「あ?」
「俺ら…後で殺されるな」
「…あぁ」
「ったく…」
小さく手を振ってコムイを連れて影へと沈んで行ったアイリーンを見送ったクロスは“あの餓鬼二匹…後で殺す”そう呟きながら対アクマ武器である“断罪者 ”に手を掛けた。
「あまいね。このぼくが、このくらいでこわされるわけないでしょうッ」
「いいや、お前はブッ壊されんだよ」
腹にブッ刺さったアレンの大剣を自力で抜いただけで何だ。
頭潰してねぇんだから完璧に壊れただなんて思っちゃいねぇよ。
「理由を教えてやろうか」
そう言って断罪者を構えたクロスは、レベル4の間合いまで一瞬で寄ると、弾を撃ち込んだ。
「あまく…みられたものですね…ッ!」
レベル4は手で止める様に弾を抑えると、弾き返した。
馬鹿にした様な顔が腹立たしい。
まぁ、馬鹿は俺じゃないが…
「見えたのは一発だけか?」
自分の全身に開いた穴に血が溢れてから気付くなんて馬鹿な話だ。
「…うそ」
全身が歪に膨れ上がって苦しむ様…何て醜くて汚い…
しかしコイツにはコレがお似合いだ。
「おっとそうだ、理由だったな」
俺は美しいものが好きだ。
「俺の女に手を出したからだ」
コイツは俺の一番大事なそれを汚した…
傷だらけの身体、腫れた頬、血の滲んだ唇、額に溢れた……赤…
「アイツの事だ。わざとお前の攻撃を受けたんだろうが、関係無い」
アイツにも仕置きは必要だが…
「罰を受けんのはテメェだ」
《コムイだ》
《各班次の指示に直ちに取り掛かってほしい》
《これから第五研究室及び本部内の負傷者救助を行う》
《レベル4は撃破された》
長い朝は終わったよ──…
師匠達、元帥も見当たらない…
下の階と繋がる様にして破壊された、見る影も無くなったラボを飛び出した僕は、漸くそこに辿り着いた。
そして見た…
片腕を肩からごっそりと失ったレベル4が、残された右手で掴んでいたルベリエを蹴り飛ばして手を前へ突き出した。
その先には…
「アイリーン!!!!」
僕の声に反応してピクリと身体を震わせた瞬間、アイリーンは吹き飛ばされた。
ラボを壊した力でアイリーンを飛ばしたのだろう。
神田とラビの叫び声の響く中、下の層に飛び降りてアイリーンの貫いた壁を覗いたが、何枚も壁を突き破り、終わりが分からない程に続いたその穴では、覗くだけではアイリーンの姿を見付ける事は出来無かった。
「アレン、俺が行く!!」
ラビがそう言って穴に飛び込み、僕はレベル4へと向き直った。
「またおまえか、えくそしすと」
「絶対に許さないぞ」
=朝の終わり=
「助けようなんて思うから悪いんだ」
イアンはきっとそう言うだろう。
でもこれは“私が遊んだから”悪いんだ。
こちらからイアンに連絡が取れずとも、イアンは変わらず此の世界を見ているかもしれない。
あの人が完全にキレてしまう前に、最低でもレベル4を倒せるだけ動ける事を示さないと…もう此の世界に来れない様にされてしまう。
「アイリーン、アイリーン!!!」
そう名を呼ばれて、すっと閉じていた目を開いたアイリーンは、ラビを確認すると口を開いた。
『…問題無いわ』
「そうは見えないさ」
『血が出てるだけよ…先、に行って…皆を助けてあげて…私も直ぐ行くわ』
アイリーンが瓦礫の山に横たわりながらそう言ってラビを押すと、ラビは大人しく立ち上がって来た方へ向かって歩き出した。
何か言いたそうだったが、今は聞いている時間等無い。
『ラビ』
呼び止めた声は思ったよりも随分小さかったが、ラビに届いた様だ。
「…何さ」
『無茶しちゃ駄目よ』
「そっくりそのままアイリーンに返すよ」
そう言って振り返ったラビの表情が古い友人に良く似ていて嫌気がさした。
「そんなボロボロになって…」
『ラ…』
「俺、結構怒ってんだ」
自分から離れ、戦場に戻って行くラビの足音を聞きながら、アイリーンは小さく息を吐いた。
『いやね、もう…』
皆を傷付けられて腹が立った。
沢山の人を殺したアクマに、忌々しい記憶が重なって吐き気がした。
血塗れの皆を見たら頭の中が真っ白になった。
だから苦しめてから壊そうとした。じわじわと…
自分が人間に与えたモノを味わえる様にじわじわじわじわと…
でもそれが間違っていたのかしら?
さっき一瞬聞こえた声からして今、あそこではアレンが戦っている。
ラビやユウ達もきっと…
『こんなつもりじゃ無かったのに』
どれだけ時が経っても、私はいつもこうだ…
『馬鹿みたいね』
もう無理だ…少しそう思った。
掌からのエネルギー砲…さっきアイリーンが撃たれた攻撃を受けきれずにいると、ラビと…信じられない事に、神田までもが支えてくれた。
しかし、三人で踏ん張っても相殺するのは勿論、受けきる事さえ出来ず、僕らは吹き飛んだ。
レベル4の力なんだろう…頭を掴む事無く持ち上げられてうっすらと目を開くと、そこにはやっぱりレベル4がいた。
もうイノセンスを使って無理矢理身体を動かす事も無理か…
そう考えた瞬間、目の前の違和感に気付いた。
レベル4は何かを見て動きを止めていた。
「なんだ、あれは…」
そう小さく口にしたレベル4の視線を追ったアレンは“それ”を見て目を見開いた。
アイリーンの身体が貫いた深い横穴から、うねうねと動く黒い闇が溢れていたからだった。
あれは…
「……常闇ノ…調…?」
それ以外に思い付くものが無かった。
しかしあれは、さっきラボで戦っていたアイリーンの影とは明らかに違う動きをしている。
気持ち悪いくらいに静かになった辺りに、コツコツコツコツとヒールの音だけが響いていた。
「あのおんな、まさか…」
徐々に近付くヒール音が止んだ瞬間、穴から顔を出したのはさっきまでのアイリーンじゃなかった。
緩く巻かれた長い黒髪に黒いドレス、石造りの黒いチョーカーと赤い唇。
全身を黒い茨の痣が這うその姿は…
「永久ノ魔女…」
イノセンスを纏って横穴から出た瞬間、目の前の光景に…やっぱり自分がした事を少し後悔してしまったし、やっぱり酷く腹が立ってレベル4を苦しめたくなってしまった。
地を蹴ったアイリーンが一瞬でレベル4の背後に立つと、その首を右手で鷲掴みにしたと同時に新しいイノセンスを身に付けたリナリーが突き出されたままのレベル4の腕へと着地した。
『リナリー』
アイリーンがそう口にした瞬間、リナリーがアレンを抱いて飛び上がり、アイリーンはレベル4を振り上げる様に持ち上げて、床に叩き付けた。
「ガ…ッ!!」
もう誰も傷付けたく無い。
私が遊んだ所為にラビ達は無駄に傷付いた。
リナリーはもう一度エクソシストになった。
でも…
『ラビにも怒られちゃったし…もう一発も殴らせ無いわよ』
感情の無い…人形の様にニコッ笑ったアイリーンは、目を開くとその冷たい瞳で地に伏せる形でアイリーンに足蹴にされているレベル4を見下ろした。
『一方的に襲ってあげる』
アイリーンは、レベル4を踏み付けていた足をその身体の下に滑り込ませると高く蹴り上げた。
蹴っては飛び上がり、空中でまた蹴っては術で飛び上がる。
数回繰り返して今度はアイリーンは、レベル4を連続で攻撃し出した。
宣言通り一方的に。
レベル4にやり返したり逃げ出す隙さえも与えずに、ひたすら殴り…蹴りまくる。
少しでもレベル4との距離を開くと直ぐにアレンとリナリーが加勢してレベル4を攻撃しだしたので、二人の間を縫って体当たりをする様に、二人からレベル4を突き放した。
「ッ…!ど…ういう、つもりだ!!」
殴られながら良く喋れるものだ。
『貴方は私が少し嬲ってから優しく壊して上げるわ』
喋れるという事は、まだ足りないという事だろう。
『もう少し苦しみなさい』
そう言って両腕を張って少し突き放すと、ドレスから伸びた何本もの漆黒の茨がレベル4を貫いた。
そこから引き抜く為に蹴り飛ばすと、少し逃げる素振りを見せたので、逃がさぬ様に優しく茨で絡めとった。
『逃がすわけ無いでしょう?』
吸い寄せられる様に茨が縮み、徐々に距離が埋まる。
『でも最後に少し遊んであげる』
クスリと笑ったアイリーンは、鞭の様に茨を操ってレベル4を高く放り投げると、近くの連絡通路の着地した。
足元から影が広がり、ふわっと長い黒髪が浮いた瞬間、何匹もの影の狼がグルルル唸りながら浮かび上がった。
『逝‥』
「アイリーン」
瞬間、そう声を掛けられて後ろから抱き締められた。
鮮やかな緋色が肩口に広がる。
『……クロス?』
少し泣きそうになって、慌ててレベル4と戦うアレンとリナリーに加勢する為に、驚いて解けかけた狼達を生成し直した。
「あいつ等に任せろ」
『でも…!』
あの子達がこれ以上怪我をしたら…
「もうそんな顔をしなくて良い。俺もいる…大丈夫だ」
『……』
「そうだろ?」
『そう…ね…』
レベル4は、アレンの大剣に貫かれて、地面に縫い付けられている。
クロスが居ればもう…
「撤退は中止だ、コムイ」
《クロス元帥?!》
クロスの無線機から聞こえる“本当か”問うコムイの驚いた声に、思わず笑みが浮かんだ。
離されたアイリーンは、クロスに向き合うと、そっとクロスの頬に触れた。
『良かった…生きてたのね』
「何だ、死んだと思ったのか?」
『人間だもの。何があるか分からないわ』
「俺が死ぬわけないだろう」
はっと鼻で笑った後にニヤリと口角を上げたクロスにそう言われて、思わず声を出して笑ってしまった。
『えぇ、そうね』
「…今の…聞こえてたか?」
『勿論』
クロスの無線から小さく聞こえたリーバーのコムイへのSOS…リーバー達は生きている。
火の中…ミランダの力で…
「行ってやれ。お前が消火した方が早い」
そう言われて銀髪に戻ったアイリーンは、連絡通路の手摺りを足場に飛び上がり、コムイの隣へ着地した。
「…やぁ、アイリーン」
コムイの表情は硬く、少し困惑している様にも見えた。
『……私が恐い?』
「いや…そんな事は無いよ。君は皆の為に戦ってくれた」
そんな綺麗な事を言われては困る。
『クロスが居ればここは大丈夫よ。私は消火の方に手を貸すわ』
「分かった。…クロス元帥、聞こえますか?」
私はレイの所から帰ってきてから“皆を救う為”には闘っていなかった。
《何だ》
私は…
「私はアイリーン元帥と上に戻ります。アレン、リナリーと目標の撃破…頼めますか?」
唯、腹が立ったから力を振り翳しただけだ。
《…言われるまでもない》
皆の為にだなんて言葉を向けてもらう必要は無いし、そもそも資格も無い。
《行っていいぜ“室長”》
クロスの言葉に小さく息をついたコムイは、手摺りに手を付くと、声を張り上げた。
「神田くん!ラビ、大丈夫か?!」
「もぉ、動けねぇ~」
疲れ切ったラビの気の抜けた…弱々しい声が聞こえた。
『コムイちょっと待ってて、応急処置してくるわ』
そう言ってラビ達の元に向かうべく飛び上がったアイリーンに“あぁ”と返事をして、コムイはまた直ぐに声を張り上げた。
「すまない、武器のないキミ達を戦わせて…!」
「はぁ?テメェに謝られる筋合いはねぇ、アクマと
ボロボロの身体を壁に預けて座り、荒く息を吐くユウの言葉を着地をしながら聞いた私は、思わず笑ってしまった。
『フフ、かっこい~♪』
「ユウってばマジ男前~」
嬉しそうに笑ったアイリーンは、ユウの前に膝を折って座ると、ユウの頬を包む様に両手を添えた。
「…お前、まさかまた」
『御免ね』
困った様に笑ったアイリーンは、先程そうした様にユウに口付けた。
そして少しして唇を離すと、今度はラビの額に口付けた。
「…また俺はデコさ」
そう不服そうに呟いたラビは、アイリーン越しに見えたクロスに気付くと、顔色を真っ青に染めた。
『じゃあ、私はコムイと行くから…気を付けてね』
ラビの頭を優しく撫でたアイリーンがコムイの元へと飛び移り、ラビは小さく呟いた。
「ユウ…」
「あ?」
「俺ら…後で殺されるな」
「…あぁ」
「ったく…」
小さく手を振ってコムイを連れて影へと沈んで行ったアイリーンを見送ったクロスは“あの餓鬼二匹…後で殺す”そう呟きながら対アクマ武器である“
「あまいね。このぼくが、このくらいでこわされるわけないでしょうッ」
「いいや、お前はブッ壊されんだよ」
腹にブッ刺さったアレンの大剣を自力で抜いただけで何だ。
頭潰してねぇんだから完璧に壊れただなんて思っちゃいねぇよ。
「理由を教えてやろうか」
そう言って断罪者を構えたクロスは、レベル4の間合いまで一瞬で寄ると、弾を撃ち込んだ。
「あまく…みられたものですね…ッ!」
レベル4は手で止める様に弾を抑えると、弾き返した。
馬鹿にした様な顔が腹立たしい。
まぁ、馬鹿は俺じゃないが…
「見えたのは一発だけか?」
自分の全身に開いた穴に血が溢れてから気付くなんて馬鹿な話だ。
「…うそ」
全身が歪に膨れ上がって苦しむ様…何て醜くて汚い…
しかしコイツにはコレがお似合いだ。
「おっとそうだ、理由だったな」
俺は美しいものが好きだ。
「俺の女に手を出したからだ」
コイツは俺の一番大事なそれを汚した…
傷だらけの身体、腫れた頬、血の滲んだ唇、額に溢れた……赤…
「アイツの事だ。わざとお前の攻撃を受けたんだろうが、関係無い」
アイツにも仕置きは必要だが…
「罰を受けんのはテメェだ」
《コムイだ》
《各班次の指示に直ちに取り掛かってほしい》
《これから第五研究室及び本部内の負傷者救助を行う》
《レベル4は撃破された》
長い朝は終わったよ──…