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第1章 ノアの少女

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16





「俺らはさ…圧倒的に不利なんだよ。便利な眼を持ってるお前や、アクマの気配を感じとる事の出来るレイと違ってさ…アクマは人間の中に紛れちまう。俺や他のエクソシストにとって、人間は伯爵の味方に見えちまうんだなぁ…」




「何体った?」

煙が立ち籠める壊れた街並みの中、ラビの声が頭に響く。
ボーっと惚けていたアレンは、少し遅れて口を開いた。
「三十…くらい」
「あ、俺勝った三十七体だもん」
「……そんなの数えませんよ」
「俺、なんでも記録すんのが癖なんさ~」

『未来のブックマンだもんね!』

そう言って笑うレイは、対アクマ武器のヴァイオリンを自分の影に向かって落とし、二人に歩み寄った。
ヴァイオリンは影に溶け込む様に姿を消した。
「だろだろ?もっと褒めてさ~」
ラビは近付いてきたレイに抱き付くと、子供の様に擦り寄った。
レイは楽しそうに笑いながらラビの頭を撫で、アレンは黙ったまま軽く頬を膨らませた。
何だか気にくわない‥

『あ、因みに私は五十ね』

「「……………」」
負けた。元帥と言えど一応同じ年代の女の子であるレイに負けるのは…



何か複雑だ…





=影の元帥=






黒い空に覆われた雨の中を教団の黒い馬車が走る。



レイは目覚めたアレン、リナリーにコムイ、ラビ、ブックマンを加えて、馬車に身を寄せていた。

「それじゃあ、任務について話すよ。良いかい二人共?」

「「はい…」」
リナリーの隣に座ったアレンとラビはそう弱々しく返事をした。
アクマを大量に倒した後、ラビの槌で病院まで戻った二人は見事にブックマンに激突した。只今、ブックマンの言い付けで馬車の座席に正座中だ。
アレンは知ってて槌に掴まったんじゃないのに可哀想に…
私は対アクマ武器の“姫”で空を飛んで帰ったので怒られずにすんだ。


「先日、元帥の一人が殺されました」


『え…?』
「殺されたのはケビン・イエーガー元帥。七人の元帥の中で最も高齢ながら、常に第一線で戦っておられた人だった」
「あのイエーガー元帥が…?」
ケビン・イエーガーが殺された…まさかチィ達が直接動き始めた?

「ベルギーで発見された彼は協会の十字架に裏向きに吊るされ、背中に“神狩り”と彫られていた」

「神狩り…?」
予想は確信に変った。ノアがイノセンスを狙ってる…
目を伏せたレイの隣りでラビが“あっ”と短く声を上げた。

「イノセンスの事だな、コムイ」

「そうだよ…元帥達は適合者を探す為、それぞれ複数のイノセンスを所持している。イエーガー元帥は八個所持していた。奪われたイノセンスは元帥の対アクマ武器を含めて九個」
「九…っ」
驚くアレンをよそに、コムイはレイに顔を向けた。

レイ、君はいくつイノセンスを所持してる?」

『十八個』
「はぁ?!」
「またそんなに溜めたんか!」
確かだけどね…溜め込み過ぎて数えてみないと分からない。

『でもその中の五個は私と私の連れに適合してるよ。パールは登録の為にミランダと行かせたし』

「じゃあ、残りの十三個の適合者を見付けるんだ。君はいつもみたいに沢山集めてヘブくんを驚かせようとしてるんだろうけど…ヘブくんに持ち帰らなくて良い。君にも適合者を探すように任務が出た」
『ん、分かった』
コムイはアレン達に視線を戻すと話を戻した。
「イエーガー元帥は、瀕死の重傷を負い…息を引きとるまでずっと歌を歌っていた」


せんねんこうは…
さがしてるぅ♪

だいじなハートさがしてる…♪

わたしはハズレ…
つぎはダレ…♪



「センネンコー?」
聞き慣れない言葉にそうラビが首を傾げた。
『伯爵の愛称だよ。私は“チィ”って呼んでるけど、皆は千年公って呼んでた』
「ほー」
ラビが納得する中、今度はアレンがそっと片手を上げた。
「あの…“大事なハート”って…?」
アレンは“ハート”の方が気になるらしい。

「我々が探し求めてる一〇九個のイノセンスの中に一つ“心臓”とも呼ぶべき核のイノセンスがあるんだよ。
それは全てのイノセンスの力の根源であり…全てのイノセンスを無に帰す存在。それを手に入れて初めて我々は終焉を止める力を得る事が出来る。伯爵が探してるのはそれだよ」

確率は低いが本当はもう一つだけ方法がある。けどコムイはそれを知らない…ここはコムイの指示通りハートを探した方が良いか、それとも…
「そのイノセンスはどこに?」

「分かんない」

「へ?」
コムイなら知ってると思ったアレンはそう変な声を出した。



「だから分かんないの。こっちもさ~見付けたイノセンスをヘブくんに見てもらったりして色々考えてはいるんだけどさー…ぶっちゃけるとさ、それがどんなイノセンスで何が目印にそれだと判別するのか石箱に記して無いんだよ~
いくらボクがかなり優秀でも何も手掛りが無いんじゃねぇ。もしかしたらもう回収してるかもしんないし、誰かが適合者になってるかもしんない。本当に困ったものなんだよ。こっちも忙しいしさぁ…古代の人もせめてヒントだけでも書いててくれれば良いのにケチだよね。そりゃ色々事情があったんだろうけどさー、こっちの身にも少しはなれってんだよホント」



『御苦労様ぁ、コムイ』

一息で全部言うもんだから、何だか凄く長い時間拘束された気分になった。
でもそれだけ大変だという事だろう。
「本当だよ、もぉー」
コムイはレイに抱き付くと、猫の様に擦り寄った。レイはその頭を優しく撫でてやる。
「コムイ、レイから離れるさ!!」
「はいはい」
そう適当に返事をしたコムイは、レイから離れて座席に座り直すと話しを続けた。

「唯…最初の犠牲者となったのは元帥だった。もしかしたら伯爵はイノセンス適合者の中で特に力の在る元帥が“ハート”の可能性があると思ったのかもしれない。今まで遭遇しなかったノアの一族が出現したのも恐らくその為の戦力増強。
エクソシストが彼らの標的となった伝言はそういう意味だろう。恐らく各地の仲間達にも同様の伝言が送られている筈だよ」


クロス、大丈夫かな…強いけど変に抜けてる所あるし無茶ばっかりするからな。まぁ、あの人はしぶといし…
「確かにそんなに凄ぇイノセンスに適合者がいたら元帥くらい強いかもな」
ラビは話ながら横目でチラリとレイを見た。



「だがノアの一族とアクマ、両方に攻められてはさすがに元帥だけでは不利だ。各地の仲間を終結させ四つに分ける…元帥の護衛が今回の任務だよ」



「四つ?残りの元帥は六人だろ?」
レイと最後の元帥は数に入ら無い」
コムイの言葉にラビは目の色を変えてコムイを睨み付けた。
「何言ってるさ…レイの護衛はどうする気だ」
レイにはユエとシャールがいる。今もどこかにいるんだろ?」

『二人なら馬車に乗り切れないから上空を飛んで付いて来てるよ』

「ほらね、二人がいればレイは平気だよ、ラビ」
二人は私を護ってくれる。
そして私も二人を──…‥
『最後の元帥は…』
「ボク等は最後の元帥を知ら無いからね。どうしようも…」
「知らない?」


「数年前…ボク等は新たな元帥になりうる適合者が現れた事をヘブラスカに聞いたんだ。だけどその人…教団の人間じゃ無かったんだよ」


「教団の人間じゃ無いって…どうやってイノセンスの訓練を」
「さぁ?その人、面倒臭いとか言ってるらしくて登録に来ないんだよ。取り敢えず仮登録にしてあるけど」
登録に来ないのは…まぁ、事情が事情だし。

「個人でアクマを破壊してくれてるらしいんだけど……率先力になるんだからちゃっちゃと正式に教団に入って欲しいもんだよ」

『…あの人も色々あるからね』
レイ、会った事あるんか?!」
『うん、一応ね…』
ラビのキラキラした目が何か痛い…
「一応って言うか、レイが偶然見付けたんだよ…“面倒臭い”っていうのもレイから聞いたの」
「へぇ~」
「と、言う事で…レイ以外は顔も分からないから捜しようも無いし、捜せないなら護衛もつけられない。
護衛つけるとしたらレイに護衛させる事になるし」
“まぁそれはそれで面白そうだけど”と言うコムイは、真っ直ぐにレイを見据えた。
「だけど君の言う事を聞く限り、最後の元帥に護衛はいらないだろ?」



『寧ろ足手纏いになるよ』



あの人は強い。
他のエクソシストがいては戦いの邪魔になる程に…
本気の戦いになったら…恐らく同じ元帥である私やクロスでも足手纏いになるだろう。

「それにレイにはラビ達と行動を共にしてもらいたい」

俯き気味だったレイは、コムイの言葉を聞いて顔を上げた。
ラビ達と一緒に…?
レイを見たコムイは唯微笑んだ。



「君達はクロス元帥の元へ!」










ユウ…





怪我しちゃ…
無茶しちゃ駄目だよ──…‥











「ゲヘヘヘヘ!!無理だ、無理だ!」



アクマの下品な声が静かな夜の街に響いた。実に耳障りな声だ。
「元帥共は助からねぇ!!ノアとアクマが大軍で奴らを追いかけてるんだ、お前らがこうして俺を壊してる内にも」
それきりアクマが声を発する事は無かった。
ダラダラと話し続けるボロボロのアクマに六幻を突き立てた神田は、アクマの残骸にその冷たい視線を向けた。


「煩ぇ」


「行くぞ、神田」
神田は六幻を残骸から引き抜いて納めると、仲間である二人の元に向かった。
歩きながら二人が何かを話していたが、ちゃんと頭に入らなかった。相槌の様に短い適当な答えを返し続ける。
何で俺はレイの班じゃなかった…?

あのオヤジの所に行ってたら護れねぇじゃねぇか…

レイが殺られるような奴じゃないのは分かってる。分かっているけど案じてしまう。
願ってしまう…





無事でいてくれ……レイ──…










「ティムキャンピーは科学者でもあるクロスが造ったものだから契約主の事はどこにいても感知できる筈だ。
後は奴の行動パターンを良く知るアレン君と弱点であるレイがいれば袋のネズミさ!!て事で、クロス班とレイ班は合同」











というコムイの謎の力説で私はクロス班に入れられた。



何かクロス班って言うより“クロス捕獲班”って言った方が正しいかなぁ…
コムイと別れて汽車に乗り込むと、直ぐにブックマンが地図を広げた。これからの事を決める様だ。
「まず分かってる情報をまとめよう」
『は~い』
レイが地図を覗き込む中、ラビはニヤニヤと笑いながらアレンを見た。
「なんだ、もう取っちゃったのかよ…面白い顔だったのに」
「ホント、止めて下さい」
『え、何が面白かったの?』
「最高さぁ~あのな…」
レイに変な事教えないで下さいよ、ラビ」


「喋るな、そこ」


ブックマンの一言で良く分からない盛り上がりを見せていた私達は大人しく黙った。何かブックマンの方が私よりも元帥らしい…
「今、私達はドイツを東に進んでいる。ティムキャンピーの様子はどうかな?」
「ずっと東の方見てるわ」
ブックマンの問掛けにそうリナリーが答えた。
東ねぇ…嫌な予感がする。

『距離が離れてるんだよ。離れ過ぎててティムには大体の方向しか分かんないの』

「師匠はまだ全然遠くにいるって事かな?」
『そうだねぇ~』
クロスは昔から一つの場所にジッとしてないからなぁ…
「一体どこまで行ってるのかな?クロス元帥って経費を教団で落とさないから領収書も残らないのよね」
「じゃあ生活費とかどうしてんのさ…自腹?」
“金持ち~”とラビが呟く中、レイは思い出に浸っていた。
懐かしいなぁ…クロスったら私達に内緒で…



「主に借金です」



そうそうクロスったら私達に内緒で借金を……って、借金?!
「師匠って色んなトコで愛人や知人にツケで生活してましたよ。本当にお金無い時は僕がギャンブルで稼いでました」

『何それ?!』

借金って何?愛人って何さ!!
クロスはあの人一筋じゃ無かったの?!というかツケ?!終いにはギャンブル?!!
「何それって……え?!レイは師匠とどうやって生活してたんですか!」
アレンはレイの両肩を掴むとガクガクと前後に揺すった。
いつも優しいアレンの顔が今はとてつもなく恐い…
『どうやってって…クロスが出しててくれてて…どっから出てるお金なのか気になって調べたら』
「調べたら何です?!!」
恐い、恐い、恐い!アレンが本当に凄く恐い!
レイは後退りたい衝動にかられたが、ここは汽車の中だ。
後ろには背凭れがあって後退れ無い。



『ふ……普通に…仕事してたけど?』



「………はぁあああ?!」

アレンの絶叫が列車内に響き渡った。
変なのはそれだけではない。ブックマン達まで目を見開いて驚いている。ラビなんか口まで開いちゃってるし…
そして私の頭の中には月の笑い声が響き渡っていた。
皆してなんなの…もしかして新手のイジメ?
「クロス元帥が仕事?!一体、何してたさ!!」


『か…カジノのディーラー…』


「よくクビになんなかったさ!!」
クビって…そんなにクロスが信用ならないのかな?
『逆に気に入られてたよ?』
特別ボーナス貰ってたし…
「何でさ?」
『何かイカサマする人捕まえてお給料上げて貰って…』





レイ~ただいまぁ!!」

レイ、頼まれた物を…」





瞬間、そう賑やかに車両内にユエとシャールが入って来た。
シャールはレイに抱き付き、ユエはレイに持っていた紙袋を渡す。


「どうしたの、アレン?」
「どうしたんだ、コイツ」


座席で放心状態で丸まっているアレンを見て、シャールとユエの声が綺麗に重なった。
『良く分かんないけど…クロスが働いてたのが不思議だったみたいで…』

「あぁ…あれは今思うと不思議な光景だったな」

『ユエまでそんな事言って‥』
シャールはクロスを知らないので話には入らず、アレンをつっついて遊んでいた。
「と…取り合えずレイ嬢」
ふと惚けていたブックマンが口を開く。

「アクマの感知を任せて良いか?民間人を巻き添えにしない為にも迅速な判断が必要なんだが…」
『あ、うん、任せて』
感知の仕方が違うのでアレン程正確では無いが、しておくに越したことはない。


人間はとても弱い生き物だから──…



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