第2章 出会いと別れ
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「嘘…だろ……?」
目の前の光景に、俺はそう声を洩らした。
大量の血を流して倒れている月と、その脇に座り込んだレイ…
「まさか…」
アレを受け止めた?
江戸が消え去る程の千年公の攻撃を…?
「……馬鹿な…」
「何ですか、あの女性ハ?♡」
「己の管轄にはいなかった」
千年公の言葉に、俺は何も返せなかった…
月と顔見知りだという事は勿論言うつもりは無かった。
でも俺はどっちにしろ…
月の事を何も知らない。
月がどれ程の力を持っているのかも、月とレイの関係性も…
月がどんな存在なのかさえも…俺は何も…
「ティキぽん?」
「知らない」
「そうデスか♡」
そうだ…レイの事さえ知らなかったんだ。
二・三度しか会った事の無い月の事なんて知らなくて当然だ…
「そろそろ終わりにしまショウ」
でも何故だろう…
知らない事が少し…
「そうだな…千年公」
ほんの少し寂しいのは……
「次から次へと…♡」
長い蒼髪の青年が一瞬にして現れ、千年公はそう言って拳を握り締めた。
血塗れの月を横抱きにする蒼髪の青年がレイに向ける尋常じゃない殺気が気に障ったんだろう。
「アイツ…相当な手練れだな、千年公」
「フフ♡あの女性といい…二人共団服を着てないデスが、エクソシストなんですかネ?」
「さぁ?」
そんな話題の中心の二人が次の瞬間一瞬で消え去り、千年公はニヤリといつも以上に口を開けて笑った。
「邪魔そうナ奴は消えましたネ」
あの男がきっと月を手当しに行ったんだろうな……あの様子じゃ既に死んでても可笑しくないけど…
「二人共、アレを見なさイ♡」
そう言われて千年公の指差した方を見ると、先程人質に捕った少女が水晶の固まりの様なものに護られていた。
イノセンスが適合者を…
「ハートか…」
「ティキぽん、スキンくん♡とっとと片付けますヨ♡」
=小さな花=
「帰るぞ、馬鹿」
『ごめん…なさ…い、イアン…』
そう残して俺達を護った様な血塗れの銀髪の女と、レイに殺気を向ける蒼髪の男は消え去った。
今の二人…特に男が気になったが、今はもっと気にすべきものがあった。
「何だアレは」
神田はそう訊ねながらラビの腕からレイを奪うと、左手でレイを抱えた。
レイは気を失ったままだった。
「ユウ、アレはリナリ…」
「危険だぞ、神田!!」
そうマリの声が聞こえた瞬間、クルクルと鬱陶しい髪をしたノアが攻撃を仕掛けてきた。
「眼帯くんの次はお前か」
右手に構えた六幻で受ける中、そいつはニッコリと笑った。
「レイ、離してくんない?」
「誰が離すかよ」
わざとらしく笑い出すノア…ティキに、神田は不機嫌そうに眉を寄せた。
「眼帯くんと同じ事言うねぇ」
「一緒にするな」
受けていた攻撃を弾いてノアを突き放すと、後ろに飛んで距離を取る。
「もらうよ、彼女…勿論、大事な大事なレイもね」
「誰がやるかよ」
神田はレイを抱え直すとティキに斬り掛かった。
ティーズを扱うティキと激しい攻防戦になるが、ティキには余裕があった。
「頑張るね、少年…戦い難いだろ…レイは俺が抱いててやろうか?」
「煩ぇ!!」
「あ、やっぱり?」
明らかに人手が足りない。
リナリーの所に辿り着ける奴がいない…ッ…せめてレイに意識があって、自分の力で俺に掴まっててくれれば二幻刀が使えるんだが…それは無理だろう。
「ハハ、遊んでたら千年公に怒られるかな?」
「知るか、黙れ!」
「じゃあ、そろそろ終わり」
それが耳に届いた瞬間だった。
一瞬で俺は吹き飛ばされ、気付いた時にはそいつがレイを横抱きにして立っていた。
「お帰り、レイ」
「ッ…クソ」
「レイを護ってくれてありがとう、剣士の少年…」
瞬間“ドンッ”と一際大きな爆発が起こった。
そしてそいつはニヤリと口角を上げて笑った。
「もう役目は終わりだ。役立たずな剣士 くん」
レイを抱えたそいつは爆発のあった後方へ飛ぶと、爆煙の中へ消えて行き、俺は六幻を二幻刀にするとそれを追い掛けて爆煙の中へと入った。
最悪だ。
こんな事あって堪るか…
レイを…レイをノアに捕られたなんて…
「そんな事あって堪るか」
神田は二幻刀を堅く握り締めると、爆煙の先の人影に向かって斬り掛かった。
「死ねぇ!!」
「うわっ!」
「神田!?」
「な…ッ?!」
爆煙の先にいたのはあの天パのノアじゃなくてモヤシだった。
「どういう事だ………ッ!?」
天パは…レイは…レイはどこへ行った…!
「俺は天パのノアを追ってきたんだ…おいラビ、奴知らねぇか」
「あれ?そういや俺の相手してたマッチョのおっさんも…」
ラビもまかれた…?
「どうなってるんだ…どこにもノアがいねぇ」
爆煙が晴れた先にはノアは一人も居なかった。
勿論、伯爵も…
「ユエとシャールもいないさ!」
「レイ…レイはどこですか?!」
俺が攫ってやる…
奴等からお前を奪ってやる──…
「ッ…」
何が攫ってやるだ。何が奪ってやるだ。
結局俺は護れなかった…
誓いも、約束も…レイ自身さえも…
何も…何も…
何一つ…
護れ無かった──…
「面白かったのに…なして引くんすか、千年公」
スキンと共に首根っこを掴まれ、千年伯爵にずるずると引き摺られたティキは、煙草の煙を吹きながらそう訊ねた。
「あのエクソシストの女の子、ハートだったかもしんねぇのに」
折角アイツ等に大人気なく仕返ししてたのに…そう思いながらふと、千年公の後を少し離れて付いて来る二体のアクマを見た。
江戸で俺と甘党に勝負を挑んできた二体のアクマだった。
二体を見比べたティキは、今度は千年伯爵の肩に引っ掛かる様に乗ったレイを見上げた。
「重イ♡三人共大きくなりましたネェ♡」
「聞いてます?…ねぇ、ちょっと」
「引っ越し まで四時間切ったんだよ、ティッキー」
「アラ♡ロード、作業ご苦労様でしタ♡」
建物の二階の窓枠に肘をついていたロードは、路地を歩く千年伯爵の肩に乗っているレイを見ると、目を輝かせた。
「レイだぁ!」
二階から千年伯爵の背に飛び降りたロードは、眠り続けるレイに猫の様に擦り寄った。
「うっわぁ、スゴイ久し振りぃ」
「やっと見付けました♡少々問題はありましたガ」
「へぇ~ユエとシャールも久し振りぃ」
そう言ってロードが手を振れば、ユエは片手を胸元に当てて…シャールはスカートの裾を摘んで綺麗に頭を下げた。
「「御久し振りです、ロード様」」
ロードはこいつら二体も知ってる様だな…下手すりゃ双子も…
他にレイやこいつらに会った事がある家族はいるんだろうか?
あぁ…でもそれより今、気になるのは…
「レイ寝てるねぇ~」
「ウフフ♡可愛い寝顔でしょウ?♡♡♡」
「レイはいつも可愛いよ~」
「千年公」
「ハイ?」
二人の話を遮って声を掛ければ、千年公はそう応えて足を止めた。
「…逃がすんすか?」
「まさか♡」
だよな…
て事は、あそこで引いたのは…
「キミの“お仕事”も戻ってきましたヨ♡」
そう言って、千年公はまた歩き出した。
「マジすか…生きてた…?左腕も?!」
「ピンピンしてましたヨ…見事に邪魔されまシタ♡」
あちゃ~…完璧失敗だ。
可笑しいな…確かにイノセンスを破壊した後、丁寧に心臓に穴まで空けたのに。
「ね~何のハナシぃ?」
「ティキぽんの不甲斐無い話でス♡」
不甲斐無…
「…勘弁して下さい」
「アァ…でも他にも不甲斐無い子がいましたネ♡」
そう言ってまたピタリと立ち止まった千年伯爵は、ティキとスキンを離してレイとロードを俺の上に降ろすと、後ろを振り返った。
「シャール、ユエ…一体どういう事デスか?♡」
そう問われても、レイの二体のアクマは顔色一つ変えなかった。
「シャール、お前はレイを連れ戻すタメに捜しに出たと思ってましタ♡」
「はい、伯爵様」
「ユエ…お前は何故仕事放棄ヲ?お前の仕事はレイに付き従い守り抜く事だと言ったハズですガ♡」
「はい…伯爵様」
「何故屋敷から出すのを禁じていたのに出したんでス?♡これは立派ナ仕事放棄ですヨ」
「…はい、伯爵様」
「お前もです、シャール…レイを連れ戻さなくてハならないと分かっていたでショウ?」
「勿論です、伯爵様」
“だったら何故”と問う千年公を前に顔を見合わせた二体のアクマは、直ぐに真っ直ぐと千年公を見据えた。
「伯爵様……確かに我等 の主は伯爵様ですが、何より優先すべき俺達の主はレイです」
「ボク達は常に…全てをレイの望み通りに」
コイツ等の決心は固いんだ…そう思った。
アクマが絶対的君主である千年公に意見するだなんて通常無い。
「その答えがレイを敵に差し出す事デスか?」
「…レイが出した結論です。レイの望みがボク等の望み」
「レイの望みに俺達は…」
瞬間、ドンッと小さめな爆発音が響いた。
「俺達…は…」
それはユエの目の前で、ユエが気付かぬ速さで起きていた…
ユエが気付いた時にはもう、シャール首を握り締めた千年伯爵の手から煙が上がっていた。
「おや♡ユエを狙ったんですが…随分素早くなりましたね、シャール♡」
そう言われてシャールは嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「フフ…ありがガガとうございピピッ…ガ…ます……でもザザ…ピッユエの方が凄いでガガガすよ、伯爵ザー…様」
アクマは何が嬉しいんだか…楽しいんだか分からないがひたすら微笑っていた。
「ザザ…ユエズ…は今、ピピレイでガ頭が一杯ガガガガなんで…す……ホヴヴゥント…体が大きシューいだけザザデ子供ヴヴなンピー、ピー、ピー…だガガガカ…ラ…ザザ……」
あぁ…アレはもう“駄目”だ。
千年公に首を捕まれたまま静かに天を仰いだアクマ…シャールを見てそう思った。
アレはもう…目覚める事は無い。
「シャール…シャール…?」
千年公の手から離れて地に落ちたシャールをもう一体のアクマ、ユエがそう声を掛けながら揺するが、やはりシャールが目覚める事は無かった。
「あ~ぁ…千年公、レイに怒られるよ~?」
「むぅ、それは困りますネ…でもコレはお仕置きデスから♡」
目覚めたレイは大丈夫だろうか?
最期も看取る事も出来ず、唯…
“少し寝ていた”間に大事なものを失うだなんて…
「ユエを壊してシャールにレイを任せようと思いましたガ…壊れてしまっては仕方ありませン。ユエが引き続きレイをみなさイ♡」
「………はい…伯爵様…」
シャールを抱えながらそう返事をしたユエの顔は見えなかった。
ティキは手にしていた煙草を口に加えると、ロードを自分の上から降ろしてレイを横抱きにして立ち上がった。
「駄目ですヨ、ティキぽん♡」
「は…?」
横抱きが駄目なのかと思ったら、近寄ってきた千年公にくわえていた煙草をとられた。
「あぁ…煙草ね」
あれだけ写真を見せるのを拒んだ割には、あっさりしてるな…何かあるのか?
「ティッキー、あ~ん…」
「ん……っ、甘ッ!」
「飴だよぉ~」
ロードは“煙草みたいでしょ~”と言って笑うが、それば棒が付いてるからという意味だけだろう……しかも細いから煙草をくわえてる気にはなれない。
「何してるんデスか?♡」
千年公の声に反応して振り向くと、ユエがシャールを横抱きにして立っていた。
シャールの首の千年公が掴んだ所は、無惨に焼け爛れている。
「連れて帰ります……ボディにさえ会えないだなんてレイが悲しみますから…」
「勝手にしなさイ♡」
小さく頭を下げたユエを見た千年公は振り返るとニッコリと笑った。
「さァ、帰りましょウ♡」
レイ──…‥
「嘘…だろ……?」
目の前の光景に、俺はそう声を洩らした。
大量の血を流して倒れている月と、その脇に座り込んだレイ…
「まさか…」
アレを受け止めた?
江戸が消え去る程の千年公の攻撃を…?
「……馬鹿な…」
「何ですか、あの女性ハ?♡」
「己の管轄にはいなかった」
千年公の言葉に、俺は何も返せなかった…
月と顔見知りだという事は勿論言うつもりは無かった。
でも俺はどっちにしろ…
月の事を何も知らない。
月がどれ程の力を持っているのかも、月とレイの関係性も…
月がどんな存在なのかさえも…俺は何も…
「ティキぽん?」
「知らない」
「そうデスか♡」
そうだ…レイの事さえ知らなかったんだ。
二・三度しか会った事の無い月の事なんて知らなくて当然だ…
「そろそろ終わりにしまショウ」
でも何故だろう…
知らない事が少し…
「そうだな…千年公」
ほんの少し寂しいのは……
「次から次へと…♡」
長い蒼髪の青年が一瞬にして現れ、千年公はそう言って拳を握り締めた。
血塗れの月を横抱きにする蒼髪の青年がレイに向ける尋常じゃない殺気が気に障ったんだろう。
「アイツ…相当な手練れだな、千年公」
「フフ♡あの女性といい…二人共団服を着てないデスが、エクソシストなんですかネ?」
「さぁ?」
そんな話題の中心の二人が次の瞬間一瞬で消え去り、千年公はニヤリといつも以上に口を開けて笑った。
「邪魔そうナ奴は消えましたネ」
あの男がきっと月を手当しに行ったんだろうな……あの様子じゃ既に死んでても可笑しくないけど…
「二人共、アレを見なさイ♡」
そう言われて千年公の指差した方を見ると、先程人質に捕った少女が水晶の固まりの様なものに護られていた。
イノセンスが適合者を…
「ハートか…」
「ティキぽん、スキンくん♡とっとと片付けますヨ♡」
=小さな花=
「帰るぞ、馬鹿」
『ごめん…なさ…い、イアン…』
そう残して俺達を護った様な血塗れの銀髪の女と、レイに殺気を向ける蒼髪の男は消え去った。
今の二人…特に男が気になったが、今はもっと気にすべきものがあった。
「何だアレは」
神田はそう訊ねながらラビの腕からレイを奪うと、左手でレイを抱えた。
レイは気を失ったままだった。
「ユウ、アレはリナリ…」
「危険だぞ、神田!!」
そうマリの声が聞こえた瞬間、クルクルと鬱陶しい髪をしたノアが攻撃を仕掛けてきた。
「眼帯くんの次はお前か」
右手に構えた六幻で受ける中、そいつはニッコリと笑った。
「レイ、離してくんない?」
「誰が離すかよ」
わざとらしく笑い出すノア…ティキに、神田は不機嫌そうに眉を寄せた。
「眼帯くんと同じ事言うねぇ」
「一緒にするな」
受けていた攻撃を弾いてノアを突き放すと、後ろに飛んで距離を取る。
「もらうよ、彼女…勿論、大事な大事なレイもね」
「誰がやるかよ」
神田はレイを抱え直すとティキに斬り掛かった。
ティーズを扱うティキと激しい攻防戦になるが、ティキには余裕があった。
「頑張るね、少年…戦い難いだろ…レイは俺が抱いててやろうか?」
「煩ぇ!!」
「あ、やっぱり?」
明らかに人手が足りない。
リナリーの所に辿り着ける奴がいない…ッ…せめてレイに意識があって、自分の力で俺に掴まっててくれれば二幻刀が使えるんだが…それは無理だろう。
「ハハ、遊んでたら千年公に怒られるかな?」
「知るか、黙れ!」
「じゃあ、そろそろ終わり」
それが耳に届いた瞬間だった。
一瞬で俺は吹き飛ばされ、気付いた時にはそいつがレイを横抱きにして立っていた。
「お帰り、レイ」
「ッ…クソ」
「レイを護ってくれてありがとう、剣士の少年…」
瞬間“ドンッ”と一際大きな爆発が起こった。
そしてそいつはニヤリと口角を上げて笑った。
「もう役目は終わりだ。役立たずな
レイを抱えたそいつは爆発のあった後方へ飛ぶと、爆煙の中へ消えて行き、俺は六幻を二幻刀にするとそれを追い掛けて爆煙の中へと入った。
最悪だ。
こんな事あって堪るか…
レイを…レイをノアに捕られたなんて…
「そんな事あって堪るか」
神田は二幻刀を堅く握り締めると、爆煙の先の人影に向かって斬り掛かった。
「死ねぇ!!」
「うわっ!」
「神田!?」
「な…ッ?!」
爆煙の先にいたのはあの天パのノアじゃなくてモヤシだった。
「どういう事だ………ッ!?」
天パは…レイは…レイはどこへ行った…!
「俺は天パのノアを追ってきたんだ…おいラビ、奴知らねぇか」
「あれ?そういや俺の相手してたマッチョのおっさんも…」
ラビもまかれた…?
「どうなってるんだ…どこにもノアがいねぇ」
爆煙が晴れた先にはノアは一人も居なかった。
勿論、伯爵も…
「ユエとシャールもいないさ!」
「レイ…レイはどこですか?!」
俺が攫ってやる…
奴等からお前を奪ってやる──…
「ッ…」
何が攫ってやるだ。何が奪ってやるだ。
結局俺は護れなかった…
誓いも、約束も…レイ自身さえも…
何も…何も…
何一つ…
護れ無かった──…
「面白かったのに…なして引くんすか、千年公」
スキンと共に首根っこを掴まれ、千年伯爵にずるずると引き摺られたティキは、煙草の煙を吹きながらそう訊ねた。
「あのエクソシストの女の子、ハートだったかもしんねぇのに」
折角アイツ等に大人気なく仕返ししてたのに…そう思いながらふと、千年公の後を少し離れて付いて来る二体のアクマを見た。
江戸で俺と甘党に勝負を挑んできた二体のアクマだった。
二体を見比べたティキは、今度は千年伯爵の肩に引っ掛かる様に乗ったレイを見上げた。
「重イ♡三人共大きくなりましたネェ♡」
「聞いてます?…ねぇ、ちょっと」
「
「アラ♡ロード、作業ご苦労様でしタ♡」
建物の二階の窓枠に肘をついていたロードは、路地を歩く千年伯爵の肩に乗っているレイを見ると、目を輝かせた。
「レイだぁ!」
二階から千年伯爵の背に飛び降りたロードは、眠り続けるレイに猫の様に擦り寄った。
「うっわぁ、スゴイ久し振りぃ」
「やっと見付けました♡少々問題はありましたガ」
「へぇ~ユエとシャールも久し振りぃ」
そう言ってロードが手を振れば、ユエは片手を胸元に当てて…シャールはスカートの裾を摘んで綺麗に頭を下げた。
「「御久し振りです、ロード様」」
ロードはこいつら二体も知ってる様だな…下手すりゃ双子も…
他にレイやこいつらに会った事がある家族はいるんだろうか?
あぁ…でもそれより今、気になるのは…
「レイ寝てるねぇ~」
「ウフフ♡可愛い寝顔でしょウ?♡♡♡」
「レイはいつも可愛いよ~」
「千年公」
「ハイ?」
二人の話を遮って声を掛ければ、千年公はそう応えて足を止めた。
「…逃がすんすか?」
「まさか♡」
だよな…
て事は、あそこで引いたのは…
「キミの“お仕事”も戻ってきましたヨ♡」
そう言って、千年公はまた歩き出した。
「マジすか…生きてた…?左腕も?!」
「ピンピンしてましたヨ…見事に邪魔されまシタ♡」
あちゃ~…完璧失敗だ。
可笑しいな…確かにイノセンスを破壊した後、丁寧に心臓に穴まで空けたのに。
「ね~何のハナシぃ?」
「ティキぽんの不甲斐無い話でス♡」
不甲斐無…
「…勘弁して下さい」
「アァ…でも他にも不甲斐無い子がいましたネ♡」
そう言ってまたピタリと立ち止まった千年伯爵は、ティキとスキンを離してレイとロードを俺の上に降ろすと、後ろを振り返った。
「シャール、ユエ…一体どういう事デスか?♡」
そう問われても、レイの二体のアクマは顔色一つ変えなかった。
「シャール、お前はレイを連れ戻すタメに捜しに出たと思ってましタ♡」
「はい、伯爵様」
「ユエ…お前は何故仕事放棄ヲ?お前の仕事はレイに付き従い守り抜く事だと言ったハズですガ♡」
「はい…伯爵様」
「何故屋敷から出すのを禁じていたのに出したんでス?♡これは立派ナ仕事放棄ですヨ」
「…はい、伯爵様」
「お前もです、シャール…レイを連れ戻さなくてハならないと分かっていたでショウ?」
「勿論です、伯爵様」
“だったら何故”と問う千年公を前に顔を見合わせた二体のアクマは、直ぐに真っ直ぐと千年公を見据えた。
「伯爵様……確かに
「ボク達は常に…全てをレイの望み通りに」
コイツ等の決心は固いんだ…そう思った。
アクマが絶対的君主である千年公に意見するだなんて通常無い。
「その答えがレイを敵に差し出す事デスか?」
「…レイが出した結論です。レイの望みがボク等の望み」
「レイの望みに俺達は…」
瞬間、ドンッと小さめな爆発音が響いた。
「俺達…は…」
それはユエの目の前で、ユエが気付かぬ速さで起きていた…
ユエが気付いた時にはもう、シャール首を握り締めた千年伯爵の手から煙が上がっていた。
「おや♡ユエを狙ったんですが…随分素早くなりましたね、シャール♡」
そう言われてシャールは嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「フフ…ありがガガとうございピピッ…ガ…ます……でもザザ…ピッユエの方が凄いでガガガすよ、伯爵ザー…様」
アクマは何が嬉しいんだか…楽しいんだか分からないがひたすら微笑っていた。
「ザザ…ユエズ…は今、ピピレイでガ頭が一杯ガガガガなんで…す……ホヴヴゥント…体が大きシューいだけザザデ子供ヴヴなンピー、ピー、ピー…だガガガカ…ラ…ザザ……」
あぁ…アレはもう“駄目”だ。
千年公に首を捕まれたまま静かに天を仰いだアクマ…シャールを見てそう思った。
アレはもう…目覚める事は無い。
「シャール…シャール…?」
千年公の手から離れて地に落ちたシャールをもう一体のアクマ、ユエがそう声を掛けながら揺するが、やはりシャールが目覚める事は無かった。
「あ~ぁ…千年公、レイに怒られるよ~?」
「むぅ、それは困りますネ…でもコレはお仕置きデスから♡」
目覚めたレイは大丈夫だろうか?
最期も看取る事も出来ず、唯…
“少し寝ていた”間に大事なものを失うだなんて…
「ユエを壊してシャールにレイを任せようと思いましたガ…壊れてしまっては仕方ありませン。ユエが引き続きレイをみなさイ♡」
「………はい…伯爵様…」
シャールを抱えながらそう返事をしたユエの顔は見えなかった。
ティキは手にしていた煙草を口に加えると、ロードを自分の上から降ろしてレイを横抱きにして立ち上がった。
「駄目ですヨ、ティキぽん♡」
「は…?」
横抱きが駄目なのかと思ったら、近寄ってきた千年公にくわえていた煙草をとられた。
「あぁ…煙草ね」
あれだけ写真を見せるのを拒んだ割には、あっさりしてるな…何かあるのか?
「ティッキー、あ~ん…」
「ん……っ、甘ッ!」
「飴だよぉ~」
ロードは“煙草みたいでしょ~”と言って笑うが、それば棒が付いてるからという意味だけだろう……しかも細いから煙草をくわえてる気にはなれない。
「何してるんデスか?♡」
千年公の声に反応して振り向くと、ユエがシャールを横抱きにして立っていた。
シャールの首の千年公が掴んだ所は、無惨に焼け爛れている。
「連れて帰ります……ボディにさえ会えないだなんてレイが悲しみますから…」
「勝手にしなさイ♡」
小さく頭を下げたユエを見た千年公は振り返るとニッコリと笑った。
「さァ、帰りましょウ♡」
レイ──…‥