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第3章 封印された箱

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48





「あ~ぁ…ボロボロ」



手摺りに肘を付き頬杖をついた金髪蒼眼の少女…レイは、そう呟くと小さく溜め息を吐いた。
白い街並みは…方舟の崩壊は止まない。
崩れ落ち、瓦礫となったものから底知れぬ下へ…下へと落ちて次々と消えていく。
内側もどんどんダウンロードが終わっていっている…
引っ越しは決定したものであり、実行したものだ。
直にこの塔だけとなり…



そして全てが終わる。



あのお兄ちゃん達に“私は大丈夫”なんて言ったけど…
全てが消えたら…ダウンロードされてしまったら、やっぱり私も壊れちゃうのかな?

「…それは、こまるな~」

個体として機能してはいるけど、私も一応はレイの一部なわけだし。
それに…

私には大事な約束がある。



「クロくん、まだかなぁ…」





=鐘の音=






『皆ぁ、休憩しようよ!』



ユエと二人…大きなワゴンを一台ずつ押して科学班室にやってきたレイがそう声を張り上げると、科学班の面々はピタリと手を止めて静まり返った。
『キッチン借りてケーキ焼いたの!コーヒーと紅茶もあるの…糖分も休憩も体に必要だよ』
“だから”と続けたレイは瞬間、悪戯っぽく笑った。

『少しだけね』

レイがそう言うと同時に叫び声と共に手にしていた物を投げた面々は、紙が舞う中をそれぞれワゴンへ駆け寄って来た。
『な…投げちゃったら休憩の後が大変なんじゃないかな…』
「馬鹿だな」
ユエの呆れた様な声に困った様に笑ったレイは直ぐにケーキと飲み物を配り出し、ユエはそれに合わせて紙コップへと飲み物を注ぐ。
暫くそれを続けていると、ふとコムイとリーバーがケーキを片手にコムイのデスクで話しているのにレイは気付いた。

『ユエ、ちょっとここお願いね』

レイはワゴンの奥から出したストローの刺さったカップを取り出すと、コーヒーのカップを手に取って二人の元へと向かった。



レイ~!このケーキ美味しいよ」



真剣な表情でリーバーと話し込んでいたコムイは、歩いてくるレイに気付くとそう言って笑った。
『ありがとう!飲み物持ってきたよ』
レイが手にしていた飲み物を二人に渡と、コムイは礼を言い、リーバーは不思議そうに首を傾げた。
「これ…」
『リーバーはいつ見てもコレ飲んでたから好きなのかと思って…ごめんなさい、違った?』
「いや、良く見てるなと思っただけだ…ありがとな」
そう言ってリーバーがレイの頭を撫でると、レイは嬉しそうに目を細めた。

『何話してたの?』

ふとレイがそう問い掛けると、コムイは“それは…その…”と口ごもり、少ししてから口を開いた。



レイ…本当に入団して良いのかい?」



『え…?』
「君がノアだと知っているのはあの時居た科学班の数人…皆に話すわけにもいかないし、隠し通すなんてのも無理かもしれない…いつか皆にバレるかもしれないんだ……そしたら一番辛いのはキミだ。
風当たりが悪くなり、あらぬ噂が立つだろう…下手をしたら閉じ込められたり……他にも色々あるだろう…」
黒の教団…ノアとエクソシスト…
相容れない筈のイノセンスに選ばれたノアの少女。
それは酷く不安定で…酷く危険な存在。
しかし同時に護るべき切り札でもある。
「本来切り札になりうるだろう君を見す見す逃がす様な事をボクが言うのも可笑しいんだけど」
コムイは困った様に笑うと、真っ直ぐにレイを見据えた。



「それでも入団するかい?」



『勿論』
レイは間髪入れずにそう答えた。
『じゃなきゃこんな所来ないよ…自殺しに来る様なものだもん』
答えは決まっていた。エクソシストになると決めた時点で、レイの中で絶対的な条件が出来上がっていたのだ。

『それに、もしそうなっても簡単に捕まる気は無いし』

黒の教団に入団する事。
アクマを破壊する事。
人間を助ける事。
ノアを傷付けない事。
どちらの味方も完璧にする事は出来無い。
そんな不確かな…けれどある意味ではとても確かな条件…


『大丈夫だよ』


そう言って微笑ったレイは“心配してくれてありがとう”と二人の手を取った。
レイ…」
『ほらほら、食べて飲んだらお仕事、お仕事!』
レイは背を押す様に二人をそれぞれのデスクの椅子に座らせると、リーバーの肩をマッサージし始めた。
「お、サンキュ」
「リーバー班長、ず~る~い~」
『だってリーバーはコムイの面倒も見てるしぃ』
「何それ?!」
レイはちゃんと良く見てるって事っすよ、室長」
涙目のコムイとそれを見て笑い合うレイとリーバー…それを見て更に周りのデスクの面々も笑った。



レイ!」



皆と笑い合うレイにそう声を掛けたのは眼鏡を掛けた小柄な科学班員、ジョニーだった。
『なぁに、ジョニー?』
「次、レイの団服作ろうと思うんだけど何かリクエストある?」



「ミニスカート!!」



「あんたにゃ聞いて無い」
「リーバー班長ってば、ケチ~」
頬を膨らまして拗ねるコムイに、レイは可笑しそうに笑った。
『私もミニスカートが良いなぁ』
「室長に合わせなくても良いんだぞ、レイ?」
『ん──…実はね…履いた事無いんだ、ミニスカート』
「そうなの?!てっきりスカート派かと」
ジョニーの“スカート派”という言葉にレイは、首を傾げた。
『屋敷じゃドレスだったし…修行中はズボンか着物だったから』
「じゃあどうしよっか?ワンピース型にする?それとショートのジャケットとか!」
『私ね、私ね!これくらいの丈で、後…』





鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






『シャールちゃんで~す!可愛いでしょ、婦長~』


シャールの肩を持って婦長の前に突き出したレイは嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「そうね」
『この服も似合ってるでしょ?シャールったら何でも似合うの!』
「そうね」
『次の休みには町に行って新しい洋服を仕入れるの!シャールには私の分までいっぱいオシャレさせたいもん』
「そうね」
レイ、ボクは…」
『後ね、後ね!』


レイ


浮かれて話し続けるレイに、婦長はそう制止を掛けた。
『なぁに?』
「用が済んだらとっとと出て行きなさい」
『え~…』
「ここは医務室です。具合が悪い時や怪我をした時に来なさい」
婦長はそう言ってレイとシャールを扉に向かってズルズル引き摺り、レイは拗ねた様に頬を膨らませた。
『婦長のケチ~』

「ケチで結構。早く御戻り下さい、元帥」

とんっと扉の外に追い出されたレイは、扉の陰からそっと医務室を覗き込んだ。
『シャールったらこう見えても力持ちだから本部に居る時は頼ってね…もう良い歳なんだから無理しちゃ駄目だよ!』
少し驚いた顔をした婦長は瞬間、困った様に…どこか嬉しそうに微笑んだ。

「余計な御世話よ」





鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






「どうしたさ、レイ?」


吹き抜けの手摺りに腰掛けたレイのウエストに腕を回したラビは、そう問い掛けた。
『何か変な感じしちゃって…』
「変な感じ?」
レイは小さく頷いた。
『一番新入りなのに元帥って何か…モヤモヤして変!それに私、ノアだよ?』

「イノセンスに選ばれたんだ。レイはノアでも神の使徒で元帥さ」

『ラビ…』
「もう決まった事さ。直慣れるさ、大丈夫だよ」
ラビの言葉にキラキラと目を輝かせたレイは、手摺りから廊下へと飛び降りた。


『ラビがお兄さんみたい!』


これに驚いたのはラビだった。
「え、年齢的に俺の方がお兄さんっしょ?!」
『分かんない!』
「分かんないって…」

『私って何歳なんだろ?』





鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






『何を待ってるの、クロス?』


窓の桟に肘を付いて頭を支え、空いた右手で後ろから自分を抱き締めているクロスに、レイはそう問い掛けた。
「アイツが帰ってくるのをな…」
『…月まだお仕事終わらないと思うよ…稽古しないの?』
「あぁ…今日は休みだ」
『お休み…』
しとしと降り続ける雨を見ながら、レイは小さく歌を口遊んだ。





鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






「ギブアップか?」


『待って、まだ待って!』
眉間に皺を寄せてチェス板と睨めっこをしていたレイは、そう言って腕を突き出した。
『スーマン強いよ~』
「ジョニーの方が強いさ」
『ジョニーとやってるからスーマンも強いんだよ』
レイが考え抜いて駒を動かすが、スーマンはあっさりと次の手を打ってくる。
『もう…勝てる気がしないわ』
「はは、レイは頭が良いから俺はその内抜かれちゃうよ」
そういって頭を撫でてくるスーマンにレイは嬉しそうに目を細めた。




鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






『入団おめでとう!さぁ、どんどん食べてね!』


大量の料理を挟んで、レイはニコニコと笑った。
「あ‥ありがとうございます」
『嫌いな物とかは無い、アレン?』
「いえ、大丈夫です…」
“そう、良かった”と言って笑ったレイは、フォークでタルトを刺して自分の口に運んだ。
『さっきはごめんね…ユウ、本当は凄く優しいのよ』
「優しい…ですか」
『すっごく、すっごくね!アレンもその内任務が一緒になったらきっと分かるよ』
「…そうだと良いんですが」

『だってね、ユウったら…』





鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れたこの音は何の音色だっただろう──…






綻びる…


黒い穴だらけになった思い出が次々と煙の様に消えていく。

何で…どうして…?

嫌だ。
無くしたくない。

無くしたくな…い……
絶対に、絶対に…
無くし…
無くした…くな……い…




鐘の音が聴こえる…

低過ぎず…高過ぎず…
耳に慣れた“鐘”の音が…



鐘の…音が──…
















「チャントかかりましたかネ?♡」



そう言ってベッドで眠るレイの顔を覗き込んだ千年伯爵をルル=ベルは不思議そうに見ていた。
「主はさっきから姫に何をしているんですか?」
レイがここを出てからの記憶にフィルターを掛けてたんですヨ♡エクソシストの記憶は不要デスガ…我輩は消す事は出来ませんカラ♡」
江戸の時の様子からしてレイは教団の…少なくてもあの場のエクソシストとは仲が良かった筈だ。
ならばその記憶は邪魔となる。

「内部情報を聞き出さなくて良いんですか?」

「そうですネ…色々気になる事はありますし、他のノアであれば話を聞き出す事も可能ですが…レイは代えガ在りませんカラ♡」
“無茶は禁物デス♡”と続けた伯爵は、そっとレイの頭を撫でた。





「目覚めの時間デスヨ…レイ♡」





忘れまショウ…
悪魔に汚された日々を──…



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