第2章 出会いと別れ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
27
「お前にやる」
彼はそう言って私を抱き締めた。
耳元で聞こえた彼の声は…
言葉は…きっと…
きっと私は…
何時までも忘れない。
=神様の違い=
快晴の空の下…
青々と広がる海の上を進む妓楼の女店主、アニタの黒い船。
その甲板の端に積まれた木箱の上に、流れる様な長い銀髪に血の様に深い緋色の瞳…そして耳にはいくつかのピアス、首には石造りの黒いチョーカーと二本のネックレス、両腕両足には無数の金と銀のブレスレットを身に付けた美女、月が腰掛けていた。
何故か後ろから緋髪金眼の青年、騎龍が月を抱き締める様にして座っていて、月の膝の上には銀毛の小さな狼が気持ち良さそうに丸まっていた。
月と話す為に船室から甲板に出て来た一同を代表して、ラビが口を開く。
「何してるんさ?」
『階段に腰掛けていたんだけど、船員の邪魔だったみたいで…』
“だから此処へ移動した”と言う月に、ラビ達は心の中でツッコミを入れた。
そうじゃない。
聞きたいのはそれじゃなくて…
「その座り方…」
何故、人前でそんなに密着する必要があるのか?
『あぁ、これはいつもの事なのよ。この子達は動物だから触れ合うのが好きで』
「動物…?」
ラビを軽く睨む騎龍を見て、動物とか関係無くそれは月限定だろうと皆が納得した。
その中、空気を読まない人が一人…ラビだ。
「狡いさ!俺も月を後ろからギュッてやっても良い?!」
『あぁ、良…』
「あ゙ぁ?」
「スミマセン」
笑顔で了承をしようとした月の後ろから、睨みを効かせた騎龍の低音が響き、ラビは思わずそう口にした。
目付きが恐い。目元と首にある痣の所為だろうか…余計に迫力が…
船の出航に合わせて合流したミランダが、アレイスターの後ろでビクリと肩を震わせる。
「蛇、恐いやろ?」
月の膝を飛び降りた銀狼は、楽しそうに笑いながらそう口にした。
「手ぇ出すと余計恐いで~序でに九尾もキレるしなぁ」
“九尾”と言う名に疑問が残ったが、今は目の前の疑問点を解決するのが先だ。
「…砕覇?」
姿形は違うが、独特な鉛が砕覇だという証拠だった。
「砕覇や。あの状況で名前覚えるんなんて中々度胸のある餓鬼やね~…せやけど」
砕覇は真直ぐとラビを見据えると、口角を上げて笑った。
「手ぇ出したら埋めるで」
「ヒィイィィィ!!!」
『貴方達、ミランダを驚かせないの』
砕覇が一番恐いかもしれない。
因みに、ラビが月に“どっちに殺 られるのがマシか”と聞くと、月は“騎龍と砕覇は拷問が好きだから…”と答えた。
要らない情報だし、はっきり言ってどっちも嫌だ。
一方、月は膝に戻った小さな銀狼…砕覇の頭を優しく撫でながら申し訳なさそうに口を開いた。
『御免なさい…この子等は寂しがりで』
いやいや、何を言うか。明らかにそんな生易しいレベルでは無いだろう。
何せ殺意が渦巻く程の代物だ。死人が出ても可笑しく無い。
「それで…ぁ──…」
『此処では月だ、ブックマン。レイは私を“月”と呼ぶ。幼き頃のレイが私の印を見てそう名付けた』
月は胸元のタトゥーを指差しながらそう答えた。
「では月嬢」
『“嬢”という歳では無い。私は貴方よりも遥かに歳をとっている…呼び捨てで構わないよ、ブックマン』
外見年齢が二十歳くらいなのは、生前の私を助け様とした者達の努力の結晶だ。
「では月、お前は何者だ?」
ブックマンの問い掛けに、ラビが手を上げて答えた。
「レイが“神様”って言ってたさ!」
『確かに神の様なものだが…私は神では無いんだよ、ラビ。私は神という部類では無いんだ』
「部類?」
『私は…そうだな。私自体は長寿な魔女だとでも思えば良い』
「めっちゃ強いさ!」
『確かに強さを自負はしているが、それ故に私は個人的に神に管理されている。あまり好き勝手をすると捕われてしまうんだよ』
微妙に納得したブックマンを見据え、月は多少意地悪く笑って見せた。
『裏歴史に書込むつもりか?』
ブックマンは真直ぐに月を見据え返した。
どうやら当りの様だ。
月は“無駄だ”と言うと、首筋に顔を埋めてくる騎龍の頭を優しく撫でた。
『書物、記憶…私にとってはどんな記録でも消す事は容易い。未来に私の情報を繋げる事は不可能だ……記憶に留めておくだけになさい』
いくらイアンに此の世界を貰ったからと言っても、物語を壊し過ぎてはいけない。
本来なら、皆の前に姿を現したく無かった。だが歪みが…あのアクマの量は規格外過ぎた。アレでは皆死んでしまっていただろうから仕方無い。
何処まで歪んでいるか分からない此の世界を…崩壊から護らなければ…
「月…さん…」
リナリーがそう控え目に切り出し、月は優しく微笑んだ。
『月で良いよ、リナリー・リー』
「あの…アレンくんとレイは…」
月は騎龍と砕覇を元の空間に戻すと、ゆっくりと立ち上がる。
煙の様に消え去った二人に、リナリー達は目を見開いていた。
『そなたは唯信じて進めば良い。そしてミランダ・ロットーそなたは仲間の他に、己を信じろ』
事実、人が出来る事は信じるという事だけなのだ。
人は弱く脆い…生前の私がそうだった様に。
『信じる事こそが人が出来る最小の事であり、最大の事なんだ…信じる心こそが真の力となる』
そう正した月は、再度口を開いた。
『ユエ!シャール!』
後甲板から名を呼ばれたユエとシャールが顔を出す。
「なぁに、月?」
「久しい、月」
シャールは楽しそうにブンブンと手をふりながら駆け寄り、ユエは相変らずの無表情で歩み寄ってくる。
『久しぶり、二人共』
月は駆け寄ってくるシャールを優しく抱き止めた。
「僕、早くレイの所に行きたい!連れてってくれるでしょ、月」
「ここは居る意味が余り無い」
月は可笑しそうにクスクス笑うと、シャールを抱き締めたまま、ユエの腕を取った。
『二人は私が連れて行って鍛え直す。リナリー、ラビ、ミランダ、ブックマン、アレイスター…皆は貴方達が護りなさい。それが貴方達の修行だ』
月はそう残すと、二人を連れて消え去った。
月、良いの?
何がだ?
何かあった時に僕等無しでアイツ等が人間達を護れるとは思え無いよ。
確かにな…俺もそう思う。
全ての責任は私が負う…引き受けたからには幸せを願うよ。
引き受けた…何をだ?
────秘密……
「お前にやる」
彼はそう言って私を抱き締めた。
耳元で聞こえた彼の声は…
言葉は…きっと…
きっと私は…
何時までも忘れない。
=神様の違い=
快晴の空の下…
青々と広がる海の上を進む妓楼の女店主、アニタの黒い船。
その甲板の端に積まれた木箱の上に、流れる様な長い銀髪に血の様に深い緋色の瞳…そして耳にはいくつかのピアス、首には石造りの黒いチョーカーと二本のネックレス、両腕両足には無数の金と銀のブレスレットを身に付けた美女、月が腰掛けていた。
何故か後ろから緋髪金眼の青年、騎龍が月を抱き締める様にして座っていて、月の膝の上には銀毛の小さな狼が気持ち良さそうに丸まっていた。
月と話す為に船室から甲板に出て来た一同を代表して、ラビが口を開く。
「何してるんさ?」
『階段に腰掛けていたんだけど、船員の邪魔だったみたいで…』
“だから此処へ移動した”と言う月に、ラビ達は心の中でツッコミを入れた。
そうじゃない。
聞きたいのはそれじゃなくて…
「その座り方…」
何故、人前でそんなに密着する必要があるのか?
『あぁ、これはいつもの事なのよ。この子達は動物だから触れ合うのが好きで』
「動物…?」
ラビを軽く睨む騎龍を見て、動物とか関係無くそれは月限定だろうと皆が納得した。
その中、空気を読まない人が一人…ラビだ。
「狡いさ!俺も月を後ろからギュッてやっても良い?!」
『あぁ、良…』
「あ゙ぁ?」
「スミマセン」
笑顔で了承をしようとした月の後ろから、睨みを効かせた騎龍の低音が響き、ラビは思わずそう口にした。
目付きが恐い。目元と首にある痣の所為だろうか…余計に迫力が…
船の出航に合わせて合流したミランダが、アレイスターの後ろでビクリと肩を震わせる。
「蛇、恐いやろ?」
月の膝を飛び降りた銀狼は、楽しそうに笑いながらそう口にした。
「手ぇ出すと余計恐いで~序でに九尾もキレるしなぁ」
“九尾”と言う名に疑問が残ったが、今は目の前の疑問点を解決するのが先だ。
「…砕覇?」
姿形は違うが、独特な鉛が砕覇だという証拠だった。
「砕覇や。あの状況で名前覚えるんなんて中々度胸のある餓鬼やね~…せやけど」
砕覇は真直ぐとラビを見据えると、口角を上げて笑った。
「手ぇ出したら埋めるで」
「ヒィイィィィ!!!」
『貴方達、ミランダを驚かせないの』
砕覇が一番恐いかもしれない。
因みに、ラビが月に“どっちに
要らない情報だし、はっきり言ってどっちも嫌だ。
一方、月は膝に戻った小さな銀狼…砕覇の頭を優しく撫でながら申し訳なさそうに口を開いた。
『御免なさい…この子等は寂しがりで』
いやいや、何を言うか。明らかにそんな生易しいレベルでは無いだろう。
何せ殺意が渦巻く程の代物だ。死人が出ても可笑しく無い。
「それで…ぁ──…」
『此処では月だ、ブックマン。レイは私を“月”と呼ぶ。幼き頃のレイが私の印を見てそう名付けた』
月は胸元のタトゥーを指差しながらそう答えた。
「では月嬢」
『“嬢”という歳では無い。私は貴方よりも遥かに歳をとっている…呼び捨てで構わないよ、ブックマン』
外見年齢が二十歳くらいなのは、生前の私を助け様とした者達の努力の結晶だ。
「では月、お前は何者だ?」
ブックマンの問い掛けに、ラビが手を上げて答えた。
「レイが“神様”って言ってたさ!」
『確かに神の様なものだが…私は神では無いんだよ、ラビ。私は神という部類では無いんだ』
「部類?」
『私は…そうだな。私自体は長寿な魔女だとでも思えば良い』
「めっちゃ強いさ!」
『確かに強さを自負はしているが、それ故に私は個人的に神に管理されている。あまり好き勝手をすると捕われてしまうんだよ』
微妙に納得したブックマンを見据え、月は多少意地悪く笑って見せた。
『裏歴史に書込むつもりか?』
ブックマンは真直ぐに月を見据え返した。
どうやら当りの様だ。
月は“無駄だ”と言うと、首筋に顔を埋めてくる騎龍の頭を優しく撫でた。
『書物、記憶…私にとってはどんな記録でも消す事は容易い。未来に私の情報を繋げる事は不可能だ……記憶に留めておくだけになさい』
いくらイアンに此の世界を貰ったからと言っても、物語を壊し過ぎてはいけない。
本来なら、皆の前に姿を現したく無かった。だが歪みが…あのアクマの量は規格外過ぎた。アレでは皆死んでしまっていただろうから仕方無い。
何処まで歪んでいるか分からない此の世界を…崩壊から護らなければ…
「月…さん…」
リナリーがそう控え目に切り出し、月は優しく微笑んだ。
『月で良いよ、リナリー・リー』
「あの…アレンくんとレイは…」
月は騎龍と砕覇を元の空間に戻すと、ゆっくりと立ち上がる。
煙の様に消え去った二人に、リナリー達は目を見開いていた。
『そなたは唯信じて進めば良い。そしてミランダ・ロットーそなたは仲間の他に、己を信じろ』
事実、人が出来る事は信じるという事だけなのだ。
人は弱く脆い…生前の私がそうだった様に。
『信じる事こそが人が出来る最小の事であり、最大の事なんだ…信じる心こそが真の力となる』
そう正した月は、再度口を開いた。
『ユエ!シャール!』
後甲板から名を呼ばれたユエとシャールが顔を出す。
「なぁに、月?」
「久しい、月」
シャールは楽しそうにブンブンと手をふりながら駆け寄り、ユエは相変らずの無表情で歩み寄ってくる。
『久しぶり、二人共』
月は駆け寄ってくるシャールを優しく抱き止めた。
「僕、早くレイの所に行きたい!連れてってくれるでしょ、月」
「ここは居る意味が余り無い」
月は可笑しそうにクスクス笑うと、シャールを抱き締めたまま、ユエの腕を取った。
『二人は私が連れて行って鍛え直す。リナリー、ラビ、ミランダ、ブックマン、アレイスター…皆は貴方達が護りなさい。それが貴方達の修行だ』
月はそう残すと、二人を連れて消え去った。
月、良いの?
何がだ?
何かあった時に僕等無しでアイツ等が人間達を護れるとは思え無いよ。
確かにな…俺もそう思う。
全ての責任は私が負う…引き受けたからには幸せを願うよ。
引き受けた…何をだ?
────秘密……