第3章 封印された箱
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47
「何があったんだ…これは…」
巨大な水の球体の中で眠る、長い銀髪の血塗れの女を見て、黒髪緋眼の青年…トールはそう洩らした。
「来たのか…トール」
「何があった」
「…あの小娘どころか人間全員庇ってこの有り様だ」
そう口にすると、球体の中で眠っていた女…──の目がゆっくりと開き、血の様に深い緋色の瞳がこちらを見た。
『ごめ…なさぃ』
そう弱々しく紡がれた言葉を何度聞いただろうか…
「馬鹿が…」
そう呟いたトールに反応して目を向ければ、トールは苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
「──…」
そう──の名を口にして球体に飛び込んだイアンは、──を引き寄せて口付けた。
そっと魔力を送り込んで傷ついた──を癒す…長い蒼髪がカーテンの様にふわりと二人を包み込み、──の口元から溢れ出した空気が気泡となって球体の中を上昇した。
あぁ…馬鹿みたいだ……
このままこの中に入れておくだけでも暫くすれば癒える。
こんな事をしなくても…──を癒す術なら俺はいくらでも持ってるのに…
今俺はトールに見せ付ける様にこんな手を使ってる。
馬鹿だ…
でも理由は分かってる。
これだけの長い時を──に費やしてきたというのに、俺はきっと自信が無いんだ。
誰かにとられたら?
心からアイツが消えなかったら?
──が誰かを好きになったら?
俺を好きにならなかったら?
あぁ、何て酷く醜く臆病な…
人間の娘一人に数えきれない時を縛られるだ何て…俺は何て…
下らない神なんだろう──…
=怨みの矛先=
「おやすみぃ、スキィーン」
「甘党の負け?」
雑誌を顔に被せて黙っていたロードがふとキャンディーを手にそう口にし、ティキはそう問い掛けた。
「んーん…アレン達を先に行かして一人残った奴は僕の扉通った感じなかったぁ」
「相討ちね…」
甘党が死んだ…か…
「泣いてんのぉ、ティッキー?」
頬を伝う涙を指の腹でグッと拭い取る。
「勝手に出てきたの」
笑いながら手を伸ばしてくるロードの手を“触るな”と抑える。
「何コレ…俺らん中のノアが泣いてんのか?」
「そぉかもしんない」
小さく笑ってそう言ったロードは、止めどなく流れ続ける涙をそのままに、困った様に笑った。
「ノアが泣いてるのかもね」
瞬間“バンッ”という大きな音と共に部屋の扉が蹴破られ、見知った双子が顔を出した。
「あらー…」
「ロード、ティッシュある?」
「お前らの涙って黒いんだ?」
「バカティキ!!」
「メイクが落ちたんだよ、ヒィ!」
ボタボタと黒い雫を零しながらそう言う双子の…ジャスデロの腕には、何故かハットを被った鶏が抱かれていた。
「はい、ジャスデビぃ」
「サンキュ」
ロードが投げたタオルを受け取った双子は、それで顔を拭いた。
涙で溶けた黒いメイクは直ぐに白いタオルに吸い込まれてゆく。
「スキンは…」
棒付きキャンディーの包みを剥がしながらロードはそう喋り出した。
「スキンはノアの“怒”を持った子だったでしょぉ」
ノアはそれぞれ“メモリー”を持っている。
人間だった俺達はそれぞれに割り振られたメモリーを引き継いで“ノアの子供”となるのだ。
「ジャスデビの“絆”やティッキーの“快楽”僕の“夢”と違って“怒”はノアのメモリーで一番強烈で可哀相なんだよぉ」
「あのハゲ時々感情の起伏激しかったもんな」
「ヒヒ、分かりづらいキャラだったよね!」
「僕らもノアの子供だからエクソシスト見ると殺したくなる衝動はあんだけどさ…“怒”の子は強過ぎるノアの思念で操り人形みたいに戦っちゃうんだってぇ」
「スキンは可哀相なノアだったんだね、ヒッ!」
エクソシストに殺意を持つのはノアの性…そんなノアのメモリーに突き動かされんのはノアの子供の性…
知らない誰かに操られている様で気持ち悪いが…仕方が無い。
それより今気になるのは…
「お前ら千年公にクロス捕獲頼まれたんじゃなかったっけ?」
そう問い掛ければ、一瞬動きを止めた二人はひそひそと喋り出した。
「え…何、あの人?」
「話の流れソコ行く?今ので…ソコ行っちゃう?」
「また失敗したんだな」
「うっせーな!そーですよそれが何か?」
「千年公んトコ怖くて行けないんですけどそれが何か?!」
詰め寄って来てそう言う双子は威圧的で大迫力だ。
あ~ぁ、よくそんな顔出来んな……笑ったら…怒られるよな…
「クロスってそんなに逃げ足速ぇの?俺、捕まえられっかなー」
「俺等の獲物だ!!」
「さっきなんてニワトリしか居なかったんだよ、ヒッ!!」
あぁ…だから鶏持ってんのか。
「ちっくしょー!クロスの野郎、俺等をコケにしやがって!!!」
「ヒヒッ、コケコッコだけに!!」
「クロス捕まんねぇし、屋敷には戻れねぇし最悪だ!」
「でもちゃっかりレイの顔見てきたけどね!」
ジャスデロの言葉に、ティキはピタリと動きを止めた。
「え、何…お前等レイに会ってきたの?」
「忍び込んできた」
「ヒヒッ、可愛かったよ!」
双子の話によると、レイはまだ眠り続けているらしい。
何が負担になったのか…思い当たる節がありすぎて分からない。
「俺も行ってこようかな…」
「誰が会わせるか!」
「絶対無理だよ、ヒッ」
瞬間、凄い形相で更に詰め寄ってくる二人の足元に何かが転がった気がした。
「おい、今何か落ち…」
「何コレ~…請求書?」
落ちた物を拾ったロードの言葉に、デビットはビクッと肩を震わせた。
請求書…?
「……それは…」
「宿代、酒代、女代?わぁ~ぉ、ナニナニィ~?」
青ざめるデビットを余所に、請求書の山を纏めた手帳を捲るロードの手元をジャスデロが覗き込んだ。
「あー‥それはクロスがジャスデビにつけてったヤツっす」
「は?」
「馬鹿、言うな!」
「お前等逃げられてる上に借金までツケられてんの?」
敵に借金つけて逃げるなんて…
凄ぇな、クロス…
「ヒッ、そりゃもー行く先々でだぜ!」
暴露を続けるジャスデロの背をデビットは蹴り飛ばした。
「うるせーよ!!お前も笑うな、ロード!!」
相当イライラしてんな…この状況じゃ無理も無いか。
「くそ…ッ…クロスの野郎ぉ!!」
「あっれ~この名前…」
「あ、ソレ?クロスの弟子だって!混ざってたんだね、ヒヒッ」
ジャスデビ宛ての請求書の中に混ざった違う宛名の請求書…ジャスデロの言葉にロードは小さくニヤリと口角を上げて笑った。
また面倒臭ぇ事考えたな…
「ジャスデビ…良い事教えたげよっかぁ?」
ピシッ──…
「ここは…」
部屋の中をぐるりと見渡し、アレンはそう洩らした。
「ここもまだダウンロードされてない方舟の空間なんですか」
「レロ~」
「書庫みてぇさ…」
神田と別れて次の扉を潜り、長い廊下を崩壊に追われながら切り抜けたアレン達は次の“部屋”へと辿り着いていた。
巨大な本棚に周りを囲まれた、中央に柱の様な塔がある円形の部屋だった。
「よぉ、エクソシスト」
不意にそう声を掛けられて顔を上げると、二人のノアが塔の上に腰掛けてこちらを見ていた。
黒髪の少年の髪型がレイと一緒で、モヤッとしたものが体の中に渦巻いた。
「デビットどぇっす」
「ジャスデロだ、二人合わせてジャスデビだよ、ヒヒッ!!」
そう言う長い金髪の少年、ジャスデロに、クロウリーは首を傾げた。
「じ…じゃす…?」
「ジャスデビたま?!…あれ、仕事はどうしたレロ?」
「「だまれ」」
「またファンキーな奴来たな…」
確かに…ジャスデロなんて頭にアンテナが付いている。
「俺等…今ムシャクシャしてしょうがねーんだわ」
唐突にデビットがそう口にすると、二人は銃をこちらに向けるとニヤリと口角を上げて笑った。
瞬間、弾の雨が僕だけに降り注ぎ、それを避ける為に飛び上がった僕を囲む様に二人が飛び降りてきた。
「ついでだ…師匠のツケは弟子が払えよ!」
「ギャハハハハ!」
マズイ、完全に囲まれ…
「装填、青ボム!」
デビットの声と共に撃ち出された弾は先程までのものとは全く違く、様子を見ていたラビは眉を寄せた。
「銃の威力が変わった?!」
「銃じゃねぇよ“弾が”変わったんだ」
弾をまともに食らったアレンは、落ちる様に床へと着地すると直ぐに腕を伸ばした。
「“道化ノ帯 ”」
伸ばした腕から更に伸びた帯はデビットとジャスデロを本棚に叩き付ける様に弾き飛ばす。
「アレン、大丈夫か?」
「えぇ…それより気を付けて下さい、あの二人の撃ち出すものは唯の弾丸じゃありません…何か能力がありますよ」
そう言って弾が直撃した右腕に触れると、右肩に近い部分の服が凍っていた。
これは…
「なんか楽しくなってきた」
本の山を退かしながら立ち上がった二人はケロリとしていた。
やはりアレくらいの攻撃ではダメージは無い様だ。
「ヒヒッ、暴れるの久しぶりだね」
「少し遊ぶか」
「さ~んせぇ!あ…そうだ、弟子ぃ~…一つ聞くけど、お前人質にとったらクロスの奴おびき出せる?」
「まさか」
ジャスデロの問いにアレンは直ぐにそう答えた。
僕が人質で師匠を誘き出す…絶対に無理だ。師匠が来るだなんて絶対にありえない。
「ギャハッ、即答!」
「信用無いんだねクロスって!」
「じゃあ、用は無ぇな」
“ギャハハハハ”と笑っていた二人は、ニヤリと笑うと再び銃をアレンに向けた。
「装填、青ボム!イッちまえ、クロスの弟子ー!!」
瞬間また数え切れない弾丸が浴びせられ、アレンはそれを避け続けた。
被弾した所が氷結してる…ノアには個々に能力がある。二人の能力は…物を凍らせるものか?
「装填、赤ボム!“灼熱の赤い惑星”」
違った。
さっきまで被弾したものを凍らせていた銃から今度は真っ赤に燃える球体が降り落ちてきた。
直ぐに“十字架ノ墓 ”で楯を作って相殺する。
「まだだぜ!」
相殺した球体の後ろから、同じ球体がもう一個こちらに向かってきていた。
マズイまだもういっ…
「テメェらアレンばっかぁ…狙ってんじゃねぇ!!!」
瞬間、体勢を戻せないでいた僕の前にラビとクロウリーが飛び出し、球体を殴り返した。
「「ホームラン!」」
「…どうも」
槌を持ってるラビは兎も角…クロウリー…今、アレを素手で殴り返してましたよね?
「わはっ打ち返しやがった!」
「こっち来たよ、ヒッ!」
一方打ち返されたデビットとジャスデロは、赤ボムに銃を向けた。
「「白ボム」」
何かが撃ち出された様には見え無かった。
しかし声と共に、真っ赤に燃えていた球体は一瞬にして目の前から消え去った。
「消えた…?」
「は…どこ行ったんだ、あの火の玉?!」
「ジャスデビたま!!伯爵たまからのクロス討伐の命はどうしたレロ?!」
唐突にそう叫んだのは、黙って傍観していたレロだった。
そしてデビットとジャスデロは、そんなレロに対して先程アレンにした様に無数の銃弾を浴びせた。
「ヒィィッ」
「だぁーってろ、ボケ!穴だらけにすんぞ」
「ヒッ、クロスは江戸中捜してもいなかったんだよ、このボロ傘が!」
あの二人が僕に八つ当たりに来たという事は師匠は元気だ…と思っていたが、江戸にいない?
「千年公はクロスの野郎の狙いが方舟かもしれないっつってた」
「だから!ここに奴が現れる可能性に賭けて待つ事にしたんだよ!」
師匠の狙いが方舟…しかしこの方舟はもう壊れ始めている…一体師匠は何を…
「「いーだろ、それまでコイツ等嬲り殺してたって!」」
何だか聞き捨てならない言葉が出て来た。
嬲り殺すって…
「ついでに、アイツにつけられた借金もコイツに払わせんだよ!!」
………………借金?
「しゃ…」
「借金…?」
聞き間違えじゃなかった。
「そうだ…あの野郎!俺等に借金つけて逃げ回ってんだ…ッ、悪魔みてぇなヤローだぜ」
一筋の涙を流して“チクショー”と呟いたデビットに対し、ジャスデロは請求書をバンバンと叩いた。
「これがその請求書!!締めて100ギニー、キッチリ払ってもらうかんな、弟子ぃぃ!」
しゃ…きん…
「敵に借金…か……なんとも言い難い」
「そら怒るわ…」
「…そういえば私も奴に金を貸してるである」
「…どんまいさ、クロちゃん」
「たかが100ギニーでしょ」
「「……はい?」」
借金…借金、借金、借金…
あっちこっちで色んな人に金借りて…敵にまで……でも…
「たかが100ギニーぽっち…あはは…」
でもそんな…
「ア…アアア、アレン?」
「そんなはした金、ツケられたくらいで何ですか!!」
「な…ッ」
「何ぃ!?」
「僕の借金に比べれば…」
軽スギ…軽過ぎる。
「はした金だぁぁッ?!」
「ぶっ殺すぞ、ヒィー!」
「それに…」
第一なんだ…自分で働いたのはレイが修行してた期間だけなのか。
全く…アクマ以外で彼を動かすのは決まって女、酒、煙草…
「僕の師匠は悪魔みたいな人なんかじゃない…」
あの人は…
「正真正銘の悪魔なんですよ!師匠と関わるんなら女性になるか、それくらいの覚悟して行けってんだ!!」
そう叫ぶと、体の内で蠢いていたものが無くなってスッキリしたように感じた。
師匠め…いつかぶん殴ってやる。
そう思った瞬間、弾かれた様に笑い出したデビットとジャスデロは、銃をアレンに向けるとピタリと笑うのを止めた。
「ふざけんじゃねぇーッ!!」
笑ってたと思ったらいきなり怒り出した二人はそう叫ぶと再び僕に向かって銃を打ちだした。
次々と襲う攻撃をひたすら避け続ける。
今度は銃の威力が一発ずつランダムで違っていた。
面倒臭いな…
「ジャスデロ“騙しメガネ”いくぞ」
「ヒッ!」
騙しメガネ…?
「「紫ボム!!」」
早く…
早く次の部屋へ──…
「何があったんだ…これは…」
巨大な水の球体の中で眠る、長い銀髪の血塗れの女を見て、黒髪緋眼の青年…トールはそう洩らした。
「来たのか…トール」
「何があった」
「…あの小娘どころか人間全員庇ってこの有り様だ」
そう口にすると、球体の中で眠っていた女…──の目がゆっくりと開き、血の様に深い緋色の瞳がこちらを見た。
『ごめ…なさぃ』
そう弱々しく紡がれた言葉を何度聞いただろうか…
「馬鹿が…」
そう呟いたトールに反応して目を向ければ、トールは苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。
「──…」
そう──の名を口にして球体に飛び込んだイアンは、──を引き寄せて口付けた。
そっと魔力を送り込んで傷ついた──を癒す…長い蒼髪がカーテンの様にふわりと二人を包み込み、──の口元から溢れ出した空気が気泡となって球体の中を上昇した。
あぁ…馬鹿みたいだ……
このままこの中に入れておくだけでも暫くすれば癒える。
こんな事をしなくても…──を癒す術なら俺はいくらでも持ってるのに…
今俺はトールに見せ付ける様にこんな手を使ってる。
馬鹿だ…
でも理由は分かってる。
これだけの長い時を──に費やしてきたというのに、俺はきっと自信が無いんだ。
誰かにとられたら?
心からアイツが消えなかったら?
──が誰かを好きになったら?
俺を好きにならなかったら?
あぁ、何て酷く醜く臆病な…
人間の娘一人に数えきれない時を縛られるだ何て…俺は何て…
下らない神なんだろう──…
=怨みの矛先=
「おやすみぃ、スキィーン」
「甘党の負け?」
雑誌を顔に被せて黙っていたロードがふとキャンディーを手にそう口にし、ティキはそう問い掛けた。
「んーん…アレン達を先に行かして一人残った奴は僕の扉通った感じなかったぁ」
「相討ちね…」
甘党が死んだ…か…
「泣いてんのぉ、ティッキー?」
頬を伝う涙を指の腹でグッと拭い取る。
「勝手に出てきたの」
笑いながら手を伸ばしてくるロードの手を“触るな”と抑える。
「何コレ…俺らん中のノアが泣いてんのか?」
「そぉかもしんない」
小さく笑ってそう言ったロードは、止めどなく流れ続ける涙をそのままに、困った様に笑った。
「ノアが泣いてるのかもね」
瞬間“バンッ”という大きな音と共に部屋の扉が蹴破られ、見知った双子が顔を出した。
「あらー…」
「ロード、ティッシュある?」
「お前らの涙って黒いんだ?」
「バカティキ!!」
「メイクが落ちたんだよ、ヒィ!」
ボタボタと黒い雫を零しながらそう言う双子の…ジャスデロの腕には、何故かハットを被った鶏が抱かれていた。
「はい、ジャスデビぃ」
「サンキュ」
ロードが投げたタオルを受け取った双子は、それで顔を拭いた。
涙で溶けた黒いメイクは直ぐに白いタオルに吸い込まれてゆく。
「スキンは…」
棒付きキャンディーの包みを剥がしながらロードはそう喋り出した。
「スキンはノアの“怒”を持った子だったでしょぉ」
ノアはそれぞれ“メモリー”を持っている。
人間だった俺達はそれぞれに割り振られたメモリーを引き継いで“ノアの子供”となるのだ。
「ジャスデビの“絆”やティッキーの“快楽”僕の“夢”と違って“怒”はノアのメモリーで一番強烈で可哀相なんだよぉ」
「あのハゲ時々感情の起伏激しかったもんな」
「ヒヒ、分かりづらいキャラだったよね!」
「僕らもノアの子供だからエクソシスト見ると殺したくなる衝動はあんだけどさ…“怒”の子は強過ぎるノアの思念で操り人形みたいに戦っちゃうんだってぇ」
「スキンは可哀相なノアだったんだね、ヒッ!」
エクソシストに殺意を持つのはノアの性…そんなノアのメモリーに突き動かされんのはノアの子供の性…
知らない誰かに操られている様で気持ち悪いが…仕方が無い。
それより今気になるのは…
「お前ら千年公にクロス捕獲頼まれたんじゃなかったっけ?」
そう問い掛ければ、一瞬動きを止めた二人はひそひそと喋り出した。
「え…何、あの人?」
「話の流れソコ行く?今ので…ソコ行っちゃう?」
「また失敗したんだな」
「うっせーな!そーですよそれが何か?」
「千年公んトコ怖くて行けないんですけどそれが何か?!」
詰め寄って来てそう言う双子は威圧的で大迫力だ。
あ~ぁ、よくそんな顔出来んな……笑ったら…怒られるよな…
「クロスってそんなに逃げ足速ぇの?俺、捕まえられっかなー」
「俺等の獲物だ!!」
「さっきなんてニワトリしか居なかったんだよ、ヒッ!!」
あぁ…だから鶏持ってんのか。
「ちっくしょー!クロスの野郎、俺等をコケにしやがって!!!」
「ヒヒッ、コケコッコだけに!!」
「クロス捕まんねぇし、屋敷には戻れねぇし最悪だ!」
「でもちゃっかりレイの顔見てきたけどね!」
ジャスデロの言葉に、ティキはピタリと動きを止めた。
「え、何…お前等レイに会ってきたの?」
「忍び込んできた」
「ヒヒッ、可愛かったよ!」
双子の話によると、レイはまだ眠り続けているらしい。
何が負担になったのか…思い当たる節がありすぎて分からない。
「俺も行ってこようかな…」
「誰が会わせるか!」
「絶対無理だよ、ヒッ」
瞬間、凄い形相で更に詰め寄ってくる二人の足元に何かが転がった気がした。
「おい、今何か落ち…」
「何コレ~…請求書?」
落ちた物を拾ったロードの言葉に、デビットはビクッと肩を震わせた。
請求書…?
「……それは…」
「宿代、酒代、女代?わぁ~ぉ、ナニナニィ~?」
青ざめるデビットを余所に、請求書の山を纏めた手帳を捲るロードの手元をジャスデロが覗き込んだ。
「あー‥それはクロスがジャスデビにつけてったヤツっす」
「は?」
「馬鹿、言うな!」
「お前等逃げられてる上に借金までツケられてんの?」
敵に借金つけて逃げるなんて…
凄ぇな、クロス…
「ヒッ、そりゃもー行く先々でだぜ!」
暴露を続けるジャスデロの背をデビットは蹴り飛ばした。
「うるせーよ!!お前も笑うな、ロード!!」
相当イライラしてんな…この状況じゃ無理も無いか。
「くそ…ッ…クロスの野郎ぉ!!」
「あっれ~この名前…」
「あ、ソレ?クロスの弟子だって!混ざってたんだね、ヒヒッ」
ジャスデビ宛ての請求書の中に混ざった違う宛名の請求書…ジャスデロの言葉にロードは小さくニヤリと口角を上げて笑った。
また面倒臭ぇ事考えたな…
「ジャスデビ…良い事教えたげよっかぁ?」
ピシッ──…
「ここは…」
部屋の中をぐるりと見渡し、アレンはそう洩らした。
「ここもまだダウンロードされてない方舟の空間なんですか」
「レロ~」
「書庫みてぇさ…」
神田と別れて次の扉を潜り、長い廊下を崩壊に追われながら切り抜けたアレン達は次の“部屋”へと辿り着いていた。
巨大な本棚に周りを囲まれた、中央に柱の様な塔がある円形の部屋だった。
「よぉ、エクソシスト」
不意にそう声を掛けられて顔を上げると、二人のノアが塔の上に腰掛けてこちらを見ていた。
黒髪の少年の髪型がレイと一緒で、モヤッとしたものが体の中に渦巻いた。
「デビットどぇっす」
「ジャスデロだ、二人合わせてジャスデビだよ、ヒヒッ!!」
そう言う長い金髪の少年、ジャスデロに、クロウリーは首を傾げた。
「じ…じゃす…?」
「ジャスデビたま?!…あれ、仕事はどうしたレロ?」
「「だまれ」」
「またファンキーな奴来たな…」
確かに…ジャスデロなんて頭にアンテナが付いている。
「俺等…今ムシャクシャしてしょうがねーんだわ」
唐突にデビットがそう口にすると、二人は銃をこちらに向けるとニヤリと口角を上げて笑った。
瞬間、弾の雨が僕だけに降り注ぎ、それを避ける為に飛び上がった僕を囲む様に二人が飛び降りてきた。
「ついでだ…師匠のツケは弟子が払えよ!」
「ギャハハハハ!」
マズイ、完全に囲まれ…
「装填、青ボム!」
デビットの声と共に撃ち出された弾は先程までのものとは全く違く、様子を見ていたラビは眉を寄せた。
「銃の威力が変わった?!」
「銃じゃねぇよ“弾が”変わったんだ」
弾をまともに食らったアレンは、落ちる様に床へと着地すると直ぐに腕を伸ばした。
「“
伸ばした腕から更に伸びた帯はデビットとジャスデロを本棚に叩き付ける様に弾き飛ばす。
「アレン、大丈夫か?」
「えぇ…それより気を付けて下さい、あの二人の撃ち出すものは唯の弾丸じゃありません…何か能力がありますよ」
そう言って弾が直撃した右腕に触れると、右肩に近い部分の服が凍っていた。
これは…
「なんか楽しくなってきた」
本の山を退かしながら立ち上がった二人はケロリとしていた。
やはりアレくらいの攻撃ではダメージは無い様だ。
「ヒヒッ、暴れるの久しぶりだね」
「少し遊ぶか」
「さ~んせぇ!あ…そうだ、弟子ぃ~…一つ聞くけど、お前人質にとったらクロスの奴おびき出せる?」
「まさか」
ジャスデロの問いにアレンは直ぐにそう答えた。
僕が人質で師匠を誘き出す…絶対に無理だ。師匠が来るだなんて絶対にありえない。
「ギャハッ、即答!」
「信用無いんだねクロスって!」
「じゃあ、用は無ぇな」
“ギャハハハハ”と笑っていた二人は、ニヤリと笑うと再び銃をアレンに向けた。
「装填、青ボム!イッちまえ、クロスの弟子ー!!」
瞬間また数え切れない弾丸が浴びせられ、アレンはそれを避け続けた。
被弾した所が氷結してる…ノアには個々に能力がある。二人の能力は…物を凍らせるものか?
「装填、赤ボム!“灼熱の赤い惑星”」
違った。
さっきまで被弾したものを凍らせていた銃から今度は真っ赤に燃える球体が降り落ちてきた。
直ぐに“
「まだだぜ!」
相殺した球体の後ろから、同じ球体がもう一個こちらに向かってきていた。
マズイまだもういっ…
「テメェらアレンばっかぁ…狙ってんじゃねぇ!!!」
瞬間、体勢を戻せないでいた僕の前にラビとクロウリーが飛び出し、球体を殴り返した。
「「ホームラン!」」
「…どうも」
槌を持ってるラビは兎も角…クロウリー…今、アレを素手で殴り返してましたよね?
「わはっ打ち返しやがった!」
「こっち来たよ、ヒッ!」
一方打ち返されたデビットとジャスデロは、赤ボムに銃を向けた。
「「白ボム」」
何かが撃ち出された様には見え無かった。
しかし声と共に、真っ赤に燃えていた球体は一瞬にして目の前から消え去った。
「消えた…?」
「は…どこ行ったんだ、あの火の玉?!」
「ジャスデビたま!!伯爵たまからのクロス討伐の命はどうしたレロ?!」
唐突にそう叫んだのは、黙って傍観していたレロだった。
そしてデビットとジャスデロは、そんなレロに対して先程アレンにした様に無数の銃弾を浴びせた。
「ヒィィッ」
「だぁーってろ、ボケ!穴だらけにすんぞ」
「ヒッ、クロスは江戸中捜してもいなかったんだよ、このボロ傘が!」
あの二人が僕に八つ当たりに来たという事は師匠は元気だ…と思っていたが、江戸にいない?
「千年公はクロスの野郎の狙いが方舟かもしれないっつってた」
「だから!ここに奴が現れる可能性に賭けて待つ事にしたんだよ!」
師匠の狙いが方舟…しかしこの方舟はもう壊れ始めている…一体師匠は何を…
「「いーだろ、それまでコイツ等嬲り殺してたって!」」
何だか聞き捨てならない言葉が出て来た。
嬲り殺すって…
「ついでに、アイツにつけられた借金もコイツに払わせんだよ!!」
………………借金?
「しゃ…」
「借金…?」
聞き間違えじゃなかった。
「そうだ…あの野郎!俺等に借金つけて逃げ回ってんだ…ッ、悪魔みてぇなヤローだぜ」
一筋の涙を流して“チクショー”と呟いたデビットに対し、ジャスデロは請求書をバンバンと叩いた。
「これがその請求書!!締めて100ギニー、キッチリ払ってもらうかんな、弟子ぃぃ!」
しゃ…きん…
「敵に借金…か……なんとも言い難い」
「そら怒るわ…」
「…そういえば私も奴に金を貸してるである」
「…どんまいさ、クロちゃん」
「たかが100ギニーでしょ」
「「……はい?」」
借金…借金、借金、借金…
あっちこっちで色んな人に金借りて…敵にまで……でも…
「たかが100ギニーぽっち…あはは…」
でもそんな…
「ア…アアア、アレン?」
「そんなはした金、ツケられたくらいで何ですか!!」
「な…ッ」
「何ぃ!?」
「僕の借金に比べれば…」
軽スギ…軽過ぎる。
「はした金だぁぁッ?!」
「ぶっ殺すぞ、ヒィー!」
「それに…」
第一なんだ…自分で働いたのはレイが修行してた期間だけなのか。
全く…アクマ以外で彼を動かすのは決まって女、酒、煙草…
「僕の師匠は悪魔みたいな人なんかじゃない…」
あの人は…
「正真正銘の悪魔なんですよ!師匠と関わるんなら女性になるか、それくらいの覚悟して行けってんだ!!」
そう叫ぶと、体の内で蠢いていたものが無くなってスッキリしたように感じた。
師匠め…いつかぶん殴ってやる。
そう思った瞬間、弾かれた様に笑い出したデビットとジャスデロは、銃をアレンに向けるとピタリと笑うのを止めた。
「ふざけんじゃねぇーッ!!」
笑ってたと思ったらいきなり怒り出した二人はそう叫ぶと再び僕に向かって銃を打ちだした。
次々と襲う攻撃をひたすら避け続ける。
今度は銃の威力が一発ずつランダムで違っていた。
面倒臭いな…
「ジャスデロ“騙しメガネ”いくぞ」
「ヒッ!」
騙しメガネ…?
「「紫ボム!!」」
早く…
早く次の部屋へ──…