第2章 出会いと別れ
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39
『見て、イアン…』
そう言って──は一冊の本を俺に差し出した。
『外観も中も真っ黒…』
「…そうだな」
その本は、真白の本の世界に色を落とす唯一の…今までに無く酷い“色付き”だった。
『もう読む事は叶わないわ』
「そうだな」
歪み過ぎたあの世界は徐々に浸食されて塗り潰された。
きっともう…元の姿 に戻る事は無いだろう。
『ねぇ、イアン…レイ達が存在しない…この世界の本当の物語を覚えてる?』
「……いいや」
『そう…私も覚えて無いの』
本当は覚えていた。少しだけ覚えていた。
だが、これ以上──が足を踏み入れない様に黙っていた。
『誰も知らない…誰も知る事の無い本当の世界』
知ればきっとコイツは…
『可哀想ね』
=誰よりも先に=
「フフ…お前がここの結界の“入口”か…」
胸部を円形に押し開いたかの様に天を仰ぐフォーの胸には“穴”が空いていた。
そしてそこから現れた方舟とアクマ…その状況がフォーが結界の入口だと物語っている。
そしてアクマの近くを飛ぶ蝶には見覚えがあった。
『ティキか…』
ティキが“迎え”に送り込んでくるという事は、ティキは近くに居ない…まさか日本に?
『ッ……レイ…』
拙い事になってきた。
千年伯爵は日本、クロスを追ってるジャスデビも日本、もしかしたらティキも日本…
四人を相手にエクソシストであるレイが自分の正体を隠し続けるだ何て絶対無理だ。
直ぐにレイだとバレる。
とっとと倒して日本に向かわなくては…
『三人共後ろを向いて』
そう言って親指を噛んだ月は、蝋花、李桂、シィフの白衣の背にそれぞれ血で陣を書いた。
『これで少しの間だけアクマの攻撃を弾けるわ』
後はアレンを…そう思った瞬間だった。
影から伸びた無数の黒い腕が纏わり付く様に月の動きと口を封じ、ゆっくりと沈みだした。
『ッ…!?』
「月さん?!」
蝋花達が引っ張り上げ様としてくれたが、私の身体は一切浮上する事無く一気に影へと沈んでいった。
そして全身が沈みきった瞬間、今度は急速に落下を始めた。
この感覚には覚えがあった。
『イアン!』
そう叫んでみたが、イアンの返事は無かった。
『イアン!私をあの世界へ帰して!』
私をこんな風に扱うのは…
他に考えられる人なんて居ないのに…
『イアン!』
もう一度、そう名を呼んだ瞬間だった。
抱き止められた感覚がして一気に世界が開けた。
辺りは白で統一された…宮殿の一室の様な部屋だった。
そして私を横抱きにしているのはイアンでは無く、黒髪緋眼の青年だった。
ねぇ、──…
気高く強く…強欲な君が──…
『ッ…………誰…?』
「トール」
青年はそう言うと、ゆっくりと私を地に降ろした。
『トール?』
「…イアンの友人の様な者だ」
『イアンの友達…?』
随分と長い時を一緒に居るが、イアンの友達を初めて見た。
というかイアン以外の本の外の住人を初めて見た。
イアン以外にも居たのか‥
『何故‥私を?』
「イアンに頼まれた」
『イアンに?』
「面倒な客が訪ねて…いや、不法侵入してきたからな…相手をしてる間、君が危なくなったら助けろと頼まれた」
トールに肩を優しく押され、月はベッドへ腰を下ろした。
隣にトールが腰を下ろす。
『…私はそんなに危なっかしいでしょうか?』
「……さぁな」
イアンがそんなに気を遣っていたなんて知らなかった。
「君は…確かに力がある“神さえも”凌駕 する力がな」
『そんな…』
「力は膨大、体術等も操る…君一人の戦力で世界を滅ぼす」
『…そんな事…しません』
「例えばの話だ」
例えばだなんて…恰も私がどこかの世界を滅ぼす様な言い方だった。
俯く月を目に、トールは軽く溜め息を吐いた。
「力はあるが、歪んだ世界に単身乗り込んで…しかも加担してんだ、イアンからしてみれば危なっかしいかもしれないな」
『イアン…』
そう呟いたきり俯いたまま黙り込んだ月は、暫くすると勢い良く立ち上がった。
『出来る限り気を付けます…だから私を直ぐにあの世界に帰して下さい!』
そう言い放った月に、トールは数秒間を空けて口を開いた。
「………一つ良いか」
『はい?』
「君は…俺の話を聞いていたのか?」
馬鹿だと思われたらしい。
『聞いていました、トール様』
「トールで良い……だったら何故戻る?」
『心配ですから』
「歪み過ぎて死んだ世界だろ…黒は白くはならない。どう手を施しても、永遠にな」
確かに黒は白くは成れない。
いくら白を混ぜても…
灰色にしか成れないのだ。
でも…
『彼等は生きてます』
彼等は必死に生きてる。
彼等は日々恐怖の中で憎しみと小さな希望を糧に生きている。
『彼等は“世界が死んだ”何て思ってません。これから終わらせようとしてる子等もいますけど』
月はノアを思い出してクスリと小さく笑った。
『私はイアンにあの世界を貰い…彼等に加担しました。だからこそ私は最後まで共に』
そう言い切った月は、トールに向かって困った様に微笑んだ。
『彼等が心配なんです…』
「改める気は更々無いか」
『はい、勿論。唯…出来る限り気を付けます』
月を真っ直ぐに見据えていたトールは、暫くすると深々と溜め息を吐いた。
「仕方の無い奴だ。イアンが手を焼くのも分かる」
呆れた様にそう言ったトールが立ち上がり、月の表情はパッと明るくなった。
そんな月を見て、トールは月の頭をガシガシと乱雑に…しかし優しく撫でた。
「良いだろう、帰してやる」
『有難う御座います!』
「敬語は要らない」
そう言うトールに、月は嬉しそうに笑った。
『有難う、トール』
──がそう言った瞬間、俺は──をあの世界へ戻した。
そして直ぐにテーブルの上に置いてあった黒い本を片手に“世界の境”へと術で移動した。
全てが白で統一された真白の世界…本が詰め込まれた先の見えない…そんな本棚と本棚の間を通路の脇の本の山を崩さない様に進む。
世界の境の中心の小さな広場へと辿り着くと、イアンが不機嫌そうな顔で宙に腰掛けていた。
「帰った様だな」
そう話し掛ければ、イアンは“あぁ”とだけ声を発した。
「返すぞ」
手にしていた黒い本を投げると、イアンはそれをチラリとも見ずに受け取った。
「何ともなかったか…?」
「いや、危ないと思ったからこちらへ飛ばした」
そう言うと漸くイアンはその視界に俺を映した。
「しかし直ぐに帰したよ…“私はイアンにあの世界を貰い、彼等に加担しました…だからこそ私は最後まで共に”だと…話には応じ無いし“出来る限り気を付ける”と言って聞かないから帰した」
イアンは“あぁ”とだけ口にすると、本を片手に目を閉じた。
「真っ直ぐで美しい女だな」
「あぁ」
「それでいて無邪気だ」
「あぁ」
美しいのは知っていた。
無邪気なのも知っていた。
封印された君を知っていた。
映像の中の君を知っていた。
イアンが夢中な君を知っていた。
ずっと昔から知っていた。
実際に会ってみて…
「お前が惚れた理由が漸く分かったよ」
「お前…」
目の当たりにして漸く気付いた…気付かなきゃ良かった感情に…この愛おしさに…
「こうなると分かっていたからお前は…今までの長い時、──を俺に会わせなかったのか?」
もう遅い。
遙かに遅いのは分かっていたが思わずにはいられない…
「俺が先に…──を見付けたかったな…」
もう戻れない──…
『見て、イアン…』
そう言って──は一冊の本を俺に差し出した。
『外観も中も真っ黒…』
「…そうだな」
その本は、真白の本の世界に色を落とす唯一の…今までに無く酷い“色付き”だった。
『もう読む事は叶わないわ』
「そうだな」
歪み過ぎたあの世界は徐々に浸食されて塗り潰された。
きっともう…
『ねぇ、イアン…レイ達が存在しない…この世界の本当の物語を覚えてる?』
「……いいや」
『そう…私も覚えて無いの』
本当は覚えていた。少しだけ覚えていた。
だが、これ以上──が足を踏み入れない様に黙っていた。
『誰も知らない…誰も知る事の無い本当の世界』
知ればきっとコイツは…
『可哀想ね』
=誰よりも先に=
「フフ…お前がここの結界の“入口”か…」
胸部を円形に押し開いたかの様に天を仰ぐフォーの胸には“穴”が空いていた。
そしてそこから現れた方舟とアクマ…その状況がフォーが結界の入口だと物語っている。
そしてアクマの近くを飛ぶ蝶には見覚えがあった。
『ティキか…』
ティキが“迎え”に送り込んでくるという事は、ティキは近くに居ない…まさか日本に?
『ッ……レイ…』
拙い事になってきた。
千年伯爵は日本、クロスを追ってるジャスデビも日本、もしかしたらティキも日本…
四人を相手にエクソシストであるレイが自分の正体を隠し続けるだ何て絶対無理だ。
直ぐにレイだとバレる。
とっとと倒して日本に向かわなくては…
『三人共後ろを向いて』
そう言って親指を噛んだ月は、蝋花、李桂、シィフの白衣の背にそれぞれ血で陣を書いた。
『これで少しの間だけアクマの攻撃を弾けるわ』
後はアレンを…そう思った瞬間だった。
影から伸びた無数の黒い腕が纏わり付く様に月の動きと口を封じ、ゆっくりと沈みだした。
『ッ…!?』
「月さん?!」
蝋花達が引っ張り上げ様としてくれたが、私の身体は一切浮上する事無く一気に影へと沈んでいった。
そして全身が沈みきった瞬間、今度は急速に落下を始めた。
この感覚には覚えがあった。
『イアン!』
そう叫んでみたが、イアンの返事は無かった。
『イアン!私をあの世界へ帰して!』
私をこんな風に扱うのは…
他に考えられる人なんて居ないのに…
『イアン!』
もう一度、そう名を呼んだ瞬間だった。
抱き止められた感覚がして一気に世界が開けた。
辺りは白で統一された…宮殿の一室の様な部屋だった。
そして私を横抱きにしているのはイアンでは無く、黒髪緋眼の青年だった。
ねぇ、──…
気高く強く…強欲な君が──…
『ッ…………誰…?』
「トール」
青年はそう言うと、ゆっくりと私を地に降ろした。
『トール?』
「…イアンの友人の様な者だ」
『イアンの友達…?』
随分と長い時を一緒に居るが、イアンの友達を初めて見た。
というかイアン以外の本の外の住人を初めて見た。
イアン以外にも居たのか‥
『何故‥私を?』
「イアンに頼まれた」
『イアンに?』
「面倒な客が訪ねて…いや、不法侵入してきたからな…相手をしてる間、君が危なくなったら助けろと頼まれた」
トールに肩を優しく押され、月はベッドへ腰を下ろした。
隣にトールが腰を下ろす。
『…私はそんなに危なっかしいでしょうか?』
「……さぁな」
イアンがそんなに気を遣っていたなんて知らなかった。
「君は…確かに力がある“神さえも”
『そんな…』
「力は膨大、体術等も操る…君一人の戦力で世界を滅ぼす」
『…そんな事…しません』
「例えばの話だ」
例えばだなんて…恰も私がどこかの世界を滅ぼす様な言い方だった。
俯く月を目に、トールは軽く溜め息を吐いた。
「力はあるが、歪んだ世界に単身乗り込んで…しかも加担してんだ、イアンからしてみれば危なっかしいかもしれないな」
『イアン…』
そう呟いたきり俯いたまま黙り込んだ月は、暫くすると勢い良く立ち上がった。
『出来る限り気を付けます…だから私を直ぐにあの世界に帰して下さい!』
そう言い放った月に、トールは数秒間を空けて口を開いた。
「………一つ良いか」
『はい?』
「君は…俺の話を聞いていたのか?」
馬鹿だと思われたらしい。
『聞いていました、トール様』
「トールで良い……だったら何故戻る?」
『心配ですから』
「歪み過ぎて死んだ世界だろ…黒は白くはならない。どう手を施しても、永遠にな」
確かに黒は白くは成れない。
いくら白を混ぜても…
灰色にしか成れないのだ。
でも…
『彼等は生きてます』
彼等は必死に生きてる。
彼等は日々恐怖の中で憎しみと小さな希望を糧に生きている。
『彼等は“世界が死んだ”何て思ってません。これから終わらせようとしてる子等もいますけど』
月はノアを思い出してクスリと小さく笑った。
『私はイアンにあの世界を貰い…彼等に加担しました。だからこそ私は最後まで共に』
そう言い切った月は、トールに向かって困った様に微笑んだ。
『彼等が心配なんです…』
「改める気は更々無いか」
『はい、勿論。唯…出来る限り気を付けます』
月を真っ直ぐに見据えていたトールは、暫くすると深々と溜め息を吐いた。
「仕方の無い奴だ。イアンが手を焼くのも分かる」
呆れた様にそう言ったトールが立ち上がり、月の表情はパッと明るくなった。
そんな月を見て、トールは月の頭をガシガシと乱雑に…しかし優しく撫でた。
「良いだろう、帰してやる」
『有難う御座います!』
「敬語は要らない」
そう言うトールに、月は嬉しそうに笑った。
『有難う、トール』
──がそう言った瞬間、俺は──をあの世界へ戻した。
そして直ぐにテーブルの上に置いてあった黒い本を片手に“世界の境”へと術で移動した。
全てが白で統一された真白の世界…本が詰め込まれた先の見えない…そんな本棚と本棚の間を通路の脇の本の山を崩さない様に進む。
世界の境の中心の小さな広場へと辿り着くと、イアンが不機嫌そうな顔で宙に腰掛けていた。
「帰った様だな」
そう話し掛ければ、イアンは“あぁ”とだけ声を発した。
「返すぞ」
手にしていた黒い本を投げると、イアンはそれをチラリとも見ずに受け取った。
「何ともなかったか…?」
「いや、危ないと思ったからこちらへ飛ばした」
そう言うと漸くイアンはその視界に俺を映した。
「しかし直ぐに帰したよ…“私はイアンにあの世界を貰い、彼等に加担しました…だからこそ私は最後まで共に”だと…話には応じ無いし“出来る限り気を付ける”と言って聞かないから帰した」
イアンは“あぁ”とだけ口にすると、本を片手に目を閉じた。
「真っ直ぐで美しい女だな」
「あぁ」
「それでいて無邪気だ」
「あぁ」
美しいのは知っていた。
無邪気なのも知っていた。
封印された君を知っていた。
映像の中の君を知っていた。
イアンが夢中な君を知っていた。
ずっと昔から知っていた。
実際に会ってみて…
「お前が惚れた理由が漸く分かったよ」
「お前…」
目の当たりにして漸く気付いた…気付かなきゃ良かった感情に…この愛おしさに…
「こうなると分かっていたからお前は…今までの長い時、──を俺に会わせなかったのか?」
もう遅い。
遙かに遅いのは分かっていたが思わずにはいられない…
「俺が先に…──を見付けたかったな…」
もう戻れない──…