第2章 出会いと別れ
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29
母様…
御母様…
母上…
ママ…
御免ね…十年という短い時間しか一緒にいてあげられ無くて。
御免ね…三年という短過ぎる時間しか一緒にいてあげられ無くて。
御免ね…辛い役目を担わせて。
御免ね…一握りの事しか教えてあげられなくて。
謝罪の言葉は…
何度口にしても切りが無い。
=試練=
フォーと修行をする事となったアレンと別れ、ユエ、シャール…そして本部から遅れて到着したブラックパールと合流したレイは、月の術で月が造り出した異空間へと移動した。
移動は一瞬で済み、閉じていた目を開けると、もうそこはアジア支部では無かった。
目の前に広がる風景は日本の“神社”の様だった。
辺りには何の気配も無く、唯一つの気配の正体である月が、黒い袴に黒い羽織りを羽織って賽銭箱に腰掛けていた。
『これからそなた達にはゲームをしてもらう。
ルールは至って簡単だ』
“ゲーム”という言葉に、ブラックパールが不機嫌そうに小さく喉を鳴らした。
レイはそんなブラックパールを肩に乗せると優しく頭を撫でてやった。
『武器やイノセンスの使用可。コンバートもして良いしノア化しても良い…兎に角何でも有りだ』
そう言った月は、羽織っていた黒い羽織りを賽銭箱に向かって脱ぎ捨てた。
月の両手首に付いた複数の金銀のブレスレットがぶつかりあって音を立てた。
『私は武術のみ』
月は綺麗な着物で着飾った訳では無く、黒い袴にさらしだけの姿だったのに、凜としていて美しかった。
『四人纏めて掛かって来い』
そう月が口にした瞬間、私達は全員同時に地を…ブラックパールは私の肩を蹴った。
走りながら“音ノ鎖”を片手にノア化し、ユエとシャールはコンバートした。
最初から本気でいかないと相手にされないのを分かっていたからだった。
それを知らないブラックパールも、私達に合わせる様に空中でイノセンスを開放した。全員で一気に突っ込む。
『芸の無い奴等だな』
そう月が口にした瞬間、シャールは頬、私は腹部、ユエは顎にそれぞれ攻撃を喰らって吹き飛ばされた。ブラックパールも首を掴まれて投げ飛ばさる。
『時に邪魔になるから、芸を身に付けろとは言わない…が、こうも無さ過ぎると悲惨だ。はっきり言って手がバレバレだ』
ダメージは負うが、怪我をしない。そんな程度にお腹に五発入れられた。完璧に甘く見られてる…
『お前達、弱くなったんじゃないか?』
月はそう言って溜め息を吐くと、レイ達を見据えた。
その表情には冷たい殺気が籠もっていて、私達も自然と殺気を持って対抗する。
月は術で長い銀髪を結い上げると、掌を上にしてレイ達を指差し、その指をレイ達を招き寄せる様に数回、自分に向けて折り曲げた。
『さっさと掛かって来い』
娘と称した者に少量であれ殺気を向けるのは久々だった。
昔は良くこうやって子等を鍛えたものだ…
母様…
御母様…
母上…
ママ…
私の寿命が短かったばかりに、愛おしい子等の成長を見届けるどころか、九年という短い歳月…一番年上であり、ある意味一番年下である子に至っては三年という短過ぎる時間しか一緒に居てあげられ無かった。
挙げ句、私の心が脆かったばかりに…
子等に危険な闘いを担わせてしまった。
あの子達は、最後に幸せだったと言ってくれたが、私は謝罪の言葉を口にしたら切りが無い事を知っている。
ある意味では母親だとはっきり言い切れ無いのも分かっている。
己の身の内に渦巻く呪いの浸食にも勝てぬ弱い師だった…
我が子を普通の子供の様に育てられなかった駄目な母親だった。
そんな私が…色々な意味で…
この子を護れるだろうか──…
どういう事だ。
修行を“ゲーム”だと言ったこの女に腹立たしさを覚えながら、女の強さを知らなかった俺は、レイ達に合わせてイノセンスを開放して突っ込んだ。
全員で行ったのだから直ぐに終わると思っていた。思っていたのに…
何なんだこの女は。
意味が分からない。
奴の冷静さが…奴の異常な強さが、奴の存在が…分からない。
いくらイノセンスを使って未来に先回りをしても、この女は何事も無かったかの様に対応してくる。
過去に戻ったところで、どちらにしろ一発も攻撃が入らない。
全く…歯が立たない。
弱さなんて要らないんだ…
《畜生!!!イノセンス発動“聖騎士ノ鋼鎧 ”》
誰にも言わずに隠し持っていたもう一つのイノセンスを開放すると“バキン”という音と共に羽一本一本が厚みと硬度を増し、目元以外を鎧の様に包んだ。
これで俺自身が盾であり剣だ。
《これで最後だ!》
時を渡って女の死角から一気に攻撃を仕掛ける。
盾であると同時に刃である身体全体を使って突っ込んだ。
『言葉遣いが汚い。気を付けろ、ブラックパール』
そう女が口にした瞬間、俺は女に首を鷲掴みにされた。
一瞬だった。届くと思った瞬間、ひらりと舞う様に避けられて、首を掴まれた。
また届かなかった…
不機嫌そうに表情を歪めたブラックパールを見たレイは、飛び退いて月から離れると目を輝かせた。
ユエとシャールもそれに続いて月から離れる。
『パール!貴方もう一つイノセ…』
「ナンでキタナイとわかった……ヒトのコトバをクチにしたオボエクはナイぞ」
レイの声を遮ってそう言ったブラックパールはそう口にし、月は己の手の中に収まったブラックパールに向かってニッコリと微笑んだ。
『私は動物とも植物とも話をする事が出来るからな』
とことん完璧過ぎて不快だ。
自分の無力さを永遠に叩き付けられている様で胃がムカムカする…
ブラックパールは時を移動して月の手の中から抜け出ると、レイの肩へと移動し、小声で呟いた。
「ヤルぞ…レイ」
『了~解』
ブラックパールとレイは一瞬にして消え去った。
瞬間、ユエが作り出した鋭利な水晶と、シャールの砲弾が月に一斉攻撃を仕掛ける。
月は飛び退くと、賽銭箱の上に脱ぎ捨てた羽織りの下から、刀身の長い刀を取り出した。
そして刀を鞘から抜くと、一瞬にして全ての攻撃を斬り落とした。
ユエの破れた水晶が一瞬にして消え去る中、シャールの砲弾がゴトンと音を立てて地にめり込む。
瞬間、月はピタリと動きを止めた。止まるしか無かった。
全身を捕縛する何かの所為で頭さえ動かせない月が目だけを動かせば、その目には全身にタトゥーの様な模様が入ったレイとブラックパールが自分に攻撃をしようとしている姿が映った。
『うん…芸だな』
“だが”と呟いた月は、持っていた刀で一瞬にして捕縛を斬り裂いた。
直ぐにブラックパールがレイに触れ、時を超えて背後に飛び、レイがヴァイオリンを盾に、弓を剣にして斬りかかる。
月は左手に持った鞘をレイの鳩尾に叩き入れ、刀をブラックパールが近付け無い様に突き出した。
『グッ…ァ゛』
《ッ、畜生!!!》
『甘い』
月はブラックパールとユエ、シャールが動きを止めたのを見ると術で刀を仕舞い、崩れるレイを抱き止めた。
『ッ…ハァ』
『大丈夫か、レイ?』
『ん…月が軽く入れてくれたから』
自力で立とうとするレイの体からは、既にタトゥーが消えていた。
『ではプランを説明しようか』
「プラン?」
人型になってレイに駆け寄った##NAME3##は、そう口にすると首を傾げた。
『修行の内容だ』
「イマまでのはナンだったんだ?」
『ゲームだと言ったろう?今の各々の実力を見るにはあれが一番手っ取り早かったんだ』
月はニッコリと笑うと、賽銭箱の上の羽織りを肩に掛けて羽織り、賽銭箱に腰掛けた。
『ユエとシャールは二人で解放前のノア一体に太刀打ち出来る様な実力だから、上を目指そう…目標は解放前のノア一人に一体。
力を解放したノア一人に対し、二人で太刀打ち出来る様に成る可く近付ける。家族に相手を頼むから、取り敢えず暫く死ぬ気で戦いなさい』
これより先、二人にとっては…レイが一緒にいる為に二人に組み込まれたイノセンスがどれだけ保つかが鍵となる。
適合者では無い二人に無理矢理組み込まれたイノセンスは公に鍛える事が出来無いから慎重にやらなくてはならない。
『ブラックパールは申告をして無かったイノセンスを全く使えて無いから基礎からだな』
「…キカレなかったからイワナカッタ」
『…ヘブラスカが感知できないとは思えんがな…パール、お前ワザとだろう?』
「……」
ブラックパールは二つのイノセンスに適合しているのに、全く使えていない。
そこまで話した月は一息つくと睨み付ける様にレイを見据えた。
『レイも基礎だ。身体が能力に追い付かずに振り回されるとは何事か!お前にも家族を当てるから暫く組み手をしていろ』
『……ご…ごめん、なさい…』
『力が強くなっても操る身体が元のままでは意味が無いのだよ』
先程のゲームでのレイは完璧に能力に振り回されていた。
中途半端にイノセンスを開放して…あんな事をしていたら何時か身を滅ぼすだろう。
月はうなだれたレイの頭を優しく撫でると、再度口を開いた。
『紅 、皐悸 、楼季 、蘭寿 』
月がそう呟くと、緋色と蒼色のオッドアイに白髪の青年と二匹の銀狼…そして薄紫色の長い髪に金色の瞳の女性が一瞬にして現れた。
月の“家族”だ。
『紅、ユエとシャールの相手を』
紅と呼ばれた白髪に緋色と蒼色のオッドアイの青年は困った様に眉を寄せた。
「…俺は非戦闘員ですよ」
『貴方はそればっかり…もうかなり運動不足でしょ』
紅は強いくせに戦おうとしない。
皆が戦っている時も紅だけは何時も私の側に居る。
「運動不足…まぁ、確かにそうですね」
『一応、皐悸と楼季を付けるから上手くやってね』
「分かりました」
月は自分の足に絡み付く様に擦り寄ってくる二匹の銀狼を優しく撫でた。
『皐悸、楼季…ちゃんと紅の言う事聞くのよ』
二匹の狼は月に擦り寄ったまま、喉を鳴らしてそれに応えた。
そして月は最後に残された薄紫色の髪の女性を見据えた。
『蘭寿はレイの相手を御願い』
「レイっれこの小娘らろぅ?嫌らろ、こんなの~」
呂律の回っていない女性は、腰に付いた沢山の酒瓶の中から一本を取ると、中身を呷る様に飲んだ。
『蘭寿、頼むわ』
「ぅ゙──……分かっらよ…」
皐悸と楼季を従えた優しい表情の紅がユエとシャールを見据える中…蘭寿が酒を呷りながらレイを品定めする中…月は言い放った。
『皆、殺すつもりでやりなさい』
中途半端な修行なんて…
“闘い”なんて要ら無い。
私が欲しいのは、私が与えたいのは…
自分の心と…
誰かを護れる強さだ──…
母様…
御母様…
母上…
ママ…
御免ね…
御免ね…
御免ね…
謝罪の言葉は尽きる事は無い。
そしてもう一つ尽き無いモノ…
今も昔も此の先も…
ずっとずっと…
貴方達を愛してるよ──…
母様…
御母様…
母上…
ママ…
御免ね…十年という短い時間しか一緒にいてあげられ無くて。
御免ね…三年という短過ぎる時間しか一緒にいてあげられ無くて。
御免ね…辛い役目を担わせて。
御免ね…一握りの事しか教えてあげられなくて。
謝罪の言葉は…
何度口にしても切りが無い。
=試練=
フォーと修行をする事となったアレンと別れ、ユエ、シャール…そして本部から遅れて到着したブラックパールと合流したレイは、月の術で月が造り出した異空間へと移動した。
移動は一瞬で済み、閉じていた目を開けると、もうそこはアジア支部では無かった。
目の前に広がる風景は日本の“神社”の様だった。
辺りには何の気配も無く、唯一つの気配の正体である月が、黒い袴に黒い羽織りを羽織って賽銭箱に腰掛けていた。
『これからそなた達にはゲームをしてもらう。
ルールは至って簡単だ』
“ゲーム”という言葉に、ブラックパールが不機嫌そうに小さく喉を鳴らした。
レイはそんなブラックパールを肩に乗せると優しく頭を撫でてやった。
『武器やイノセンスの使用可。コンバートもして良いしノア化しても良い…兎に角何でも有りだ』
そう言った月は、羽織っていた黒い羽織りを賽銭箱に向かって脱ぎ捨てた。
月の両手首に付いた複数の金銀のブレスレットがぶつかりあって音を立てた。
『私は武術のみ』
月は綺麗な着物で着飾った訳では無く、黒い袴にさらしだけの姿だったのに、凜としていて美しかった。
『四人纏めて掛かって来い』
そう月が口にした瞬間、私達は全員同時に地を…ブラックパールは私の肩を蹴った。
走りながら“音ノ鎖”を片手にノア化し、ユエとシャールはコンバートした。
最初から本気でいかないと相手にされないのを分かっていたからだった。
それを知らないブラックパールも、私達に合わせる様に空中でイノセンスを開放した。全員で一気に突っ込む。
『芸の無い奴等だな』
そう月が口にした瞬間、シャールは頬、私は腹部、ユエは顎にそれぞれ攻撃を喰らって吹き飛ばされた。ブラックパールも首を掴まれて投げ飛ばさる。
『時に邪魔になるから、芸を身に付けろとは言わない…が、こうも無さ過ぎると悲惨だ。はっきり言って手がバレバレだ』
ダメージは負うが、怪我をしない。そんな程度にお腹に五発入れられた。完璧に甘く見られてる…
『お前達、弱くなったんじゃないか?』
月はそう言って溜め息を吐くと、レイ達を見据えた。
その表情には冷たい殺気が籠もっていて、私達も自然と殺気を持って対抗する。
月は術で長い銀髪を結い上げると、掌を上にしてレイ達を指差し、その指をレイ達を招き寄せる様に数回、自分に向けて折り曲げた。
『さっさと掛かって来い』
娘と称した者に少量であれ殺気を向けるのは久々だった。
昔は良くこうやって子等を鍛えたものだ…
母様…
御母様…
母上…
ママ…
私の寿命が短かったばかりに、愛おしい子等の成長を見届けるどころか、九年という短い歳月…一番年上であり、ある意味一番年下である子に至っては三年という短過ぎる時間しか一緒に居てあげられ無かった。
挙げ句、私の心が脆かったばかりに…
子等に危険な闘いを担わせてしまった。
あの子達は、最後に幸せだったと言ってくれたが、私は謝罪の言葉を口にしたら切りが無い事を知っている。
ある意味では母親だとはっきり言い切れ無いのも分かっている。
己の身の内に渦巻く呪いの浸食にも勝てぬ弱い師だった…
我が子を普通の子供の様に育てられなかった駄目な母親だった。
そんな私が…色々な意味で…
この子を護れるだろうか──…
どういう事だ。
修行を“ゲーム”だと言ったこの女に腹立たしさを覚えながら、女の強さを知らなかった俺は、レイ達に合わせてイノセンスを開放して突っ込んだ。
全員で行ったのだから直ぐに終わると思っていた。思っていたのに…
何なんだこの女は。
意味が分からない。
奴の冷静さが…奴の異常な強さが、奴の存在が…分からない。
いくらイノセンスを使って未来に先回りをしても、この女は何事も無かったかの様に対応してくる。
過去に戻ったところで、どちらにしろ一発も攻撃が入らない。
全く…歯が立たない。
弱さなんて要らないんだ…
《畜生!!!イノセンス発動“
誰にも言わずに隠し持っていたもう一つのイノセンスを開放すると“バキン”という音と共に羽一本一本が厚みと硬度を増し、目元以外を鎧の様に包んだ。
これで俺自身が盾であり剣だ。
《これで最後だ!》
時を渡って女の死角から一気に攻撃を仕掛ける。
盾であると同時に刃である身体全体を使って突っ込んだ。
『言葉遣いが汚い。気を付けろ、ブラックパール』
そう女が口にした瞬間、俺は女に首を鷲掴みにされた。
一瞬だった。届くと思った瞬間、ひらりと舞う様に避けられて、首を掴まれた。
また届かなかった…
不機嫌そうに表情を歪めたブラックパールを見たレイは、飛び退いて月から離れると目を輝かせた。
ユエとシャールもそれに続いて月から離れる。
『パール!貴方もう一つイノセ…』
「ナンでキタナイとわかった……ヒトのコトバをクチにしたオボエクはナイぞ」
レイの声を遮ってそう言ったブラックパールはそう口にし、月は己の手の中に収まったブラックパールに向かってニッコリと微笑んだ。
『私は動物とも植物とも話をする事が出来るからな』
とことん完璧過ぎて不快だ。
自分の無力さを永遠に叩き付けられている様で胃がムカムカする…
ブラックパールは時を移動して月の手の中から抜け出ると、レイの肩へと移動し、小声で呟いた。
「ヤルぞ…レイ」
『了~解』
ブラックパールとレイは一瞬にして消え去った。
瞬間、ユエが作り出した鋭利な水晶と、シャールの砲弾が月に一斉攻撃を仕掛ける。
月は飛び退くと、賽銭箱の上に脱ぎ捨てた羽織りの下から、刀身の長い刀を取り出した。
そして刀を鞘から抜くと、一瞬にして全ての攻撃を斬り落とした。
ユエの破れた水晶が一瞬にして消え去る中、シャールの砲弾がゴトンと音を立てて地にめり込む。
瞬間、月はピタリと動きを止めた。止まるしか無かった。
全身を捕縛する何かの所為で頭さえ動かせない月が目だけを動かせば、その目には全身にタトゥーの様な模様が入ったレイとブラックパールが自分に攻撃をしようとしている姿が映った。
『うん…芸だな』
“だが”と呟いた月は、持っていた刀で一瞬にして捕縛を斬り裂いた。
直ぐにブラックパールがレイに触れ、時を超えて背後に飛び、レイがヴァイオリンを盾に、弓を剣にして斬りかかる。
月は左手に持った鞘をレイの鳩尾に叩き入れ、刀をブラックパールが近付け無い様に突き出した。
『グッ…ァ゛』
《ッ、畜生!!!》
『甘い』
月はブラックパールとユエ、シャールが動きを止めたのを見ると術で刀を仕舞い、崩れるレイを抱き止めた。
『ッ…ハァ』
『大丈夫か、レイ?』
『ん…月が軽く入れてくれたから』
自力で立とうとするレイの体からは、既にタトゥーが消えていた。
『ではプランを説明しようか』
「プラン?」
人型になってレイに駆け寄った##NAME3##は、そう口にすると首を傾げた。
『修行の内容だ』
「イマまでのはナンだったんだ?」
『ゲームだと言ったろう?今の各々の実力を見るにはあれが一番手っ取り早かったんだ』
月はニッコリと笑うと、賽銭箱の上の羽織りを肩に掛けて羽織り、賽銭箱に腰掛けた。
『ユエとシャールは二人で解放前のノア一体に太刀打ち出来る様な実力だから、上を目指そう…目標は解放前のノア一人に一体。
力を解放したノア一人に対し、二人で太刀打ち出来る様に成る可く近付ける。家族に相手を頼むから、取り敢えず暫く死ぬ気で戦いなさい』
これより先、二人にとっては…レイが一緒にいる為に二人に組み込まれたイノセンスがどれだけ保つかが鍵となる。
適合者では無い二人に無理矢理組み込まれたイノセンスは公に鍛える事が出来無いから慎重にやらなくてはならない。
『ブラックパールは申告をして無かったイノセンスを全く使えて無いから基礎からだな』
「…キカレなかったからイワナカッタ」
『…ヘブラスカが感知できないとは思えんがな…パール、お前ワザとだろう?』
「……」
ブラックパールは二つのイノセンスに適合しているのに、全く使えていない。
そこまで話した月は一息つくと睨み付ける様にレイを見据えた。
『レイも基礎だ。身体が能力に追い付かずに振り回されるとは何事か!お前にも家族を当てるから暫く組み手をしていろ』
『……ご…ごめん、なさい…』
『力が強くなっても操る身体が元のままでは意味が無いのだよ』
先程のゲームでのレイは完璧に能力に振り回されていた。
中途半端にイノセンスを開放して…あんな事をしていたら何時か身を滅ぼすだろう。
月はうなだれたレイの頭を優しく撫でると、再度口を開いた。
『
月がそう呟くと、緋色と蒼色のオッドアイに白髪の青年と二匹の銀狼…そして薄紫色の長い髪に金色の瞳の女性が一瞬にして現れた。
月の“家族”だ。
『紅、ユエとシャールの相手を』
紅と呼ばれた白髪に緋色と蒼色のオッドアイの青年は困った様に眉を寄せた。
「…俺は非戦闘員ですよ」
『貴方はそればっかり…もうかなり運動不足でしょ』
紅は強いくせに戦おうとしない。
皆が戦っている時も紅だけは何時も私の側に居る。
「運動不足…まぁ、確かにそうですね」
『一応、皐悸と楼季を付けるから上手くやってね』
「分かりました」
月は自分の足に絡み付く様に擦り寄ってくる二匹の銀狼を優しく撫でた。
『皐悸、楼季…ちゃんと紅の言う事聞くのよ』
二匹の狼は月に擦り寄ったまま、喉を鳴らしてそれに応えた。
そして月は最後に残された薄紫色の髪の女性を見据えた。
『蘭寿はレイの相手を御願い』
「レイっれこの小娘らろぅ?嫌らろ、こんなの~」
呂律の回っていない女性は、腰に付いた沢山の酒瓶の中から一本を取ると、中身を呷る様に飲んだ。
『蘭寿、頼むわ』
「ぅ゙──……分かっらよ…」
皐悸と楼季を従えた優しい表情の紅がユエとシャールを見据える中…蘭寿が酒を呷りながらレイを品定めする中…月は言い放った。
『皆、殺すつもりでやりなさい』
中途半端な修行なんて…
“闘い”なんて要ら無い。
私が欲しいのは、私が与えたいのは…
自分の心と…
誰かを護れる強さだ──…
母様…
御母様…
母上…
ママ…
御免ね…
御免ね…
御免ね…
謝罪の言葉は尽きる事は無い。
そしてもう一つ尽き無いモノ…
今も昔も此の先も…
ずっとずっと…
貴方達を愛してるよ──…