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第3章 封印された箱

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71





《アレン、お前のいる“部屋”に行くからこっちにドアを出せ》



“お前が望めば開く”そう師匠に言われて鍵盤を指で叩いた時、それは起きた。
師匠達に繋がったであろう扉があるのは目の前なのに、背後から“カタン”と音がしたのだ。

振り返るとそこには…

リボンを付けた肩までの金髪に青い瞳…
白いワンピースを身に纏った見知った少女が立っていた。



「さっきの‥おにいちゃん?」





=限定解除=






「なんでおにいちゃんがここに…」



驚いて固まっている少女に駆け寄ったアレンは、膝を付いてその小さな体を抱き締めた。
「…どうしたの、おにいちゃん?」
レイ…」
「なぁに?」
「僕は…僕は…ッ」
小さく震えるアレンの背中に手を回した少女…レイは、くんっと匂いを嗅ぐ様に鼻で息を吸うと、目を閉じた。
「そっか、おにいちゃんが…」



「何だお前、ロリコンだったのか」



「違いますよ!!」
思わずレイを離してそう叫んだ。
すると開けはなった扉の前に立っていた師匠は、レイを見てピタリと動きを止めた。そんな師匠の後ろからリナリーが顔を出す。
レイ!」
「ぁ、おねぇちゃん」
「良かった、無事だったのね」
「とうのてっぺんにいたから」
「お前…」
レイは何かを言いかけたクロスに駆け寄ると、クロスの服を掴んだ。

「おにいちゃん、だっこ」

「“おじちゃん”で充分ですよ、レイ。後、だっこしてもらうとセクハラされますよ」
「しねぇよ」
そう言ってクロスがレイを抱き上げると、レイはクロスの首に腕を回してギュッと抱き付いた。


「いいかけたこと…いわないで」


耳許で小さく囁かれた言葉に、クロスは黙って耳を傾けた。
「クロくんがなにをしたいのかはわからないけど…わたしにしてほしいことはなんとなくわかったから」
「クロくん?」
レイがその名を口にすると、クロスは抱き締める腕に力を入れてそれに応えた。

「じぶんのことはじぶんでバラすわ。だからレディーのひみつをかってにしゃべっちゃダメよ」

クロスから離れたレイは、ニッコリと笑うと、クロスの腕から床へと飛び降りた。
「大丈夫でしたか、レイ?」
「なんともないよ。それより…おにいちゃんたちボロボロだね」
「あ…あぁ」
「これは…その…」
「だいじょうぶ、わかってるよ」
“たたかってたんでしょ”と言うレイに、アレンは困った様に眉を寄せた。
「何も…言わないんですか?」
「なんで?」

「僕は貴女の家族を傷付けました」

「…そうだねぇ」
「僕はここで貴女に殺されても文句は言えません」
小さく唸る様に息を吐いたレイは、視線をアレンから足許に向けた。
「わたしは…ずっととうのてっぺんからここがコワレていくのをみてただけだけど、感じることはできた。
たしかにみんなキズついただろうし、怒りのノアのこは死んじゃったね」
“でも”と続けたレイは、困った様に笑った。



「わたしはもう…ノアであってノアではないモノだから」



“ノアであってノアでないもの”
そうか…
この子の存在は伯爵さえ知らない…

「わたしはクロくんとの約束をまもるためだけにあるの」

そう言って嬉しそうに笑ったレイが壁に向かって走り出すと、スッと壁に可愛らしい扉が現れた。
「なっ?!」
「ちょっとまっててね!」
レイ!!」
レイは扉を開けて出て行ってしまい、レイを止めようとしたアレンとリナリーは、中途半端に上がった手をそれぞれそっと降ろした。
しんっ…と静まりかえった室内の何とも言えない空気が気持ち悪かったが、何も言えなかった。
何故僕があのピアノを弾けたのかとか…聞きたい事は山ほどあったけど、話の最中にレイが帰ってきてしまったらと考えたら“後で師匠と二人で話そう”と少し現実的に難しそうな選択肢が頭を支配した。
それに何より…


この空気の中で口を開いてしまえば、僕等を忘れてしまったレイの話を口にしてしまいそうで怖かった。


今その話をしたらリナリーが悲しむと分かっているのに…現実を受け入れたくない僕はきっと口にしてしまう。
だから僕は黙って、背を軽く押す様に足してリナリーをソファーに座らせた。
「ぁ…ありがとう、アレンくん」
「いえ…」

「ただ~いまっ!」

突然扉が勢いよく開いたと思ったら、そう可愛らしい声が室内に響いた。
「ちょっとよそうがいのところにあったからてまどっちゃった…あ、でも…あるいみよそうどうりかな」
楽しそうに話すレイが後ろ手に隠していたものに、僕達は驚くしかなかった。
装飾が美しい黒いボディに、しなやかな弓…

「それ…レイの対アクマ武器の!!」

レイが持っていたのは、“音ノ鎖”だった。
「こっそりかりてきちゃった♪はやくしないとカモフラージュでおいてきたものがきえちゃうから、いそがないと!」
「急ぐって何を?!」
「きいててね」
そう言って音ノ鎖を構えたレイに、思わず不安が過ぎる。
「だ、大丈夫なんですか?」
レイに”適合しているとはいえ、これは…

「つかいこなせはしないとおもうけど…黒いレイにつかえたならわたしも少しくらいはつかえるはずだよ」

“たぶん”とレイは弾き始めた。
響きわたるヴァイオリンの音色…少しぎこちないけど優しい旋律は、聞いた事の無いものだった。
「これ…!」
「リナリー、知ってるんですか?」
「ぁ…うん、これレイの能力の一つよ…対アクマ武器“音ノ鎖”の能力は“音が届く範囲のモノの操作・破壊”なんだけど、操作能力には一つだけアクマには使えないものがあるの」
「それがこの曲…?」


「“守護者”治癒能力なの」


瞬間、レイはピタリと弾くのを止めてしまった。
「ぁ…ごめんなさい、うるさかった?」
「ううん、ちがうの」
レイが首を横に振るのと同時に、音ノ鎖はパンッと音を立てて弾け、光りの粒となって消えた。
「音ノ鎖が!!」
「だいじょうぶ。じかんになっちゃったから元あったばしょにもどっちゃっただけ」
「元の場所って一体ど…」

「ケガ、すこしはよくなった?」

不安そうにそう聞かれて慌てて確認すると、疲労感や前と変わらない傷もあったが、浅い傷はすっかり塞がって傷があったかも分からない様に綺麗になっていた。
「随分楽になったわ、レイ
「ありがとうございま…」
そう口にしながら顔を上げた先には、もうレイの姿は無かった。



レイ?」



貴女は一体──…



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