第3章 封印された箱
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50
『純白の常闇…』
ゆりかごが
ひとつ現った…
『奥底に咲く深紅の華♪』
ゆりかごに
ひとつが在った…♪
『赤い涙ふりはらい』
ひとつはふたつに為った♪
『愛をそそぐ♪』
ゆりかごはひとつ♪
『彼の華は』
霧に紛れて星ひとつ♪
『涙で出来た』
墓場でゆれて消えてくよ♪
『脆い真白の硝子華♪』
♪♪#
『彼の華は…』
「レイ♡」
キングサイズのベッドに腰掛けて窓の外を見ながら歌っていたレイは、そう声を掛けられて振り向いた。
『チィ!』
レイはベッドから飛ぶと、千年伯爵に抱き付いた。
「今のは何の歌デスカ?♡」
『知~らない』
「…誰に習いまシタ?」
『さぁ?分からない…覚えてないの』
「…そうデスか♡」
=二人で一人=
もう全てが終わる事に…
奴等は気付いていないだろう。
互いの銃で頭部を撃ち合った僕等を見て驚いた奴等は、唯、呆然としていた。
二人の影が一つとなり、撃ち合った体は煙と化す。
そこまでいっても、奴等は自分達の置かれた立場を分かっていなかった。
「アレン、クロウリー!!バカ、そこから離れるさ!」
扉であるモニュメントの上に立っていたブックマンの一族の眼帯をした奴がそう叫んだが、もう遅い。
「頭の上だ!!」
眼帯の声と同時に吸血鬼のオッサンを本棚に向かって吹き飛ばして…叩き付けた。
“グシャッ”と耳に心地よい響きと共にオッサンの血が大量に辺りに飛び散った。
飛び散った…?
いや…噴き出したと言った方が正しいかもしれない。
本棚を真っ赤に染め上げた大量の血液…もう奴の体には血が殆ど残ってない筈だ。
それとも…もう死んだか?
「まず一人…」
そう口にする僕達を見て、眼帯は目を見開いた。
「誰だ…?!」
無理もないか…
黒い模様の入った長いストレートの金髪に褐色…浅黒い肌。
違う…新しいノアが現れた様に見えるかもね。
「僕等は…ジャスデロとデビットは本来ひとつのノアなんだよ」
僕達は二人で一人…だから二人で想像する。
最高の僕等を…
「“ジャスデビ”だ」
でもまさかこの姿を見せる事になるとは…
遊び壊して苦しめ様としたのが間違いだったか…遊び過ぎた。
「よくも…ッ、クロウリーを!!」
真っ直ぐに突っ込んできたアレンの攻撃を弾くと、ジャスデビはニヤリと口角を上げて笑った。
「ははっ!あの吸血鬼野郎ッ、僕等をバカにするから叩いてやったんだよッ…出血大サービスでねッ!!」
本当に“出血大サービス”だ。
あんなに血が出るなんて…我ながら良く出来たと思う。
「キミ等はどうしてやろうかな」
次は誰を潰そう?
唯の人間…女…ブックマン……いや、アレン・ウォーカーか。
「あぁ…そうだ」
一瞬でアレンの間合いに入ったジャスデビは、再びニヤリと口角を上げて笑うと、力で造り出した星形の壁にアレンを縛り付けた。
電気の鎖の様なものがアレンに纏わり付き動きを封じる。
「“爆弾”になるのはどう?」
「ア゛ァアアァァァ…ッ!」
「あの扉を壊す爆弾にさぁ!」
二人目だ!
そう思った瞬間、星が破られてアレン・ウォーカーは地に崩れた。
壊れて地に落ちる星の向こう側に立っていたのは…
「吸血鬼…?」
最初に壁に叩き付けて始末した筈の吸血鬼だった。
「吸血鬼ではない…アレイスター・クロウリーである…ッ!!」
「あんなに出血したのにまだ動けるんだね…ホントに化物なの?」
でもまぁ…まともには戦えないだろう。血だらけで…血がなくなり過ぎてフラフラしてるし。
それより気になるのはロードの扉を盗み見ているブックマンだ。
「逃がさないよ」
絶対に…絶対に逃がしたりしない。
「キミ達全員、皆殺しなんだからさぁ!!」
そう言って腕を前に突き出したジャスデビは、手から出した衝撃波でアレンを吹き飛ばすと地を蹴った。
アレンを追う様に駆け出したジャスデビは、ラビの頭を足場に飛び上がる。
「この…ッ」
直ぐに体勢を立て直したラビは、槌を振るうと、ジャスデビの着地点に向かって火判を放った。
一瞬にしてジャスデビは炎にまかれた。
「あ゙ぁああつッ、あつぅッッ」
「やったか…?!」
思わずラビがそう口にした瞬間、炎の中から一本の腕がヌッと差し出す様に飛び出してきた。
「暑つッ…」
そっと頬に触れる様に動く手と、その先の光景にラビは冷や汗を流した。
炎にのまれながらジャスデビは楽しそうに笑っていた。
「暑ッッちッちぃ~♪」
「な…ッ」
そう洩らして後退ろうとしたラビは右頬を殴られて吹き飛び、消え去った火判から逃れたジャスデビは、その長い金髪を刃に変えてアレイスターに襲いに掛かった。
「早く済ませて帰らなきゃ♪」
自信に突き刺さる髪の刃を掴んだアレイスターの腹部に拳を叩き込み、ダメージが逃げない様に星の壁でアレイスターの背を支える様にして抑える。
「がはぁッ」
「そろそろ眠り姫のレイも起きる頃だろうしね」
「グ…ッぁ」
「ねぇ…今の僕等。攻撃も、強靱さも子供 だと思わないでね」
そう耳元で囁くと、衝撃波で吸血鬼を上へと吹き飛ばした。
「今ねッ“ジャスデビ”はぁ…」
吸血鬼の血の雨が愉快なくらい綺麗に降り注ぐ。
「想像上“最ッ強の肉体”を実験中なんだからサッ!!!」
そう叫んだ瞬間、ドンッと胸を押された感覚がして…気付いた時には女に馬乗りにされて床に寝転がっていた。
このクソ女…
「お前…」
「レイはどこにいるの?!」
「は…レイ?」
「言いなさい…レイはどこにいるの!!」
馬乗りになって僕等の胸倉を掴む女の目から溢れた涙が、僕等の頬に一筋の線をひいた。
「何で…」
「え…?」
「何で教えなきゃいけない?」
「ッ…ジャスデビ、レイはもう僕等の家族なんです!」
「レイを返すさ!!」
遠くから聞こえたアレン・ウォーカーとブックマンの声に苛々がどんどん加速する。
「レイが家族?レイを…返す?」
意味が解らない。
ジャスデビは馬乗りになったリナリーを吹き飛ばした瞬間、リナリーの背に星形の壁を造って先程アレンにした様にリナリーを電撃で縛った。
「ぐぁ…ッ」
「リナリー!!!」
「テメェ…」
「レイは僕等の家族だ」
意味が解らない。
“僕等の家族なんです?”
レイが? お前等の?
しかも…
「僕等からレイを奪った奴等が…レイを“返せ”だって?」
意味ガ解ラナイ…
「返せよ…」
寧ろ逆だろ。
逆ダ逆ダ逆ダ逆ダ…
「レイが消えてからの時間を…」
探し続けた僕等の時間を…
騙され続けた僕等の時間を…
「僕等との絆を…」
誰も入れやしない“三人で一つ”の僕等を…
僕等以上のものを…僕等と同等なものを…
僕等に近いものを知らないレイを…
「僕等のレイを返せぇぇ!!」
レイの中にはお前等の存在が確かにある。
その変えられない事実が…その変えようのない事実が、僕等に怒りをもたらすんだ。
そしてそれは何をしても消え去りはしない。
どんなに殴ろうと…どんなに突き刺そうと…
「いやぁ゙あぁぁぁぁぁ!!」
女が泣き叫ぶ中…
血にまみれた彼等は僕等には汚れた様にしか見えない。
それは、きっと…
レイに関わった全てを殺すまで変わる事は無い。
そして、唯殺すのでは生温いから止めを刺す前に、心を痛めつけてやる。
ジャスデビは星に張り付けられたリナリーの元に歩み寄ると、ニッコリと笑った。
「良く考えてみなよ」
そう…良く考えろ。
「僕等は人間やキミ達を殺すよ」
敵だから殺す。
憎いから殺す。
ノアのメモリーが僕等を突き動かす。
そして…
「キミ達は僕等を殺そうとしてるんじゃないの?現に“怒”のノア、スキン・ボリックはキミ等の仲間に殺されたワケだし」
甘党は死んだ。
エクソシストと相撃ちで…
僕等は彼等の命を狙っている…
逆に僕等は命を狙われている…
「それじゃあさ‥命の重みを知ってるって何?知ってるのに何で殺すワケ?
“敵”だからだろ?そういう意味でお前等と僕等に違いはないんだよ」
リナリーの耳元に口を寄せたジャスデビはニヤリと口角を上げて笑った。
「ノアが悪で教団は正義。自分達は純白 だとでも思ったか?」
自分達が成してるのは正義だ。
自分達以外の悪と見做したものが信念を通す為に殺すのは駄目だが、自分達が正義を成す為なら手段が殺しでも厭わない。
誰が決めた?
何故そう思った?
「偽善者ぶってんじゃねぇよ。やってる事は一緒だろ、下衆」
髪を刃に変えて女に向けた瞬間、それは崩れた。
星を突き破って伸びた二本の腕は、女を抱き締めると一気に後方へと飛び退いた。
「アレン・ウォーカー…」
女を解放して飛び退いたのはアレン・ウォーカーだった。
傷だらけの腕にしっかりと女を抱き締めている。
少しくらい待ってられないのか…折角いいところだったのに。
「そんなに早く死にたいの?」
瞬間、爪と槌で攻撃してきたアレンとラビの攻撃を両手でそれぞれ受け止めたジャスデビは、アレンの腹部を蹴り飛ばし、追撃を仕掛けて降ってきたラビの槌を避け、その上へと足を組んで腰掛けた。
「全部遅いねッ!対アクマ武器にばっか頼ってないで肉体もっと鍛えたら?」
“鍛えてる”っていうならとんだ馬鹿だ。
きっと方法も量も合ってない。そんなんじゃ…
「とても僕等には勝てないよ」
そう言って腹部を目掛けて衝撃波を食らわす。
吹き飛んで地に転がったブックマンは、少なくても内臓に数ヶ所ダメージがいった筈だ。
死ぬまで苦しむにはこれが良い感じだろう。
「さぁ…」
そろそろ終わりにしよう。
もうレイが目覚める筈だ。
「キミから止めを刺そうか…アレン・ウォーカー」
もう目覚めると…信じている。
「大丈夫…レイには僕等がついてる」
遊ばないならとっとと帰らなきゃいけない。
目覚めた後のレイの側には僕等が居てやらないと…きっと寂しがるから…
「本当の家族である僕等がね」
そう言って意地悪く笑ったジャスデビは、その長い金髪の先を刃に変え、アレンに向けた。
「逝っちゃえ」
『止めて、ジャスデビ!!!』
髪の刃をアレン・ウォーカーに向けて突き出した瞬間、そうレイの声が聞こえた様な気がして僕等は思わず全ての動きを止めた。
刃もアレン・ウォーカーの目と鼻の先でピタリと動きを止めている。
「何だ……今…の…」
レイの声がした…
しかし辺りを見回してもレイの姿はどこにも無い。
何だったんだ…?
アレン・ウォーカー達を見てみると、辺りを伺う様子は無く…動きを止めた僕等を不思議そうに見ていた。
「僕等だけ?」
僕等にしか聞こえなかった…?
僕等だけ…
聞こえた気がした…?
「アレン、ラビ!!」
そう一際大きな声に耳を支配された次の瞬間、僕等は吸血鬼の腕の中にいた。
「な…ッ」
「リナリー達を連れて次の扉に入れ!!」
自分を犠牲にして他の奴等を逃がすつもりか…
「ッ…離せ変態!!」
慌てて髪で吸血鬼の身体を貫くが、全く離してくれない。
貫かれた事に怯む事無く、絡み付く腕は力を増し、僕等を逃がすまいと締め付けてくる。
「この…」
地が大きく揺れ、直ぐに部屋の崩壊が始まった。
ゴゴゴ…と低い地鳴りの音と共に地が砂煙を巻き上げながらひび割れる…
耳元でアレン・ウォーカー達に向かって叫び続ける吸血鬼の声が頭にまで響き、怒りが余計込み上げた。
「離せ!!」
一度引き抜いた髪で再度吸血鬼を貫くと、僕等を拘束する腕が少しだけ緩んだ。
直ぐにすり抜けると、砂煙が舞い上がるはっきりとしない視界に飛び出した。
一気にモニュメントまで行き煙から抜けるが、奴等は居なかった。
飛び上がって本棚を足場に天井付近まで飛ぶ。
煙が退く中、部屋全体を見渡したが、血塗れで倒れる吸血鬼以外の人影は一つも無かった。
「ッ……どッッッこにも居ないじゃないかぁ────ッ!!」
どこにも…一人も居やしない。
仲間を見捨てて行きやがった…
「逃がすなんて気が抑まらない…追い掛けて捕らえ…」
地に着地したジャスデビは扉に向かって歩き出した。
が、ふと足を止めた。背中に何か当たった。
“カン、カラン…”と空っぽの金属音が耳に響く。
「行かせんぞ“餓鬼共”」
振り返ると、血塗れの吸血鬼が立っていた。
あ~ぁ…何てしつこいんだろう。
何がこいつ等を突き動かしてるんだろう?
…それがレイだったら…
「嫌だな…」
さぁ…早くアレン・ウォーカー達を追い掛けなきゃいけないから直ぐに終わらせよう。
今度こそ首を落として…
いや“吸血鬼”から血を全部抜いて殺してやるよ。
今度こそ…
「退治しちゃうぞ…吸血鬼」
這い上がれない様に──…
『純白の常闇…』
ゆりかごが
ひとつ現った…
『奥底に咲く深紅の華♪』
ゆりかごに
ひとつが在った…♪
『赤い涙ふりはらい』
ひとつはふたつに為った♪
『愛をそそぐ♪』
ゆりかごはひとつ♪
『彼の華は』
霧に紛れて星ひとつ♪
『涙で出来た』
墓場でゆれて消えてくよ♪
『脆い真白の硝子華♪』
♪♪#
『彼の華は…』
「レイ♡」
キングサイズのベッドに腰掛けて窓の外を見ながら歌っていたレイは、そう声を掛けられて振り向いた。
『チィ!』
レイはベッドから飛ぶと、千年伯爵に抱き付いた。
「今のは何の歌デスカ?♡」
『知~らない』
「…誰に習いまシタ?」
『さぁ?分からない…覚えてないの』
「…そうデスか♡」
=二人で一人=
もう全てが終わる事に…
奴等は気付いていないだろう。
互いの銃で頭部を撃ち合った僕等を見て驚いた奴等は、唯、呆然としていた。
二人の影が一つとなり、撃ち合った体は煙と化す。
そこまでいっても、奴等は自分達の置かれた立場を分かっていなかった。
「アレン、クロウリー!!バカ、そこから離れるさ!」
扉であるモニュメントの上に立っていたブックマンの一族の眼帯をした奴がそう叫んだが、もう遅い。
「頭の上だ!!」
眼帯の声と同時に吸血鬼のオッサンを本棚に向かって吹き飛ばして…叩き付けた。
“グシャッ”と耳に心地よい響きと共にオッサンの血が大量に辺りに飛び散った。
飛び散った…?
いや…噴き出したと言った方が正しいかもしれない。
本棚を真っ赤に染め上げた大量の血液…もう奴の体には血が殆ど残ってない筈だ。
それとも…もう死んだか?
「まず一人…」
そう口にする僕達を見て、眼帯は目を見開いた。
「誰だ…?!」
無理もないか…
黒い模様の入った長いストレートの金髪に褐色…浅黒い肌。
違う…新しいノアが現れた様に見えるかもね。
「僕等は…ジャスデロとデビットは本来ひとつのノアなんだよ」
僕達は二人で一人…だから二人で想像する。
最高の僕等を…
「“ジャスデビ”だ」
でもまさかこの姿を見せる事になるとは…
遊び壊して苦しめ様としたのが間違いだったか…遊び過ぎた。
「よくも…ッ、クロウリーを!!」
真っ直ぐに突っ込んできたアレンの攻撃を弾くと、ジャスデビはニヤリと口角を上げて笑った。
「ははっ!あの吸血鬼野郎ッ、僕等をバカにするから叩いてやったんだよッ…出血大サービスでねッ!!」
本当に“出血大サービス”だ。
あんなに血が出るなんて…我ながら良く出来たと思う。
「キミ等はどうしてやろうかな」
次は誰を潰そう?
唯の人間…女…ブックマン……いや、アレン・ウォーカーか。
「あぁ…そうだ」
一瞬でアレンの間合いに入ったジャスデビは、再びニヤリと口角を上げて笑うと、力で造り出した星形の壁にアレンを縛り付けた。
電気の鎖の様なものがアレンに纏わり付き動きを封じる。
「“爆弾”になるのはどう?」
「ア゛ァアアァァァ…ッ!」
「あの扉を壊す爆弾にさぁ!」
二人目だ!
そう思った瞬間、星が破られてアレン・ウォーカーは地に崩れた。
壊れて地に落ちる星の向こう側に立っていたのは…
「吸血鬼…?」
最初に壁に叩き付けて始末した筈の吸血鬼だった。
「吸血鬼ではない…アレイスター・クロウリーである…ッ!!」
「あんなに出血したのにまだ動けるんだね…ホントに化物なの?」
でもまぁ…まともには戦えないだろう。血だらけで…血がなくなり過ぎてフラフラしてるし。
それより気になるのはロードの扉を盗み見ているブックマンだ。
「逃がさないよ」
絶対に…絶対に逃がしたりしない。
「キミ達全員、皆殺しなんだからさぁ!!」
そう言って腕を前に突き出したジャスデビは、手から出した衝撃波でアレンを吹き飛ばすと地を蹴った。
アレンを追う様に駆け出したジャスデビは、ラビの頭を足場に飛び上がる。
「この…ッ」
直ぐに体勢を立て直したラビは、槌を振るうと、ジャスデビの着地点に向かって火判を放った。
一瞬にしてジャスデビは炎にまかれた。
「あ゙ぁああつッ、あつぅッッ」
「やったか…?!」
思わずラビがそう口にした瞬間、炎の中から一本の腕がヌッと差し出す様に飛び出してきた。
「暑つッ…」
そっと頬に触れる様に動く手と、その先の光景にラビは冷や汗を流した。
炎にのまれながらジャスデビは楽しそうに笑っていた。
「暑ッッちッちぃ~♪」
「な…ッ」
そう洩らして後退ろうとしたラビは右頬を殴られて吹き飛び、消え去った火判から逃れたジャスデビは、その長い金髪を刃に変えてアレイスターに襲いに掛かった。
「早く済ませて帰らなきゃ♪」
自信に突き刺さる髪の刃を掴んだアレイスターの腹部に拳を叩き込み、ダメージが逃げない様に星の壁でアレイスターの背を支える様にして抑える。
「がはぁッ」
「そろそろ眠り姫のレイも起きる頃だろうしね」
「グ…ッぁ」
「ねぇ…今の僕等。攻撃も、強靱さも
そう耳元で囁くと、衝撃波で吸血鬼を上へと吹き飛ばした。
「今ねッ“ジャスデビ”はぁ…」
吸血鬼の血の雨が愉快なくらい綺麗に降り注ぐ。
「想像上“最ッ強の肉体”を実験中なんだからサッ!!!」
そう叫んだ瞬間、ドンッと胸を押された感覚がして…気付いた時には女に馬乗りにされて床に寝転がっていた。
このクソ女…
「お前…」
「レイはどこにいるの?!」
「は…レイ?」
「言いなさい…レイはどこにいるの!!」
馬乗りになって僕等の胸倉を掴む女の目から溢れた涙が、僕等の頬に一筋の線をひいた。
「何で…」
「え…?」
「何で教えなきゃいけない?」
「ッ…ジャスデビ、レイはもう僕等の家族なんです!」
「レイを返すさ!!」
遠くから聞こえたアレン・ウォーカーとブックマンの声に苛々がどんどん加速する。
「レイが家族?レイを…返す?」
意味が解らない。
ジャスデビは馬乗りになったリナリーを吹き飛ばした瞬間、リナリーの背に星形の壁を造って先程アレンにした様にリナリーを電撃で縛った。
「ぐぁ…ッ」
「リナリー!!!」
「テメェ…」
「レイは僕等の家族だ」
意味が解らない。
“僕等の家族なんです?”
レイが? お前等の?
しかも…
「僕等からレイを奪った奴等が…レイを“返せ”だって?」
意味ガ解ラナイ…
「返せよ…」
寧ろ逆だろ。
逆ダ逆ダ逆ダ逆ダ…
「レイが消えてからの時間を…」
探し続けた僕等の時間を…
騙され続けた僕等の時間を…
「僕等との絆を…」
誰も入れやしない“三人で一つ”の僕等を…
僕等以上のものを…僕等と同等なものを…
僕等に近いものを知らないレイを…
「僕等のレイを返せぇぇ!!」
レイの中にはお前等の存在が確かにある。
その変えられない事実が…その変えようのない事実が、僕等に怒りをもたらすんだ。
そしてそれは何をしても消え去りはしない。
どんなに殴ろうと…どんなに突き刺そうと…
「いやぁ゙あぁぁぁぁぁ!!」
女が泣き叫ぶ中…
血にまみれた彼等は僕等には汚れた様にしか見えない。
それは、きっと…
レイに関わった全てを殺すまで変わる事は無い。
そして、唯殺すのでは生温いから止めを刺す前に、心を痛めつけてやる。
ジャスデビは星に張り付けられたリナリーの元に歩み寄ると、ニッコリと笑った。
「良く考えてみなよ」
そう…良く考えろ。
「僕等は人間やキミ達を殺すよ」
敵だから殺す。
憎いから殺す。
ノアのメモリーが僕等を突き動かす。
そして…
「キミ達は僕等を殺そうとしてるんじゃないの?現に“怒”のノア、スキン・ボリックはキミ等の仲間に殺されたワケだし」
甘党は死んだ。
エクソシストと相撃ちで…
僕等は彼等の命を狙っている…
逆に僕等は命を狙われている…
「それじゃあさ‥命の重みを知ってるって何?知ってるのに何で殺すワケ?
“敵”だからだろ?そういう意味でお前等と僕等に違いはないんだよ」
リナリーの耳元に口を寄せたジャスデビはニヤリと口角を上げて笑った。
「ノアが悪で教団は正義。自分達は
自分達が成してるのは正義だ。
自分達以外の悪と見做したものが信念を通す為に殺すのは駄目だが、自分達が正義を成す為なら手段が殺しでも厭わない。
誰が決めた?
何故そう思った?
「偽善者ぶってんじゃねぇよ。やってる事は一緒だろ、下衆」
髪を刃に変えて女に向けた瞬間、それは崩れた。
星を突き破って伸びた二本の腕は、女を抱き締めると一気に後方へと飛び退いた。
「アレン・ウォーカー…」
女を解放して飛び退いたのはアレン・ウォーカーだった。
傷だらけの腕にしっかりと女を抱き締めている。
少しくらい待ってられないのか…折角いいところだったのに。
「そんなに早く死にたいの?」
瞬間、爪と槌で攻撃してきたアレンとラビの攻撃を両手でそれぞれ受け止めたジャスデビは、アレンの腹部を蹴り飛ばし、追撃を仕掛けて降ってきたラビの槌を避け、その上へと足を組んで腰掛けた。
「全部遅いねッ!対アクマ武器にばっか頼ってないで肉体もっと鍛えたら?」
“鍛えてる”っていうならとんだ馬鹿だ。
きっと方法も量も合ってない。そんなんじゃ…
「とても僕等には勝てないよ」
そう言って腹部を目掛けて衝撃波を食らわす。
吹き飛んで地に転がったブックマンは、少なくても内臓に数ヶ所ダメージがいった筈だ。
死ぬまで苦しむにはこれが良い感じだろう。
「さぁ…」
そろそろ終わりにしよう。
もうレイが目覚める筈だ。
「キミから止めを刺そうか…アレン・ウォーカー」
もう目覚めると…信じている。
「大丈夫…レイには僕等がついてる」
遊ばないならとっとと帰らなきゃいけない。
目覚めた後のレイの側には僕等が居てやらないと…きっと寂しがるから…
「本当の家族である僕等がね」
そう言って意地悪く笑ったジャスデビは、その長い金髪の先を刃に変え、アレンに向けた。
「逝っちゃえ」
『止めて、ジャスデビ!!!』
髪の刃をアレン・ウォーカーに向けて突き出した瞬間、そうレイの声が聞こえた様な気がして僕等は思わず全ての動きを止めた。
刃もアレン・ウォーカーの目と鼻の先でピタリと動きを止めている。
「何だ……今…の…」
レイの声がした…
しかし辺りを見回してもレイの姿はどこにも無い。
何だったんだ…?
アレン・ウォーカー達を見てみると、辺りを伺う様子は無く…動きを止めた僕等を不思議そうに見ていた。
「僕等だけ?」
僕等にしか聞こえなかった…?
僕等だけ…
聞こえた気がした…?
「アレン、ラビ!!」
そう一際大きな声に耳を支配された次の瞬間、僕等は吸血鬼の腕の中にいた。
「な…ッ」
「リナリー達を連れて次の扉に入れ!!」
自分を犠牲にして他の奴等を逃がすつもりか…
「ッ…離せ変態!!」
慌てて髪で吸血鬼の身体を貫くが、全く離してくれない。
貫かれた事に怯む事無く、絡み付く腕は力を増し、僕等を逃がすまいと締め付けてくる。
「この…」
地が大きく揺れ、直ぐに部屋の崩壊が始まった。
ゴゴゴ…と低い地鳴りの音と共に地が砂煙を巻き上げながらひび割れる…
耳元でアレン・ウォーカー達に向かって叫び続ける吸血鬼の声が頭にまで響き、怒りが余計込み上げた。
「離せ!!」
一度引き抜いた髪で再度吸血鬼を貫くと、僕等を拘束する腕が少しだけ緩んだ。
直ぐにすり抜けると、砂煙が舞い上がるはっきりとしない視界に飛び出した。
一気にモニュメントまで行き煙から抜けるが、奴等は居なかった。
飛び上がって本棚を足場に天井付近まで飛ぶ。
煙が退く中、部屋全体を見渡したが、血塗れで倒れる吸血鬼以外の人影は一つも無かった。
「ッ……どッッッこにも居ないじゃないかぁ────ッ!!」
どこにも…一人も居やしない。
仲間を見捨てて行きやがった…
「逃がすなんて気が抑まらない…追い掛けて捕らえ…」
地に着地したジャスデビは扉に向かって歩き出した。
が、ふと足を止めた。背中に何か当たった。
“カン、カラン…”と空っぽの金属音が耳に響く。
「行かせんぞ“餓鬼共”」
振り返ると、血塗れの吸血鬼が立っていた。
あ~ぁ…何てしつこいんだろう。
何がこいつ等を突き動かしてるんだろう?
…それがレイだったら…
「嫌だな…」
さぁ…早くアレン・ウォーカー達を追い掛けなきゃいけないから直ぐに終わらせよう。
今度こそ首を落として…
いや“吸血鬼”から血を全部抜いて殺してやるよ。
今度こそ…
「退治しちゃうぞ…吸血鬼」
這い上がれない様に──…