第1章 ノアの少女
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18
『此の世界は歪んでいるな』
手にした真っ白な本は、一見他の本 と何ら変わりは無いのに何故こんな…
「…別にお前が気にする事じゃ無いだろ」
『気にするわ。私は貴方と仕事を分かち合った…だったら私は時の為に在るべきよ』
「俺の為でもある」
『貴方の為…それが一番の理由である事を貴方は知っている。私はこれから貴方の次に大事なモノを為す為にあそこへ行くの…貴方は唯何時も通りに過ごしていれば良いのよ』
「また…お前だけ傷付こうというのか」
『それが私の第二の存在理由だから』
そうする事が私の願いの一つだから。
だから…
だから止めないで…
『行ってくるね…イアン』
=蒼い瞳=
《…レイ》
ラビとアレンと別れ、月に教わった詩を歌いながら空を飛んで古城に向かっていたレイは、そう月の声が頭に響いた瞬間、歌うのを止めた。
『何ぃ、月?』
《私は暫く出掛けてくる。貴女は貴女が成すべき事をなさい》
私の成すべき事…
『…いってらっしゃい』
《あぁ、行ってくる》
月が起きている私から離れるなんて、初めての事だった。
月は全てを知っているのに、それを私に教えない…全てを一人で背負おうとする。
私は…
それが悲しくて仕方無い…
『ティキ・ミック卿…』
そう綺麗な声と共に、安宿のベッドに寝転んだティキの横に銀髪緋眼の女、月が立った。
「お姉さん、久しぶり」
『えぇ…久し振り』
淡々とそう返す月は相変わらず綺麗で、精巧なビスクドールの様だった。
『ティキ』
「ん?」
『ケビン・イエーガー元帥を殺したろ』
月の言葉に驚いたティキの整った顔が次の瞬間、悲しそうに歪んだ。
しかし月はそんな事は気にしない。
『黒の時は楽しくとも白のそなたには哀しき事か?』
「…本当に月は何でも知ってるんだな」
月はゆっくりとティキの寝転んでいるベッドに腰を降ろした。
「白い俺と黒い俺、どっちも存在するから楽しい」
楽しいから殺す。今更止められ無い…
「それにエクソシストは敵だ。俺の正体を知っているなら分かるだろ?敵の兵は殺さなきゃ戦力は殺げない。月も敵は殺すだろ?」
『私は…』
殺せ、──!
生かしておいてはならん、我らは絶えてはならぬのだ…殺せ!!
全てを薙払え、──!!
『私…は…』
キャハハハハッ!!
オイ、見ろよ、──!
血の香り、臓物の温かさ!
悲痛な叫び、恐怖に歪む顔!
最高じゃねぇ?
私は甘美で好きだぜぇ!
お前は私、私はお前だ…
お前も本当は好きなんだろ?
ククク…キャハ、キャハハハハッ!!
『私は…』
月はギュッと拳を握り締めた。
巻き込まれた布が着物に皺をつくる。
御祖父様、御考え直しを…
彼等は唯の人なのです!
『敵であっても殺したくは無かった…』
何でこんな事…
『…所詮言い訳か』
どうして私はこんな事を…
月の泣きそうな顔に、ティキは驚きを隠せなかった。
思わず月に手を伸ばすと、月が再度口を開く。
『そなたは…』
「ん?」
行き場を失った手をそっと元あった所に戻す。
『エクソシストの中に愛する者が出来たらどうする…?』
「……どうするかな…分かん無ぇけど大丈夫だろ。俺はエクソシストとは接触して無いし接触した奴は…皆殺しだしな」
『ノアのエクソシストへの殺人衝動は制御しようとしても無くなるものではない……貴方は尚更…だから止めろとは言わない。少しずつで良い…減らすんだ。自分が傷付かない様に』
ティキは答え様とはしなかった。
約束出来無いからだ。
身体に染み付いたモノはちょっとやそっとではとれない。
『でなければ、そなたの大事な人間の仲間』
そう言うと、月はいつもとは違う冷たい緋色の瞳でティキを見据えた。
『彼等の命…私が貰い受けよう』
「ッ…分かった!!なるべく抑えるようにする!」
寝転んでいたティキは慌てて起き上がると、そう捲し立てた。
『そうか…それは良かった』
「まさか月に脅されるとはな…」
『時には必要な事だ』
月は優しく…でもどこか悲しそうに微笑むと、ティキの目を手で塞いだ。
そのままゆっくりとティキをベッドへ寝かせる。
「月?」
『眠れ…ティキ』
「は?なんで?」
『本当なら此の世界の時を止めてしまいたい…私は自分が何をしたら良いのかが分から無くなった』
何が正しくて、何が悪いのか…
何が世界にとって幸せで…何がいけないのか。
人は愚かで過ちを繰り返す。繰り返す事で学び、成長して行くのに、人ならざるモノはそれを許せ無い。
月が術を使ってティキを眠りに落とすと同時に、月の傍らには巨大な九本の尾を持つ狐が姿を現した。
鋭い牙に鋭利な爪。綺麗で質の良さそうな銀の毛並みに宝玉の様な翡翠の瞳‥実に綺麗な獣だった。
「こいつの精神を乗っ取っちまった方が手っ取り早いんじゃねぇか?」
『そんな事はしない。決めるのはティキ自身だ…私は此の世界では存在しない者だし、第一に此の世界は私のモノでも無い。
物語から逸れた時やいざという時まで見守る事しかしないし、レイが選ぶまで本気で手を出す気も無いよ』
「そうか…」
そう呟いた巨大な狐は、その大きな顔を月の身体に擦り寄せた。
『それに私の頭には基本的に、貴方達“家族”とのんびりする事しか無いわ』
家族とのんびり過ごしたいのは事実だ。
しかし此の世界で何をしたら良いのか分から無いだけなのも事実だった。
家族は大事だけど…それ以上に今は此の世界を…レイを幸せにしたかった。
失敗は許され無い…
私は…どうすれば良い…?
「のんびり…か…」
狐は嬉しそうに笑うと美丈夫に姿を変えた。
長いサラサラの銀髪に、翡翠の瞳…右目は長い前髪で隠れている。人型になった狐は、月を優しく抱き締めた。
「俺等“家族”は永久に共に在るからな」
家族は私の大事な支え…
私は…
家族の大事な支え──…‥
私は私が在るのが怖い…
未来が現実となるのが怖い。
全てが怖い…
こんな臆病な私を…
こんなにも惨めな程に臆病になってしまった私を…
どうか…
どうか──…‥
月と別れてクロウリー城上空まで来たレイは門前に着地しようとしたが、ふと屋根の上に人が立っているのを見付け、門に向かわずに屋根に着地した。
『あの、こんばんは…』
屋根の上に立っていたのは、白い洋服を身に纏った長い蒼髪に蒼眼の青年だった。
青年はレイの挨拶に答えず、唯レイを睨み付けている。レイは困った様に笑うと、影の翼を仕舞った。
『えっと…貴方は何でこんな所に立っているの?』
「…貴様を待っていた」
『私を?』
意味が分からなかった。
何故、見知らぬ人に待たれなければならない?
「アイツに手を出すな」
『アイツ…?』
「長い銀髪に緋色の瞳の女を知っているだろ」
銀髪緋眼…一人だけ思い浮かぶ。一人だけしか思い付かない。
『月の事?貴方は誰?』
見掛け無い顔だが、月の知り合いだろうか?
「我が名はイアン…世界の境の管理者」
『世界の境の管理者…?』
ナニソレ?世界の境ってどこ?
首を傾げるレイを見据え、イアンは再度口を開いた。
「俺の名を呼ぶ事は許さねぇ」
何それ…
『……じゃあ、管理者さん。手を出すなってどういう事‥』
「極力関わるな」
『無理だよ』
月は私の大事な家族だ。
姉であり母でもある。関わるなだ何て無理だ。
「“無理”じゃねぇんだよ」
そうドスのきいた低い声が響き、レイはビクリと肩を震わせた。
「アイツに何かあってみろ…」
今までレイとまともに目を合わせなかったイアンは、そう言うとしっかりとレイを見据えた。
「只じゃ済まさねぇぞ」
イアンはレイを睨み付けるとゆっくりとレイに歩み寄った。
『ッ…、…!』
冷汗が溢れ、手が震え…足が笑い出す。
蒼い瞳から目を逸す事が出来ない。
この人恐い…
逃げたいのに足は笑い続けるだけで動かない。
声は失ったかの様に出ない…
唯、目の前の青年を見るしか出来ない。
恐い……
嫌だ…
ユエ、シャール…ラビ、アレン、リナリー、ブックマン、ミランダ、ユウ、リーバー…
デビット、ジャスデロ、ロード、チィ、キラ……月…クロス……
威圧感で息が詰まる。
息が…出来無い…
助けて…タスケテ……
「チッ…帰ってきやがった」
そう口にした瞬間、レイに歩み寄る足をピタリと止めて空を見上げたイアンは、不機嫌そうに表情を歪めると、再びレイを睨み付けた。
「オイ、小娘…“忠告は”したからな」
イアンはそう言い残すと一瞬にして消え去った。
イアンが居なくなった事で力が抜けたレイは、その場に崩れた。カタカタと震える体を抑えながら、目に溜まった涙を手の甲で拭い取る。
殺されるかと思った…
『良か…った…』
私…まだ生きてる…
《只今…レイ、どうかしたか?》
月の優しい声が頭に響く…
何十年も聞いていなかった様に感じ、とても…
とても懐かしい感じがした。
『何でもない…おかえりなさい、月』
もう嫌だ…
もう絶対に…二度と…
あの人には会いたく無い──…
『此の世界は歪んでいるな』
手にした真っ白な本は、一見他の
「…別にお前が気にする事じゃ無いだろ」
『気にするわ。私は貴方と仕事を分かち合った…だったら私は時の為に在るべきよ』
「俺の為でもある」
『貴方の為…それが一番の理由である事を貴方は知っている。私はこれから貴方の次に大事なモノを為す為にあそこへ行くの…貴方は唯何時も通りに過ごしていれば良いのよ』
「また…お前だけ傷付こうというのか」
『それが私の第二の存在理由だから』
そうする事が私の願いの一つだから。
だから…
だから止めないで…
『行ってくるね…イアン』
=蒼い瞳=
《…レイ》
ラビとアレンと別れ、月に教わった詩を歌いながら空を飛んで古城に向かっていたレイは、そう月の声が頭に響いた瞬間、歌うのを止めた。
『何ぃ、月?』
《私は暫く出掛けてくる。貴女は貴女が成すべき事をなさい》
私の成すべき事…
『…いってらっしゃい』
《あぁ、行ってくる》
月が起きている私から離れるなんて、初めての事だった。
月は全てを知っているのに、それを私に教えない…全てを一人で背負おうとする。
私は…
それが悲しくて仕方無い…
『ティキ・ミック卿…』
そう綺麗な声と共に、安宿のベッドに寝転んだティキの横に銀髪緋眼の女、月が立った。
「お姉さん、久しぶり」
『えぇ…久し振り』
淡々とそう返す月は相変わらず綺麗で、精巧なビスクドールの様だった。
『ティキ』
「ん?」
『ケビン・イエーガー元帥を殺したろ』
月の言葉に驚いたティキの整った顔が次の瞬間、悲しそうに歪んだ。
しかし月はそんな事は気にしない。
『黒の時は楽しくとも白のそなたには哀しき事か?』
「…本当に月は何でも知ってるんだな」
月はゆっくりとティキの寝転んでいるベッドに腰を降ろした。
「白い俺と黒い俺、どっちも存在するから楽しい」
楽しいから殺す。今更止められ無い…
「それにエクソシストは敵だ。俺の正体を知っているなら分かるだろ?敵の兵は殺さなきゃ戦力は殺げない。月も敵は殺すだろ?」
『私は…』
殺せ、──!
生かしておいてはならん、我らは絶えてはならぬのだ…殺せ!!
全てを薙払え、──!!
『私…は…』
キャハハハハッ!!
オイ、見ろよ、──!
血の香り、臓物の温かさ!
悲痛な叫び、恐怖に歪む顔!
最高じゃねぇ?
私は甘美で好きだぜぇ!
お前は私、私はお前だ…
お前も本当は好きなんだろ?
ククク…キャハ、キャハハハハッ!!
『私は…』
月はギュッと拳を握り締めた。
巻き込まれた布が着物に皺をつくる。
御祖父様、御考え直しを…
彼等は唯の人なのです!
『敵であっても殺したくは無かった…』
何でこんな事…
『…所詮言い訳か』
どうして私はこんな事を…
月の泣きそうな顔に、ティキは驚きを隠せなかった。
思わず月に手を伸ばすと、月が再度口を開く。
『そなたは…』
「ん?」
行き場を失った手をそっと元あった所に戻す。
『エクソシストの中に愛する者が出来たらどうする…?』
「……どうするかな…分かん無ぇけど大丈夫だろ。俺はエクソシストとは接触して無いし接触した奴は…皆殺しだしな」
『ノアのエクソシストへの殺人衝動は制御しようとしても無くなるものではない……貴方は尚更…だから止めろとは言わない。少しずつで良い…減らすんだ。自分が傷付かない様に』
ティキは答え様とはしなかった。
約束出来無いからだ。
身体に染み付いたモノはちょっとやそっとではとれない。
『でなければ、そなたの大事な人間の仲間』
そう言うと、月はいつもとは違う冷たい緋色の瞳でティキを見据えた。
『彼等の命…私が貰い受けよう』
「ッ…分かった!!なるべく抑えるようにする!」
寝転んでいたティキは慌てて起き上がると、そう捲し立てた。
『そうか…それは良かった』
「まさか月に脅されるとはな…」
『時には必要な事だ』
月は優しく…でもどこか悲しそうに微笑むと、ティキの目を手で塞いだ。
そのままゆっくりとティキをベッドへ寝かせる。
「月?」
『眠れ…ティキ』
「は?なんで?」
『本当なら此の世界の時を止めてしまいたい…私は自分が何をしたら良いのかが分から無くなった』
何が正しくて、何が悪いのか…
何が世界にとって幸せで…何がいけないのか。
人は愚かで過ちを繰り返す。繰り返す事で学び、成長して行くのに、人ならざるモノはそれを許せ無い。
月が術を使ってティキを眠りに落とすと同時に、月の傍らには巨大な九本の尾を持つ狐が姿を現した。
鋭い牙に鋭利な爪。綺麗で質の良さそうな銀の毛並みに宝玉の様な翡翠の瞳‥実に綺麗な獣だった。
「こいつの精神を乗っ取っちまった方が手っ取り早いんじゃねぇか?」
『そんな事はしない。決めるのはティキ自身だ…私は此の世界では存在しない者だし、第一に此の世界は私のモノでも無い。
物語から逸れた時やいざという時まで見守る事しかしないし、レイが選ぶまで本気で手を出す気も無いよ』
「そうか…」
そう呟いた巨大な狐は、その大きな顔を月の身体に擦り寄せた。
『それに私の頭には基本的に、貴方達“家族”とのんびりする事しか無いわ』
家族とのんびり過ごしたいのは事実だ。
しかし此の世界で何をしたら良いのか分から無いだけなのも事実だった。
家族は大事だけど…それ以上に今は此の世界を…レイを幸せにしたかった。
失敗は許され無い…
私は…どうすれば良い…?
「のんびり…か…」
狐は嬉しそうに笑うと美丈夫に姿を変えた。
長いサラサラの銀髪に、翡翠の瞳…右目は長い前髪で隠れている。人型になった狐は、月を優しく抱き締めた。
「俺等“家族”は永久に共に在るからな」
家族は私の大事な支え…
私は…
家族の大事な支え──…‥
私は私が在るのが怖い…
未来が現実となるのが怖い。
全てが怖い…
こんな臆病な私を…
こんなにも惨めな程に臆病になってしまった私を…
どうか…
どうか──…‥
月と別れてクロウリー城上空まで来たレイは門前に着地しようとしたが、ふと屋根の上に人が立っているのを見付け、門に向かわずに屋根に着地した。
『あの、こんばんは…』
屋根の上に立っていたのは、白い洋服を身に纏った長い蒼髪に蒼眼の青年だった。
青年はレイの挨拶に答えず、唯レイを睨み付けている。レイは困った様に笑うと、影の翼を仕舞った。
『えっと…貴方は何でこんな所に立っているの?』
「…貴様を待っていた」
『私を?』
意味が分からなかった。
何故、見知らぬ人に待たれなければならない?
「アイツに手を出すな」
『アイツ…?』
「長い銀髪に緋色の瞳の女を知っているだろ」
銀髪緋眼…一人だけ思い浮かぶ。一人だけしか思い付かない。
『月の事?貴方は誰?』
見掛け無い顔だが、月の知り合いだろうか?
「我が名はイアン…世界の境の管理者」
『世界の境の管理者…?』
ナニソレ?世界の境ってどこ?
首を傾げるレイを見据え、イアンは再度口を開いた。
「俺の名を呼ぶ事は許さねぇ」
何それ…
『……じゃあ、管理者さん。手を出すなってどういう事‥』
「極力関わるな」
『無理だよ』
月は私の大事な家族だ。
姉であり母でもある。関わるなだ何て無理だ。
「“無理”じゃねぇんだよ」
そうドスのきいた低い声が響き、レイはビクリと肩を震わせた。
「アイツに何かあってみろ…」
今までレイとまともに目を合わせなかったイアンは、そう言うとしっかりとレイを見据えた。
「只じゃ済まさねぇぞ」
イアンはレイを睨み付けるとゆっくりとレイに歩み寄った。
『ッ…、…!』
冷汗が溢れ、手が震え…足が笑い出す。
蒼い瞳から目を逸す事が出来ない。
この人恐い…
逃げたいのに足は笑い続けるだけで動かない。
声は失ったかの様に出ない…
唯、目の前の青年を見るしか出来ない。
恐い……
嫌だ…
ユエ、シャール…ラビ、アレン、リナリー、ブックマン、ミランダ、ユウ、リーバー…
デビット、ジャスデロ、ロード、チィ、キラ……月…クロス……
威圧感で息が詰まる。
息が…出来無い…
助けて…タスケテ……
「チッ…帰ってきやがった」
そう口にした瞬間、レイに歩み寄る足をピタリと止めて空を見上げたイアンは、不機嫌そうに表情を歪めると、再びレイを睨み付けた。
「オイ、小娘…“忠告は”したからな」
イアンはそう言い残すと一瞬にして消え去った。
イアンが居なくなった事で力が抜けたレイは、その場に崩れた。カタカタと震える体を抑えながら、目に溜まった涙を手の甲で拭い取る。
殺されるかと思った…
『良か…った…』
私…まだ生きてる…
《只今…レイ、どうかしたか?》
月の優しい声が頭に響く…
何十年も聞いていなかった様に感じ、とても…
とても懐かしい感じがした。
『何でもない…おかえりなさい、月』
もう嫌だ…
もう絶対に…二度と…
あの人には会いたく無い──…