第3章 封印された箱
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58
白い薔薇と赤いリボン…
一瞬見えたテラスから身を乗り出した君が…
天使に見えた。
汚い人間と汚れた世界…
戦争しか知らなかったのに…
その瞬間だけ。
その一瞬だけ…
信じられないくらいに…
胸が高鳴った──…
=双子の王子=
デロは…デロが嫌いだ。
「早く来いよ、ジャスデロ~」
先を進むデビットがそう言った。
こっちを振り向いて急かすデビットに、休みたいという意思表示の為その場にしゃがみ込んだ。
「デロ疲れたよ、デビ~」
裏庭に落ちてた髪飾りをデビットが見付けてから何時間経っただろうか?
あれからずっと、持ち主を探す為に庭を歩き回っている。
「デビ~もう良いんじゃない?もしかしたらアクマのかもしれねーよ、ヒヒヒ」
だとしたら笑える。
アクマを探しまくるデビットって…考えただけで面白い。
「んなワケ無ぇだろ…お前最近、髪まで飾った人間気触れの奴見たか?」
そう言われると…困る。
屋敷内でそんなアクマ…最近は見た事が無い。
過去にだって二体程度だ。
と、なると残りはノアだけど…
「ロードとルル=ベルがこんな髪飾り付けると思うかぁ?」
「ヒヒ、無い!」
「だろ?!」
自分のジャケットのファーに付けた髪飾りを指でつついたデビットに思わず即答した。
ロードはパーティーとかで付けるかも知れないけど…ルル=ベルは絶対に無い!
ルル=ベルの髪に付いてるのなんかリボンくらいだ。
「でも他に付ける人なんて…」
そこまで話して口を閉じた。
何かが視界を上から下へと一瞬遮ったのだ。
不思議に思って足元を見ると、白い薔薇が落ちていた。
「薔薇?」
白薔薇を手に上を向くと、空から降ってくる赤い細長い布越しに、一瞬だけ長い黒髪の女の子が見えた。
…………………ん?
空いた左手で落ちてきた布をキャッチしたジャスデロは首を傾げた。
「デビ、今の見た?」
「見た」
「薔薇が落ちてきたよ」
「そうだな」
「リボンも落ちてきた」
「そうだな」
「女の子…だったよね?」
「女だったな」
「あそこ立ち入り禁止の部屋で鍵掛かってる筈だよね」
「そうだな」
「ノア…だったよね?」
「ノアだったな」
見合った状態でピタリと黙り込んだデビットとジャスデロは、次の瞬間“ええぇえぇぇぇ?!!”と声を揃えて叫んだ。
「今の誰誰誰誰?!!」
「知っらねぇよ!見た事無い奴だった!!」
立ち上がったジャスデロと、ジャスデロに駆け寄ったデビット…
二人はニヤリと口角を上げて笑うと、窓枠や柱を足場に少女が居たテラスへと飛び上がり…そして言葉を失った。
ウェーブの掛かった長い艶やかな黒髪に、そこに挿した無数の白い薔薇。黒い瞳を縁取った長い睫、白い肌とすらりとのびた細い腕…
白黒のドレスを纏った少女が目を丸くして大きなベッドに腰掛けていた。
「ぁ…」
話し掛けようと声を洩らした瞬間だった。
少女と向き合う様に立っていた銀髪のアクマが、ツカツカと歩み寄ってきて窓とカーテンを凄い速さで閉めた。
閉め出された。
「んだ、テメェ!!!」
「ジャスデビ閉め出されたよ!」
「アクマのクセに良い度胸だなこの野郎!」
「ヒヒ、ぶっ壊すぞコラ!!」
アクマにしてやられた事に苛ついたデビットとジャスデロが取り出した銃を窓に向けた瞬間だった…小さな手がカーテンの隙間から出てきて端を掴み、先程一瞬だけ見えた少女が顔を出した。
そしてそっと、窓が数センチだけ開いた。
『貴方達、誰?』
「デビット」
「ジャスデロ!」
『デビット…ジャスデロ?』
「お前の名前は?」
『…レイ』
「レイ、お前ノアだろ?」
「ヒヒ、デロ達は“絆”のノアなんだよ!二人で一人、ジャスデビだ!」
『絆…ジャスデビ…』
そう言って、少しの間黙り込んだ少女…レイは、次の瞬間、窓を大きく開いた。
「レイ!!!」
中から男の声がしたが、レイは気にせずにその姿を変えた。
白い肌が褐色に、額に聖痕が浮かび上がる。
『ノアだよ…ノアのレイ…レイ・アストレイ』
そう言って先程していた様にベッドに腰掛けたレイに、青年は顔色を青く染めた。
「レイ、何て事をするんだ!」
『でもユエ…』
「“でも”じゃ無い!お前が勝手な事をしては…」
そこまで口にして、青年はピタリと話すのを止めた。
デビットとジャスデロが素早く青年に向けた銃がそれぞれ“カチャ…”っと音を立てたからだった。
「……どういうおつもりですか…ジャスデビ様」
「“どういうつもりだ”じゃねぇよ」
「ヒ、怖いもの知らずだね」
「さっきから何々だテメェ…アクマ如きがごちゃごちゃ口挟むんじゃねぇよ」
「ヒヒ、壊しちゃえ♪」
『やめて…』
瞬間、青年ユエを庇う様に両腕を広げて立ちはだかったレイに、デビットは不機嫌そうに眉を寄せた。
「何で庇うんだよ」
アクマを庇うノアなんて初めて見た。
何で千年公の玩具であるアクマを…
『ユエはチィの言い付けを護ってるだけよ』
「チィ?」
『千年公』
“チィ”とは千年公のあだ名らしい。
レイは小さくニコリと微笑むと、ベッドに再度腰掛けた。
『チィは私を誰にも会わせたくないの』
レイがそう話し出すとユエは何かを諦めた様で、数歩後退ると目を閉じた。
『この部屋から出ちゃいけないし、ここに入れるのはチィとロード、レロと護衛アクマのユエとシャールだけなの』
“まぁ時々抜け出すけど”と言って可笑しそうに笑ったレイは、少しだけ悲しそうな顔をして“いつも屋敷の敷地内で見付かっちゃうけど”とも言った。
その時、頭を過ぎった言葉…
それはデビットと一緒だったと思う。
“パンドラの箱”
いつの日かティキが言ってた言葉だ。
“絶対に開けてはならないあの部屋はパンドラの箱だ…中は酷く気になるが、見たら千年公の罰という不幸が訪れる”
確かそう言っていた。
「不幸なんかハネ退ける上玉だ」
そう小さく呟いたデビットの言葉で確信を得た。やっぱり同じ事を考えていた。
デビットはファーに付けていた髪飾りを取ると、レイに差し出した。
「これ、レイのか?」
『どこにあったの?!』
少し曇った表情を一変させて飛び上がったレイに、デビットは得意げに笑った。
「裏庭の奥の方だな」
『ありがとう!ユエに貰った大事なものなの』
安心した様に笑うレイと、それを見て微かに微笑むユエ。
二人はノアとアクマには見えなかった。
それにモヤモヤするのは…
「ヒヒッ、これも落とした」
右手にずっと持っていた赤いリボンと白い薔薇を差し出せば、レイは困った様に笑った。
『そうなの!風でリボンが飛んじゃって…テラスから下を見たら髪飾りの薔薇が落ちるわ、人が居た挙げ句目が合うわでもぅ…チィに誰にも会うなって言われてたから軽くパニックになっちゃって』
ずっと警戒していたんだろう…楽しそうに話すレイは、先程とは全然違った。
立ち話もなんだと、二人を広いベッドに上げて座らせたレイは、ユエをお茶を淹れに行かせると、二人の向かいに座り込んで嬉しそうにニッコリ笑った。
『ずっと欲しかったの!親みたいなチィでも、傘のレロでも、いつも一緒のユエやシャールでも無い。ロードみたいに同世代で…でもロード以外の誰か』
「そ…」
『少しでも近い目線の話し相手』
レイは“友達”とは言わなかった。
こんな狭い所にずっと閉じ込められていたからだろうか?
友達というものが分からないのか…
そう考えたら何だか悲しくなった。
「全部教えてあげるよ!」
『え…』
思わず口にした。
隣を見ると、デビットはニカッといつも通りに笑った。
「そうだぞ、レイ!俺達がお前に教えてやる」
「楽しいものも」
「綺麗なものも」
「カッコイイものも」
「全部、全部…」
「いっぱい、いっぱい」
「持ってきてやる!」
「想像してあげる!」
玩具も動物も宝石も花も…
この部屋に入るものならどんなものだって持ってくるし、想像する。
「千年公にも話す」
「外に出れる様に」
「だから話すだけじゃなくて色んな事しようぜ」
「ヒヒ、楽しい事をさ!」
「それでいつか屋敷から出られたら、町に遊びに行こうぜ!」
「隣の町にも…どの国にだって連れて行ってあげるよ!」
「世界中の楽しい事を満喫して、世界中の綺麗なものを見せてやる!」
「どこまでもどこまでも三人で!」
嘘なんかじゃ無かった。
その場を取り繕うとしたワケでも無かった。
敵相手ならいくらでも出てくる“それ”が全く出てこなかったから…
だから本当の事を言った。
本当にしたい事を言った。
だから…
『ありがとう…凄く…すっごく、嬉しい』
レイの笑顔を見て凄く安心して…
その笑顔を護りたいと思った。
「んー、手始めにどうする?」
「そうだな…」
「サーカスでも出そうか!」
「馬鹿、そんなんうるさくてバレるっつの」
「じゃあいっそ…」
「レイ、紅茶が入っ」
「何してるんデスか?♡」
ポットとカップが乗ったトレーを手に隣の部屋から帰って来たユエの言葉を遮って響いた声に、血の気が引いた。
開け放たれた部屋の大きな扉の先に立ってるのは…
「せ…千年公」
「ヒ…ヒヒ」
「可笑しいですネ…ココは立ち入り禁止‥近付く事も禁じた筈デスが」
どう見たって千年公だった。
拙いよ…
まだ何も対策を考えてない…
「こ、これは…ね、千年公」
「ぐ…偶然知り合った…っつうか」
「ユエも何をしてるんデス…ちゃんと言い付けた筈ですヨ」
「申し訳有りません…伯爵様」
『違うの、チィ!!!』
「レイ?♡」
『私、テラスから髪飾り落としちゃって…通りかかった二人が拾ってくれたの!』
“だからお礼してたの”と言うレイの言葉に安心した。
これで千年公も…
「それはソレ、これはこれデスよ」
「え…?」
「ジャスデビくんはお仕置きデス♡」
長い夢を見ていた気がする。
でも覚えているのは出逢いの日の夢だけだった…きっと自分への戒めだろう。
あの日からデロ達は何も進歩していない…
デロ達は結局、千年公を説得出来無かった。
レイは一人で出て行った。
ユエだけを連れて…
『ねぇ、起きてジャスデロ…』
……レイ…そこにいるの?
デロまだ起きれないみたいだよ…
『ジャスデロ…』
ねぇ…何で?
何でそんな声してるの?
何が悲しいの?
もしかして…
デロが悲しませてるの?
レイが笑顔のままで居られる様に、レイを護るって決めたのに…
デロは…デロは…
『行ってくるね…デビット、ジャスデロ』
レイ…
護るって決めたのに。
護るって言ったのに…
また君は一人で行く…
ねぇ、レイ…
デロは無力な自分が嫌いだよ──…
白い薔薇と赤いリボン…
一瞬見えたテラスから身を乗り出した君が…
天使に見えた。
汚い人間と汚れた世界…
戦争しか知らなかったのに…
その瞬間だけ。
その一瞬だけ…
信じられないくらいに…
胸が高鳴った──…
=双子の王子=
デロは…デロが嫌いだ。
「早く来いよ、ジャスデロ~」
先を進むデビットがそう言った。
こっちを振り向いて急かすデビットに、休みたいという意思表示の為その場にしゃがみ込んだ。
「デロ疲れたよ、デビ~」
裏庭に落ちてた髪飾りをデビットが見付けてから何時間経っただろうか?
あれからずっと、持ち主を探す為に庭を歩き回っている。
「デビ~もう良いんじゃない?もしかしたらアクマのかもしれねーよ、ヒヒヒ」
だとしたら笑える。
アクマを探しまくるデビットって…考えただけで面白い。
「んなワケ無ぇだろ…お前最近、髪まで飾った人間気触れの奴見たか?」
そう言われると…困る。
屋敷内でそんなアクマ…最近は見た事が無い。
過去にだって二体程度だ。
と、なると残りはノアだけど…
「ロードとルル=ベルがこんな髪飾り付けると思うかぁ?」
「ヒヒ、無い!」
「だろ?!」
自分のジャケットのファーに付けた髪飾りを指でつついたデビットに思わず即答した。
ロードはパーティーとかで付けるかも知れないけど…ルル=ベルは絶対に無い!
ルル=ベルの髪に付いてるのなんかリボンくらいだ。
「でも他に付ける人なんて…」
そこまで話して口を閉じた。
何かが視界を上から下へと一瞬遮ったのだ。
不思議に思って足元を見ると、白い薔薇が落ちていた。
「薔薇?」
白薔薇を手に上を向くと、空から降ってくる赤い細長い布越しに、一瞬だけ長い黒髪の女の子が見えた。
…………………ん?
空いた左手で落ちてきた布をキャッチしたジャスデロは首を傾げた。
「デビ、今の見た?」
「見た」
「薔薇が落ちてきたよ」
「そうだな」
「リボンも落ちてきた」
「そうだな」
「女の子…だったよね?」
「女だったな」
「あそこ立ち入り禁止の部屋で鍵掛かってる筈だよね」
「そうだな」
「ノア…だったよね?」
「ノアだったな」
見合った状態でピタリと黙り込んだデビットとジャスデロは、次の瞬間“ええぇえぇぇぇ?!!”と声を揃えて叫んだ。
「今の誰誰誰誰?!!」
「知っらねぇよ!見た事無い奴だった!!」
立ち上がったジャスデロと、ジャスデロに駆け寄ったデビット…
二人はニヤリと口角を上げて笑うと、窓枠や柱を足場に少女が居たテラスへと飛び上がり…そして言葉を失った。
ウェーブの掛かった長い艶やかな黒髪に、そこに挿した無数の白い薔薇。黒い瞳を縁取った長い睫、白い肌とすらりとのびた細い腕…
白黒のドレスを纏った少女が目を丸くして大きなベッドに腰掛けていた。
「ぁ…」
話し掛けようと声を洩らした瞬間だった。
少女と向き合う様に立っていた銀髪のアクマが、ツカツカと歩み寄ってきて窓とカーテンを凄い速さで閉めた。
閉め出された。
「んだ、テメェ!!!」
「ジャスデビ閉め出されたよ!」
「アクマのクセに良い度胸だなこの野郎!」
「ヒヒ、ぶっ壊すぞコラ!!」
アクマにしてやられた事に苛ついたデビットとジャスデロが取り出した銃を窓に向けた瞬間だった…小さな手がカーテンの隙間から出てきて端を掴み、先程一瞬だけ見えた少女が顔を出した。
そしてそっと、窓が数センチだけ開いた。
『貴方達、誰?』
「デビット」
「ジャスデロ!」
『デビット…ジャスデロ?』
「お前の名前は?」
『…レイ』
「レイ、お前ノアだろ?」
「ヒヒ、デロ達は“絆”のノアなんだよ!二人で一人、ジャスデビだ!」
『絆…ジャスデビ…』
そう言って、少しの間黙り込んだ少女…レイは、次の瞬間、窓を大きく開いた。
「レイ!!!」
中から男の声がしたが、レイは気にせずにその姿を変えた。
白い肌が褐色に、額に聖痕が浮かび上がる。
『ノアだよ…ノアのレイ…レイ・アストレイ』
そう言って先程していた様にベッドに腰掛けたレイに、青年は顔色を青く染めた。
「レイ、何て事をするんだ!」
『でもユエ…』
「“でも”じゃ無い!お前が勝手な事をしては…」
そこまで口にして、青年はピタリと話すのを止めた。
デビットとジャスデロが素早く青年に向けた銃がそれぞれ“カチャ…”っと音を立てたからだった。
「……どういうおつもりですか…ジャスデビ様」
「“どういうつもりだ”じゃねぇよ」
「ヒ、怖いもの知らずだね」
「さっきから何々だテメェ…アクマ如きがごちゃごちゃ口挟むんじゃねぇよ」
「ヒヒ、壊しちゃえ♪」
『やめて…』
瞬間、青年ユエを庇う様に両腕を広げて立ちはだかったレイに、デビットは不機嫌そうに眉を寄せた。
「何で庇うんだよ」
アクマを庇うノアなんて初めて見た。
何で千年公の玩具であるアクマを…
『ユエはチィの言い付けを護ってるだけよ』
「チィ?」
『千年公』
“チィ”とは千年公のあだ名らしい。
レイは小さくニコリと微笑むと、ベッドに再度腰掛けた。
『チィは私を誰にも会わせたくないの』
レイがそう話し出すとユエは何かを諦めた様で、数歩後退ると目を閉じた。
『この部屋から出ちゃいけないし、ここに入れるのはチィとロード、レロと護衛アクマのユエとシャールだけなの』
“まぁ時々抜け出すけど”と言って可笑しそうに笑ったレイは、少しだけ悲しそうな顔をして“いつも屋敷の敷地内で見付かっちゃうけど”とも言った。
その時、頭を過ぎった言葉…
それはデビットと一緒だったと思う。
“パンドラの箱”
いつの日かティキが言ってた言葉だ。
“絶対に開けてはならないあの部屋はパンドラの箱だ…中は酷く気になるが、見たら千年公の罰という不幸が訪れる”
確かそう言っていた。
「不幸なんかハネ退ける上玉だ」
そう小さく呟いたデビットの言葉で確信を得た。やっぱり同じ事を考えていた。
デビットはファーに付けていた髪飾りを取ると、レイに差し出した。
「これ、レイのか?」
『どこにあったの?!』
少し曇った表情を一変させて飛び上がったレイに、デビットは得意げに笑った。
「裏庭の奥の方だな」
『ありがとう!ユエに貰った大事なものなの』
安心した様に笑うレイと、それを見て微かに微笑むユエ。
二人はノアとアクマには見えなかった。
それにモヤモヤするのは…
「ヒヒッ、これも落とした」
右手にずっと持っていた赤いリボンと白い薔薇を差し出せば、レイは困った様に笑った。
『そうなの!風でリボンが飛んじゃって…テラスから下を見たら髪飾りの薔薇が落ちるわ、人が居た挙げ句目が合うわでもぅ…チィに誰にも会うなって言われてたから軽くパニックになっちゃって』
ずっと警戒していたんだろう…楽しそうに話すレイは、先程とは全然違った。
立ち話もなんだと、二人を広いベッドに上げて座らせたレイは、ユエをお茶を淹れに行かせると、二人の向かいに座り込んで嬉しそうにニッコリ笑った。
『ずっと欲しかったの!親みたいなチィでも、傘のレロでも、いつも一緒のユエやシャールでも無い。ロードみたいに同世代で…でもロード以外の誰か』
「そ…」
『少しでも近い目線の話し相手』
レイは“友達”とは言わなかった。
こんな狭い所にずっと閉じ込められていたからだろうか?
友達というものが分からないのか…
そう考えたら何だか悲しくなった。
「全部教えてあげるよ!」
『え…』
思わず口にした。
隣を見ると、デビットはニカッといつも通りに笑った。
「そうだぞ、レイ!俺達がお前に教えてやる」
「楽しいものも」
「綺麗なものも」
「カッコイイものも」
「全部、全部…」
「いっぱい、いっぱい」
「持ってきてやる!」
「想像してあげる!」
玩具も動物も宝石も花も…
この部屋に入るものならどんなものだって持ってくるし、想像する。
「千年公にも話す」
「外に出れる様に」
「だから話すだけじゃなくて色んな事しようぜ」
「ヒヒ、楽しい事をさ!」
「それでいつか屋敷から出られたら、町に遊びに行こうぜ!」
「隣の町にも…どの国にだって連れて行ってあげるよ!」
「世界中の楽しい事を満喫して、世界中の綺麗なものを見せてやる!」
「どこまでもどこまでも三人で!」
嘘なんかじゃ無かった。
その場を取り繕うとしたワケでも無かった。
敵相手ならいくらでも出てくる“それ”が全く出てこなかったから…
だから本当の事を言った。
本当にしたい事を言った。
だから…
『ありがとう…凄く…すっごく、嬉しい』
レイの笑顔を見て凄く安心して…
その笑顔を護りたいと思った。
「んー、手始めにどうする?」
「そうだな…」
「サーカスでも出そうか!」
「馬鹿、そんなんうるさくてバレるっつの」
「じゃあいっそ…」
「レイ、紅茶が入っ」
「何してるんデスか?♡」
ポットとカップが乗ったトレーを手に隣の部屋から帰って来たユエの言葉を遮って響いた声に、血の気が引いた。
開け放たれた部屋の大きな扉の先に立ってるのは…
「せ…千年公」
「ヒ…ヒヒ」
「可笑しいですネ…ココは立ち入り禁止‥近付く事も禁じた筈デスが」
どう見たって千年公だった。
拙いよ…
まだ何も対策を考えてない…
「こ、これは…ね、千年公」
「ぐ…偶然知り合った…っつうか」
「ユエも何をしてるんデス…ちゃんと言い付けた筈ですヨ」
「申し訳有りません…伯爵様」
『違うの、チィ!!!』
「レイ?♡」
『私、テラスから髪飾り落としちゃって…通りかかった二人が拾ってくれたの!』
“だからお礼してたの”と言うレイの言葉に安心した。
これで千年公も…
「それはソレ、これはこれデスよ」
「え…?」
「ジャスデビくんはお仕置きデス♡」
長い夢を見ていた気がする。
でも覚えているのは出逢いの日の夢だけだった…きっと自分への戒めだろう。
あの日からデロ達は何も進歩していない…
デロ達は結局、千年公を説得出来無かった。
レイは一人で出て行った。
ユエだけを連れて…
『ねぇ、起きてジャスデロ…』
……レイ…そこにいるの?
デロまだ起きれないみたいだよ…
『ジャスデロ…』
ねぇ…何で?
何でそんな声してるの?
何が悲しいの?
もしかして…
デロが悲しませてるの?
レイが笑顔のままで居られる様に、レイを護るって決めたのに…
デロは…デロは…
『行ってくるね…デビット、ジャスデロ』
レイ…
護るって決めたのに。
護るって言ったのに…
また君は一人で行く…
ねぇ、レイ…
デロは無力な自分が嫌いだよ──…