第4章 最後の元帥
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「な、なななな何だお前ぇぇ!!」
大きな顔をした黒の教団本部の門番は、涙を流しながらそう叫んだ。
散々喚いた所で“検査をしなくて良いのか?”と聞くと、門番はべそをかきながらレントゲン検査を済ませた。
「い、異常無しだ!だけどお前は怪しすぎる!!」
“失礼だな”と近寄れば、最大限顔を薄くさせて避けようとする様が面白い。
暫く門番をからかっていると、突然門番が何かと揉めだした。
「え、えぇえええ!!どうしてだよぉぉ、可笑しいだろ!明らかに怪し……あ?え、あぁ、そうなのか…?いやでもそれは……あぁ、もう分かったよ、どうなっても知らないぞ!!」
相手の声が聞き取れないから何の話をしているかはさっぱり分からなかったが、次の瞬間全てが分かった。
門番は涙目でこう叫んだのだ。
「か、開門~!!」
=本当の所有者=
リナリー達の病室を出て直ぐに捕まった科学班員の話は、正直信じられないものだった。
教団の団服を着た見かけない人物が、空から降って来た。
何て信じられる訳がない。
ボクを科学班室に連れ戻す為にリーバー班長が作った作り話かとも思ったが、それにしては僕を連れ戻しに来たこの彼の演技は、実に真に迫っている。
これがもし作り話だったら彼に主演男優賞を与えよう。
何て思いながら駆け足で科学班室に戻ったボクは、モニターに映る不審者を見て、思わず固まった。
モニターに映っていた人物が、話に聞いていた人物ピッタリだったからだった。
「室長?」
「直ぐに開門して!」
ボクはそう直ぐに開門の指示を出してロビーへ向かって再び駆け出した。
廊下を抜け、階段を一気に駆け下りた先のロビーの中央には、周りの人々に避けられ孤立した…異色にも見える人物が立っていた。
「アイリーン・ネイピア元帥!!」
長い銀髪を揺らして振り向いたのは、いつの日かにレイに聞いた様に血の様に深い緋色の瞳をもつ美女だった。
『私はまだ団員じゃないわよ』
「ちゃっかり団服着ておいて何を言ってるんですか」
『それもそうね』
クスクス笑うアイリーンを前に、コムイは困った様に溜め息を吐いた。
「ネイピア元帥」
『アイリーンで結構よ』
「ではアイリーン元帥…その団服はどうしたんですか?」
『レイに頼んでもらって…ジョニーに作ってもらったわ。ここへ来る時に、これを着ていた方が分かりやすいと思って』
分かり易いどころか…
「空から降って来た事もあって“怪しい”って騒ぎになってましたよ」
ボクだってレイから最後の元帥が“長い銀髪に緋眼のすんごい美人さん”と聞いてなきゃ、めちゃくちゃ怪しんでただろうし…この人、天然なのかな?
噂話の飛び交うロビーをアイリーンを連れて抜け出たコムイは、直ぐにヘブラスカの元へ向かった。
そしてボクは目の当たりにする事になる。
アイリーンの無謀さを…
「待ちわびたぞ、最後の元帥」
『初めまして…アイリーン・ネイピアよ』
ヘブラスカの診断が終わったアイリーンはそう言って大元帥に向かってニッコリと微笑んだ。
そんなアイリーンを隣に、ボクは冷や汗が止まらなかった。
「シンクロ率はやはり申し分無い」
「元帥たるに相応しい。しかしな…どうも解せぬ」
「何故、ヘブラスカの予言が出無い」
そう、アイリーンにはヘブくんの予言が一切出無かったのだ。
しかしアイリーンは焦った様子も無く、唯ゆったりと立って大元帥と話をしている。
『さぁ?私には何とも言えないわ』
「第一にだ…何故今までここに来なかった」
『来なくてはいけないという決まりは無いわ』
「イノセンスに選ばれたモノが黒の教団に来るのは当たり前であろう!」
『そんなの貴方達が勝手に決めた事じゃない。私には全くもって関係無いわ』
「あ、アイリーン元帥!」
思わず声を上げた。
黙っていられなかった…
何でわざわざ大元帥に喧嘩を…
『私は縛られない』
「アイリーン…」
『私は私の好きにするわ』
アイリーンは臆す事無くそう言い切った。
顔を青く染めてその場を乗り切ったコムイは、大元帥と分かれてアイリーンと共に科学班へと戻り、室長室のソファーへと倒れ込んだ。
「あぁ、もうアイリーン!君は無謀過ぎるよぉぉ!!」
「何ガキみたいな事してんすか」
「だって、リーバー班長ぉ!アイリーンったら大元帥に喧嘩売るんだよ?!」
「はぁ?!」
『別に喧嘩売ったつもりは無いわよ』
どう見たってあれは喧嘩売ってるよ!
大元帥だって喧嘩を売られたと思っている筈だ。
「ていうか、この美人さんは誰ですか」
「あぁ、この人は…」
「月!!」
突然部屋に飛び込んできたアレンくん、神田くん、ラビを見て、アイリーンは目を輝かせた。
「月??」
『私のあだ名だよ、コムイ』
「月、どういう事ですか?!ティムが知らせてくれて慌てて医務室を飛び出して来たんですよ!もう体は大丈夫なんですか?!」
“ちゃんと説明して下さい”と言いながら詰め寄ってくるアレンを、アイリーンは嬉しそうに抱き締めた。
『あぁ、可愛い♪』
「な、何するんですか!」
「あぁ、狡い!月、俺もギュッてしてさ」
「何やってんだ、たく…」
『レイの手前、ずっと我慢してたんだ。うちの子ったら私に似て猫目でね…可愛いと言えば可愛いんだが、アレンみたいなタイプの可愛さはまるっきり無くてもぅ』
“可愛い、可愛い”とアレンくんを愛でるアイリーンと、ラビ達を見てたら混乱してきた。
え、何コレ…どういう事?
「え、何?キミら知り合いなの??」
答え方や内容は違ったが、全員から“知り合いだ”という返事を貰い思わず開いた口が塞がらなかった。
何年も探し続けた最後の元帥と三人が知り合いだったなんて…最悪すぎる。
「ていうか、あの…結局あの美人さんは誰なんっすか?」
一番状況を飲み込めていないリーバー班長の言葉に、ボクは取り敢えず彼女の紹介をする事にした。
「リーバー班長、彼女はボクらがずっと探していた…アイリーン・ネイピア元帥だよ」
「「「「元帥?!!」」」」
リーバー班長は兎も角…
「き、キミら知ってたんじゃないのかい?!」
何で三人が驚くのさ?!
アレンくんを離して楽しそうに笑うアイリーンに殺意が湧いた。
勿論、本気じゃないが。
「月が最後の元帥だったんですね」
「アイリーンっていうんか、綺麗な名前さ」
『あぁ、勿論偽名ね』
「ちょ、偽名なの?!!」
最悪だ、大元帥にアイリーン・ネイピアで通しちゃったよ…!
コムイは、目に涙を溜めて大笑いしているラビを弾き飛ばしてアイリーンに詰め寄った。
「アイリーン、本名は?!」
『秘密』
あぁもう、本当に殺意が湧いてきた!
「最悪だぁぁぁぁ!!」
「室長…どんまい」
思わずリーバー班長に泣きついたら酷く引かれた。
でもボクは、もうどうしたらいいのか分かんない…
リナリーにもう一回会いたいな…
「お前、イノセンス何か持ってたんだな」
神田くんがそう聞いた瞬間、アイリーンの影が床から飛び出す様にしてアイリーンの腕に巻き付き、次の瞬間アイリーンの腕に綺麗な漆黒の翼を生やした。
『これが私のイノセンス“常闇ノ調”』
アイリーンの言葉に合わせる様に翼は弾けて無数の玉粒になると、アイリーンの影に落ちて同化した。
『影を操る能力ね』
腕に翼が生えるまでの光景は、見た事があるものだった。
あれは…
「何か…レイの能力と似てますね」
「あ、俺も思ったさ!」
『似てるというか…同じモノよ』
同じもの…?
『私がレイに力を貸してたの』
「…だからシンクロ率がバラバラだったのか!」
シンクロ率100%を越える“音ノ鎖”に対して“黒キ舞姫”のシンクロ率が僅か30%と低かったのは、イノセンスを二つを所有しているからでは無く、元々レイに適合しているイノセンスではなかったからか。
「じゅあ伯爵の手元に…」
『レイのイノセンスは渡ってないわ』
一安心か…
“黒キ舞姫”はもう伯爵の手で破壊されたと思っていたから。
「よぉ、何騒いでんだ?」
「あ、師匠」
この部屋は何でこう、次々と人が集まるんだろう…一応ボクの仕事部屋なんだけどな。
コムイは溜め息を吐くとアアイリーンの隣に立ち、クロスの方に体を向けた。
何だろう凄く嫌な予感がする…
「クロス元帥、こちらアイリーン・ネイピア元帥…空席状態だった最後の元帥です」
「あ?んなこたぁ、知ってる」
やっぱり…だと思ったんだ。
だってレイの知り合いでアレンくんの知り合いって…共通点君だもの。
「レイが入団する時の手紙に書いただろ」
「手紙…?」
そういやぁ、そんなもの貰ったな…
読んでなくてレイに散々怒られたアレだ。
歩み寄って来たクロスは、アイリーンの手を引くと、すっぽりと自分の腕へと収めた。
「“俺の女”だ」
「………は?」
あれだもう、意味が分からない。
『またクロスはそういう事を…』
ラビ・神田くん・アレンくんがアイリーンが知り合いで、レイがアイリーンを元帥と知っていて唯一接触した人物だと思ってたけど…
アイリーンがあの手紙に書いてあったクロスの彼女(仮)って事は、レイが入団する前にクロスは…あれ…
「何でアイリーンの存在を知ってて報告しなかったんですか!!」
手紙の女=アイリーンって事は、ヘブくんが臨界点を突破した者がいると感知しただけで、男か女かも分からず身元不明だった最後の元帥、アイリーン・ネイピアに一番最初に接触した教団関係者はクロス・マリアンという事になる。
「人が何年も必死に探し続けてたっていうのに貴方はぁぁぁ!!」
暴れるコムイを見てクロスは愉快そうに“ハッハッハッ”と笑った。
「笑い事じゃないですよ、師匠」
「そうか?面白くないか、あれ?」
『私が言えた事じゃないけど…そういう問題じゃないわ、クロス』
「クロス元帥酷いさ~」
ほんと、もう嫌だ。
ボクと“アイリーン捜索隊”という名の探索部隊達の苦労は何だったんだろう…
「おいコムイ、会議だぞ~」
だから何でここには人が集まるんだ。
「今行くよ、バクちゃん」
勢い良く部屋に入って来たバクは、アイリーンと目が合うと目を見開いた。
「月じゃないか!!」
は…?
『元気そうね、バク』
「何故ここにいる!と言うかその格好は何だ?」
「月が最後の元帥、アイリーン・ネイピアだったそうですよ、バクさん」
「なるほど!…って、なにぃいぃぃぃ?!」
「支部長ナイスリアクションさ~」
「お前いくつ顔を持ってるんだ!」
『秘密』
クスクスと楽しそうに笑いながらそう言うアイリーンを前に、ボクは…いや、もう自分がどうなっているかさえ分からない。
何なのコレは。
皆してアイリーンと知り合いで…
ボク、今まで何の為に頑張ってたのさ。
皆の知り合いだって気付かずに探しまくって…
あーもう、はいはい。
ボク何て必要ないんだね。
『コムイ、拗ねないで』
皆が騒ぐ中、そっとクロスの腕をすり抜けたアイリーンは、コムイの隣に立つと囁く様に話し出した。
『貴方が頑張ってくれてたのにこういう結果になったのは、全部私の所為よ…教える事は出来無いけど、私にも事情があったの』
“御免なさいね”と言って困った様に笑ったアイリーンの声は澄んでいて、騒ぎ声の響くこのうるさい部屋でも良く聞こえた。
手を二回叩いて鳴らせば、騒いでいた面々はピタリと会話を止める。
「行きますよ…クロス元帥、アイリーン元帥」
“バクちゃんも”と続けると、アイリーンは“どこに?”と不思議そうに首を傾げた。
「会議ですよ」
『私も出席して良いの?』
「元帥も出席しないとダメなんだ」
バクちゃんの言葉に、アイリーンは目をキラキラと輝かせた。
『私、会議に出席するの凄く久し振りなの、楽しみだわ』
楽しそうに笑うアイリーンには悪いが期待には添えない。
「楽しい所では無いぞ」
そう、バクちゃんの言う通り決して楽しい所では無い。
ずっと連絡を絶っていたクロス…
そして、そもそも教団に一度も近付かなかったアイリーン…
絶対に目を付けられている。
『でも楽しみ…あぁ、遠い昔が懐かしいわ』
「お前いくつなんだ」
「バクさん、女性に年齢を聞くなんて失礼ですよ」
『アレンの言う通りよ、バク』
「こいつは永遠の20だ」
アイリーンの腰に手を回してそう言うクロスに、アイリーンは楽しそうに声を出して笑った。
『それは若すぎよ、クロス』
仕方が無いなと言わんばかりに溜め息を吐いたコムイは、バク、クロス、アイリーンの三人を連れて室長室を後にした。
未だに噂話の飛び交う廊下を抜け辿り着いた広い会議室には、各支部の支部長や元帥達…見慣れた面々が揃っていた。
「いや、今日は実に楽しい時間が過ごせそうですな。何せビッグゲストが二人もいらっしゃる」
相変わらず蛇の様な顔をした長官は、そう言ってニコリと笑って見せた。
「あなた方を諮問する日を実に心待ちにしていましたよ」
気持ち悪い。そういっても良いくらいに笑っていた表情が一変し、長官は二人を睨み付けた。
「クロス・マリアン元帥、アイリーン・ネイピア元帥」
「な、なななな何だお前ぇぇ!!」
大きな顔をした黒の教団本部の門番は、涙を流しながらそう叫んだ。
散々喚いた所で“検査をしなくて良いのか?”と聞くと、門番はべそをかきながらレントゲン検査を済ませた。
「い、異常無しだ!だけどお前は怪しすぎる!!」
“失礼だな”と近寄れば、最大限顔を薄くさせて避けようとする様が面白い。
暫く門番をからかっていると、突然門番が何かと揉めだした。
「え、えぇえええ!!どうしてだよぉぉ、可笑しいだろ!明らかに怪し……あ?え、あぁ、そうなのか…?いやでもそれは……あぁ、もう分かったよ、どうなっても知らないぞ!!」
相手の声が聞き取れないから何の話をしているかはさっぱり分からなかったが、次の瞬間全てが分かった。
門番は涙目でこう叫んだのだ。
「か、開門~!!」
=本当の所有者=
リナリー達の病室を出て直ぐに捕まった科学班員の話は、正直信じられないものだった。
教団の団服を着た見かけない人物が、空から降って来た。
何て信じられる訳がない。
ボクを科学班室に連れ戻す為にリーバー班長が作った作り話かとも思ったが、それにしては僕を連れ戻しに来たこの彼の演技は、実に真に迫っている。
これがもし作り話だったら彼に主演男優賞を与えよう。
何て思いながら駆け足で科学班室に戻ったボクは、モニターに映る不審者を見て、思わず固まった。
モニターに映っていた人物が、話に聞いていた人物ピッタリだったからだった。
「室長?」
「直ぐに開門して!」
ボクはそう直ぐに開門の指示を出してロビーへ向かって再び駆け出した。
廊下を抜け、階段を一気に駆け下りた先のロビーの中央には、周りの人々に避けられ孤立した…異色にも見える人物が立っていた。
「アイリーン・ネイピア元帥!!」
長い銀髪を揺らして振り向いたのは、いつの日かにレイに聞いた様に血の様に深い緋色の瞳をもつ美女だった。
『私はまだ団員じゃないわよ』
「ちゃっかり団服着ておいて何を言ってるんですか」
『それもそうね』
クスクス笑うアイリーンを前に、コムイは困った様に溜め息を吐いた。
「ネイピア元帥」
『アイリーンで結構よ』
「ではアイリーン元帥…その団服はどうしたんですか?」
『レイに頼んでもらって…ジョニーに作ってもらったわ。ここへ来る時に、これを着ていた方が分かりやすいと思って』
分かり易いどころか…
「空から降って来た事もあって“怪しい”って騒ぎになってましたよ」
ボクだってレイから最後の元帥が“長い銀髪に緋眼のすんごい美人さん”と聞いてなきゃ、めちゃくちゃ怪しんでただろうし…この人、天然なのかな?
噂話の飛び交うロビーをアイリーンを連れて抜け出たコムイは、直ぐにヘブラスカの元へ向かった。
そしてボクは目の当たりにする事になる。
アイリーンの無謀さを…
「待ちわびたぞ、最後の元帥」
『初めまして…アイリーン・ネイピアよ』
ヘブラスカの診断が終わったアイリーンはそう言って大元帥に向かってニッコリと微笑んだ。
そんなアイリーンを隣に、ボクは冷や汗が止まらなかった。
「シンクロ率はやはり申し分無い」
「元帥たるに相応しい。しかしな…どうも解せぬ」
「何故、ヘブラスカの予言が出無い」
そう、アイリーンにはヘブくんの予言が一切出無かったのだ。
しかしアイリーンは焦った様子も無く、唯ゆったりと立って大元帥と話をしている。
『さぁ?私には何とも言えないわ』
「第一にだ…何故今までここに来なかった」
『来なくてはいけないという決まりは無いわ』
「イノセンスに選ばれたモノが黒の教団に来るのは当たり前であろう!」
『そんなの貴方達が勝手に決めた事じゃない。私には全くもって関係無いわ』
「あ、アイリーン元帥!」
思わず声を上げた。
黙っていられなかった…
何でわざわざ大元帥に喧嘩を…
『私は縛られない』
「アイリーン…」
『私は私の好きにするわ』
アイリーンは臆す事無くそう言い切った。
顔を青く染めてその場を乗り切ったコムイは、大元帥と分かれてアイリーンと共に科学班へと戻り、室長室のソファーへと倒れ込んだ。
「あぁ、もうアイリーン!君は無謀過ぎるよぉぉ!!」
「何ガキみたいな事してんすか」
「だって、リーバー班長ぉ!アイリーンったら大元帥に喧嘩売るんだよ?!」
「はぁ?!」
『別に喧嘩売ったつもりは無いわよ』
どう見たってあれは喧嘩売ってるよ!
大元帥だって喧嘩を売られたと思っている筈だ。
「ていうか、この美人さんは誰ですか」
「あぁ、この人は…」
「月!!」
突然部屋に飛び込んできたアレンくん、神田くん、ラビを見て、アイリーンは目を輝かせた。
「月??」
『私のあだ名だよ、コムイ』
「月、どういう事ですか?!ティムが知らせてくれて慌てて医務室を飛び出して来たんですよ!もう体は大丈夫なんですか?!」
“ちゃんと説明して下さい”と言いながら詰め寄ってくるアレンを、アイリーンは嬉しそうに抱き締めた。
『あぁ、可愛い♪』
「な、何するんですか!」
「あぁ、狡い!月、俺もギュッてしてさ」
「何やってんだ、たく…」
『レイの手前、ずっと我慢してたんだ。うちの子ったら私に似て猫目でね…可愛いと言えば可愛いんだが、アレンみたいなタイプの可愛さはまるっきり無くてもぅ』
“可愛い、可愛い”とアレンくんを愛でるアイリーンと、ラビ達を見てたら混乱してきた。
え、何コレ…どういう事?
「え、何?キミら知り合いなの??」
答え方や内容は違ったが、全員から“知り合いだ”という返事を貰い思わず開いた口が塞がらなかった。
何年も探し続けた最後の元帥と三人が知り合いだったなんて…最悪すぎる。
「ていうか、あの…結局あの美人さんは誰なんっすか?」
一番状況を飲み込めていないリーバー班長の言葉に、ボクは取り敢えず彼女の紹介をする事にした。
「リーバー班長、彼女はボクらがずっと探していた…アイリーン・ネイピア元帥だよ」
「「「「元帥?!!」」」」
リーバー班長は兎も角…
「き、キミら知ってたんじゃないのかい?!」
何で三人が驚くのさ?!
アレンくんを離して楽しそうに笑うアイリーンに殺意が湧いた。
勿論、本気じゃないが。
「月が最後の元帥だったんですね」
「アイリーンっていうんか、綺麗な名前さ」
『あぁ、勿論偽名ね』
「ちょ、偽名なの?!!」
最悪だ、大元帥にアイリーン・ネイピアで通しちゃったよ…!
コムイは、目に涙を溜めて大笑いしているラビを弾き飛ばしてアイリーンに詰め寄った。
「アイリーン、本名は?!」
『秘密』
あぁもう、本当に殺意が湧いてきた!
「最悪だぁぁぁぁ!!」
「室長…どんまい」
思わずリーバー班長に泣きついたら酷く引かれた。
でもボクは、もうどうしたらいいのか分かんない…
リナリーにもう一回会いたいな…
「お前、イノセンス何か持ってたんだな」
神田くんがそう聞いた瞬間、アイリーンの影が床から飛び出す様にしてアイリーンの腕に巻き付き、次の瞬間アイリーンの腕に綺麗な漆黒の翼を生やした。
『これが私のイノセンス“常闇ノ調”』
アイリーンの言葉に合わせる様に翼は弾けて無数の玉粒になると、アイリーンの影に落ちて同化した。
『影を操る能力ね』
腕に翼が生えるまでの光景は、見た事があるものだった。
あれは…
「何か…レイの能力と似てますね」
「あ、俺も思ったさ!」
『似てるというか…同じモノよ』
同じもの…?
『私がレイに力を貸してたの』
「…だからシンクロ率がバラバラだったのか!」
シンクロ率100%を越える“音ノ鎖”に対して“黒キ舞姫”のシンクロ率が僅か30%と低かったのは、イノセンスを二つを所有しているからでは無く、元々レイに適合しているイノセンスではなかったからか。
「じゅあ伯爵の手元に…」
『レイのイノセンスは渡ってないわ』
一安心か…
“黒キ舞姫”はもう伯爵の手で破壊されたと思っていたから。
「よぉ、何騒いでんだ?」
「あ、師匠」
この部屋は何でこう、次々と人が集まるんだろう…一応ボクの仕事部屋なんだけどな。
コムイは溜め息を吐くとアアイリーンの隣に立ち、クロスの方に体を向けた。
何だろう凄く嫌な予感がする…
「クロス元帥、こちらアイリーン・ネイピア元帥…空席状態だった最後の元帥です」
「あ?んなこたぁ、知ってる」
やっぱり…だと思ったんだ。
だってレイの知り合いでアレンくんの知り合いって…共通点君だもの。
「レイが入団する時の手紙に書いただろ」
「手紙…?」
そういやぁ、そんなもの貰ったな…
読んでなくてレイに散々怒られたアレだ。
歩み寄って来たクロスは、アイリーンの手を引くと、すっぽりと自分の腕へと収めた。
「“俺の女”だ」
「………は?」
あれだもう、意味が分からない。
『またクロスはそういう事を…』
ラビ・神田くん・アレンくんがアイリーンが知り合いで、レイがアイリーンを元帥と知っていて唯一接触した人物だと思ってたけど…
アイリーンがあの手紙に書いてあったクロスの彼女(仮)って事は、レイが入団する前にクロスは…あれ…
「何でアイリーンの存在を知ってて報告しなかったんですか!!」
手紙の女=アイリーンって事は、ヘブくんが臨界点を突破した者がいると感知しただけで、男か女かも分からず身元不明だった最後の元帥、アイリーン・ネイピアに一番最初に接触した教団関係者はクロス・マリアンという事になる。
「人が何年も必死に探し続けてたっていうのに貴方はぁぁぁ!!」
暴れるコムイを見てクロスは愉快そうに“ハッハッハッ”と笑った。
「笑い事じゃないですよ、師匠」
「そうか?面白くないか、あれ?」
『私が言えた事じゃないけど…そういう問題じゃないわ、クロス』
「クロス元帥酷いさ~」
ほんと、もう嫌だ。
ボクと“アイリーン捜索隊”という名の探索部隊達の苦労は何だったんだろう…
「おいコムイ、会議だぞ~」
だから何でここには人が集まるんだ。
「今行くよ、バクちゃん」
勢い良く部屋に入って来たバクは、アイリーンと目が合うと目を見開いた。
「月じゃないか!!」
は…?
『元気そうね、バク』
「何故ここにいる!と言うかその格好は何だ?」
「月が最後の元帥、アイリーン・ネイピアだったそうですよ、バクさん」
「なるほど!…って、なにぃいぃぃぃ?!」
「支部長ナイスリアクションさ~」
「お前いくつ顔を持ってるんだ!」
『秘密』
クスクスと楽しそうに笑いながらそう言うアイリーンを前に、ボクは…いや、もう自分がどうなっているかさえ分からない。
何なのコレは。
皆してアイリーンと知り合いで…
ボク、今まで何の為に頑張ってたのさ。
皆の知り合いだって気付かずに探しまくって…
あーもう、はいはい。
ボク何て必要ないんだね。
『コムイ、拗ねないで』
皆が騒ぐ中、そっとクロスの腕をすり抜けたアイリーンは、コムイの隣に立つと囁く様に話し出した。
『貴方が頑張ってくれてたのにこういう結果になったのは、全部私の所為よ…教える事は出来無いけど、私にも事情があったの』
“御免なさいね”と言って困った様に笑ったアイリーンの声は澄んでいて、騒ぎ声の響くこのうるさい部屋でも良く聞こえた。
手を二回叩いて鳴らせば、騒いでいた面々はピタリと会話を止める。
「行きますよ…クロス元帥、アイリーン元帥」
“バクちゃんも”と続けると、アイリーンは“どこに?”と不思議そうに首を傾げた。
「会議ですよ」
『私も出席して良いの?』
「元帥も出席しないとダメなんだ」
バクちゃんの言葉に、アイリーンは目をキラキラと輝かせた。
『私、会議に出席するの凄く久し振りなの、楽しみだわ』
楽しそうに笑うアイリーンには悪いが期待には添えない。
「楽しい所では無いぞ」
そう、バクちゃんの言う通り決して楽しい所では無い。
ずっと連絡を絶っていたクロス…
そして、そもそも教団に一度も近付かなかったアイリーン…
絶対に目を付けられている。
『でも楽しみ…あぁ、遠い昔が懐かしいわ』
「お前いくつなんだ」
「バクさん、女性に年齢を聞くなんて失礼ですよ」
『アレンの言う通りよ、バク』
「こいつは永遠の20だ」
アイリーンの腰に手を回してそう言うクロスに、アイリーンは楽しそうに声を出して笑った。
『それは若すぎよ、クロス』
仕方が無いなと言わんばかりに溜め息を吐いたコムイは、バク、クロス、アイリーンの三人を連れて室長室を後にした。
未だに噂話の飛び交う廊下を抜け辿り着いた広い会議室には、各支部の支部長や元帥達…見慣れた面々が揃っていた。
「いや、今日は実に楽しい時間が過ごせそうですな。何せビッグゲストが二人もいらっしゃる」
相変わらず蛇の様な顔をした長官は、そう言ってニコリと笑って見せた。
「あなた方を諮問する日を実に心待ちにしていましたよ」
気持ち悪い。そういっても良いくらいに笑っていた表情が一変し、長官は二人を睨み付けた。
「クロス・マリアン元帥、アイリーン・ネイピア元帥」