第2章 出会いと別れ
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チィが痺れを切らした瞬間…
チィが一気にエクソシストを消そうとするだろうと思った。
だからティキの腕から逃れた私は“黒キ舞姫”で教団側に飛んだ…そして皆に背を向けてチィと対峙する。
私がここに立っても…チィの攻撃はもう止める事は出来無いだろう。
全てを呑み込む黒い闇はチィを中心に広がってゆく…
『死角無しか…嫌になっちゃうよ、チィ』
アレは消すのは無理。
逸らす事は出来る…
でも全部は無理だ…絶対に誰かしらに当たってしまう。
『来い』
=深紅の盾=
思ったよりも痛くない。
ぼやっとした意識…霞む景色の中でそう思った。
消滅しても可笑しくないと分かっていて飛び込んだのに…すっかり見晴らしが良くなった世界。地が左に天が右になってはいたが、それはちゃんと私の目に映っていた。
生きてる…
体中が酷く痛いけど…けど私はまだ生きている。
だから“思ったよりも痛くない”と思った。
『皆…』
皆を早くチィから離さなきゃいけない。
視界の端に見えるラビやミランダはもう限界の様に見える。
少し取り零したか…
『早く…早く……』
兎に角今は早く皆を逃がさなきゃ…
悲鳴を上げる体を引き摺る様に起こして顔を上げた瞬間、私は信じられないものを見た。
『…………………う…そ……』
私の目の前では、私を庇う様に腕を広げて立った月が、虚ろな目で私を見下ろしていた。
酷くボロボロな月の口からは血が溢れていた。
『駄目…でしょ…ぁ…危ない、事…したら…』
困った様に力無く笑った月の口からは止めどなく血が流れ落ち、闇の様に深い地に血溜まりをつくっていた。
『なん…で…』
『貴女と同じ事をしたのよ』
皆を護る為に盾になった。
そんな私を護る為に…月が全ての盾になった。
『先に着て良かった…』
そう再び喋り出した月の広げていた腕がだらしなく下りた。
『貴女は何時も無茶ばかり…あぁ……ほんと…』
少し前屈みだった体勢を戻すが、その足が真っ直ぐと体勢を支える事は無かった。
『本当に…』
小刻みに震える体に乱れた息…咳込む度に口を抑える手が血に染まっていく…
『私に良く似てるわ』
困った様に笑う月に私は何を返したら良いか分からなかった。
体の震えが止まらない。ガタガタと震える体を…笑う膝の所為で足は立ち上がらせる事も出来無い。
『あらあら……貴女…が…そんな…でどうするの、レイ』
ボロボロの月が怖くて手を伸ばす事も出来無い。私は唯…震えを押さえる様に自分を抱えて地に座り込んでいた。
そして…月から目が離せずにいた。
『困った…わ、ね…』
月が怖い。
怖いから見たくないのに…
目が…
目が逸らせない…
『貴女が皆…を、逃がすまで…と思って周りの時間を止めたんだけど、もう…待たない…わ』
そういえばさっきから誰も動かない誰も声を発さない…そう気付いた瞬間だった。
糸が切れたマリオネットの様に月が膝から崩れた。
血溜まりの上にうつ伏せに倒れ、長い銀髪がそれを追い掛ける様に月に覆い被さった。
艶やかな銀髪が見る見る血に染まっていく…
「レイ……ッ、月?!」
叫び声と共に青い顔のラビが慌てて起き上がったのが視界の端に見えた。
月の術が解けた…
……術が…保てなくなった…
『月…』
何で…何でこんな時に私の身体は動かないの?ガタガタ震えてるだけなんて…
『返事してよ…月!!』
「月!!」
慌てて走ってきたラビが月を抱き起こそうとしたが、その手が月に触れる事は無かった。
血溜まりに倒れていた月が一瞬で消え、顔を上げると、長い蒼髪に蒼眼の青年が、血塗れの月を横抱きにしていた。
「おい、小娘…」
『ッ…』
青年…世界の境の管理者、イアンの怒りを含んだ低い声が私を戒める。
「“極力関わるな”と言った筈だ……何かあったら“只じゃ済まさねぇ”と警告もした」
イアンの冷たい瞳がレイを見下ろす。
「死にてぇのか?」
イアンの殺気に、神田はレイの前に飛び出すと、六幻をイアンに向けて構えた。
それと同時にレイはヒュッと息を飲んだ。
『ッ…ぁ、ッ!?』
息が…息が出来無い。
「レイ…?」
「レイ……レイ、どうしたさ?!」
ラビが苦しみ出すレイを抱き抱え、イアンは可笑しそうにクスクス笑った。
「あぁ…勝手に死ぬのか?」
「テメェ…」
『イアン…』
神田が六幻を持つ手に力を入れた瞬間、そう弱々しいが美しい声が響き、イアンはピタリと笑うのを止めた。
そして自分の抱えたものに目を向ける。
『イアン…止めて』
「……俺は何もしてない」
『貴方が殺気を向けるから、レイが怖がってるのよ』
そう言って小さく微笑んだ月は、その震える右手を神田越しにレイに伸ばした。
『レイ…』
月の腕は手前に居る神田にさえ届く事は無く、小さく空を切って止まった。
『レイ…ゆっくり呼吸なさい』
“ゆっくり…ゆっくり…”と弱々しく届く月の声に合わせて息をした。
ゆっくり…ゆっくり…
ゆっくり…ゆっくり…
そして…
そして私は闇に落ちた──…
チィが痺れを切らした瞬間…
チィが一気にエクソシストを消そうとするだろうと思った。
だからティキの腕から逃れた私は“黒キ舞姫”で教団側に飛んだ…そして皆に背を向けてチィと対峙する。
私がここに立っても…チィの攻撃はもう止める事は出来無いだろう。
全てを呑み込む黒い闇はチィを中心に広がってゆく…
『死角無しか…嫌になっちゃうよ、チィ』
アレは消すのは無理。
逸らす事は出来る…
でも全部は無理だ…絶対に誰かしらに当たってしまう。
『来い』
=深紅の盾=
思ったよりも痛くない。
ぼやっとした意識…霞む景色の中でそう思った。
消滅しても可笑しくないと分かっていて飛び込んだのに…すっかり見晴らしが良くなった世界。地が左に天が右になってはいたが、それはちゃんと私の目に映っていた。
生きてる…
体中が酷く痛いけど…けど私はまだ生きている。
だから“思ったよりも痛くない”と思った。
『皆…』
皆を早くチィから離さなきゃいけない。
視界の端に見えるラビやミランダはもう限界の様に見える。
少し取り零したか…
『早く…早く……』
兎に角今は早く皆を逃がさなきゃ…
悲鳴を上げる体を引き摺る様に起こして顔を上げた瞬間、私は信じられないものを見た。
『…………………う…そ……』
私の目の前では、私を庇う様に腕を広げて立った月が、虚ろな目で私を見下ろしていた。
酷くボロボロな月の口からは血が溢れていた。
『駄目…でしょ…ぁ…危ない、事…したら…』
困った様に力無く笑った月の口からは止めどなく血が流れ落ち、闇の様に深い地に血溜まりをつくっていた。
『なん…で…』
『貴女と同じ事をしたのよ』
皆を護る為に盾になった。
そんな私を護る為に…月が全ての盾になった。
『先に着て良かった…』
そう再び喋り出した月の広げていた腕がだらしなく下りた。
『貴女は何時も無茶ばかり…あぁ……ほんと…』
少し前屈みだった体勢を戻すが、その足が真っ直ぐと体勢を支える事は無かった。
『本当に…』
小刻みに震える体に乱れた息…咳込む度に口を抑える手が血に染まっていく…
『私に良く似てるわ』
困った様に笑う月に私は何を返したら良いか分からなかった。
体の震えが止まらない。ガタガタと震える体を…笑う膝の所為で足は立ち上がらせる事も出来無い。
『あらあら……貴女…が…そんな…でどうするの、レイ』
ボロボロの月が怖くて手を伸ばす事も出来無い。私は唯…震えを押さえる様に自分を抱えて地に座り込んでいた。
そして…月から目が離せずにいた。
『困った…わ、ね…』
月が怖い。
怖いから見たくないのに…
目が…
目が逸らせない…
『貴女が皆…を、逃がすまで…と思って周りの時間を止めたんだけど、もう…待たない…わ』
そういえばさっきから誰も動かない誰も声を発さない…そう気付いた瞬間だった。
糸が切れたマリオネットの様に月が膝から崩れた。
血溜まりの上にうつ伏せに倒れ、長い銀髪がそれを追い掛ける様に月に覆い被さった。
艶やかな銀髪が見る見る血に染まっていく…
「レイ……ッ、月?!」
叫び声と共に青い顔のラビが慌てて起き上がったのが視界の端に見えた。
月の術が解けた…
……術が…保てなくなった…
『月…』
何で…何でこんな時に私の身体は動かないの?ガタガタ震えてるだけなんて…
『返事してよ…月!!』
「月!!」
慌てて走ってきたラビが月を抱き起こそうとしたが、その手が月に触れる事は無かった。
血溜まりに倒れていた月が一瞬で消え、顔を上げると、長い蒼髪に蒼眼の青年が、血塗れの月を横抱きにしていた。
「おい、小娘…」
『ッ…』
青年…世界の境の管理者、イアンの怒りを含んだ低い声が私を戒める。
「“極力関わるな”と言った筈だ……何かあったら“只じゃ済まさねぇ”と警告もした」
イアンの冷たい瞳がレイを見下ろす。
「死にてぇのか?」
イアンの殺気に、神田はレイの前に飛び出すと、六幻をイアンに向けて構えた。
それと同時にレイはヒュッと息を飲んだ。
『ッ…ぁ、ッ!?』
息が…息が出来無い。
「レイ…?」
「レイ……レイ、どうしたさ?!」
ラビが苦しみ出すレイを抱き抱え、イアンは可笑しそうにクスクス笑った。
「あぁ…勝手に死ぬのか?」
「テメェ…」
『イアン…』
神田が六幻を持つ手に力を入れた瞬間、そう弱々しいが美しい声が響き、イアンはピタリと笑うのを止めた。
そして自分の抱えたものに目を向ける。
『イアン…止めて』
「……俺は何もしてない」
『貴方が殺気を向けるから、レイが怖がってるのよ』
そう言って小さく微笑んだ月は、その震える右手を神田越しにレイに伸ばした。
『レイ…』
月の腕は手前に居る神田にさえ届く事は無く、小さく空を切って止まった。
『レイ…ゆっくり呼吸なさい』
“ゆっくり…ゆっくり…”と弱々しく届く月の声に合わせて息をした。
ゆっくり…ゆっくり…
ゆっくり…ゆっくり…
そして…
そして私は闇に落ちた──…