第1章 ノアの少女
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24
白い俺と黒い俺…
月…お前はあぁ言ったけどさ。
どっちもあるからこそ楽しくて…止められ無いのも事実なんだ。
「よぉ、ティッキー…Hola」
千年公に連れて行かれた先のレストランの一室では、家族のロード・キャメロットが待ち構えていた。
何かを書きながらそう挨拶したロードに対し、ティキは“うげ”と声を漏らした。
「……何してんのよ?」
「見て分かんねぇ?ベンキョォだよ、ベンキョォ~」
然も当り前の様に言うロードだが、量が半端無く多いのは気の所為だろうか?
「学校の宿題明日までなんですっテ♡前はレイが溜め込まない様に毎日手伝ってくれてたんデスけど…」
「やべぇの♡手伝ってぇ~」
嫌な予感的中だ。
「学無ぇんだよ、俺は」
「字くらい書けんだろ」
字くらい書けるけど、問題が解け無いんだよ、バカ。解けなきゃ書け無いだろ。
「今夜は徹夜でス♡」
「ねぇちょっと…まさか俺呼んだのって宿題の為?」
最悪だ。
こんな事になるんなら、ラゼルとお茶してくるんだった…
=九尾の背=
風を身体に受けるのは気持ち良い。
夜風なら尚の事。
背に漆黒の翼を生やして夜空を飛んでいた月は、そうしみじみと感じていた。
昔から飛ぶのは好きだったが、今日程夜空を飛びたいと願った事は無かったし、風をこんなに感じる事も無かった。
……いや…
一度だけあったか。
だからこそ懐かしくて、本来己の力を使えば一瞬で行ける場所へ態々飛んで出向いているのかもれない。
眠れない私を…
眠る事を拒む身体の私を‥
気晴しに夜空へ散歩に連れて行ってくれた彼を…イアンをふと思い出した。今日も世界の境に帰って見ようかな…
そうしたら彼は表情に出さずとも喜ぶ筈だ。
寂しがりな彼ならば…きっと…
『クロス』
「よぉ、月…酌でもしに来てくれたのか?」
『もしやと思って来てみたら…やはり悲惨な光景だな』
奇妙な物体…アクマ達の残骸の浮ぶ海を見渡すと、月は軽く溜め息を吐いた。
伸びきった赤髪を靡かせたクロスは、船体の半分以上が沈んだ船を足場にしている。
「今日は付き合えよ、月」
『日本に行く手立てを考えるのが先決だろう、馬鹿者』
「あぁ゙?あぁ、確かに板切れじゃな…」
月は自分の足場を見渡すクロスを見て、再度溜め息を吐きながら漆黒の翼を終った。
そして魔力で空中に浮くと、一瞬にして九本の尾を携えた巨大な銀狐へと姿を変えた。
『乗れ』
クロスが背に乗ったのを確認すると、月は空を蹴り、夜空を駆け出した。
男を背に乗せる事等慣れていないので重くて仕方無い。しかし此の状況では致し方無いだろう。クロスを海の真ん中に浮ばせて行く訳にもいかないのだから。
「月…いや──、今日は付き合えよ」
クロスが呼ぶ、私の本来の名に懐かしさを感じた。イアンと家族以外、私の名を呼ぶ者等もういないのだ。
耳が…能が…身体の全てが反応する。
『…分かった。今日は貴方に付き合うわ』
クロスの事だから、酔い潰れるまで付き合わさせるんだろう…イアンには帰りを少し待ってもらう必要がある様だ。
「──」
『何?』
“お前の毛並みも夜風も気持ち良いな”というクロスの言葉に、月は目を細めて風を感じた。
『そういえば…レイがまた四人で…シャールもいれて五人で過ごしたいとぼやいてた』
シャールを知らないクロスにシャールの事を説明すると、クロスは月の背に寝転がった。
“落ちても知らんぞ”と言う月の言葉に、クロスは“ふっ”と軽く鼻で笑った。
「……レイと──との三人暮し…或いは──との二人暮しなら良いな」
月はクロスの呟きを聞きながら緋い瞳で満月を見据え、九本の尾を靡かせながら四本の足で夜空を駈けた。
レイのその儚い願いは…きっと叶える事が出来無い。
だって私は…
此の世界の者でもなければ、生ある者でも無いのだから。
『嫌ったら、嫌!!』
高級レストランの一室。
そう叫んだレイは、デビットの口許に手を当ててそれ以上顔が近付かない様に腕を張った。
不機嫌そうに眉を寄せたデビットは、レイの両手首を掴むと口許から離す。
「良いじゃねぇか少しくらい」
『嫌だよ、恥ずかしい!』
別れ際に“キスさせろ”だなんて言われても困る。いきなりされるより聞かれる方が格段に困る。
まぁ、再会した時にいきなりして私の怒りを買ったから気を使っているんだと思うが…
はっきり言って使えて無い上、恥ずかしい事この上無い。
ジャスデロは助ける気が毛頭無いらしいし…全く困ったものだ。
レイは不貞腐れるデビットとジャスデロの頬に口付けると、視線を泳がせながら呟いた。
『わ、私…用事があるの。もう帰るからね!』
頬を赤く染め、吃りながら話すレイを見て嬉しそうに笑ったデビットは二つ返事をすると、ジャスデロと一緒にレイを送り出した。
そしてレイはというと…
未だに赤い顔で街中を駈け足で突き抜け、裏路地へと入り、尚も走り続けた。
赤い顔を人に見られたく無くて走っているのだが、走っていれば体温が上がってくるのは当り前で…余計に顔が赤くなっているのにレイは気付いていなかった。
《どうした、レイ?》
いつの間に帰って来たのか、月がそう声を掛けてきた。
『ぅああぁ…御帰り月~遅かったねぇ』
出掛けていた月は、何故か一週間も留守にしていた。
汽車の屋根の上で話して以来なので、月の声が少し懐かしい。
《クロスに一週間も付き合わされてな…》
『クロスに会ってきたのぉ?』
レイは走るのを止めると、ゆっくりと速度を落し、終いには立ち止まってしまった。
《少々所要があってな》
『いいなぁ…』
クロスに会いたいな…一体何年会っていないだろうか?
そんな事を考えていると、目の前に月が現れ、一瞬にして九本の尾をもつ巨大な銀狐に姿を変えた。
建物の隙間から差し込む太陽の光を浴びて輝くフサフサの毛並み。九本もの長い尾。
とても月には見えなかったが、月の特徴の銀髪と緋眼はそのままだった。
『乗れ。大丈夫だ、魔法で見えない様にする』
少々屈んだ巨大な狐…もとい月は、そう私に背に乗る様に足した。
レイはそっと月の背中に跨った。
瞬間、月が立ち上がり、地を蹴ると空へ駆け出した。
『え、飛ぶの?!!』
『この方が早い』
大きいとはいえ狐が飛ぶとは思わなかった……程良く当る風と、フサフサの毛がとても気持ちが良くて、思わず月の背に倒れ込んだ。
ギュッと月の背に抱き付く。
『師弟そろって似た様な事をするんだな』
可笑しそうにクスクス笑いながらそういう月の言葉に首を傾げていると、再度月は口を開いた。
『クロスは背に寝転んだ』
自然と笑みが浮んだのは気の所為じゃ無いだろう。
『クロスパパに似てきたかぁ~じゃあ次は月に似ないとね~』
『私が母親か』
『嫌?』
私はクロスを父や兄の様に…月を母や姉の様に思ってきた。
『いや、嫌では無いよ。もう一人娘が出来た様で良い』
月には昔、子供がいたと前に聞いた事があった。
いたという事だけしか知らないが…
『どんな子だったの?』
気付いたらそう聞いていた。
『……私の娘がか?』
『…ごめん…何でも無い』
レイは慌ててそう呟いた。
月は昔の家族の話しを滅多にしないし、したとしても表面的な事だけだった。
きっと聞いてはいけない事なのだろう…
『瞳は私譲りの緋髪で…髪は父親譲りの黒髪だった』
『へ?』
まさか答えると思わなくて、思わずそう声が漏れた。
月の笑い声が風に乗って少し聞こえた。
『謳う事が苦手で、仲間想いで…泣き虫で…親を想ってくれる優しい子だった。成す事は成し、私の望みを叶え様と必死であの子と共に闘ってくれた』
ふと疑問が浮んだ。
今までそうだと信じて疑わなかったが、今の話で多少、違和感を覚えたのだ。
『あの子…月の子供って一人っ子じゃなかったの?』
『…その話は又今度な。疲れたろう?今は眠ると良い、レイ…』
月の声に誘われる様に私は眠りについた。
月の魔法のお陰で、寒くは無かった。
良く頬に当てる風が心地良くて、フサフサの毛が気持ち良くて…
アレン達に合流するまで、月の背をベッドに…
空で眠るのも悪く無い──…‥
白い俺と黒い俺…
月…お前はあぁ言ったけどさ。
どっちもあるからこそ楽しくて…止められ無いのも事実なんだ。
「よぉ、ティッキー…Hola」
千年公に連れて行かれた先のレストランの一室では、家族のロード・キャメロットが待ち構えていた。
何かを書きながらそう挨拶したロードに対し、ティキは“うげ”と声を漏らした。
「……何してんのよ?」
「見て分かんねぇ?ベンキョォだよ、ベンキョォ~」
然も当り前の様に言うロードだが、量が半端無く多いのは気の所為だろうか?
「学校の宿題明日までなんですっテ♡前はレイが溜め込まない様に毎日手伝ってくれてたんデスけど…」
「やべぇの♡手伝ってぇ~」
嫌な予感的中だ。
「学無ぇんだよ、俺は」
「字くらい書けんだろ」
字くらい書けるけど、問題が解け無いんだよ、バカ。解けなきゃ書け無いだろ。
「今夜は徹夜でス♡」
「ねぇちょっと…まさか俺呼んだのって宿題の為?」
最悪だ。
こんな事になるんなら、ラゼルとお茶してくるんだった…
=九尾の背=
風を身体に受けるのは気持ち良い。
夜風なら尚の事。
背に漆黒の翼を生やして夜空を飛んでいた月は、そうしみじみと感じていた。
昔から飛ぶのは好きだったが、今日程夜空を飛びたいと願った事は無かったし、風をこんなに感じる事も無かった。
……いや…
一度だけあったか。
だからこそ懐かしくて、本来己の力を使えば一瞬で行ける場所へ態々飛んで出向いているのかもれない。
眠れない私を…
眠る事を拒む身体の私を‥
気晴しに夜空へ散歩に連れて行ってくれた彼を…イアンをふと思い出した。今日も世界の境に帰って見ようかな…
そうしたら彼は表情に出さずとも喜ぶ筈だ。
寂しがりな彼ならば…きっと…
『クロス』
「よぉ、月…酌でもしに来てくれたのか?」
『もしやと思って来てみたら…やはり悲惨な光景だな』
奇妙な物体…アクマ達の残骸の浮ぶ海を見渡すと、月は軽く溜め息を吐いた。
伸びきった赤髪を靡かせたクロスは、船体の半分以上が沈んだ船を足場にしている。
「今日は付き合えよ、月」
『日本に行く手立てを考えるのが先決だろう、馬鹿者』
「あぁ゙?あぁ、確かに板切れじゃな…」
月は自分の足場を見渡すクロスを見て、再度溜め息を吐きながら漆黒の翼を終った。
そして魔力で空中に浮くと、一瞬にして九本の尾を携えた巨大な銀狐へと姿を変えた。
『乗れ』
クロスが背に乗ったのを確認すると、月は空を蹴り、夜空を駆け出した。
男を背に乗せる事等慣れていないので重くて仕方無い。しかし此の状況では致し方無いだろう。クロスを海の真ん中に浮ばせて行く訳にもいかないのだから。
「月…いや──、今日は付き合えよ」
クロスが呼ぶ、私の本来の名に懐かしさを感じた。イアンと家族以外、私の名を呼ぶ者等もういないのだ。
耳が…能が…身体の全てが反応する。
『…分かった。今日は貴方に付き合うわ』
クロスの事だから、酔い潰れるまで付き合わさせるんだろう…イアンには帰りを少し待ってもらう必要がある様だ。
「──」
『何?』
“お前の毛並みも夜風も気持ち良いな”というクロスの言葉に、月は目を細めて風を感じた。
『そういえば…レイがまた四人で…シャールもいれて五人で過ごしたいとぼやいてた』
シャールを知らないクロスにシャールの事を説明すると、クロスは月の背に寝転がった。
“落ちても知らんぞ”と言う月の言葉に、クロスは“ふっ”と軽く鼻で笑った。
「……レイと──との三人暮し…或いは──との二人暮しなら良いな」
月はクロスの呟きを聞きながら緋い瞳で満月を見据え、九本の尾を靡かせながら四本の足で夜空を駈けた。
レイのその儚い願いは…きっと叶える事が出来無い。
だって私は…
此の世界の者でもなければ、生ある者でも無いのだから。
『嫌ったら、嫌!!』
高級レストランの一室。
そう叫んだレイは、デビットの口許に手を当ててそれ以上顔が近付かない様に腕を張った。
不機嫌そうに眉を寄せたデビットは、レイの両手首を掴むと口許から離す。
「良いじゃねぇか少しくらい」
『嫌だよ、恥ずかしい!』
別れ際に“キスさせろ”だなんて言われても困る。いきなりされるより聞かれる方が格段に困る。
まぁ、再会した時にいきなりして私の怒りを買ったから気を使っているんだと思うが…
はっきり言って使えて無い上、恥ずかしい事この上無い。
ジャスデロは助ける気が毛頭無いらしいし…全く困ったものだ。
レイは不貞腐れるデビットとジャスデロの頬に口付けると、視線を泳がせながら呟いた。
『わ、私…用事があるの。もう帰るからね!』
頬を赤く染め、吃りながら話すレイを見て嬉しそうに笑ったデビットは二つ返事をすると、ジャスデロと一緒にレイを送り出した。
そしてレイはというと…
未だに赤い顔で街中を駈け足で突き抜け、裏路地へと入り、尚も走り続けた。
赤い顔を人に見られたく無くて走っているのだが、走っていれば体温が上がってくるのは当り前で…余計に顔が赤くなっているのにレイは気付いていなかった。
《どうした、レイ?》
いつの間に帰って来たのか、月がそう声を掛けてきた。
『ぅああぁ…御帰り月~遅かったねぇ』
出掛けていた月は、何故か一週間も留守にしていた。
汽車の屋根の上で話して以来なので、月の声が少し懐かしい。
《クロスに一週間も付き合わされてな…》
『クロスに会ってきたのぉ?』
レイは走るのを止めると、ゆっくりと速度を落し、終いには立ち止まってしまった。
《少々所要があってな》
『いいなぁ…』
クロスに会いたいな…一体何年会っていないだろうか?
そんな事を考えていると、目の前に月が現れ、一瞬にして九本の尾をもつ巨大な銀狐に姿を変えた。
建物の隙間から差し込む太陽の光を浴びて輝くフサフサの毛並み。九本もの長い尾。
とても月には見えなかったが、月の特徴の銀髪と緋眼はそのままだった。
『乗れ。大丈夫だ、魔法で見えない様にする』
少々屈んだ巨大な狐…もとい月は、そう私に背に乗る様に足した。
レイはそっと月の背中に跨った。
瞬間、月が立ち上がり、地を蹴ると空へ駆け出した。
『え、飛ぶの?!!』
『この方が早い』
大きいとはいえ狐が飛ぶとは思わなかった……程良く当る風と、フサフサの毛がとても気持ちが良くて、思わず月の背に倒れ込んだ。
ギュッと月の背に抱き付く。
『師弟そろって似た様な事をするんだな』
可笑しそうにクスクス笑いながらそういう月の言葉に首を傾げていると、再度月は口を開いた。
『クロスは背に寝転んだ』
自然と笑みが浮んだのは気の所為じゃ無いだろう。
『クロスパパに似てきたかぁ~じゃあ次は月に似ないとね~』
『私が母親か』
『嫌?』
私はクロスを父や兄の様に…月を母や姉の様に思ってきた。
『いや、嫌では無いよ。もう一人娘が出来た様で良い』
月には昔、子供がいたと前に聞いた事があった。
いたという事だけしか知らないが…
『どんな子だったの?』
気付いたらそう聞いていた。
『……私の娘がか?』
『…ごめん…何でも無い』
レイは慌ててそう呟いた。
月は昔の家族の話しを滅多にしないし、したとしても表面的な事だけだった。
きっと聞いてはいけない事なのだろう…
『瞳は私譲りの緋髪で…髪は父親譲りの黒髪だった』
『へ?』
まさか答えると思わなくて、思わずそう声が漏れた。
月の笑い声が風に乗って少し聞こえた。
『謳う事が苦手で、仲間想いで…泣き虫で…親を想ってくれる優しい子だった。成す事は成し、私の望みを叶え様と必死であの子と共に闘ってくれた』
ふと疑問が浮んだ。
今までそうだと信じて疑わなかったが、今の話で多少、違和感を覚えたのだ。
『あの子…月の子供って一人っ子じゃなかったの?』
『…その話は又今度な。疲れたろう?今は眠ると良い、レイ…』
月の声に誘われる様に私は眠りについた。
月の魔法のお陰で、寒くは無かった。
良く頬に当てる風が心地良くて、フサフサの毛が気持ち良くて…
アレン達に合流するまで、月の背をベッドに…
空で眠るのも悪く無い──…‥