第2章 出会いと別れ
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38
『ニャハハ!こっちだ、こっちぃ!』
そう言ってかれこれ何時間も…俺が繰り出す攻撃を避けながら女は楽しそうに飛び回り続けている。
白銀の長い髪が女の動きに合わせて揺れ動く。
『成長が早いなパールは!』
「セジをいうな」
『ニャハハ、世辞じゃないさ』
そう言って急に立ち止まった女は、止まる事が出来無かった俺の全力の攻撃を片手で受け止めた。
『合格点をやろう』
「はァ?」
『“はぁ?”って何さ!』
「たったイマ、ゼンリョクのこうげきをカタテでとめられた……ウザい」
片手で止めといて合格だぁ?
意味が分からない。
『ウザいって何だよ、パールぅ!別にアッシはパールをからかってる訳じゃ無いぞ』
「ウルサイ…からかってるヨウにしかキコエない」
『信じなって、まったく…合格だよパール、ご・う・か・く』
この女の性格の所為か…酷く信じ難い。
「ナニがねらいだ」
そう問えば、女は小さく溜め息を吐いた。
『何も無いさね…外でユエとシャールが待ってるよ』
「アイツラ…オワッタのか」
『正確には違うけどね』
「ナンデモいい…またアイツラとのチカラのサがはなれたコトにかわりナイ」
『そんな事無い。寧ろ縮まった筈だよ』
そう言って女は真っ直ぐに俺を指差した。
『断言してやるよ!パールは絶対、一番成長した!』
「オマエ…」
『さぁ、教えるよ』
優しい声色…俺を指差していた手を下ろすと女は嬉しそうに微笑んだ。
『アッシの名は…』
=護る者=
『フフ…可愛い』
アジア支部科学班室の一室…
モニター越しにキレたアレンを見た月は、小さく笑うとそう漏らした。
そんな月の前のテーブルに、ウォンはそっと茶を置く。
「仲間を想うあまり酷く焦っておいでですな」
『そうねぇ』
心配して焦って…
焦ってもどうにもならないと分かっているのに焦ってしまう自分に腹を立てて……
アレンの修行はどうにも上手くいってない様だ。
「日に日にストレスが溜まっているのが見て分かります」
「あぁ…」
「ずっと地下にこもってるのも良くないのかもしれませんよ。外に散歩に行けば気晴ら…」
「駄目だ」
そうウォンの言葉を遮ったバクは、漸く手にしていた書類から目を離した。
「忘れたのか、ウォン…アレンはノアに命を狙われたんだぞ」
『イノセンス無しで外に出るなんて死にに行くのも同然…私が付き添おうか、バク?』
「駄目だ。ノアはエクソシストやイノセンスとは関係なく“アレン・ウォーカー”という存在を消そうとしていた…“とある人物の関係者”として……ウォーカーに聞いても分からないと言っていた…とある人物」
少し考え込んだバクはふと小さな笑い声に反応して顔を上げると、自分の目の前で茶を口にしている月を見据えた。
「……知っているのか、月?」
『さぁ』
歪み過ぎた世界…
私が干渉した事によって更に歪んだ世界…
私にはもうこの世界の物語が判らない。
『唯…この世の神の神意はどこにあるのかと思っただけよ』
何故レイを造った…
何故ユエを…何故シャールを……?
自分の世界を何処へ落とそうとしている?何処へ導こうとしてる?
死が多過ぎて私には理解し難いが、神意が必ずある筈だ。
「神意など知った事か」
『バク…』
「俺達は人間 を自分達で守るだけだ」
書類に目を通しながらそう言うバクに、少しポカンとした月は瞬間、嬉しそうに微笑んだ。
『バク、かっこいい』
「な…ッ!!?」
瞬間、バクの顔が一気に赤くなり、全体に蕁麻疹が出た。
『あらあら』
「バク様!!」
『かっこよくて可愛いだなんて敵無しね、バク』
「月殿、バク様は女性にそういう事を言われるのは不慣れで」
「ウォン!!」
二人の遣り取りを見て、月はクスクスと可笑しそうに笑いながら席を立った。
『バク、私…ウォンに怒られるからもう行くわね』
「月殿!」
『冗談よ、ウォン…私、ちょっとアレンの様子を見てくるわ』
慌てるウォンを前に悪戯っぽく笑った月は、そう言って部屋を後にした。
地下という状況の所為かやけにひんやりとした誰もいない通路を一人進む。
バク・チャン…黒の教団というヴァチカンの名の下にある宗教団体の中で堂々とあんな事言うだなんて…芯がしっかりしていて良い。
彼の芯はどんな状況まで堪えられるかを何となく考えた。
「月!!」
そしてそう呼ばれて、私は考えるのを止めて立ち止まった。
声のした後方を振り向くと、ツインテールにメイド服の可愛らしい少女がこちらに向かって駆けて来ていた。
後ろからは肩に烏を乗せた銀髪の青年と、白髪に緋色と蒼色のオッドアイの青年が歩いて来る。
「どういう事、月?!ボク等まだ終わってないよ!」
「まだ潰してない」
『潰す?』
銀髪の青年、ユエの言葉に月が首を傾げると、オッドアイの青年、紅が月の手を取った。
「ブラックパールはどうか知りませんが、この二人は稽古前とさして変わりがありませんよ」
「ッ…」
「ホントこいつムカつく!!」
「アハハ、光栄ですよ」
ニッコリと笑う紅に、月は“もぅ”と声を洩らすと困った様に眉を寄せて紅の手を握り返した。
『パールは“終了した”と報告を受けてるわ』
“どうだった?”と訊ねれば、パールは不機嫌そうにのどを鳴らした。
「ニャハハハハうるさいヤツだった」
『そう…』
「ケド…いいヤツだった」
『そう』
嬉しそうに微笑んだ月は瞬間、真剣な表情で三人を見据えた。
『レイが一人で日本へ行ったわ』
「何だと?」
『蘭寿に許しを得て飛び出して行ったらしいわ…私には連絡一切無し。という事は、事は急を要する』
恐らく感知したのだろう。
不穏な空気の流れを…
『日本には千年伯爵達が居る』
そして自分の無知を受け止めに行ったのだ。
『選びなさい…このまま修行を続けるか、レイの元へ行くか』
レイは目にするだろう。
アクマの生成工場を…
アクマの死骸の山を…
アクマで溢れかえった日本を…
「行くに決まってるだろう」
「そうだよ、月!ボク等はレイの護衛なんだから」
二人がそう言った瞬間、隣で小さく紅が笑ったのが聞こえた。
『そう言うと思った』
月の影が生き物の様に動き、丸く広がる。
それはまるで底の無い落とし穴の様に闇にのまれている。
『江戸へ繋げてある…行ってらっしゃい、三人共』
二人と一羽は迷わず月の影へと飛び込んだ。
二人と一羽を飲み込んだ影は、何事もなかった様に動き出すと、元の形へと戻った。
『紅…何で笑ってたの?』
「あぁ…えぇ、唯…」
『唯?』
「不覚にも…似てるな、と…」
不覚にも…そういう言葉を遣うのは紅にしては珍しい事だった。
『似てる…?』
月の言葉に紅は小さく頷いた。
「少女を自分の手で護る為に彼等に迷いは無かった」
紅は繋いでいた月の手にそっとキスを落とした。
「俺達も一緒ですよ、──…」
『私達も…?』
「貴女は全てを擲 ってでも俺達を護ろうとする…勿論、俺達だって──を護る為なら何も要らない」
『そうだったわね』
確かにその通りだった。
彼等は私を護る事を第一にしている。
勿論、私も…
皆を何が何でも護る…だって…
『でも“何も要らない”は困るわ』
私は彼等が居ないと胸が引き裂かれてしまうから…
『貴方自身を大切にしてくれないと、私はとても悲しい』
「じゃあ“互いを護り合い続ける関係”と考えては?」
『護り合い続ける…』
“そぅ”と呟いた紅は、私に向かって嬉しそうに微笑んだ。
「終わりの見えない護り合い…俺は大歓迎ですよ、──」
『………そうね』
それは…制約の様な“可愛い約束”
それは……
『ここまで来たのだからとことん一緒に居ましょ、紅』
「はい、──」
それは…
私への甘い毒…
『そうだ、紅…無理に修行頼んだのに急に止めさせて御免なさいね』
「いえ…」
『後で埋め合わせするわ…呼んだら出て来てね、紅』
皐悸と楼季も呼んで四人でゆっくりしよう…
「──が望むままに」
嬉しそうに微笑んだ紅は、そう言うと煙の様に消え去った。
それを見送った月は再び歩き出した。
アレンの気配を辿って迷路の様な道を進む。
「“戦わなきゃ”ですか?」
アレンに近付くに連れて話し声が聞こえ出し、月は首を傾げた。
この声は蝋花に聞こえるが…でもこの気配は…
「今貴方を突き動かしてるものは貴方の優しさでしょう?
でもそのたくさんの優しさから生まれたたくさんの“戦わなきゃ”というキモチで…貴方の大切なキモチが埋もれてしまっていませんか?」
ゆっくりと近付くと、アレンと蝋花が手摺りに腰掛けているのが見えた。
そっと近くの柱の影に隠れると気配を消す。
「戦う為に戦うのではありません…戦う為に生きているのではありません……大切なものがあるから…」
瞬間、気配を消した月の横を月に気付かずに科学班の三人組が通り過ぎて行った。
おや、これは…
「大切なものがあるから…だから人は戦おうと思うのです!」
「何それ──!!?」
やっぱりなった…
「あたっあたっあたしがウォーカーさんとイチャイチャしてるぅ!!?ド…ドドド、ドッペルゲンガー!」
目の前にいる自分に瓜二つな存在に、蝋花は慌てふためいてそう声を上げた。
「何だ、どうした蝋花!」
「ん…あれ?」
蝋花の後に続いた二人も、ニセ蝋花と化した少女の姿を見て首を傾げた。
一方、一瞬不機嫌そうな表情をしたニセ蝋花は、ニッコリと微笑むとその姿を長い銀髪に緋色の瞳の女へと姿を変えた。
「月?!」
『驚かせてしまったな』
おや…これは面白い事になってきた。
「すっげー」
「月さん、そんな事出来たんですか?!」
蝋花の質問に月…否、月に成り澄ました女はニッコリと微笑んだ。
『まぁな』
どうやら私の口調が良く分からないらしい。笑って誤魔化そうとしている。
これはもう御開きだな…
「あれ…?ねぇ、もしかしてその人…」
『あらあら、良く見た顔だ』
そう言って柱の影から姿を現せば、ニセ月は不機嫌そうにチッと舌打ちをした。
「月!?」
「またドッペルゲンガー?!」
『もう良いんじゃないかしら』
小さく可笑しそうに笑った月がそう言えば、再度ニセ月は不機嫌そうにチッと舌打ちをした。
「あーぁ、ブチ壊しだぜ!」
そう頬を赤く染めて悪態を吐きながら、ニセ月はフォーへと姿を変えた。
「フォ…フォお!!?」
「やっぱり…フォーさん擬態出来るんだよ。それでよく支部長からかってるって先輩が…」
「カン違いすんなよ、ウォーカー!」
少年の言葉を遮ってそう喋り出したフォーがアレンに弁解の様な文句の様な事をまくしたて出したので、私は思わず可笑しくて笑ってしまった。
「何笑ってやがる、月!」
『いや…可愛いなと思って』
「ウルセェ!」
『あらあら…別に照れなくて良いのよ』
「“あらあら”ウルセェ、ババ!」
「フォー、月に失礼ですよ!」
『あら良いのよ、アレン…実際結構な年寄りなんだし』
「え、嘘?!見えませんよ、月さん!」
『あら有難う、蝋花』
「…馬鹿馬鹿しい」
そう呟いたフォーが手摺りから降りて吹き抜けを歩き出し、アレンは声を上げた。
「ありがとう、フォー」
そう叫んだアレンが“灯り”と付け足せば、フォーの纏った気が和らいだ様に感じられた。
上手い手だ…
「少し休んだらまた始めるぞ」
「うん」
そうアレンの返事を聞くと、フォーは再び歩き出した。
が、少し歩いたフォーはその足をピタリと止めた。
「バク…ッ」
『フォー…?』
「バク…」
結界が乱れてる…
まさか…
「バク…ッ」
『四人共こっちへ来なさい!』
「ウォーカーを隠せバクゥゥ──!!!」
迎えに来たよ…アレン・ウォーカー…
『ニャハハ!こっちだ、こっちぃ!』
そう言ってかれこれ何時間も…俺が繰り出す攻撃を避けながら女は楽しそうに飛び回り続けている。
白銀の長い髪が女の動きに合わせて揺れ動く。
『成長が早いなパールは!』
「セジをいうな」
『ニャハハ、世辞じゃないさ』
そう言って急に立ち止まった女は、止まる事が出来無かった俺の全力の攻撃を片手で受け止めた。
『合格点をやろう』
「はァ?」
『“はぁ?”って何さ!』
「たったイマ、ゼンリョクのこうげきをカタテでとめられた……ウザい」
片手で止めといて合格だぁ?
意味が分からない。
『ウザいって何だよ、パールぅ!別にアッシはパールをからかってる訳じゃ無いぞ』
「ウルサイ…からかってるヨウにしかキコエない」
『信じなって、まったく…合格だよパール、ご・う・か・く』
この女の性格の所為か…酷く信じ難い。
「ナニがねらいだ」
そう問えば、女は小さく溜め息を吐いた。
『何も無いさね…外でユエとシャールが待ってるよ』
「アイツラ…オワッタのか」
『正確には違うけどね』
「ナンデモいい…またアイツラとのチカラのサがはなれたコトにかわりナイ」
『そんな事無い。寧ろ縮まった筈だよ』
そう言って女は真っ直ぐに俺を指差した。
『断言してやるよ!パールは絶対、一番成長した!』
「オマエ…」
『さぁ、教えるよ』
優しい声色…俺を指差していた手を下ろすと女は嬉しそうに微笑んだ。
『アッシの名は…』
=護る者=
『フフ…可愛い』
アジア支部科学班室の一室…
モニター越しにキレたアレンを見た月は、小さく笑うとそう漏らした。
そんな月の前のテーブルに、ウォンはそっと茶を置く。
「仲間を想うあまり酷く焦っておいでですな」
『そうねぇ』
心配して焦って…
焦ってもどうにもならないと分かっているのに焦ってしまう自分に腹を立てて……
アレンの修行はどうにも上手くいってない様だ。
「日に日にストレスが溜まっているのが見て分かります」
「あぁ…」
「ずっと地下にこもってるのも良くないのかもしれませんよ。外に散歩に行けば気晴ら…」
「駄目だ」
そうウォンの言葉を遮ったバクは、漸く手にしていた書類から目を離した。
「忘れたのか、ウォン…アレンはノアに命を狙われたんだぞ」
『イノセンス無しで外に出るなんて死にに行くのも同然…私が付き添おうか、バク?』
「駄目だ。ノアはエクソシストやイノセンスとは関係なく“アレン・ウォーカー”という存在を消そうとしていた…“とある人物の関係者”として……ウォーカーに聞いても分からないと言っていた…とある人物」
少し考え込んだバクはふと小さな笑い声に反応して顔を上げると、自分の目の前で茶を口にしている月を見据えた。
「……知っているのか、月?」
『さぁ』
歪み過ぎた世界…
私が干渉した事によって更に歪んだ世界…
私にはもうこの世界の物語が判らない。
『唯…この世の神の神意はどこにあるのかと思っただけよ』
何故レイを造った…
何故ユエを…何故シャールを……?
自分の世界を何処へ落とそうとしている?何処へ導こうとしてる?
死が多過ぎて私には理解し難いが、神意が必ずある筈だ。
「神意など知った事か」
『バク…』
「俺達は
書類に目を通しながらそう言うバクに、少しポカンとした月は瞬間、嬉しそうに微笑んだ。
『バク、かっこいい』
「な…ッ!!?」
瞬間、バクの顔が一気に赤くなり、全体に蕁麻疹が出た。
『あらあら』
「バク様!!」
『かっこよくて可愛いだなんて敵無しね、バク』
「月殿、バク様は女性にそういう事を言われるのは不慣れで」
「ウォン!!」
二人の遣り取りを見て、月はクスクスと可笑しそうに笑いながら席を立った。
『バク、私…ウォンに怒られるからもう行くわね』
「月殿!」
『冗談よ、ウォン…私、ちょっとアレンの様子を見てくるわ』
慌てるウォンを前に悪戯っぽく笑った月は、そう言って部屋を後にした。
地下という状況の所為かやけにひんやりとした誰もいない通路を一人進む。
バク・チャン…黒の教団というヴァチカンの名の下にある宗教団体の中で堂々とあんな事言うだなんて…芯がしっかりしていて良い。
彼の芯はどんな状況まで堪えられるかを何となく考えた。
「月!!」
そしてそう呼ばれて、私は考えるのを止めて立ち止まった。
声のした後方を振り向くと、ツインテールにメイド服の可愛らしい少女がこちらに向かって駆けて来ていた。
後ろからは肩に烏を乗せた銀髪の青年と、白髪に緋色と蒼色のオッドアイの青年が歩いて来る。
「どういう事、月?!ボク等まだ終わってないよ!」
「まだ潰してない」
『潰す?』
銀髪の青年、ユエの言葉に月が首を傾げると、オッドアイの青年、紅が月の手を取った。
「ブラックパールはどうか知りませんが、この二人は稽古前とさして変わりがありませんよ」
「ッ…」
「ホントこいつムカつく!!」
「アハハ、光栄ですよ」
ニッコリと笑う紅に、月は“もぅ”と声を洩らすと困った様に眉を寄せて紅の手を握り返した。
『パールは“終了した”と報告を受けてるわ』
“どうだった?”と訊ねれば、パールは不機嫌そうにのどを鳴らした。
「ニャハハハハうるさいヤツだった」
『そう…』
「ケド…いいヤツだった」
『そう』
嬉しそうに微笑んだ月は瞬間、真剣な表情で三人を見据えた。
『レイが一人で日本へ行ったわ』
「何だと?」
『蘭寿に許しを得て飛び出して行ったらしいわ…私には連絡一切無し。という事は、事は急を要する』
恐らく感知したのだろう。
不穏な空気の流れを…
『日本には千年伯爵達が居る』
そして自分の無知を受け止めに行ったのだ。
『選びなさい…このまま修行を続けるか、レイの元へ行くか』
レイは目にするだろう。
アクマの生成工場を…
アクマの死骸の山を…
アクマで溢れかえった日本を…
「行くに決まってるだろう」
「そうだよ、月!ボク等はレイの護衛なんだから」
二人がそう言った瞬間、隣で小さく紅が笑ったのが聞こえた。
『そう言うと思った』
月の影が生き物の様に動き、丸く広がる。
それはまるで底の無い落とし穴の様に闇にのまれている。
『江戸へ繋げてある…行ってらっしゃい、三人共』
二人と一羽は迷わず月の影へと飛び込んだ。
二人と一羽を飲み込んだ影は、何事もなかった様に動き出すと、元の形へと戻った。
『紅…何で笑ってたの?』
「あぁ…えぇ、唯…」
『唯?』
「不覚にも…似てるな、と…」
不覚にも…そういう言葉を遣うのは紅にしては珍しい事だった。
『似てる…?』
月の言葉に紅は小さく頷いた。
「少女を自分の手で護る為に彼等に迷いは無かった」
紅は繋いでいた月の手にそっとキスを落とした。
「俺達も一緒ですよ、──…」
『私達も…?』
「貴女は全てを
『そうだったわね』
確かにその通りだった。
彼等は私を護る事を第一にしている。
勿論、私も…
皆を何が何でも護る…だって…
『でも“何も要らない”は困るわ』
私は彼等が居ないと胸が引き裂かれてしまうから…
『貴方自身を大切にしてくれないと、私はとても悲しい』
「じゃあ“互いを護り合い続ける関係”と考えては?」
『護り合い続ける…』
“そぅ”と呟いた紅は、私に向かって嬉しそうに微笑んだ。
「終わりの見えない護り合い…俺は大歓迎ですよ、──」
『………そうね』
それは…制約の様な“可愛い約束”
それは……
『ここまで来たのだからとことん一緒に居ましょ、紅』
「はい、──」
それは…
私への甘い毒…
『そうだ、紅…無理に修行頼んだのに急に止めさせて御免なさいね』
「いえ…」
『後で埋め合わせするわ…呼んだら出て来てね、紅』
皐悸と楼季も呼んで四人でゆっくりしよう…
「──が望むままに」
嬉しそうに微笑んだ紅は、そう言うと煙の様に消え去った。
それを見送った月は再び歩き出した。
アレンの気配を辿って迷路の様な道を進む。
「“戦わなきゃ”ですか?」
アレンに近付くに連れて話し声が聞こえ出し、月は首を傾げた。
この声は蝋花に聞こえるが…でもこの気配は…
「今貴方を突き動かしてるものは貴方の優しさでしょう?
でもそのたくさんの優しさから生まれたたくさんの“戦わなきゃ”というキモチで…貴方の大切なキモチが埋もれてしまっていませんか?」
ゆっくりと近付くと、アレンと蝋花が手摺りに腰掛けているのが見えた。
そっと近くの柱の影に隠れると気配を消す。
「戦う為に戦うのではありません…戦う為に生きているのではありません……大切なものがあるから…」
瞬間、気配を消した月の横を月に気付かずに科学班の三人組が通り過ぎて行った。
おや、これは…
「大切なものがあるから…だから人は戦おうと思うのです!」
「何それ──!!?」
やっぱりなった…
「あたっあたっあたしがウォーカーさんとイチャイチャしてるぅ!!?ド…ドドド、ドッペルゲンガー!」
目の前にいる自分に瓜二つな存在に、蝋花は慌てふためいてそう声を上げた。
「何だ、どうした蝋花!」
「ん…あれ?」
蝋花の後に続いた二人も、ニセ蝋花と化した少女の姿を見て首を傾げた。
一方、一瞬不機嫌そうな表情をしたニセ蝋花は、ニッコリと微笑むとその姿を長い銀髪に緋色の瞳の女へと姿を変えた。
「月?!」
『驚かせてしまったな』
おや…これは面白い事になってきた。
「すっげー」
「月さん、そんな事出来たんですか?!」
蝋花の質問に月…否、月に成り澄ました女はニッコリと微笑んだ。
『まぁな』
どうやら私の口調が良く分からないらしい。笑って誤魔化そうとしている。
これはもう御開きだな…
「あれ…?ねぇ、もしかしてその人…」
『あらあら、良く見た顔だ』
そう言って柱の影から姿を現せば、ニセ月は不機嫌そうにチッと舌打ちをした。
「月!?」
「またドッペルゲンガー?!」
『もう良いんじゃないかしら』
小さく可笑しそうに笑った月がそう言えば、再度ニセ月は不機嫌そうにチッと舌打ちをした。
「あーぁ、ブチ壊しだぜ!」
そう頬を赤く染めて悪態を吐きながら、ニセ月はフォーへと姿を変えた。
「フォ…フォお!!?」
「やっぱり…フォーさん擬態出来るんだよ。それでよく支部長からかってるって先輩が…」
「カン違いすんなよ、ウォーカー!」
少年の言葉を遮ってそう喋り出したフォーがアレンに弁解の様な文句の様な事をまくしたて出したので、私は思わず可笑しくて笑ってしまった。
「何笑ってやがる、月!」
『いや…可愛いなと思って』
「ウルセェ!」
『あらあら…別に照れなくて良いのよ』
「“あらあら”ウルセェ、ババ!」
「フォー、月に失礼ですよ!」
『あら良いのよ、アレン…実際結構な年寄りなんだし』
「え、嘘?!見えませんよ、月さん!」
『あら有難う、蝋花』
「…馬鹿馬鹿しい」
そう呟いたフォーが手摺りから降りて吹き抜けを歩き出し、アレンは声を上げた。
「ありがとう、フォー」
そう叫んだアレンが“灯り”と付け足せば、フォーの纏った気が和らいだ様に感じられた。
上手い手だ…
「少し休んだらまた始めるぞ」
「うん」
そうアレンの返事を聞くと、フォーは再び歩き出した。
が、少し歩いたフォーはその足をピタリと止めた。
「バク…ッ」
『フォー…?』
「バク…」
結界が乱れてる…
まさか…
「バク…ッ」
『四人共こっちへ来なさい!』
「ウォーカーを隠せバクゥゥ──!!!」
迎えに来たよ…アレン・ウォーカー…