第3章 封印された箱
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69
ひらりひらり…
無数の白い花弁が舞い散る。
香りでその花弁がバラのものだと分かった。
ティキを抱き込む様に抱えていた少女は、伏せていた顔を上げると、そっとティキの頬に触れた。
長いゆるくウェーブのかかった黒髪に漆黒の瞳。
額に聖痕が刻まれた褐色の肌。
上品な黒いドレスを身に纏ったその顔は…
どこからどう見ても…
私達の仲間だった。
=知らない君=
「レイ、その子は快楽のノア、ティキ・ミックですヨ♡」
“ウフフ♡”と飛び跳ねる千年伯爵の言葉に、レイはそっとティキの額に頬を寄せると目を閉じた。
『ティキ…ボロボロ』
「そうですネ」
目の前にレイがいる。
でも何故か…
どうしても声を掛けられなかった。
「よお、久しぶりだなレイ」
少し気の抜けた声に反応して体を起こしたレイは、クロス元帥に顔を向けた。
肩を叩く様に銃を担いだクロス元帥は何を考えているのかさっぱり分からない。
「何でお前、そっちにいるんだ?」
怒っているかの様な低い声…
私には判別がつかないそれをどう感じているかは分からないが、レイはティキを伯爵に預けると、すっと立ち上がった。
『許さない』
「あ?」
眉を潜めたクロスは同時にそう短く声を発した。
一方俯いたレイは、コツコツとヒールの音を立てながら数歩前へと歩み出た。
『スキンを消滅させただけでなく、ロードとティキも傷付けて…ジャスデビまで』
「レイ、お前…」
『殺す』
そう言うのと同時に上げられたレイの顔を見た私は、思わず息を呑んだ。
笑った顔や悲しそうな顔、真剣な顔…私が知っているどれとも違うその表情は…どうして…
「いじられたか」
そう洩らしたクロス元帥の言葉の意味が私には分からなかった。
「マリア!」
「レイ!♡」
クロスと伯爵。二人が叫ぶのは同時だった。
瞬間、弾かれた様にクロスの対アクマ武器“聖母ノ柩 ”であるマリアが歌い出し、同時に右手を前へと突き出した。レイを淡くブルーに光る球体が囲んだ。
『無理だよ。ここでは私の方が有利だもの』
そのレイの言葉の通り、暫くすると何も起こる事無くマリアの歌が止み、クロスは不機嫌そうに眉を寄せた。
レイが腕を降ろすと、レイを囲む球体は一瞬にして消え去った。
『はい、終わり。何ならその銃で撃ってみたら?』
“無駄だと思うけどぉ”とクスクス笑うレイを見て、漸くクロス元帥の言っていた“いじられた”の意味が分かった。
違和感の意味も…レイはもう一つの家族であるノアを傷付けられて怒ってるんじゃない。
レイは…
「レイ!!」
声を上げたのはラビだった。
聞いていられなかったのか、見ていられなかったのか…
どちらにせよラビはレイに確かめる事にしたのだ。
『あぁ、無視してごめんね…』
ラビも分かっている筈なのに。
レイは…
「レイ、何やってるんさ…ユウとクロちゃん拾って帰るさ!」
『どこに?』
私達のレイは…
『お前なんかと行く所なんて無いよ、エクソシスト』
もうどこにも存在しない。
「……本当に…分からないんか?」
私達の知ってるレイは存在しない。
レイの中に…私達は存在しない。
「俺さ…ラビさ!!」
『ラビ?』
「そうさ、レイ!いつもみたいに俺んとこ来てさ!」
いつもの様に…レイがラビの広げた腕に収まる事は無かった。
『チィ、アイツ何言ってんの?』
「さァ?♡」
愉快そうに笑う伯爵が腹立たしかった。
「じゃあ、目的は?!アクマを全部破壊するっつったじゃねぇか!」
『チィの玩具 を壊す?』
そう呟いたレイは次の瞬間、一瞬でラビとの間をつめると、その首を鷲掴みにして締め上げた。
『シャールを壊しただけじゃ足りなくて、ユエやアグスティナまで私から奪うの?』
「ガ…ァ……グ、ゥ」
「レイ、何するんですか!」
アレンくんがそう声を上げた。
しかしレイは止める様子も無く…次の瞬間には、ラビを掴んだままチャオジーの目の前へと立った。
「へ…」
「レイ…レイ、止めて!!!」
「チャオジー!!」
『人間も邪魔』
私の声も、伸ばした腕も届かず…
レイは一瞬でチャオジーを床の割れ目から奈落へと蹴り落とし、ラビを同じ所へポイッと捨てた。
アレンくんの手がラビの槌を掴んだが、ダメージを受け過ぎたそれは音もなく崩れ去り、二人は奈落へと消え去った。
「嘘…でしょ?」
「何でこんな事…」
「レイ」
私に向かって歩き出したレイは、伯爵に声を掛けられてピタリと動きを止めた。
「ティキポンが心配デス、ティキポンを連れて先に帰ってて下さイ♡
あぁ、部屋につれてっちゃダメですよ、ルル=ベルに引き渡しなさイ♡」
『でも…』
「コイツ等は死にますヨ、どうせ出られないんデスから♡」
『……分かった』
レイは伯爵に歩み寄ると、ティキを受け取って左肩に担ぎ、両手でしっかりと抱き締めた。
『さすがにちょっと重いかな』
「大丈夫ですカ?♡」
『問題無いよ~じゃあ…先帰るね、チィ』
「あぁ、挨拶なさイ♡」
レイは私達を振り返ると、左腕で肩に乗ったティキを支え、右手でドレスの裾を摘んで軽く頭を下げた。
『さようなら、エクソシスト』
レイはティキを担ぎ、ドレスの裾を摘んだ状態のまま、床に沈む様にして消え去った。
残された伯爵は“ウフフ♡”と嬉しそうに笑いながら首を傾げた。
「さて、会うのは何年ぶりでしょうかネェ♡」
「…さぁな、デブと会った日なんていちいち日記に記してない」
「その言い方は~我輩とよく会ってるように聞こえますネェ♡隠れんぼ~のクロスちゃ~ン♡」
挑発的な言葉に、クロス元帥は何の反応も示さなかった。
それよりも気になるのは床に膝を付いて奈落を見続けているアレンくんだった…
「そこのご婦人の小賢しい能力は我輩達の目から貴方を消してしまいますからねェ♡借金取りからもそうやって逃げてるんでしょウ?♡」
「はっはっはっ」
そう笑ったクロスは、同時に銃で伯爵の足許の瓦礫を撃ち、粉砕した。
一方足場を崩されて飛び上がった伯爵は、近くの床へと着地する。
「貴様のトロいしゃべりにつき合う気分じゃない。冷やかしなら出ていけ」
「“出ていけ”?これはこれは!ここは我輩の方舟ですガ♡」
「捨てたんだろ」
そう言うクロスの言葉に、伯爵はピクリと肩を震わせて動きを止めた。
「この方舟 は江戸から飛び立つ翼を奪われたアヒル舟…“14番目”ノアを裏切った男の呪いがかかったあの日からな」
「やはり…貴方でしたカ♡」
伯爵の形相に、今度はリナリーがビクリと肩を震わせた。
冷や汗を流しながらごくりと唾を飲み込む。
「貴方ですか、あの男に…“14番目”に資格を与えられた“奏者”ハ♡」
「奏者…?」
14番目…奏者…?
何それ…
「何をしに来たんです?この舟を奪いに来たのなら遅すぎましたネェ♡すでにこの舟の“心臓”は新しい方舟に渡りましタ♡
“心臓”がなくては舟は操れない。奏者であっても何もできませン♡」
方舟を操るには奏者の資格が必要?
そもそも舟に心臓って一体…
「愚かですねェ、クロス♡二度と出れないとも知らずニ…フフ♡」
クロス元帥は何をしに方舟へ?
資格を持ってるなら何で直ぐに出てこなかったの…?
分からない。
「この方舟は最後にエクソシストの血を吸う柩となるのですヨ♡」
もしも…もしもクロウリーや神田、ラビ、チャオジーが戻らなかったら?
彼らと引き換えにクロス元帥は何を…
「く……そっ」
伯爵が“ホッホッホッホッ♡”と笑う中、それは直ぐ隣から聞こえた。
「くそ…っ」
隣を見ると、アレンくんがボタボタと血を流しながら立ち上がっていた。
どう見ても限界だった。
「これ以上は…体のキズが…ッ、アレンくん!!?」
リナリーが言い終わらないうちにアレンは飛び出した。
「ラビ、チャオジー…クロウリー、神田…ッ!!」
左手を剣に変えながら突っ込むアレンは無謀としか言いようが無かった。
「ッ…伯爵ぅぅぅ!!!」
大剣である己の剣をアレンが振り下ろした瞬間、目を見開いた伯爵は、自分の剣を出してアレンのそれを受け止めた。
「我輩の剣…!?」
しかしそれは一瞬の事で、自分の顔にアレンの血が垂れたのに気付いた伯爵は、アレンの顔を見ると、ニヤリと笑った。
「“憎悪”…イイ瞳だアレン・ウォーカ〜♡」
「レイに何をした!!」
「ホッホッホッ♡」
楽しそうに笑った伯爵は、アレンを振り払うと、自ら奈落へと真っ逆様に落ちていった。
「レイを…皆を元に戻せ!!」
後を追って飛び降りたアレンにリナリーは手を伸ばしたが、それが届く事は無かった。
「アレンくん!!」
伯爵の後を追ったアレンの右腕は、ふと剣を岩肌ともよべる瓦礫に突き立ててその身を空中で停止させた。
「体が勝手に…ッ、マリアの能力か…!」
「やめろ。仲間に死なれて頭に血がのぼったか、馬鹿弟子」
降り注ぐクロスの声に、アレンはキッと上を睨み付けた。
「マリアの術を解いて下さい、師匠!伯爵を…」
「嫌でも這い上がってこい、憎しみで伯爵と戦うな」
言葉に詰まったアレンは、ギリッと歯を噛み合わせると大人しく崖を這い上ってきた。
「アレンくん…」
「立て、お前に手伝わせる為にノアから助けてやったんだ」
「……てつだう…?」
「クロス元帥…何をするんですか…?」
「任務だ」
兄さん…
割り切れない気持ちは…
どうしたら良いかな──…?
ひらりひらり…
無数の白い花弁が舞い散る。
香りでその花弁がバラのものだと分かった。
ティキを抱き込む様に抱えていた少女は、伏せていた顔を上げると、そっとティキの頬に触れた。
長いゆるくウェーブのかかった黒髪に漆黒の瞳。
額に聖痕が刻まれた褐色の肌。
上品な黒いドレスを身に纏ったその顔は…
どこからどう見ても…
私達の仲間だった。
=知らない君=
「レイ、その子は快楽のノア、ティキ・ミックですヨ♡」
“ウフフ♡”と飛び跳ねる千年伯爵の言葉に、レイはそっとティキの額に頬を寄せると目を閉じた。
『ティキ…ボロボロ』
「そうですネ」
目の前にレイがいる。
でも何故か…
どうしても声を掛けられなかった。
「よお、久しぶりだなレイ」
少し気の抜けた声に反応して体を起こしたレイは、クロス元帥に顔を向けた。
肩を叩く様に銃を担いだクロス元帥は何を考えているのかさっぱり分からない。
「何でお前、そっちにいるんだ?」
怒っているかの様な低い声…
私には判別がつかないそれをどう感じているかは分からないが、レイはティキを伯爵に預けると、すっと立ち上がった。
『許さない』
「あ?」
眉を潜めたクロスは同時にそう短く声を発した。
一方俯いたレイは、コツコツとヒールの音を立てながら数歩前へと歩み出た。
『スキンを消滅させただけでなく、ロードとティキも傷付けて…ジャスデビまで』
「レイ、お前…」
『殺す』
そう言うのと同時に上げられたレイの顔を見た私は、思わず息を呑んだ。
笑った顔や悲しそうな顔、真剣な顔…私が知っているどれとも違うその表情は…どうして…
「いじられたか」
そう洩らしたクロス元帥の言葉の意味が私には分からなかった。
「マリア!」
「レイ!♡」
クロスと伯爵。二人が叫ぶのは同時だった。
瞬間、弾かれた様にクロスの対アクマ武器“
『無理だよ。ここでは私の方が有利だもの』
そのレイの言葉の通り、暫くすると何も起こる事無くマリアの歌が止み、クロスは不機嫌そうに眉を寄せた。
レイが腕を降ろすと、レイを囲む球体は一瞬にして消え去った。
『はい、終わり。何ならその銃で撃ってみたら?』
“無駄だと思うけどぉ”とクスクス笑うレイを見て、漸くクロス元帥の言っていた“いじられた”の意味が分かった。
違和感の意味も…レイはもう一つの家族であるノアを傷付けられて怒ってるんじゃない。
レイは…
「レイ!!」
声を上げたのはラビだった。
聞いていられなかったのか、見ていられなかったのか…
どちらにせよラビはレイに確かめる事にしたのだ。
『あぁ、無視してごめんね…』
ラビも分かっている筈なのに。
レイは…
「レイ、何やってるんさ…ユウとクロちゃん拾って帰るさ!」
『どこに?』
私達のレイは…
『お前なんかと行く所なんて無いよ、エクソシスト』
もうどこにも存在しない。
「……本当に…分からないんか?」
私達の知ってるレイは存在しない。
レイの中に…私達は存在しない。
「俺さ…ラビさ!!」
『ラビ?』
「そうさ、レイ!いつもみたいに俺んとこ来てさ!」
いつもの様に…レイがラビの広げた腕に収まる事は無かった。
『チィ、アイツ何言ってんの?』
「さァ?♡」
愉快そうに笑う伯爵が腹立たしかった。
「じゃあ、目的は?!アクマを全部破壊するっつったじゃねぇか!」
『チィの
そう呟いたレイは次の瞬間、一瞬でラビとの間をつめると、その首を鷲掴みにして締め上げた。
『シャールを壊しただけじゃ足りなくて、ユエやアグスティナまで私から奪うの?』
「ガ…ァ……グ、ゥ」
「レイ、何するんですか!」
アレンくんがそう声を上げた。
しかしレイは止める様子も無く…次の瞬間には、ラビを掴んだままチャオジーの目の前へと立った。
「へ…」
「レイ…レイ、止めて!!!」
「チャオジー!!」
『人間も邪魔』
私の声も、伸ばした腕も届かず…
レイは一瞬でチャオジーを床の割れ目から奈落へと蹴り落とし、ラビを同じ所へポイッと捨てた。
アレンくんの手がラビの槌を掴んだが、ダメージを受け過ぎたそれは音もなく崩れ去り、二人は奈落へと消え去った。
「嘘…でしょ?」
「何でこんな事…」
「レイ」
私に向かって歩き出したレイは、伯爵に声を掛けられてピタリと動きを止めた。
「ティキポンが心配デス、ティキポンを連れて先に帰ってて下さイ♡
あぁ、部屋につれてっちゃダメですよ、ルル=ベルに引き渡しなさイ♡」
『でも…』
「コイツ等は死にますヨ、どうせ出られないんデスから♡」
『……分かった』
レイは伯爵に歩み寄ると、ティキを受け取って左肩に担ぎ、両手でしっかりと抱き締めた。
『さすがにちょっと重いかな』
「大丈夫ですカ?♡」
『問題無いよ~じゃあ…先帰るね、チィ』
「あぁ、挨拶なさイ♡」
レイは私達を振り返ると、左腕で肩に乗ったティキを支え、右手でドレスの裾を摘んで軽く頭を下げた。
『さようなら、エクソシスト』
レイはティキを担ぎ、ドレスの裾を摘んだ状態のまま、床に沈む様にして消え去った。
残された伯爵は“ウフフ♡”と嬉しそうに笑いながら首を傾げた。
「さて、会うのは何年ぶりでしょうかネェ♡」
「…さぁな、デブと会った日なんていちいち日記に記してない」
「その言い方は~我輩とよく会ってるように聞こえますネェ♡隠れんぼ~のクロスちゃ~ン♡」
挑発的な言葉に、クロス元帥は何の反応も示さなかった。
それよりも気になるのは床に膝を付いて奈落を見続けているアレンくんだった…
「そこのご婦人の小賢しい能力は我輩達の目から貴方を消してしまいますからねェ♡借金取りからもそうやって逃げてるんでしょウ?♡」
「はっはっはっ」
そう笑ったクロスは、同時に銃で伯爵の足許の瓦礫を撃ち、粉砕した。
一方足場を崩されて飛び上がった伯爵は、近くの床へと着地する。
「貴様のトロいしゃべりにつき合う気分じゃない。冷やかしなら出ていけ」
「“出ていけ”?これはこれは!ここは我輩の方舟ですガ♡」
「捨てたんだろ」
そう言うクロスの言葉に、伯爵はピクリと肩を震わせて動きを止めた。
「この
「やはり…貴方でしたカ♡」
伯爵の形相に、今度はリナリーがビクリと肩を震わせた。
冷や汗を流しながらごくりと唾を飲み込む。
「貴方ですか、あの男に…“14番目”に資格を与えられた“奏者”ハ♡」
「奏者…?」
14番目…奏者…?
何それ…
「何をしに来たんです?この舟を奪いに来たのなら遅すぎましたネェ♡すでにこの舟の“心臓”は新しい方舟に渡りましタ♡
“心臓”がなくては舟は操れない。奏者であっても何もできませン♡」
方舟を操るには奏者の資格が必要?
そもそも舟に心臓って一体…
「愚かですねェ、クロス♡二度と出れないとも知らずニ…フフ♡」
クロス元帥は何をしに方舟へ?
資格を持ってるなら何で直ぐに出てこなかったの…?
分からない。
「この方舟は最後にエクソシストの血を吸う柩となるのですヨ♡」
もしも…もしもクロウリーや神田、ラビ、チャオジーが戻らなかったら?
彼らと引き換えにクロス元帥は何を…
「く……そっ」
伯爵が“ホッホッホッホッ♡”と笑う中、それは直ぐ隣から聞こえた。
「くそ…っ」
隣を見ると、アレンくんがボタボタと血を流しながら立ち上がっていた。
どう見ても限界だった。
「これ以上は…体のキズが…ッ、アレンくん!!?」
リナリーが言い終わらないうちにアレンは飛び出した。
「ラビ、チャオジー…クロウリー、神田…ッ!!」
左手を剣に変えながら突っ込むアレンは無謀としか言いようが無かった。
「ッ…伯爵ぅぅぅ!!!」
大剣である己の剣をアレンが振り下ろした瞬間、目を見開いた伯爵は、自分の剣を出してアレンのそれを受け止めた。
「我輩の剣…!?」
しかしそれは一瞬の事で、自分の顔にアレンの血が垂れたのに気付いた伯爵は、アレンの顔を見ると、ニヤリと笑った。
「“憎悪”…イイ瞳だアレン・ウォーカ〜♡」
「レイに何をした!!」
「ホッホッホッ♡」
楽しそうに笑った伯爵は、アレンを振り払うと、自ら奈落へと真っ逆様に落ちていった。
「レイを…皆を元に戻せ!!」
後を追って飛び降りたアレンにリナリーは手を伸ばしたが、それが届く事は無かった。
「アレンくん!!」
伯爵の後を追ったアレンの右腕は、ふと剣を岩肌ともよべる瓦礫に突き立ててその身を空中で停止させた。
「体が勝手に…ッ、マリアの能力か…!」
「やめろ。仲間に死なれて頭に血がのぼったか、馬鹿弟子」
降り注ぐクロスの声に、アレンはキッと上を睨み付けた。
「マリアの術を解いて下さい、師匠!伯爵を…」
「嫌でも這い上がってこい、憎しみで伯爵と戦うな」
言葉に詰まったアレンは、ギリッと歯を噛み合わせると大人しく崖を這い上ってきた。
「アレンくん…」
「立て、お前に手伝わせる為にノアから助けてやったんだ」
「……てつだう…?」
「クロス元帥…何をするんですか…?」
「任務だ」
兄さん…
割り切れない気持ちは…
どうしたら良いかな──…?