第3章 封印された箱
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「扉があっても自分だけ入らない気でいる?」
「さすが…」
ラビが扉の安否を確かめに行っている時にまさかと思って口にした一言。
それに驚いた顔をしたアレンくんがそう言った瞬間、私は思わずアレンくんを殴った。
「“さすが”じゃない!」
この崩壊の中、二人を探しに行くなんて正気じゃない。
ましてや一人でなんて…
「神田とクロウリーがどこかで足止めをくってるかもしれません。師匠の事も気になりますし…方舟が崩壊する前にふたりを探しに戻ります」
でもアレンくんがそう言う理由は分かっていた。
「リナリー達は先にレイの所へ」
私は足手纏いだ…
チャオジーはエクソシストじゃないし、ラビは限界までボロボロな挙げ句自らその身を焼いた。
「この中で僕が一番まだ動ける。扉の向こうでは…ラビもいますし、レイに会えればレイが助けてくれる」
そして今の私はイノセンスを持たない唯の足を負傷した人間だ。
「辛い事言ってるのはわかってます。でも聞いてください」
足手纏い以外のなにものでもない事は分かっていたし、何より…
「ひどいって思ってるよ…」
何より…私は分かっていた。
「アレンくんはいっつもそうやって笑う…ッ、人がどんな気持ちになってるかわかってて笑うんだから…!」
笑顔が優しいこの人は、酷く残酷だ。
全て分かっていて…それでも宥める様に優しく微笑むのだから…
「でもね…」
「…はい」
「私がアレンくんの考えてることがわかったのは私が……私がアレンくんと今同じ立場だったら同じことをすると思うから」
だって私は誰も置いて行きたくない。
神田とクロウリーと…レイと…
「ホームにみんなで帰りたいもの…っ」
=緋色の神父=
時が止まれば良いと…
何度思った事だろう──…
『クロス~もうご飯出来るよぉ?』
そう声を掛けられて、ティムキャンピーの接続を切ったクロスは、長い緋色の髪を掻き上げた。
エプロン姿でクロスの部屋に入って来たレイは不思議そうにティムキャンピーを突っつく。
『何見てたの?』
「秘密」
『……えっちなやつ?』
「何言ってんだ、お前」
『だって、ポールおじさんが“男がこっそり見るっつったらなぁ、決まってんだろ”って』
あのクソ管理人…何も知らねぇ箱入りのガキに何教えてんだ。
「後でしめるか」
『え、止めてよ!』
「あぁ、はいはい」
変な事ばっか覚えたらどうしようか。
絶対あいつに怒られるよなぁ…
『何の話?』
噂をすれば、だ。
長い銀髪を一つに結った緋眼の美女…
質素な服に身を包んだ──は、わざとコツコツとヒールの音をさせて歩み寄ってくる。
こいつはこう普通の人間のふりばかりしたがる。
ふぅと短い溜め息と共に、座っていた椅子の背に寄り掛かったクロスの首に腕を回したレイは、クロスに後ろから抱き付いた。
『食事時以外のお酒の量減らそっかって話♪』
何言ってんだこいつ。
俺がそう思うよりも早く“あら”と声をもらした──は、ニッコリと微笑んだ。
『いっそ禁酒するっていう手もあるわよ、健康の為に』
「勘弁しろよ」
『お酒無かったらクロス、逆に死んじゃうと思うよ』
「その通りだ」
クスクスと小さく笑った──は、レイの頭を一撫でした。
『レイ、先に行って盛り付け終わらせちゃって』
『は~い』
楽しそうに駆けて行ったレイは、とても小一時間程前まで修行で半泣きだった奴には見えない。
『あの子は元気にしてる?』
そう言って先程までレイがしていた様に俺に抱き付いた──は、つんっとティムキャンピーを突っついた。
「あぁ、相変わらずだな」
ティムキャンピーが映し出す映像に、──が小さく息を洩らしたのが聞こえた。
『…幸せそうね』
「…そうだな」
『あの子には…このままでいてほしいわ』
「……」
『願わくば…ね』
いつか壊れると分かっているそれを見るのは…辛い。
いつか壊れると分かっているのにこうして甘い生活に浸るのも…
だが全て…このままではいられない事は既に決まっている。
あいつはある意味では自分の望んだ…
ある意味では全く望んでなかった運命を辿る事になる。
そしてレイも…
『ねぇ、クロス…』
分かってはいるけど、こうして甘い時間を過ごしてしまった今…
『いけない事だとは分かっているけど』
どうしても甘えが出てくる。
『私は今が大好きよ』
「あぁ」
俺はずっとここにいたい。
いつか消えると分かっている女を追うよりも…
あいつ等を不幸に落とすよりも…
今が続けばそれで……
時が…
時が止まれば…
「師匠ぉ──!!!」
そうアレンに声を掛けられて、クロスは我に返った。
揺れる世界が迫った終わりを告げている…
「時刻か…」
どうもこの中にいると感傷に浸って仕方無い。
理由が分かっているから尚の事…
「急がないと間に合わねぇな」
クロスは、降ろしていた装備型対アクマ銃“断罪者 ”を握った右手をティキに向けた。
瞬間、床から吹き上がる様な爆発が起き、バランスを崩したクロスは、体勢を整え、銃を構え直した先の光景に目を見開いた。
巻き上がる爆風…
舞い上がる無数の白い花弁…
見慣れたデブの隣でティキを抱えて座り込む少女…
俯く長いゆるくウェーブのかかった黒髪の先の懐かしい顔は…
珍しく大事にしたモノの一つだった──…
「扉があっても自分だけ入らない気でいる?」
「さすが…」
ラビが扉の安否を確かめに行っている時にまさかと思って口にした一言。
それに驚いた顔をしたアレンくんがそう言った瞬間、私は思わずアレンくんを殴った。
「“さすが”じゃない!」
この崩壊の中、二人を探しに行くなんて正気じゃない。
ましてや一人でなんて…
「神田とクロウリーがどこかで足止めをくってるかもしれません。師匠の事も気になりますし…方舟が崩壊する前にふたりを探しに戻ります」
でもアレンくんがそう言う理由は分かっていた。
「リナリー達は先にレイの所へ」
私は足手纏いだ…
チャオジーはエクソシストじゃないし、ラビは限界までボロボロな挙げ句自らその身を焼いた。
「この中で僕が一番まだ動ける。扉の向こうでは…ラビもいますし、レイに会えればレイが助けてくれる」
そして今の私はイノセンスを持たない唯の足を負傷した人間だ。
「辛い事言ってるのはわかってます。でも聞いてください」
足手纏い以外のなにものでもない事は分かっていたし、何より…
「ひどいって思ってるよ…」
何より…私は分かっていた。
「アレンくんはいっつもそうやって笑う…ッ、人がどんな気持ちになってるかわかってて笑うんだから…!」
笑顔が優しいこの人は、酷く残酷だ。
全て分かっていて…それでも宥める様に優しく微笑むのだから…
「でもね…」
「…はい」
「私がアレンくんの考えてることがわかったのは私が……私がアレンくんと今同じ立場だったら同じことをすると思うから」
だって私は誰も置いて行きたくない。
神田とクロウリーと…レイと…
「ホームにみんなで帰りたいもの…っ」
=緋色の神父=
時が止まれば良いと…
何度思った事だろう──…
『クロス~もうご飯出来るよぉ?』
そう声を掛けられて、ティムキャンピーの接続を切ったクロスは、長い緋色の髪を掻き上げた。
エプロン姿でクロスの部屋に入って来たレイは不思議そうにティムキャンピーを突っつく。
『何見てたの?』
「秘密」
『……えっちなやつ?』
「何言ってんだ、お前」
『だって、ポールおじさんが“男がこっそり見るっつったらなぁ、決まってんだろ”って』
あのクソ管理人…何も知らねぇ箱入りのガキに何教えてんだ。
「後でしめるか」
『え、止めてよ!』
「あぁ、はいはい」
変な事ばっか覚えたらどうしようか。
絶対あいつに怒られるよなぁ…
『何の話?』
噂をすれば、だ。
長い銀髪を一つに結った緋眼の美女…
質素な服に身を包んだ──は、わざとコツコツとヒールの音をさせて歩み寄ってくる。
こいつはこう普通の人間のふりばかりしたがる。
ふぅと短い溜め息と共に、座っていた椅子の背に寄り掛かったクロスの首に腕を回したレイは、クロスに後ろから抱き付いた。
『食事時以外のお酒の量減らそっかって話♪』
何言ってんだこいつ。
俺がそう思うよりも早く“あら”と声をもらした──は、ニッコリと微笑んだ。
『いっそ禁酒するっていう手もあるわよ、健康の為に』
「勘弁しろよ」
『お酒無かったらクロス、逆に死んじゃうと思うよ』
「その通りだ」
クスクスと小さく笑った──は、レイの頭を一撫でした。
『レイ、先に行って盛り付け終わらせちゃって』
『は~い』
楽しそうに駆けて行ったレイは、とても小一時間程前まで修行で半泣きだった奴には見えない。
『あの子は元気にしてる?』
そう言って先程までレイがしていた様に俺に抱き付いた──は、つんっとティムキャンピーを突っついた。
「あぁ、相変わらずだな」
ティムキャンピーが映し出す映像に、──が小さく息を洩らしたのが聞こえた。
『…幸せそうね』
「…そうだな」
『あの子には…このままでいてほしいわ』
「……」
『願わくば…ね』
いつか壊れると分かっているそれを見るのは…辛い。
いつか壊れると分かっているのにこうして甘い生活に浸るのも…
だが全て…このままではいられない事は既に決まっている。
あいつはある意味では自分の望んだ…
ある意味では全く望んでなかった運命を辿る事になる。
そしてレイも…
『ねぇ、クロス…』
分かってはいるけど、こうして甘い時間を過ごしてしまった今…
『いけない事だとは分かっているけど』
どうしても甘えが出てくる。
『私は今が大好きよ』
「あぁ」
俺はずっとここにいたい。
いつか消えると分かっている女を追うよりも…
あいつ等を不幸に落とすよりも…
今が続けばそれで……
時が…
時が止まれば…
「師匠ぉ──!!!」
そうアレンに声を掛けられて、クロスは我に返った。
揺れる世界が迫った終わりを告げている…
「時刻か…」
どうもこの中にいると感傷に浸って仕方無い。
理由が分かっているから尚の事…
「急がないと間に合わねぇな」
クロスは、降ろしていた装備型対アクマ銃“
瞬間、床から吹き上がる様な爆発が起き、バランスを崩したクロスは、体勢を整え、銃を構え直した先の光景に目を見開いた。
巻き上がる爆風…
舞い上がる無数の白い花弁…
見慣れたデブの隣でティキを抱えて座り込む少女…
俯く長いゆるくウェーブのかかった黒髪の先の懐かしい顔は…
珍しく大事にしたモノの一つだった──…