第3章 封印された箱
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「やられました。転送不完全で生成工場 が約80%を損失」
まさかこんな事になるとは思っていなかった。
「クロス・マリアンの狙いはこれだったのかも」
転送完了まで後僅かだったというのに、これ程までの損失が出るだなんて…
「これ作るのすごいお金と汗と時間がかかるんですヨ!♡」
“ムキー”とハンカチを噛みながら涙を流す主の痛手は計り知れない。
「今はアクマを増やさないといけない時期ですのに、これじゃ足止め……」
ビリッ
そう布を引き裂く音がして主に顔を向けると、主からは感情が溢れ出ていた。
「方舟が奪われタ“心臓”は無かったハズですのになぜ…ッ、やはり…あの舟には“14番目”の呪いが生きていたのダ…♡」
これは考えなくても分かる。
この感情は怒りだ。
「エクソシストどもニ…奴らニッ!“14番目”が手をかしたのでしょうかネ…♡」
「は、伯爵タマ…?」
「汚らわしい…腐った羊めガ…♡」
『チィ』
弱々しい声に反応して振り向くと、そこには姫がいた。
「姫…」
「レイ♡どうしたんデスか?♡」
『気持ち悪くて…凄く眠いの…寝ててもいい?』
「マ、それは大変デス!」
姫に駆け寄って支える様にそっと背に手をやると、姫の体は小さく震えていた。これは…
『二人と一緒に寝ててもいい?』
「二人…ジャスデビくんですカ?ダメですよ、二人はレイのベッドから退かしまス♡」
『二人と一緒が良い』
「ダメですヨ♡女の子なんだカラちゃんと」
『二人と一緒が良いの』
「……むぅ、仕方無いですネェ♡」
『じゃあ、起きたら二人はいる?』
「えェ、いますヨ…安心してお休みなさイ♡」
その言葉に安心したんだろうか?
糸の切れたマリオネットの様に崩れた姫を受け止めると、私の腕の中からは規則的な寝息が聞こえた。
「反動でしょうか…」
「そうかもしれませン♡」
「ルル=ベル、レイを部屋ニ」
「はい、主」
「ジャスデビくんの間に寝かせてあげなさイ♡」
「はい、主」
「あと貴女にはやってもらいたい事がありまス♡」
「はい…主」
=失ったもの=
「どういう事だ、モヤシ」
方舟の復活により戻ってきた神田、クロウリー、ラビ、チャオジー…
クロウリーはダメージの所為で寝たまま起きなかったが、ピアノの部屋に全員が集まった時は、ひとまず安心だ……そう思った。
神田が怒り出す前までは。
「だからどうもこうも…レイには僕等に関する記憶がないんですよ」
ラビを見るのが辛かった。
ラビはレイに落とされたのだから…
「恐らく一切合切…覚えてない……あの後、伯爵に何かされたんでしょう」
無表情のチャオジーが考えている事も…察しが付いた。
きっとチャオジーはティキを助けようとした僕を許さないし、レイの事は完璧に敵だと思っているだろう。
「しかもレイは変な勘違いをしている」
“シャールを壊しただけじゃ足りなくて”レイは確かにそう言った。
なら本当にシャールは壊れてしまったんだろう。
そして壊したのは恐らく…
「で、とっ捕まえもせずに見送ったってのか」
「え…?」
何を言われているかが分からなかった。
「何でレイの所に辿り着いておきながら捕まえなかった」
「だって、レイは記憶が…」
「それがどうした」
胸ぐらを捕まれて、漸く神田がどんな顔をしているかが見えた。見た事の無い表情だった。
「記憶なんて何かの拍子に戻る。戻らなくても…ッ、今からつくりゃいい」
「そんな…」
「レイを取り戻すチャンスを無駄にするくらいなら、俺ならとっ捕まえる」
「神田…」
「ユウはあのレイを見てないからそんな事が言えるんさ」
「なんだと?」
「あのレイを見たら…判断能力なんか…無いも同然さ」
ラビの虚ろな目は何を写してるんだろうか‥
まだ…まだあのレイを…
「好い加減にしろ、餓鬼共」
師匠の低い声が響く。
その声がこの事態を何とも思ってない様に聞こえて、少し腹が立った。
「もうこの方舟には伯爵もレイもいねぇ。取り敢えず帰って、その使い物にならねぇ体を治せ」
腹が立ったけど…何も言えなかった。
師匠が言っている事は正しい。
どちらにせよ、レイを取り戻す為にはやはり戦闘が必要で…
だけど僕達はボロボロだった。
小さなレイが頑張ってくれたお陰でだいぶ楽にはなったが、勿論本調子では無い。
僕達の体には休養が必要だった。
それに、神田とラビの対アクマ武器は壊れてしまっている。
「アレン、続けろ“本船の江戸接続を解除”」
「“江戸接続”?何ですか、それ?」
「いいから言えタリーな。それで外に出られんだからよ」
「後でキッチリ説明して下さいよ、師匠」
アレンはピアノの前に立つと、その黒鍵白鍵の入れ替わった鍵盤にそっと触れた。
「本船の“江戸接続”を解除。方舟よ、ゲートを開いてくれ…」
レイ…直ぐに捕まえに行くから…
「開くゲートの行き先は…」
きっと…
きっと直ぐに…
迎えに行くから──…
「本格的に手を出す気か」
こっそり出掛けるつもりだったが…見付かってしまった。
ここは彼のテリトリーなのだから、こうなる事は予想していたけど…
『折角貰ったんだもの…どうせなら素敵な世界にしたいわ』
そう返せば、本棚の影から彼が姿を現した。
長い蒼色の髪に蒼色の瞳…
「大人しく見てられないのか」
『無理ね』
そう、無理だ。
状況はある意味で刻一刻と悪くなっていっている。
『あの子を娘の様に想ってしまった。その時点で私の負けは決まってるわ』
「……死ぬなよ」
『あら、もう死んでるわ』
「そういう意味じゃない」
『…御免なさい、冗談よ』
私は、彼の頬にキスを落とすと“大丈夫”と言って笑って見せた。
『喧嘩には負けた事無いもの』
そして 坊やは 眠りについた
息衝く 灰の中の炎 ひとつふたつと
浮かぶ ふくらみ 愛しい横顔
大地に 垂るる 幾千の夢
銀の瞳のゆらぐ夜に
生まれおちた輝くおまえ
幾億の年月が
いくつ祈りを 土へ 還しても
ワタシは 祈り続ける
どうかこの子に愛を
つないだ 手に
キスを──…
「やられました。転送不完全で
まさかこんな事になるとは思っていなかった。
「クロス・マリアンの狙いはこれだったのかも」
転送完了まで後僅かだったというのに、これ程までの損失が出るだなんて…
「これ作るのすごいお金と汗と時間がかかるんですヨ!♡」
“ムキー”とハンカチを噛みながら涙を流す主の痛手は計り知れない。
「今はアクマを増やさないといけない時期ですのに、これじゃ足止め……」
ビリッ
そう布を引き裂く音がして主に顔を向けると、主からは感情が溢れ出ていた。
「方舟が奪われタ“心臓”は無かったハズですのになぜ…ッ、やはり…あの舟には“14番目”の呪いが生きていたのダ…♡」
これは考えなくても分かる。
この感情は怒りだ。
「エクソシストどもニ…奴らニッ!“14番目”が手をかしたのでしょうかネ…♡」
「は、伯爵タマ…?」
「汚らわしい…腐った羊めガ…♡」
『チィ』
弱々しい声に反応して振り向くと、そこには姫がいた。
「姫…」
「レイ♡どうしたんデスか?♡」
『気持ち悪くて…凄く眠いの…寝ててもいい?』
「マ、それは大変デス!」
姫に駆け寄って支える様にそっと背に手をやると、姫の体は小さく震えていた。これは…
『二人と一緒に寝ててもいい?』
「二人…ジャスデビくんですカ?ダメですよ、二人はレイのベッドから退かしまス♡」
『二人と一緒が良い』
「ダメですヨ♡女の子なんだカラちゃんと」
『二人と一緒が良いの』
「……むぅ、仕方無いですネェ♡」
『じゃあ、起きたら二人はいる?』
「えェ、いますヨ…安心してお休みなさイ♡」
その言葉に安心したんだろうか?
糸の切れたマリオネットの様に崩れた姫を受け止めると、私の腕の中からは規則的な寝息が聞こえた。
「反動でしょうか…」
「そうかもしれませン♡」
「ルル=ベル、レイを部屋ニ」
「はい、主」
「ジャスデビくんの間に寝かせてあげなさイ♡」
「はい、主」
「あと貴女にはやってもらいたい事がありまス♡」
「はい…主」
=失ったもの=
「どういう事だ、モヤシ」
方舟の復活により戻ってきた神田、クロウリー、ラビ、チャオジー…
クロウリーはダメージの所為で寝たまま起きなかったが、ピアノの部屋に全員が集まった時は、ひとまず安心だ……そう思った。
神田が怒り出す前までは。
「だからどうもこうも…レイには僕等に関する記憶がないんですよ」
ラビを見るのが辛かった。
ラビはレイに落とされたのだから…
「恐らく一切合切…覚えてない……あの後、伯爵に何かされたんでしょう」
無表情のチャオジーが考えている事も…察しが付いた。
きっとチャオジーはティキを助けようとした僕を許さないし、レイの事は完璧に敵だと思っているだろう。
「しかもレイは変な勘違いをしている」
“シャールを壊しただけじゃ足りなくて”レイは確かにそう言った。
なら本当にシャールは壊れてしまったんだろう。
そして壊したのは恐らく…
「で、とっ捕まえもせずに見送ったってのか」
「え…?」
何を言われているかが分からなかった。
「何でレイの所に辿り着いておきながら捕まえなかった」
「だって、レイは記憶が…」
「それがどうした」
胸ぐらを捕まれて、漸く神田がどんな顔をしているかが見えた。見た事の無い表情だった。
「記憶なんて何かの拍子に戻る。戻らなくても…ッ、今からつくりゃいい」
「そんな…」
「レイを取り戻すチャンスを無駄にするくらいなら、俺ならとっ捕まえる」
「神田…」
「ユウはあのレイを見てないからそんな事が言えるんさ」
「なんだと?」
「あのレイを見たら…判断能力なんか…無いも同然さ」
ラビの虚ろな目は何を写してるんだろうか‥
まだ…まだあのレイを…
「好い加減にしろ、餓鬼共」
師匠の低い声が響く。
その声がこの事態を何とも思ってない様に聞こえて、少し腹が立った。
「もうこの方舟には伯爵もレイもいねぇ。取り敢えず帰って、その使い物にならねぇ体を治せ」
腹が立ったけど…何も言えなかった。
師匠が言っている事は正しい。
どちらにせよ、レイを取り戻す為にはやはり戦闘が必要で…
だけど僕達はボロボロだった。
小さなレイが頑張ってくれたお陰でだいぶ楽にはなったが、勿論本調子では無い。
僕達の体には休養が必要だった。
それに、神田とラビの対アクマ武器は壊れてしまっている。
「アレン、続けろ“本船の江戸接続を解除”」
「“江戸接続”?何ですか、それ?」
「いいから言えタリーな。それで外に出られんだからよ」
「後でキッチリ説明して下さいよ、師匠」
アレンはピアノの前に立つと、その黒鍵白鍵の入れ替わった鍵盤にそっと触れた。
「本船の“江戸接続”を解除。方舟よ、ゲートを開いてくれ…」
レイ…直ぐに捕まえに行くから…
「開くゲートの行き先は…」
きっと…
きっと直ぐに…
迎えに行くから──…
「本格的に手を出す気か」
こっそり出掛けるつもりだったが…見付かってしまった。
ここは彼のテリトリーなのだから、こうなる事は予想していたけど…
『折角貰ったんだもの…どうせなら素敵な世界にしたいわ』
そう返せば、本棚の影から彼が姿を現した。
長い蒼色の髪に蒼色の瞳…
「大人しく見てられないのか」
『無理ね』
そう、無理だ。
状況はある意味で刻一刻と悪くなっていっている。
『あの子を娘の様に想ってしまった。その時点で私の負けは決まってるわ』
「……死ぬなよ」
『あら、もう死んでるわ』
「そういう意味じゃない」
『…御免なさい、冗談よ』
私は、彼の頬にキスを落とすと“大丈夫”と言って笑って見せた。
『喧嘩には負けた事無いもの』
そして 坊やは 眠りについた
息衝く 灰の中の炎 ひとつふたつと
浮かぶ ふくらみ 愛しい横顔
大地に 垂るる 幾千の夢
銀の瞳のゆらぐ夜に
生まれおちた輝くおまえ
幾億の年月が
いくつ祈りを 土へ 還しても
ワタシは 祈り続ける
どうかこの子に愛を
つないだ 手に
キスを──…