第4章 最後の元帥
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『何か御用かしら?』
扉はノックする前に開き、室内から顔を出した着流しを着た女は、扉に寄り掛かりながら妖艶に笑ってそう言った。
「何故分かった」
『あら、ノックなんかしなくても気配で分かるわよ』
「…寝ていたんじゃないのか」
訪ねておいて何だが、こんな早朝に起きているとは思わなかった。
『少し前まで寝てたわよ。面倒事が起きたからちょっとね…』
そう言って眠そうに小さく欠伸をした女…アイリーン・ネイピアは、顔を室内に向けると少しだけ声のトーンを上げた。
『行ってあげなさい、私は大丈夫よ』
室内には誰かが居る様だった。
しかし気配は感じないし、誰かが出て来る様子も無い。
「……出て来ないな」
『もう行ったわよ』
「もう行っただと?」
『出口は目に見えるモノだけではないわ』
眉を寄せた俺を見て、クスリと笑ったアイリーンは、扉に預けていた身体を起こすと“さて…”と着物のあわせを整えた。
『何の用だい、ユウ』
=盗まれた権利=
済みきった空気がおいしい早朝の静かな森には、キンッキンッと金属がぶつかり合う様な音が響いていた。
弾かれた様に急速に正反対に離れた二つの影が、徐々に染まる世界の中を同じ方向に駆け抜けた。
一人はチラチラと上を見上げながら地を、もう一人は木を飛び移る様にして走っている。
瞬間、木の上を駆け抜けるアイリーンの長い銀髪が木の枝に引っ掛かり、表情を歪めたアイリーンは急ブレーキをかけた。
髪が引っ掛かり、立ち止まって、髪を必要な量だけ切り落とす。
そんな一瞬の出来事を見逃さなかったユウは、直ぐに飛び上がるとアイリーンに斬りかかった。
一方アイリーンは、夢幻の太刀筋を蹴りで弾くと、その反動で地に降り、二・三跳ねる様に後ろに飛び退いた。
そして髪を団子に結い上げる。
『危ない危ない…』
手早く髪を結い上げたアイリーンを見て舌打ちをしたユウは、木から飛び降りた。
「何が危ないだ…全然余裕だったじゃねぇか」
『あら、そんな事無いわよ』
アイリーンがパチンッと指を鳴らせば、枝に残った切り落とされた髪が燃えて消えた。
「…どうだか」
『それにしても嬉しいわぁ~、ユウから朝の鍛練の誘いを受けるなんて』
嬉しそうに笑うアイリーンには全然疲れた様子も無く、ユウは不機嫌そうに眉を寄せた。
『運動不足で困ってたのよ。クロスにはソカロ元帥に喧嘩売るなって言われちゃったし』
「売ったのか、喧嘩」
『手合わせしてもらおうかと思って』
どうしようもない時以外…教団内では自室以外で家族を出すつもりは無かった。
私の我が儘にこれ以上の…
「怪我は…もう大丈夫みたいだな」
溜め息を吐いたユウは、そう言いながら静かに夢幻を鞘に納め、ユウの言葉に一瞬固まったアイリーンは、小さく吹き出すと一際嬉しそうに笑った。
『心配してくれたの?』
頬を赤く染めるユウが何とも愛らしいが、怒りそうなので口に出しも、抱き付きもしなかった。
抱き締めて愛でたい…そんなうずうずを必死に我慢する。
『あの時、怪我を負った私を連れ帰った長い蒼髪の男の人がいたでしょう?あの人が綺麗に治してくれたわ』
「アレを堪えるお前もお前だが、あの傷を治すアイツは一体何なんだ」
この質問には困った。
話せばイアンが怒るだろうし、そもそも私はちゃんとした答えを知らない。
イアンがどういう人物で、どういう事が出来るのかという事くらいなら兎も角、その存在についてははっきりと答えられないのだ。
だから私は…
『秘密』
そう言って笑って誤魔化した。
………本当は誤魔化せていない事はユウの表情からして明らかだったが、私は気付かないふりをして話を変えた。
『さぁ、ユウ!私、そろそろ食堂に行かなきゃ行けないから、次の一本で終わりね』
「食堂?こんな早くにか」
『皆にご飯作る約束をしたのよ。ユウにも作るから食べてね』
「アイツ等と飯何か食えるか」
『皆で食べた方が美味しいわよ』
「うるせぇだけだ」
『ならこうしましょ…今から食堂に行って貴方の分だけ先に作るわ』
“それなら良いでしょ?”と言うアイリーンに、ユウは諦めた様に溜め息を吐いた。
「一本終わったらな」
「イアン!」
「お前か…」
来訪者、トールをチラリと見たイアンは、水鏡に映る──に視線を戻しながらそう呟いた。
「イアン…」
「──の奴、遂に教団に姿を現しやがった。アイツに自分から関わった時点でイノセンスに選ばれてたから能力的に問題は無いが…面倒すぎる」
「イアン」
トールの声に反応してトールに目を向けたイアンは、トールの表情を見て眉を寄せた。
「…手帳に手ぇ出した奴が見付かったのか?」
「あぁ」
「誰だ、俺のモノに手を出したのは…」
「イアン…」
「この俺に喧嘩売ったのは、一体どこのクソ馬鹿野郎だ、トール」
苛つく…今直ぐそいつをぶっ殺したい。
溢れた魔力に乗って長い蒼髪の毛先がふわりと宙に浮いた。
「シギュン」
トールの口から出た名前に、イアンは目を見開いた。
あのクソ女…
「何なんだ、あの女は殺されたいのか」
「お前しか見えていないんだ」
運命に縛られて毎度毎度しつこいあの女…野放しにしておくべきじゃ無かったか。
腹ん中が煮えくり返りそうだ。
「俺はアイツなんか見えていない。俺は自分を信じた…予言なんかに左右されない」
怒りにまかせてシギュンの元へ向かうべくカツカツと歩き出したイアンの手を、トールは駆け寄って掴んだ。
「落ち着け!今はシギュンの所に行かず、様子を見るんだ」
「様子見だと?」
「あぁ、もし他に黒幕がいるなら接触があるはずだ」
黒幕…黒幕なんて分かってるさ。
どうやったって…どう考えたって…
「黒幕はお前の親父だろう」
トールの父親であるアイツしか思い当たらない。
「アイツは…直接シギュンに接触はしないだろう」
「……あぁ、分かったあの女に手は出さない。取り敢えず──に連絡を…」
イアンは懐から真っ黒になった本を取り出すと、目を見開いた。
「…………繋がらない…」
どう言う事だ…
繋がらない、入れない、出せない…
「閉じ込められた」
──に直接話し掛ける事も、俺が中に入る事も、中から──を引っ張り出す事も出来無い。
何も…何も…
世界から──を切り離せない…
「ッ…──、──ッ!──…──!!!」
手放すんじゃなかった──…
『何か御用かしら?』
扉はノックする前に開き、室内から顔を出した着流しを着た女は、扉に寄り掛かりながら妖艶に笑ってそう言った。
「何故分かった」
『あら、ノックなんかしなくても気配で分かるわよ』
「…寝ていたんじゃないのか」
訪ねておいて何だが、こんな早朝に起きているとは思わなかった。
『少し前まで寝てたわよ。面倒事が起きたからちょっとね…』
そう言って眠そうに小さく欠伸をした女…アイリーン・ネイピアは、顔を室内に向けると少しだけ声のトーンを上げた。
『行ってあげなさい、私は大丈夫よ』
室内には誰かが居る様だった。
しかし気配は感じないし、誰かが出て来る様子も無い。
「……出て来ないな」
『もう行ったわよ』
「もう行っただと?」
『出口は目に見えるモノだけではないわ』
眉を寄せた俺を見て、クスリと笑ったアイリーンは、扉に預けていた身体を起こすと“さて…”と着物のあわせを整えた。
『何の用だい、ユウ』
=盗まれた権利=
済みきった空気がおいしい早朝の静かな森には、キンッキンッと金属がぶつかり合う様な音が響いていた。
弾かれた様に急速に正反対に離れた二つの影が、徐々に染まる世界の中を同じ方向に駆け抜けた。
一人はチラチラと上を見上げながら地を、もう一人は木を飛び移る様にして走っている。
瞬間、木の上を駆け抜けるアイリーンの長い銀髪が木の枝に引っ掛かり、表情を歪めたアイリーンは急ブレーキをかけた。
髪が引っ掛かり、立ち止まって、髪を必要な量だけ切り落とす。
そんな一瞬の出来事を見逃さなかったユウは、直ぐに飛び上がるとアイリーンに斬りかかった。
一方アイリーンは、夢幻の太刀筋を蹴りで弾くと、その反動で地に降り、二・三跳ねる様に後ろに飛び退いた。
そして髪を団子に結い上げる。
『危ない危ない…』
手早く髪を結い上げたアイリーンを見て舌打ちをしたユウは、木から飛び降りた。
「何が危ないだ…全然余裕だったじゃねぇか」
『あら、そんな事無いわよ』
アイリーンがパチンッと指を鳴らせば、枝に残った切り落とされた髪が燃えて消えた。
「…どうだか」
『それにしても嬉しいわぁ~、ユウから朝の鍛練の誘いを受けるなんて』
嬉しそうに笑うアイリーンには全然疲れた様子も無く、ユウは不機嫌そうに眉を寄せた。
『運動不足で困ってたのよ。クロスにはソカロ元帥に喧嘩売るなって言われちゃったし』
「売ったのか、喧嘩」
『手合わせしてもらおうかと思って』
どうしようもない時以外…教団内では自室以外で家族を出すつもりは無かった。
私の我が儘にこれ以上の…
「怪我は…もう大丈夫みたいだな」
溜め息を吐いたユウは、そう言いながら静かに夢幻を鞘に納め、ユウの言葉に一瞬固まったアイリーンは、小さく吹き出すと一際嬉しそうに笑った。
『心配してくれたの?』
頬を赤く染めるユウが何とも愛らしいが、怒りそうなので口に出しも、抱き付きもしなかった。
抱き締めて愛でたい…そんなうずうずを必死に我慢する。
『あの時、怪我を負った私を連れ帰った長い蒼髪の男の人がいたでしょう?あの人が綺麗に治してくれたわ』
「アレを堪えるお前もお前だが、あの傷を治すアイツは一体何なんだ」
この質問には困った。
話せばイアンが怒るだろうし、そもそも私はちゃんとした答えを知らない。
イアンがどういう人物で、どういう事が出来るのかという事くらいなら兎も角、その存在についてははっきりと答えられないのだ。
だから私は…
『秘密』
そう言って笑って誤魔化した。
………本当は誤魔化せていない事はユウの表情からして明らかだったが、私は気付かないふりをして話を変えた。
『さぁ、ユウ!私、そろそろ食堂に行かなきゃ行けないから、次の一本で終わりね』
「食堂?こんな早くにか」
『皆にご飯作る約束をしたのよ。ユウにも作るから食べてね』
「アイツ等と飯何か食えるか」
『皆で食べた方が美味しいわよ』
「うるせぇだけだ」
『ならこうしましょ…今から食堂に行って貴方の分だけ先に作るわ』
“それなら良いでしょ?”と言うアイリーンに、ユウは諦めた様に溜め息を吐いた。
「一本終わったらな」
「イアン!」
「お前か…」
来訪者、トールをチラリと見たイアンは、水鏡に映る──に視線を戻しながらそう呟いた。
「イアン…」
「──の奴、遂に教団に姿を現しやがった。アイツに自分から関わった時点でイノセンスに選ばれてたから能力的に問題は無いが…面倒すぎる」
「イアン」
トールの声に反応してトールに目を向けたイアンは、トールの表情を見て眉を寄せた。
「…手帳に手ぇ出した奴が見付かったのか?」
「あぁ」
「誰だ、俺のモノに手を出したのは…」
「イアン…」
「この俺に喧嘩売ったのは、一体どこのクソ馬鹿野郎だ、トール」
苛つく…今直ぐそいつをぶっ殺したい。
溢れた魔力に乗って長い蒼髪の毛先がふわりと宙に浮いた。
「シギュン」
トールの口から出た名前に、イアンは目を見開いた。
あのクソ女…
「何なんだ、あの女は殺されたいのか」
「お前しか見えていないんだ」
運命に縛られて毎度毎度しつこいあの女…野放しにしておくべきじゃ無かったか。
腹ん中が煮えくり返りそうだ。
「俺はアイツなんか見えていない。俺は自分を信じた…予言なんかに左右されない」
怒りにまかせてシギュンの元へ向かうべくカツカツと歩き出したイアンの手を、トールは駆け寄って掴んだ。
「落ち着け!今はシギュンの所に行かず、様子を見るんだ」
「様子見だと?」
「あぁ、もし他に黒幕がいるなら接触があるはずだ」
黒幕…黒幕なんて分かってるさ。
どうやったって…どう考えたって…
「黒幕はお前の親父だろう」
トールの父親であるアイツしか思い当たらない。
「アイツは…直接シギュンに接触はしないだろう」
「……あぁ、分かったあの女に手は出さない。取り敢えず──に連絡を…」
イアンは懐から真っ黒になった本を取り出すと、目を見開いた。
「…………繋がらない…」
どう言う事だ…
繋がらない、入れない、出せない…
「閉じ込められた」
──に直接話し掛ける事も、俺が中に入る事も、中から──を引っ張り出す事も出来無い。
何も…何も…
世界から──を切り離せない…
「ッ…──、──ッ!──…──!!!」
手放すんじゃなかった──…