第1章 ノアの少女
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23
「煩い、黙れ!!アイツは…──は俺のモノだ!」
そう…アイツは俺のモノだ。
あの日に手に入れた。
「俺の前に顔を出すなと言った…忠告した筈だ」
絶対に…
絶対に手放すものか──…
「とっとと出て行け!!!」
=愛しき人=
月が助けてくれなかったのは当り前だ。
月の言い分は正しかったし、助けを求めた事事態が可笑しいんだ……だって私は決意した筈だ。
“総てのアクマを破壊する”と…それなのに私的な事で決意を乱し、無様にも月に助けを求めた。
月だって“何かが滅ぶ”という運命に嫌気がさしているのに…
誰よりもその哀しみを知っているのに…
私は月に縋った。
最低だ‥
『…月……』
「レイ、起きたさ?」
重たい瞼を上げ、目を開くとラビの顔が目の前にあった。どうやらラビが抱き抱えていてくれたらしい。
『ラビ…』
まだボーッとしている頭にガタン、ゴトンという音が響く…どうやらここは汽車の中らしい。
「大丈夫ですか、レイ?」
『アレン…ありがと、大丈夫だよ』
レイはラビの腕の中から擦り抜けると、隣りへと腰を降ろした。
『ラビ…報告』
ラビは“分かったさ”と微笑むと報告を開始した。
「エリアーデは消滅。村人に一応状況を説明したが受け入れては貰えなかったさ。だからクロちゃ…クロウリーは仲間にして連れて来た。今は汽車の中を見学中…エリアーデは消滅しちまったから墓は作らず、城はクロウリーが爆破しちゃったさ。んでもって今はパンダジジィ達に合流すべく汽車に揺られてる」
城を爆破…クロウリーが良いならいいけど…
“世界の境の管理者”と名乗る彼に繋るモノは見付けられず終いか……まぁ、取敢えずは…
『了~解』
レイの返事を聞くと、ラビはレイを抱き締めた。
「今回は寝てる時間が長かったから心配したさ~」
『ごめんね、ラビ』
今回は結構キツかったからね…
「後、影で変なの見たさ…」
ラビの声質が変わり、レイは自分に抱き付いているラビを離した。
『変なのって?』
影と言う言葉が引っ掛かる。影といえば“黒キ舞姫”だ。
「眠りについたレイを抱き上げたらレイの体から影が出て来たんさ…んで、俺とアレンが飲み込まれて」
『飲み込まれて…?』
私の身体から出てきたという事はやはり“黒キ舞姫”だ。
しかし影に飲まれた…?
「映像を見た。恐らくレイの過去さ」
なるほど…
レイはクスッと笑うと再度ラビに問い掛ける。
『どれくらいの時の?』
「イノセンスに適合してからクロス元帥に出逢うまでさ」
“そう”と頷き微笑むレイに向かって、ずっと黙っていたアレンが声を上げた。
「レイ…月は何者なんですか?」
『知りたい?』
アレンとラビが力強く頷いた。
気になるのは無理も無い。月は不思議な存在だし、第一ラビは美人に滅法弱い。
仕方無い、話すか…問題があるなら月がアレン達の中の自分の記憶を上手く消すだろうし、問題は無い筈だ。
『月はね…』
レイは悪戯っぽく笑うと口を開いた。
『神様』
『全く…私は神では無いのだぞ』
汽車の屋根の上に座り、楽しそうに話すレイを見て、同じく屋根に腰を降ろした和装の銀髪緋眼の美女…月は困った様に軽く溜め息を吐いた。
『分かってるよ~だけど神に等しいのに変わりはないでしょ?一種の神様じゃん!』
ラビ達がクロウリーを探しに行って暇になったレイは、何故か走っている汽車の屋根へ座り、月と話込んでいた。
月の能力で、ごうごうと耳障りな風の音や汽車のガタンゴトンという動く音は全く聞こえない。
月の能力…性能の高さ、多種多様な力には毎回惚れ惚れする。
独自の陰陽術に魔法に魔術、錬金術に武術と舞術…まだあった様な気がする。
今も完璧な術のお陰で耳に聞こえるのは自分の声と月の綺麗な声だけだし、私は風圧で吹き飛ばされる事も無かった。
『まぁ、良い。既に歪んでおるのだ、さして変わり在るまい』
『歪み?』
また訳の分からない事言って…
月は私の頭を混乱させるのが得意だ。
と言っても私の無知が理由の時の方が多いのだが…
『何でも無い…秘密だ』
そうそう秘密、秘密!
月はこういう人なのだ。
『また秘密~?いつも秘密、秘密って…月は秘密ばっかりなんだから!!』
不機嫌そうに眉間に皺を寄せたレイは、軽く頬を膨らませて見せた。
『秘密の無い人間なんていないわよ』
月がレイの膨らんだ頬を指で軽く押し、プスッと空気の抜ける音がした。
『その秘密が月には多過ぎるんだよぉ!』
月は“ふむ”と言葉を漏らすと腕を組み、横に出していた脚を胡座に変えた。
『それもそうだな』
“それもそうだな”って…少しは誤魔化すなり否定するなりしようよぉ…というか胡座かくもんだから脚見えてるよ、脚!!
美脚だからってそこまで見せちゃ駄目だよぉ…着物緩く着てるからそこまで脚みえちゃうんだよ、全く。
ラビがいなくて良かった…絶対、ストライクだもん。
『それはそうとさぁ…何でラビ達に記録を見せたの?』
実を言うと過去を見られたのは少し恥ずかしい。
自分は一応“自殺志願者”だったのだ。
あんな姿を見られたなんて…
何か良く分からないが恥ずかしい。
『別に見せようとした訳では無いわよ?唯、貴女の精神が不安定だったから、貴女の言うところの“黒キ舞姫”が…私の力を含み暴走したのだ』
本当だろうか?
月ならワザとやりかねない。
『月だったら止めれたでしょ』
月ならそれくらい容易い筈だ。
『別に見られて困る様なモノでもあるまい…寧ろ困るのは私だ。何せ記憶といえど姿を見られたのに変わりは無いのだからな……だが…』
『見られても見られ無くても“さして変わり在るまい”でしょ?』
月の言葉を遮り、そう続けたレイを見、月は可笑しそうにクスクス笑い出した。
『分かっているではないか』
『長い付き合いですから』
二人でクスクス笑い合っていると、汽車が次の駅へと停車した。
『さてレイ、そろそろ戻りなさい。アレン・ウォーカー達が待っているぞ』
月の身体が徐々に消える中、月は思い出した様に口を開いた。
『後な、折角美しく成長したのだ。私の前では兎も角、言葉使いはもう少し女性らしくな』
レイは呆れた様に溜め息を吐くと月を見据えた。
『月に言われたく無い』
『全くね』
月は楽しそうに笑った後、レイの頭を優しく撫で、消え去った。
それを見送ったレイはふらっと立ち上がると両腕を天に伸ばし、伸びをした。
さてさて、どうしようかな。
汽車内に戻ってラビ達と合流するか…それともここで昼寝でもするか。
今日は天気も良いし昼寝は気持ち良いだろうなぁ…
少しずつ動き出す列車の上でレイは眠い目を擦りながらそんな事を考えていた。
動いている汽車の屋根の上で昼寝なんて馬鹿げているが、列車の中で昼寝をしようと言う方が無理なのだ。
絶対にラビの抱き枕になる…
ゆっくり寝たいレイは屋根の上で寝る事を決意し、再びその場に座り込んだ。
この際、先程まで月の力で聞こえなかった風の音は無視しよう…そう考えたその時だった。
先程出発した駅の近付く…
そこを歩く四人組が目に入った。
『……あ゙ぁ────ッ!!』
慌ててラビ達の待つ席へと戻ったレイは、団服であるジャケットを脱いでラビに投げ付けた。
「レイ、どうしたさ?!」
驚くラビを余所に、レイはアレンの隣りに腰掛けたクロウリーを見るとニッコリと微笑み、口早にこう言った。
『やっほう、アレイスター・クロウリー!私はレイ・アストレイ、能力は操作系、因に元帥、宜しくね!!』
「よ、宜しくである…」
いきなりの自己紹介に引き気味のクロウリーをこれまた余所に、レイはせかせかと支度を整え、窓を全開に開いた。
『ラビ、アレイスターへの残りの説明お願い。全部話していいわ』
「了解さ~」
「ど、どこ行くんですか?!」
アレンが慌てて止めようとするが、レイは気にせずに窓枠に片足を掛けた。
ラビは完璧に諦めた様だ。楽しそうにこっちを見ている。
『大丈夫大丈夫~後で追い着くから平気だよ、アレン』
窓から飛び出そうとしたレイは“あ…”と声を漏らすと呆然としているクロウリーの方へ振返った。
『アレイスター…エリアーデを愛してくれて有難う』
レイは驚くクロウリーを見みて笑うと、列車の窓から外へと飛び出した。
『“黒キ舞姫”』
あぁ、かったるい…
急な呼び出しを受けた俺は、人間の友達であるイーズ達と別れて千年公の所に向かっていた。
それにしても汽車で会ったイカサマ少年Aは凄かった…まさかあそこまでボロ負けすると思わなかった。
「プロだな、ありゃ」
ティキは加えていた煙草の煙を吐くと空を仰いだ。
ラゼルに……会いたい…
『キラ』
そういつもの可愛い笑顔で…
“ティキ”じゃなくて“キラ”と…
『キラ!!』
「………………はい?」
直ぐそこから聞き覚えのある声がし、ティキ改めキラは空に向けていた視線を慌てて地に戻した。
自分の目の前にはいつもの漆黒のワンピースを着て、揃いの漆黒のマフラーを巻いたラゼルがニッコリ微笑んで立っていた。
「ラゼル…」
『久しぶり!何でこんな所に…仕事?』
「あぁ…」
キラはそう返事を返し、ラゼルの頬に触れた。
本当に会えた…
頬を触れられたラゼルは、不思議そうに首を傾げた。
『ねぇ、お茶しない?』
お茶か…はっきり言ってしたい。
しかし…
「悪い…用があるんだ」
千年公を待たせている。
遅れたら何をされるか分からないし、ラゼルがとばっちりを受けるのも頂け無い。
それにラゼルには見せたく無かった。
黒い俺…ティキ・ミック卿を…
絶対に…見せたく無かった。
知られたく…無かった…
ラゼルは困った様に眉を寄せると“それは仕方無いわね”と言って俺の手を取った。
『そこまで送るよ』
繋いだラゼルの小さくて細い手はほんのり温かくて…何だかとても寂しくて…
泣きたくなる程、哀しかった。
「なぁ、ラゼル」
『何、キラ?』
隣りを歩いてたラゼルは、ふと立ち止まると、俺の首に自分の巻いていたマフラーを巻き付けながらそう聞き返した。
「今度は一日中、遊びまくって…序でにまったりしような」
『うん』
ラゼルは嬉しそうに微笑むと、再度キラと手を繋ぎ、歩き出した。
合わない歩幅がちょっと悲しくて…
頑張って合わせ様とする君が可愛くて仕方無かった──…
一つの世界は一冊の本によって成り立っている。
それら総ての本 が集められたのが“世界の境”だ。
真っ白い空間に長々と永遠に縦横に続く沢山の本棚。
そこに敷き詰められた外観が真っ白い本達。
そして床には本棚に入りきらなかった本の山があちらこちらに出来ている。
それら全ての本 を管理するのが世界の境の管理者であるイアンの務めだ。
イアンの仕事は本の“区分・点検・修正”
言葉にすればたった三つ…それだけの事だが、冊数が何千、何億、何兆…数え切れないモノだから、三という数字には意味が無い。
そして管理者である俺は仕事に飽きていた…
自分の存在に飽きていた。
点検の為に本を読むだけの毎日……否、存在…
一人の個体としてそれに何の意味がある?
消滅した方がマシだとさえ思っていた。
だから俺にとってアイツは特別なモノだ。
訳も分からず違う世界へ飛ばされたくせに…愛する者と引き裂かれたくせに…アイツは笑って俺に自分の“死後”を俺に差し出した。
私が居る…もう寂しく無いよ──…
自分の大切なモノが傷付かない様に…壊れない様にするのが持ち主の役目だろう?
だから俺はアイツからあの歪んだ世界を引き離そうとした。唯それだけの事だ。
「俺の前に顔を出すなと言った…忠告した筈だ」
点検の為に本を読んでいたイアンは、持っていた本を荒々しく閉じると、本棚へと押し込んだ。
自分の背後に立つ三人の青年をイアンは後ろを振り返ると殺気を込めて睨み付ける。
「理由は分かってんだろ。俺様の──が…」
「アイツは俺のモノだ!!」
声を上げたのと同時に魔力が吹き出て、自分の長い蒼髪が少し宙を浮いたのが自分でも分かった。
「……ムカツクがその通りだ。──が契約したのだからそれが真実だ」
「せやけど俺達には口出しの権限があるんやし、俺達は──の家族や」
「──は俺様達の一部だし、俺様達は──の一部だ」
苛々するのが止まらないのは何故だろう…いつもは仲の悪いこいつ等三人が、喧嘩もせずに交互に話しているからだろうか?
「テメェは鎖に縛られてる」
「ッ…お前等だって」
鎖という言葉が何を示しているかが直ぐに分かって、頭に一気に血が上る。
こいつ等…
殺してやりたい。
「──は俺達には鎖が在る言うけどな、俺達はそないなもん感じとらへん。それに──自体を護れるのは俺達なんや」
「何より俺様達は──を主として以上に、一人の女として愛している」
「煩い、黙れ!!アイツは…──は俺のモノだ!」
お前等がアイツをそういう風に愛している事何か大昔から知っている。気付いて無いのはアイツくらいだ。
だがアイツの肉体は滅んだんだ。
死したアイツは俺のモノだ。
だれにも渡さない…護り続けてきたモノがやっと手に入ったんだ。
渡して堪るか。
イアンは側に置いてあった身丈以上もある杖を手に取ると、魔法で三人を無理矢理、世界の境から追い出した。
『何、殺気立ってるの?』
後ろから掛かった声が愛しくて、思わず杖を落とした。
“ゴトン”という鈍い音が響く。
「…帰ったのか」
振り返ると長い銀髪に緋眼の美女が立っていた。
『だって…頻繁に帰らないと貴方は拗ねるでしょ?それよりあの子達が居たの?』
イアンは“あの子達の妖気の香りがする”という女に歩み寄ると、その身体を腕の中へ収め、強く抱き締めた。
「どうでも良い…」
『どうしたの?』
女の問い掛けに、イアンは女の首筋に顔を埋めて答えた。
「…何でも無い」
『……そう…なら良いわ』
優しく美しい声と共に背中に回された──の腕が心地良かった…
私も貴方も…
もう…寂しく無いよ──…‥
「煩い、黙れ!!アイツは…──は俺のモノだ!」
そう…アイツは俺のモノだ。
あの日に手に入れた。
「俺の前に顔を出すなと言った…忠告した筈だ」
絶対に…
絶対に手放すものか──…
「とっとと出て行け!!!」
=愛しき人=
月が助けてくれなかったのは当り前だ。
月の言い分は正しかったし、助けを求めた事事態が可笑しいんだ……だって私は決意した筈だ。
“総てのアクマを破壊する”と…それなのに私的な事で決意を乱し、無様にも月に助けを求めた。
月だって“何かが滅ぶ”という運命に嫌気がさしているのに…
誰よりもその哀しみを知っているのに…
私は月に縋った。
最低だ‥
『…月……』
「レイ、起きたさ?」
重たい瞼を上げ、目を開くとラビの顔が目の前にあった。どうやらラビが抱き抱えていてくれたらしい。
『ラビ…』
まだボーッとしている頭にガタン、ゴトンという音が響く…どうやらここは汽車の中らしい。
「大丈夫ですか、レイ?」
『アレン…ありがと、大丈夫だよ』
レイはラビの腕の中から擦り抜けると、隣りへと腰を降ろした。
『ラビ…報告』
ラビは“分かったさ”と微笑むと報告を開始した。
「エリアーデは消滅。村人に一応状況を説明したが受け入れては貰えなかったさ。だからクロちゃ…クロウリーは仲間にして連れて来た。今は汽車の中を見学中…エリアーデは消滅しちまったから墓は作らず、城はクロウリーが爆破しちゃったさ。んでもって今はパンダジジィ達に合流すべく汽車に揺られてる」
城を爆破…クロウリーが良いならいいけど…
“世界の境の管理者”と名乗る彼に繋るモノは見付けられず終いか……まぁ、取敢えずは…
『了~解』
レイの返事を聞くと、ラビはレイを抱き締めた。
「今回は寝てる時間が長かったから心配したさ~」
『ごめんね、ラビ』
今回は結構キツかったからね…
「後、影で変なの見たさ…」
ラビの声質が変わり、レイは自分に抱き付いているラビを離した。
『変なのって?』
影と言う言葉が引っ掛かる。影といえば“黒キ舞姫”だ。
「眠りについたレイを抱き上げたらレイの体から影が出て来たんさ…んで、俺とアレンが飲み込まれて」
『飲み込まれて…?』
私の身体から出てきたという事はやはり“黒キ舞姫”だ。
しかし影に飲まれた…?
「映像を見た。恐らくレイの過去さ」
なるほど…
レイはクスッと笑うと再度ラビに問い掛ける。
『どれくらいの時の?』
「イノセンスに適合してからクロス元帥に出逢うまでさ」
“そう”と頷き微笑むレイに向かって、ずっと黙っていたアレンが声を上げた。
「レイ…月は何者なんですか?」
『知りたい?』
アレンとラビが力強く頷いた。
気になるのは無理も無い。月は不思議な存在だし、第一ラビは美人に滅法弱い。
仕方無い、話すか…問題があるなら月がアレン達の中の自分の記憶を上手く消すだろうし、問題は無い筈だ。
『月はね…』
レイは悪戯っぽく笑うと口を開いた。
『神様』
『全く…私は神では無いのだぞ』
汽車の屋根の上に座り、楽しそうに話すレイを見て、同じく屋根に腰を降ろした和装の銀髪緋眼の美女…月は困った様に軽く溜め息を吐いた。
『分かってるよ~だけど神に等しいのに変わりはないでしょ?一種の神様じゃん!』
ラビ達がクロウリーを探しに行って暇になったレイは、何故か走っている汽車の屋根へ座り、月と話込んでいた。
月の能力で、ごうごうと耳障りな風の音や汽車のガタンゴトンという動く音は全く聞こえない。
月の能力…性能の高さ、多種多様な力には毎回惚れ惚れする。
独自の陰陽術に魔法に魔術、錬金術に武術と舞術…まだあった様な気がする。
今も完璧な術のお陰で耳に聞こえるのは自分の声と月の綺麗な声だけだし、私は風圧で吹き飛ばされる事も無かった。
『まぁ、良い。既に歪んでおるのだ、さして変わり在るまい』
『歪み?』
また訳の分からない事言って…
月は私の頭を混乱させるのが得意だ。
と言っても私の無知が理由の時の方が多いのだが…
『何でも無い…秘密だ』
そうそう秘密、秘密!
月はこういう人なのだ。
『また秘密~?いつも秘密、秘密って…月は秘密ばっかりなんだから!!』
不機嫌そうに眉間に皺を寄せたレイは、軽く頬を膨らませて見せた。
『秘密の無い人間なんていないわよ』
月がレイの膨らんだ頬を指で軽く押し、プスッと空気の抜ける音がした。
『その秘密が月には多過ぎるんだよぉ!』
月は“ふむ”と言葉を漏らすと腕を組み、横に出していた脚を胡座に変えた。
『それもそうだな』
“それもそうだな”って…少しは誤魔化すなり否定するなりしようよぉ…というか胡座かくもんだから脚見えてるよ、脚!!
美脚だからってそこまで見せちゃ駄目だよぉ…着物緩く着てるからそこまで脚みえちゃうんだよ、全く。
ラビがいなくて良かった…絶対、ストライクだもん。
『それはそうとさぁ…何でラビ達に記録を見せたの?』
実を言うと過去を見られたのは少し恥ずかしい。
自分は一応“自殺志願者”だったのだ。
あんな姿を見られたなんて…
何か良く分からないが恥ずかしい。
『別に見せようとした訳では無いわよ?唯、貴女の精神が不安定だったから、貴女の言うところの“黒キ舞姫”が…私の力を含み暴走したのだ』
本当だろうか?
月ならワザとやりかねない。
『月だったら止めれたでしょ』
月ならそれくらい容易い筈だ。
『別に見られて困る様なモノでもあるまい…寧ろ困るのは私だ。何せ記憶といえど姿を見られたのに変わりは無いのだからな……だが…』
『見られても見られ無くても“さして変わり在るまい”でしょ?』
月の言葉を遮り、そう続けたレイを見、月は可笑しそうにクスクス笑い出した。
『分かっているではないか』
『長い付き合いですから』
二人でクスクス笑い合っていると、汽車が次の駅へと停車した。
『さてレイ、そろそろ戻りなさい。アレン・ウォーカー達が待っているぞ』
月の身体が徐々に消える中、月は思い出した様に口を開いた。
『後な、折角美しく成長したのだ。私の前では兎も角、言葉使いはもう少し女性らしくな』
レイは呆れた様に溜め息を吐くと月を見据えた。
『月に言われたく無い』
『全くね』
月は楽しそうに笑った後、レイの頭を優しく撫で、消え去った。
それを見送ったレイはふらっと立ち上がると両腕を天に伸ばし、伸びをした。
さてさて、どうしようかな。
汽車内に戻ってラビ達と合流するか…それともここで昼寝でもするか。
今日は天気も良いし昼寝は気持ち良いだろうなぁ…
少しずつ動き出す列車の上でレイは眠い目を擦りながらそんな事を考えていた。
動いている汽車の屋根の上で昼寝なんて馬鹿げているが、列車の中で昼寝をしようと言う方が無理なのだ。
絶対にラビの抱き枕になる…
ゆっくり寝たいレイは屋根の上で寝る事を決意し、再びその場に座り込んだ。
この際、先程まで月の力で聞こえなかった風の音は無視しよう…そう考えたその時だった。
先程出発した駅の近付く…
そこを歩く四人組が目に入った。
『……あ゙ぁ────ッ!!』
慌ててラビ達の待つ席へと戻ったレイは、団服であるジャケットを脱いでラビに投げ付けた。
「レイ、どうしたさ?!」
驚くラビを余所に、レイはアレンの隣りに腰掛けたクロウリーを見るとニッコリと微笑み、口早にこう言った。
『やっほう、アレイスター・クロウリー!私はレイ・アストレイ、能力は操作系、因に元帥、宜しくね!!』
「よ、宜しくである…」
いきなりの自己紹介に引き気味のクロウリーをこれまた余所に、レイはせかせかと支度を整え、窓を全開に開いた。
『ラビ、アレイスターへの残りの説明お願い。全部話していいわ』
「了解さ~」
「ど、どこ行くんですか?!」
アレンが慌てて止めようとするが、レイは気にせずに窓枠に片足を掛けた。
ラビは完璧に諦めた様だ。楽しそうにこっちを見ている。
『大丈夫大丈夫~後で追い着くから平気だよ、アレン』
窓から飛び出そうとしたレイは“あ…”と声を漏らすと呆然としているクロウリーの方へ振返った。
『アレイスター…エリアーデを愛してくれて有難う』
レイは驚くクロウリーを見みて笑うと、列車の窓から外へと飛び出した。
『“黒キ舞姫”』
あぁ、かったるい…
急な呼び出しを受けた俺は、人間の友達であるイーズ達と別れて千年公の所に向かっていた。
それにしても汽車で会ったイカサマ少年Aは凄かった…まさかあそこまでボロ負けすると思わなかった。
「プロだな、ありゃ」
ティキは加えていた煙草の煙を吐くと空を仰いだ。
ラゼルに……会いたい…
『キラ』
そういつもの可愛い笑顔で…
“ティキ”じゃなくて“キラ”と…
『キラ!!』
「………………はい?」
直ぐそこから聞き覚えのある声がし、ティキ改めキラは空に向けていた視線を慌てて地に戻した。
自分の目の前にはいつもの漆黒のワンピースを着て、揃いの漆黒のマフラーを巻いたラゼルがニッコリ微笑んで立っていた。
「ラゼル…」
『久しぶり!何でこんな所に…仕事?』
「あぁ…」
キラはそう返事を返し、ラゼルの頬に触れた。
本当に会えた…
頬を触れられたラゼルは、不思議そうに首を傾げた。
『ねぇ、お茶しない?』
お茶か…はっきり言ってしたい。
しかし…
「悪い…用があるんだ」
千年公を待たせている。
遅れたら何をされるか分からないし、ラゼルがとばっちりを受けるのも頂け無い。
それにラゼルには見せたく無かった。
黒い俺…ティキ・ミック卿を…
絶対に…見せたく無かった。
知られたく…無かった…
ラゼルは困った様に眉を寄せると“それは仕方無いわね”と言って俺の手を取った。
『そこまで送るよ』
繋いだラゼルの小さくて細い手はほんのり温かくて…何だかとても寂しくて…
泣きたくなる程、哀しかった。
「なぁ、ラゼル」
『何、キラ?』
隣りを歩いてたラゼルは、ふと立ち止まると、俺の首に自分の巻いていたマフラーを巻き付けながらそう聞き返した。
「今度は一日中、遊びまくって…序でにまったりしような」
『うん』
ラゼルは嬉しそうに微笑むと、再度キラと手を繋ぎ、歩き出した。
合わない歩幅がちょっと悲しくて…
頑張って合わせ様とする君が可愛くて仕方無かった──…
一つの世界は一冊の本によって成り立っている。
それら総ての
真っ白い空間に長々と永遠に縦横に続く沢山の本棚。
そこに敷き詰められた外観が真っ白い本達。
そして床には本棚に入りきらなかった本の山があちらこちらに出来ている。
それら全ての
イアンの仕事は本の“区分・点検・修正”
言葉にすればたった三つ…それだけの事だが、冊数が何千、何億、何兆…数え切れないモノだから、三という数字には意味が無い。
そして管理者である俺は仕事に飽きていた…
自分の存在に飽きていた。
点検の為に本を読むだけの毎日……否、存在…
一人の個体としてそれに何の意味がある?
消滅した方がマシだとさえ思っていた。
だから俺にとってアイツは特別なモノだ。
訳も分からず違う世界へ飛ばされたくせに…愛する者と引き裂かれたくせに…アイツは笑って俺に自分の“死後”を俺に差し出した。
私が居る…もう寂しく無いよ──…
自分の大切なモノが傷付かない様に…壊れない様にするのが持ち主の役目だろう?
だから俺はアイツからあの歪んだ世界を引き離そうとした。唯それだけの事だ。
「俺の前に顔を出すなと言った…忠告した筈だ」
点検の為に本を読んでいたイアンは、持っていた本を荒々しく閉じると、本棚へと押し込んだ。
自分の背後に立つ三人の青年をイアンは後ろを振り返ると殺気を込めて睨み付ける。
「理由は分かってんだろ。俺様の──が…」
「アイツは俺のモノだ!!」
声を上げたのと同時に魔力が吹き出て、自分の長い蒼髪が少し宙を浮いたのが自分でも分かった。
「……ムカツクがその通りだ。──が契約したのだからそれが真実だ」
「せやけど俺達には口出しの権限があるんやし、俺達は──の家族や」
「──は俺様達の一部だし、俺様達は──の一部だ」
苛々するのが止まらないのは何故だろう…いつもは仲の悪いこいつ等三人が、喧嘩もせずに交互に話しているからだろうか?
「テメェは鎖に縛られてる」
「ッ…お前等だって」
鎖という言葉が何を示しているかが直ぐに分かって、頭に一気に血が上る。
こいつ等…
殺してやりたい。
「──は俺達には鎖が在る言うけどな、俺達はそないなもん感じとらへん。それに──自体を護れるのは俺達なんや」
「何より俺様達は──を主として以上に、一人の女として愛している」
「煩い、黙れ!!アイツは…──は俺のモノだ!」
お前等がアイツをそういう風に愛している事何か大昔から知っている。気付いて無いのはアイツくらいだ。
だがアイツの肉体は滅んだんだ。
死したアイツは俺のモノだ。
だれにも渡さない…護り続けてきたモノがやっと手に入ったんだ。
渡して堪るか。
イアンは側に置いてあった身丈以上もある杖を手に取ると、魔法で三人を無理矢理、世界の境から追い出した。
『何、殺気立ってるの?』
後ろから掛かった声が愛しくて、思わず杖を落とした。
“ゴトン”という鈍い音が響く。
「…帰ったのか」
振り返ると長い銀髪に緋眼の美女が立っていた。
『だって…頻繁に帰らないと貴方は拗ねるでしょ?それよりあの子達が居たの?』
イアンは“あの子達の妖気の香りがする”という女に歩み寄ると、その身体を腕の中へ収め、強く抱き締めた。
「どうでも良い…」
『どうしたの?』
女の問い掛けに、イアンは女の首筋に顔を埋めて答えた。
「…何でも無い」
『……そう…なら良いわ』
優しく美しい声と共に背中に回された──の腕が心地良かった…
私も貴方も…
もう…寂しく無いよ──…‥