第1章 ノアの少女
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22
「こんな所で何をしている」
鮮やかな赤髪、強い煙草の香り。
そして仄かなお酒の香り…
それが貴方を包むもの。
『私…このまま死ねるかな』
=空白の十日間=
その夜、城内には雨の様に水が降り注いだ…
アレンに教えて貰った方法で、食人花から逃れる事が出来たラビは呆然と立ち尽くすレイに近寄るとレイを横抱きにした。
「レイ、さっきのは一体…」
近寄って来たアレンはレイを見て言葉を失った。
人形の様に目を開いたままラビに横抱きにされたレイは瞬き一つしない。
瞳が硝子の様だった。
「あれ?アレンはこれ見るの初めて?」
驚くのも無理無いか…こうなったレイは人形でしかない。何があっても反応は一切示さないのだから。
「レイは抱えきれなくなるとこうなるんさ。哀しくて…だけど泣く事を知らないレイは塞ぎこむ。今の俺等の会話も…さっきのアレンの声も、レイには聞こえてないんさ」
「そんな…」
「一回無かった事にするんかな…目が覚めたらいつもみたいに笑ってくれるよ」
“機械みたいだろ?”と言うと、アレンは押し黙ってしまった。
「聞きたい事は後にするさ…直ぐにいつものレイに戻…ッ!?」
瞬間、人形の様にピクリとも動かないレイの身体から影が伸び、俺とアレンを包み込んだ。
「「ッ!!」」
脳内を侵食される様に頭に映像が流れ込む。
町をフラフラと歩く少女…
これは……レイ…?
チィの元を離れて三日…
チィに見付から無い様に久しぶりにロードに会って話をした日の夕方、レイはユエと共に宿へ戻るべく、街の中を歩いていた。
街は買い物籠を持った女性や仕事帰りの人で一杯だ。
そんな中、レイは雑貨店のある一点に目をとられ店先で足を止めた。
ショーウインドーに飾られた漆黒のヴァイオリンが目に入ったのだ。
レイはショーウインドーに両手をついてヴァイオリンを覗き込んだ。
漆黒の本体に銀の装飾。
それは自分の知っているある人に似ていたから。
「レイ…」
ユエの声を無視して店の扉を開いたレイは、カウンターに座っている老人に話し掛けた。
『おじいちゃん!ショーウインドーの黒いヴァイオリン触っても良い?』
眠っているかの様に見えた老人はゆっくりと顔を上げ、レイの顔を見ると悪戯っぽく笑い口を開いた。
「気に入ったのかい?」
『えぇ、とっても!!』
「そのヴァイオリンはクセがあったな…お嬢さんがそのヴァイオリンを弾けたら無料で上げるよ」
『本当に?!』
驚きの提案に笑みを溢したレイは、ヴァイオリンを手にすると抱き締めて聞き返した。
「あぁ、勿論だよ」
老人のその言葉を合図にレイはヴァイオリンを奏で始めた。
目を閉じて…あの人に習った曲をなぞる様に奏でる。
このこは澄み切っていてとても綺麗な音だ…
花の綺麗な時期に外で弾きたいな…
「ッ…レイ!!」
『ぇ…?』
目を瞑って弾いていたレイは、目を開くとヴァイオリンを弾きながら外を見た。
『な…』
今は冬の筈なのに…街は花で埋めつくされていた。
植物がすごい早さで成長し、花を咲かせていく。
レイは驚いて演奏を止めた。
すると次々と花を咲かせていた植物は皆、ピタリと成長を止めた。
『どういう事だ…?』
「いや、凄いじゃないか!」
そう言って、老人は拍手をしながら立ち上がった。
「誰も弾けぬヴァイオリンだったのに、こんなに澄んだ音だったのか!」
老人の位置からでは街の様子が見えないらしく、老人はひたすら演奏の感想を述べてくる。
『あ、ありがとう…おじいちゃん…』
レイは取りあえず礼を言うが、外が気になって仕方が無い。ユエも外を見たままだ。
「約束通りそのヴァイオリンはお嬢さんに上げよう。その代わり今の曲を最後まで弾いてくれんかね?」
『ぁ、うん』
レイはチラチラと外を見ながらヴァイオリンを構えた。
落ち着け…恐らくヴァイオリンの所為で花は咲いた…植物は育った…ならばこのヴァイオリンで直せる筈だ。
レイは目を閉じるとヴァイオリンを奏でる。
先程と同じ曲を…
同じ様に…
元に戻って…
元に…元に戻って…
「レイ…」
ユエの声に反応し外を見る。
すると外では植物達が花を蕾に戻し、元の姿へと戻っていく所だった…通行人は唯呆然とそれを見ていた。
戻った…
雑貨店でヴァイオリンを貰ってからというもの、私はどうしたら良いか分からなくなった。
漆黒のヴァイオリンが入っているヴァイオリンケースを抱き締めて、昼は身を隠し、夜は誰もいない静かな街を一人で何日も歩いた。
一人で考えたくて、共であるユエを撒いて一人歩く…奇妙で有り得ない考えが頭を支配する。
『私はノアだ』
私はノアなんだ。
なのになんで…?
ヴァイオリンを譲受けてから一週間が経つ…
ユエが居ると甘えてしまうから…一週間ずっとユエに見付からない様に逃げ続けた。
私はノアだ…
ノアなのに何で…どうして…
レイは街の中心部にある巨大な噴水の前に座り込んだ。
『私はノアなのに…』
どういう事…神は私に何をさせたいの?
もしかして…エクソシストにイノセンスを与えたモノが本当の神なの…?
『……チィ…デビット…ジャスデロ……ロード…』
誰でも良い…
助ケテ…助ケテ…
助ケテ──…
「こんな所で何をしている」
街灯に照らされた鮮やかな長い赤髪。
強い煙草の香り、仄かなお酒の香り…
いつの間にか大層な美丈夫が私の目の前に立っていた。
『私…このまま死ねるかしら?』
気付いたらそう言っていた。
確かに死ぬしかないかもしれない…
「…何故死を望む」
男がそう問い掛けた。
レイは顔を上げ、再度男を確認した。
黒いコート…ヴァチカンの印…
『貴方、エクソシストね…』
「…だったら何だと言うんだ」
レイは男を見据えると、弱々しく微笑んだ。
『私はノア…千年伯爵の家族』
男は目の前で起きている光景を見て驚き、目を見開いた。
レイの黒いワンピースが黒いドレスに変わり、白い肌は褐色に染まる。
そして額には十字傷が浮んだ。
『私を殺して』
レイは目を閉じ、死を待った。
人間とノア…私はどちらの味方も出来無い。
きっと私はどちらも好きだから…
しかし死はいくらたっても訪れ無い。
男は殺そうとせずに、口を開いた。
「さっき聞いただろ…何故死を望む」
レイは目を開くと、男を見据えた。
『何をどうしたら良いか分からないの……ノアなのに』
「……」
『ノアなのにイノセンスに選ばれてしまった』
「何だと?」
男が再び目を見開いた。レイは構わず話しを続ける。
『私は人を好きになってしまった…もうノアには戻れない。しかし家族を裏切る事も出来ない…』
私は選べ無い…
『私は無力だ』
私は弱虫だ…
だからお願い。お願いだから…
『私を殺して、お兄さん』
エクソシストの貴方なら私を殺してくれるでしょ?
だってそれが貴方の…貴方達仕事だものね。
「駄目だ」
『へ…?』
そう言い切ると、男は座り込んでいたレイを抱き上げた。強い煙草の香りが広がる。
『何で…』
「第一にお前は大事なエクソシストの戦力だ、死なす訳にはいかん。第二に…そこの別品さんがさっきから心配してんぞ」
男が指差した先に立っていたのは和服を着た銀髪緋眼の美女だった。
『月…』
レイがそう呟くと、月は何も言わずに微笑むと消え去った。
「…行くか」
『ぇ…ど、どこに?』
「家」
『家って…』
この男はいきなり何を言い出すのだろうか?
「お前にはエクソシストの修行を受けてもらう」
『でも…』
私は家族を裏切れ無い…戦力にはならない。
「アクマだけを壊しゃ良いだろ」
『アクマだけを?』
「家族を攻撃しなきゃ良い…お前はアクマを救うだけだ。アクマを救って、序でに人間をアクマから護ってやれ」
アクマだけを破壊し、アクマから人間を護る…それが私に出来る事…?
「言っとくが家は煙草臭いし、酒臭いぞ…かなり吸うし飲むからな」
男がレイを抱いたまま歩き出し、一方レイはクスクス笑うと、口を開いた。
『そうだねぇ…お兄さん、煙草臭いや』
「お前、外に寝かすぞ」
『確かに煙草臭いし、酒臭いよぉ…でも』
でも…
でもね…貴方なら──…
『嫌いじゃないよ』
ねぇ、お兄さん…名前は何て言うの?
私は…
私はね──…‥
「こんな所で何をしている」
鮮やかな赤髪、強い煙草の香り。
そして仄かなお酒の香り…
それが貴方を包むもの。
『私…このまま死ねるかな』
=空白の十日間=
その夜、城内には雨の様に水が降り注いだ…
アレンに教えて貰った方法で、食人花から逃れる事が出来たラビは呆然と立ち尽くすレイに近寄るとレイを横抱きにした。
「レイ、さっきのは一体…」
近寄って来たアレンはレイを見て言葉を失った。
人形の様に目を開いたままラビに横抱きにされたレイは瞬き一つしない。
瞳が硝子の様だった。
「あれ?アレンはこれ見るの初めて?」
驚くのも無理無いか…こうなったレイは人形でしかない。何があっても反応は一切示さないのだから。
「レイは抱えきれなくなるとこうなるんさ。哀しくて…だけど泣く事を知らないレイは塞ぎこむ。今の俺等の会話も…さっきのアレンの声も、レイには聞こえてないんさ」
「そんな…」
「一回無かった事にするんかな…目が覚めたらいつもみたいに笑ってくれるよ」
“機械みたいだろ?”と言うと、アレンは押し黙ってしまった。
「聞きたい事は後にするさ…直ぐにいつものレイに戻…ッ!?」
瞬間、人形の様にピクリとも動かないレイの身体から影が伸び、俺とアレンを包み込んだ。
「「ッ!!」」
脳内を侵食される様に頭に映像が流れ込む。
町をフラフラと歩く少女…
これは……レイ…?
チィの元を離れて三日…
チィに見付から無い様に久しぶりにロードに会って話をした日の夕方、レイはユエと共に宿へ戻るべく、街の中を歩いていた。
街は買い物籠を持った女性や仕事帰りの人で一杯だ。
そんな中、レイは雑貨店のある一点に目をとられ店先で足を止めた。
ショーウインドーに飾られた漆黒のヴァイオリンが目に入ったのだ。
レイはショーウインドーに両手をついてヴァイオリンを覗き込んだ。
漆黒の本体に銀の装飾。
それは自分の知っているある人に似ていたから。
「レイ…」
ユエの声を無視して店の扉を開いたレイは、カウンターに座っている老人に話し掛けた。
『おじいちゃん!ショーウインドーの黒いヴァイオリン触っても良い?』
眠っているかの様に見えた老人はゆっくりと顔を上げ、レイの顔を見ると悪戯っぽく笑い口を開いた。
「気に入ったのかい?」
『えぇ、とっても!!』
「そのヴァイオリンはクセがあったな…お嬢さんがそのヴァイオリンを弾けたら無料で上げるよ」
『本当に?!』
驚きの提案に笑みを溢したレイは、ヴァイオリンを手にすると抱き締めて聞き返した。
「あぁ、勿論だよ」
老人のその言葉を合図にレイはヴァイオリンを奏で始めた。
目を閉じて…あの人に習った曲をなぞる様に奏でる。
このこは澄み切っていてとても綺麗な音だ…
花の綺麗な時期に外で弾きたいな…
「ッ…レイ!!」
『ぇ…?』
目を瞑って弾いていたレイは、目を開くとヴァイオリンを弾きながら外を見た。
『な…』
今は冬の筈なのに…街は花で埋めつくされていた。
植物がすごい早さで成長し、花を咲かせていく。
レイは驚いて演奏を止めた。
すると次々と花を咲かせていた植物は皆、ピタリと成長を止めた。
『どういう事だ…?』
「いや、凄いじゃないか!」
そう言って、老人は拍手をしながら立ち上がった。
「誰も弾けぬヴァイオリンだったのに、こんなに澄んだ音だったのか!」
老人の位置からでは街の様子が見えないらしく、老人はひたすら演奏の感想を述べてくる。
『あ、ありがとう…おじいちゃん…』
レイは取りあえず礼を言うが、外が気になって仕方が無い。ユエも外を見たままだ。
「約束通りそのヴァイオリンはお嬢さんに上げよう。その代わり今の曲を最後まで弾いてくれんかね?」
『ぁ、うん』
レイはチラチラと外を見ながらヴァイオリンを構えた。
落ち着け…恐らくヴァイオリンの所為で花は咲いた…植物は育った…ならばこのヴァイオリンで直せる筈だ。
レイは目を閉じるとヴァイオリンを奏でる。
先程と同じ曲を…
同じ様に…
元に戻って…
元に…元に戻って…
「レイ…」
ユエの声に反応し外を見る。
すると外では植物達が花を蕾に戻し、元の姿へと戻っていく所だった…通行人は唯呆然とそれを見ていた。
戻った…
雑貨店でヴァイオリンを貰ってからというもの、私はどうしたら良いか分からなくなった。
漆黒のヴァイオリンが入っているヴァイオリンケースを抱き締めて、昼は身を隠し、夜は誰もいない静かな街を一人で何日も歩いた。
一人で考えたくて、共であるユエを撒いて一人歩く…奇妙で有り得ない考えが頭を支配する。
『私はノアだ』
私はノアなんだ。
なのになんで…?
ヴァイオリンを譲受けてから一週間が経つ…
ユエが居ると甘えてしまうから…一週間ずっとユエに見付からない様に逃げ続けた。
私はノアだ…
ノアなのに何で…どうして…
レイは街の中心部にある巨大な噴水の前に座り込んだ。
『私はノアなのに…』
どういう事…神は私に何をさせたいの?
もしかして…エクソシストにイノセンスを与えたモノが本当の神なの…?
『……チィ…デビット…ジャスデロ……ロード…』
誰でも良い…
助ケテ…助ケテ…
助ケテ──…
「こんな所で何をしている」
街灯に照らされた鮮やかな長い赤髪。
強い煙草の香り、仄かなお酒の香り…
いつの間にか大層な美丈夫が私の目の前に立っていた。
『私…このまま死ねるかしら?』
気付いたらそう言っていた。
確かに死ぬしかないかもしれない…
「…何故死を望む」
男がそう問い掛けた。
レイは顔を上げ、再度男を確認した。
黒いコート…ヴァチカンの印…
『貴方、エクソシストね…』
「…だったら何だと言うんだ」
レイは男を見据えると、弱々しく微笑んだ。
『私はノア…千年伯爵の家族』
男は目の前で起きている光景を見て驚き、目を見開いた。
レイの黒いワンピースが黒いドレスに変わり、白い肌は褐色に染まる。
そして額には十字傷が浮んだ。
『私を殺して』
レイは目を閉じ、死を待った。
人間とノア…私はどちらの味方も出来無い。
きっと私はどちらも好きだから…
しかし死はいくらたっても訪れ無い。
男は殺そうとせずに、口を開いた。
「さっき聞いただろ…何故死を望む」
レイは目を開くと、男を見据えた。
『何をどうしたら良いか分からないの……ノアなのに』
「……」
『ノアなのにイノセンスに選ばれてしまった』
「何だと?」
男が再び目を見開いた。レイは構わず話しを続ける。
『私は人を好きになってしまった…もうノアには戻れない。しかし家族を裏切る事も出来ない…』
私は選べ無い…
『私は無力だ』
私は弱虫だ…
だからお願い。お願いだから…
『私を殺して、お兄さん』
エクソシストの貴方なら私を殺してくれるでしょ?
だってそれが貴方の…貴方達仕事だものね。
「駄目だ」
『へ…?』
そう言い切ると、男は座り込んでいたレイを抱き上げた。強い煙草の香りが広がる。
『何で…』
「第一にお前は大事なエクソシストの戦力だ、死なす訳にはいかん。第二に…そこの別品さんがさっきから心配してんぞ」
男が指差した先に立っていたのは和服を着た銀髪緋眼の美女だった。
『月…』
レイがそう呟くと、月は何も言わずに微笑むと消え去った。
「…行くか」
『ぇ…ど、どこに?』
「家」
『家って…』
この男はいきなり何を言い出すのだろうか?
「お前にはエクソシストの修行を受けてもらう」
『でも…』
私は家族を裏切れ無い…戦力にはならない。
「アクマだけを壊しゃ良いだろ」
『アクマだけを?』
「家族を攻撃しなきゃ良い…お前はアクマを救うだけだ。アクマを救って、序でに人間をアクマから護ってやれ」
アクマだけを破壊し、アクマから人間を護る…それが私に出来る事…?
「言っとくが家は煙草臭いし、酒臭いぞ…かなり吸うし飲むからな」
男がレイを抱いたまま歩き出し、一方レイはクスクス笑うと、口を開いた。
『そうだねぇ…お兄さん、煙草臭いや』
「お前、外に寝かすぞ」
『確かに煙草臭いし、酒臭いよぉ…でも』
でも…
でもね…貴方なら──…
『嫌いじゃないよ』
ねぇ、お兄さん…名前は何て言うの?
私は…
私はね──…‥