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第3章 封印された箱

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44





「戻せっつってんだよ」



そう言って神田という男は俺の喉元に刀をつき付けた。
「おい、ユ…」
「黙ってろ、ラビ」

「モドセナイ…オレのノウリョクはたいしょうしゃのみのジカンいどうであって、セカイのじかんをウゴカセるものじゃない」

俺の能力では俺は一人しか連れて飛べない。
世界全体の時間をいじる事は出来無い。
「じゃあ、俺をノアが消える前の時間に連れて行け」

「ムリだ、オレのノウリョクでモドレるじかんにはカギリがある…もうノアがキエタじかんに“モドレるじかん”はトウニすぎた」

もう戻れない…
もうらレイを取り戻せるあの時間には…
「ギリギリまでナンドもやった…でもウバえなかった…アイツラはつよすぎる。それにオレにはダキシメるウデがナイ」
神田はチッと舌打ちをすると、橋の柱を殴りつけた。



「……スマナイ…」





=真白の少女=






歪んだ空間に引き摺り込まれたリナリーを追う様に引き込まれた先は、江戸に向かう時に通った南国の真白の町並み…

方舟の中だった。

使い捨てられた方舟に閉じ込められた事やティキ・ミックの言動に頭が混乱する中、それは起きた。
地がひび割れ、建物が崩壊する……用を成した方舟が“ダウンロード”を終えた所から崩れだしたのだ。



「こっちだよ」



滅びゆく世界…崩れてゆく方舟の中で、そう声が聞こえた様な気がした。
振り返ると、小さな白いものが角を曲がった。

「ッ…皆、こっちです!」

何の保証も無かった…でも信じるしかないと思った。だからついて行った。
角を曲がる度にまた違う角を白い小さなものが曲がり、ひたすらそれを繰り返す。
暫くすると崩壊がまだ届かない所に出た。
するとそこには、リボンを付けた金髪を肩で揃えた、白いワンピースの少女が立っていた。



「もぅ、ダメだよぉ!おひっこしおわったんだから」



蒼い瞳が空の様に綺麗で、まるで天使の様な少女だった。
「おにいちゃんたちコワレたかったの?」
そう言う少女に驚いたのはちゃっかりとついてきた伯爵の傘のレロだった。

レイたま?!」

「あっれ~、レロだぁ!」
パァッと笑顔になったレイは、レロの柄を掴むと楽しそうにブンブンと振り回し始めた。
「キャハハハハ、なんでレロがいるの?あー、コワレにきたの?」
「や、やややや止めるレロ、レイたま!コワレに来たんじゃ無いレロ!」

「じゃあ、チィにすてられちゃったんだ!」

「捨てられてないレロ!」
涙を流しながらそう言い返すレロを、レイは楽しそうに笑いながら振り回し続けた。



レイ…なんですか…?」



目の前の少女がレイ…意味が良く分からなかった。
だからそう問い掛けると、少女は不思議そうに首を傾げた。
「おにいちゃんたち、わたしをしってるの?」
「駄目レロ、レイたま!エクソシストなんかと喋っちゃ駄目レロ」

「黙ってねぇと斬り刻むぞ」


神田がそう言って六幻を突き付ければ、青くなったレロはピタリと黙り込んだ。
「俺が確かめるさ…」
そう言ったラビは、少女の前にしゃがみ込むとニッコリと微笑んだ。
レイ、お兄さんの質問に直ぐ答えるさ」
「うん、わかった」
ラビ…一体何をする気で…


「好きな食べ物は!」


……は?
「グラタン!」
「好きなケーキは!」
「ティラミス!」
「大好きなのは!」
「おひるね!」
「お兄さんはカッコイイさ?!」
「かっこいい!」
「グラタンは!」
「好き!」
「ティラミスは!」
「好き!」
「昼寝は!」
「好き!」
「俺の事は?!」
「好き……ぃ…………あれ?」


「間違い無くレイさ!」


「「アホか!!!」」
アレンと神田は同時にラビの頭に腕を振り下ろした。
「痛~ぁ…だってレイもいつもコレ引っかかるんさ」
「何言わせてんだ、アホ兎」
「そうですよ、ラビ!」

「いつもひっかかるんだ…レイ

確かに…リナリーの言葉にしみじみとそう思った。
毎度やるラビもラビだが、毎度引っかかるとは…
「意外にぬけてるであるな」
「クロちゃん、レイはそこが可愛」



「あぁ、わかったぁ!おにいちゃんたち“黒いレイ”をしってるんでしょ?」



ラビの言葉を遮ってそう声を上げた少女…レイは、キラキラと目を輝かせた。
「黒いレイ?」
「目も髪も黒くなっちゃったチィにつれてかれたわたしだよ」
黒くなっちゃった…アタシ?
どういう事だ…
「じゃあ、君は何なんですか」





「わたしはレイだよ、レイをすててレイにおいてかれたまえのレイ!」





レイを捨ててレイに置いてかれた前のレイ
レイ、それはどういう意」

「あぁ!!」

そうアレンの言葉を遮ったレイは、黙って話を聞いてきたレロの柄を掴み直すと…
レイたま何を…」
勢い良く地面に叩き付けた。
レロは“ぐえっ”と声を洩らすと、目を回して気絶した。
レイ、何を…」

「レロのきおくをけしたの」

「記憶を?」
「コワレにきたんじゃないなら…チィにすてられたんじゃないなら……レロはチィの所にもどる。チィは“わたし”を知らないの」
レイは“だから”と続けると、真っ直ぐにアレン達を見据えた。



「レロがチィにいっちゃったらチィにつれもどされちゃう」



感情が無い様な冷たい目でそう言ったレイは、ペタンコになったレロを元に戻すと、寄り掛かる様に唯の傘となった気絶したレロを立てた。
「やくそくしたの……だからチィにつかまったらダメだもの」
「約束?」


「クロくんがココにいろって」


「クロちゃん?!」
「ち、ちちち違うである!」
レイの言葉を聞いたラビがクロウリーに振り向き、クロウリーは慌てて首を振って否定した。
「おにいちゃんもクロなの?」
「ぁ…アレイスター・クロウリーである」
「じゃあ、クロちゃんだね!」
そういって楽しそうにレイが笑った瞬間だった。
地が揺れ、崩壊する音が一際大きくなった。崩壊が近付いてきたのだ。
「おにいちゃんたちもコワレちゃうよ!はやくツギいかなきゃ!」
「次?」

「さっきロードのカギもらってたでしょ?」

レイはどうやらティキ・ミックとの遣り取りを見ていたらしい。
レイの言葉に神田が握ってた拳を開いた。
「これか?」
「それつかってはやくツギいかなきゃ!はやくロードのトビラくぐって!」
「でもどの扉を…」
「どれでも大丈夫だよ!」
アレンは神田が投げてよこした鍵を一番近い扉に使い、一方神田は小さなレイに歩み寄ると、その体を抱き上げた。

「おろして、おにいちゃん」

「駄目だ。急ぐから掴まってろ」
淡々とそう言って離そうとしない神田に、レイは困った様に眉を寄せた。
「わたしはへいきだよ…わたし、ココにいなきゃだもん」

「駄目だ。置いてかねぇ」

神田が表情を歪めた理由を…小さなレイ以外全員が知っていた。
僕達はレイを…



「まもれなかったの?」



レイの一言に、神田は小さく肩を震わせた。
「黒いレイを…まもれなかったの?」
「……」
レイは何も答え無い神田の頬にそっと触れた。
「だいじょうぶ!黒いレイはよわいけど…あのこは“うまい”から」
そう言って手にしていたレロを僕に渡したレイは、神田の頬にキスを落とすと地に飛び降りた。


「だからだいじょうぶだよ、やさしいおにいちゃん…ぜったいにまたあえるよ」


ニッコリと微笑んだレイが…小さなレイが、伯爵に攫われたレイとかぶって胸が締め付けられた。
「わたしはもうあえないとおもうけど……黒いレイにはぜったいにあえるよ」
「本当に一緒に行かない気なんですか、レイ

「クロくんとのやくそくだから」

「駄目です…ここにいては消滅してしまいますから無理にでも連れて行きますよ、レイ
少し困った様に…でもどこか嬉しそうに微笑ったレイの瞳が見開かれた瞬間、僕等は扉の内側にいた。
「な…ッ?!」



「わたしはここをはなれない」



レイ!!」
レイ、来るである!」
「いや」
扉の外の建物が崩れていく中、リナリーやクロウリーの声にレイはそう間髪入れずに答えた。

「わたしはしょうめつなんかしないし、黒いレイとはちがってつよいもの」

“強い”と聞いて少しそうかもしれないと思った。
何時の間にか扉の内側にいたのも…今、体が全く動かないのもレイの力だろうか…
「おにいちゃんたちは黒いレイをまもってあげなよ」
“でも、ありがとう”と嬉しそうに微笑ったレイは僕等に小さく手を振った。





「バイバイ、おにいちゃんたち」





レイの金髪を揺らし、扉は重々しい音を立てて閉じた。
瞬間、体が軽くなった感覚がして動ける様になった。
レイ!!」
慌てて閉じた…一軒の家の扉に手を掛けたが、開いた先に待っていたのは唯の室内だった。
「…空間が閉じたみたいだな」
レイ…大丈夫かしら」
「心配である…」


「皆、周り見るさ~」


瞬間、響いたラビの言葉に辺りを見回すと、そこは不思議な空間だった。
背の高い岩だらけのキラキラと光る砂地…空には三日月が三つ浮かんでいた。
そんな中に先程の家が一軒だけ建っている。


「ラビ!!レイが、心配じゃないの?!」


「あの子は大丈夫さ」
詰め寄るリナリーをよそに、ラビはそう答えながら歩き出した神田について歩き出した。
レイは俺等の中で一番強い…そんなレイをあの子は“弱い”と言った。なら大丈夫だろ」
確かにあの子はレイを弱いと言い、自分を強いと言った。
なら信じられるか…?

「それにしても…何ですかね、ここ?」

「外じゃねぇな…」
ラビとそう話ながら空を見上げながら歩いていると、ふと神田が足を止めた。
「神田?」
「黙れ…いるぞ」
そう言われて神田の視線を追うと、巨漢のノアが岩場から姿を現した。

「お前ら先行ってろ」

「「「え?!」」」
「アレはうちの元帥を狙ってて何度か会ってる」
「か、神田一人置いてなんか行けないよ!」
リナリーがそう言って踏み出した瞬間、神田は六幻を抜くと、リナリーが近付かない様にその切っ先を向けた。
「勘違いすんな…別にお前らの為じゃない。うちの元帥を狙ってる奴だと言っただろ…任務で斬るだけだ」
任務…それだけじゃない気がした。
神田はきっと…





「アイツとは俺がやる」





ゲームの始まりだ──…


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