第1章 ノアの少女
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14
『アレン…』
あまり干渉するとチィに気付かれてしまう可能性があるので手出しは出来無い。
だからただ見ていた。
『…アレン』
何も無い事を祈りながら、ロードの気紛れが終わるのを待った。
きっとチィにはシナリオがある。
けれどロードはそれに従わない。あの子はきっとシナリオから大きく逸れる事は無いが遊びたがる。
『アレン…』
現状は“チィらしくない”ロードのお遊びの筈だ。ならばただのエクソシストではないアレンを殺しはしない筈だ。
『シャール…』
早く三人を連れて帰っておいで…
=うそつき=
「ウギャアァアァアアァァァ!!!!!!」
アクマの悲痛な叫び声が響き渡る中“カチッ”と小さな音がした気がした。
伸ばしたその腕が届く事は無く、アレンの身体は横から来た何かに押し飛ばされ、アクマは一瞬の静寂を迎えた後、ロードの言う通りに自爆した。
タスケテ…
目の前で吹き飛び、形を失ってゆくアクマだったモノ…消えかけた魂が悲痛な声で最後の助けを求める。
救済…出来無かった……
リナリーに抱き抱えられながら地に転がったアレンの耳に、ロードの楽しそうな高い笑い声が痛い程に響いた。
アクマに向かったアレンを横から妨害したのは…助けたのはリナリーだった。
「ア゛ァ…グ、ァ」
左目が痛い、傷が疼く…左目が…泣いている…
「アレン君…!」
リナリー、リナリーが……リナリーが止メナケレバ…
「クソ…ッ、何で止めた!!」
怒りで声を荒げた瞬間、左頬に鈍い痛みが走った。直ぐにリナリーに叩かれたのだと分かった。
「仲間だからに決まってるでしょ!!」
リナリーの瞳から溢れ出るそれに正気に戻された気がした。
「リナリー…」
リナリーが泣いてる…僕が泣かせたんだ。
「スゴイ、スゴイ!!爆発に飛び込もうとすんなんて、お前予想以上の反応だよ!」
ロードが楽しそうに笑い続けているのを見て、怒りがぶり返した。
「お前…」
怒りをぶつける相手はリナリーじゃない。アイツだ。
「シャールもそう思うでしょぉ?」
「そうですね、ロード様」
ロードは笑いながらシャールの手を取ると、その場でクルクルと回り出した。
シャールの顔には笑顔が貼り付いている。
「タダでさえ愚かなのに、堕ちたものにまで命をかけるだなんてホントスゴイ!!」
「……」
「僕らにたてついたって勝てるわけ無いのに!終焉に向かう物語に抗う事なんて出来無いのにねぇ、シャール!」
「そうですね、ロード様…主人 に逆らうなんて虫唾が走る」
「ッ、シャール…お前!!」
下唇を噛み締めたアレンは、そう声を荒げた。
シャールがロードに見えない様に僕を睨み付けていたが、そんなものはどうでも良かった。
「僕達を騙したのか?!」
シャールの発した言葉が信じられなかった。
味方じゃ無かった…シャールが味方じゃ無かった。シャールが味方じゃ無いならレイも…レイも……
──アレン…
頭に響くレイの声が相変わらず優しくて頭にきた。
敵なのに何故エクソシストになった。何で優しくした。
──アレン…
何で…皆を騙した。皆を…家族を……何で…何で…何で何で何でナンデ!!
──アレン…
「………レイ…」
でもレイは真剣だった…そう見えた。
アクマを助ける事に…
人間を助ける事に…
僕達は…騙されてたの…?
──アレン…教団の皆は私のもう一つの家族なの…
レイ…僕は君を信じて良いのか…?
だっていつだって君は──…‥
「レイを迎えに行かなきゃねぇ、傘ぁ」
「ッ…そんな事させるか!!レイは大事な仲間だ…家族だ!お前等なんかの所に帰さない!!」
そうだ…あんなに教団の皆の事を思ってる子が…レイが僕等を裏切るわけが無い。それなのに少しでも疑って勝手に幻滅して……馬鹿みたいだ。
アレンが声を上げた瞬間、ロードはニヤリと口角を上げて楽しそうに笑った。
「やっぱり!レイはお前等の所にいるんだぁ♪」
やっぱり…?
「………ッ…嵌めたな」
「引っ掛かる方が悪いんだよぉ…と言うか何もしてないし。僕はさ、唯聞いただけだよぉ…アレンが勝手に疑って混乱して吐いただけぇ♪」
「馬鹿レロ」
レイが教団にいる事にロード達は気付いてなかったんだ。気付いていても確信が無かったんだ。僕が渡さないだなんて言うまでは……だから自分やレイを疑い出した僕をシャールは睨んでたんだ。
僕が確証を与えてしまった…
「アーレーン〜良いのかなぁ、あっちの女の方は」
そう言われて慌ててミランダさんの方を向くと、残ったアクマがミランダさんに向かっていた。慌てて左腕を発動させるが、どう考えても間に合わ無い。
「ミラ…」
瞬間、何かがアレンの横を過ぎ去り、アクマとミランダの間へ爆煙を上げた。
アクマの動きが止まり、透かさずリナリーが止めをさす。
「シャールぅ、攻撃出来無いんじゃなかったのぉ?」
そう言われたシャールの表情は、笑顔を失って面倒臭そうに歪んでいる。大砲の用に変形した両腕の筒の先からは細く煙が出ていた。
「シャール、それは」
「アクマは攻撃して良いとレイに言われてますから」
ロードを振り返ったシャールは、アレンの声を遮ってロードの質問にそう無表情で答えた。
「レイがエクソシスト側にねぇ…」
そう呟いて傘を片手に歩き出したロードは、アレンの横を通り過ぎながら話し続けた。
「シャールを壊したらレイが怒りそうだし…今回はここまでで良いや。思った以上に楽しかったし」
地響きと共にロードの少し前に地から一枚の扉が姿を現した。
「じゃねェ~」
傘を片手に手を振って帰ろうとするロードの頭にアレンが発動した左手の銃を当てるが、ロードの表情は変わらない。
「優しいなぁ、アレンはぁ」
頬を伝う涙が何故か痛い。
ロードを見ていなくてはいけないのに目を閉じたくなる。
先程のアクマのダークマターが頭から離れ無い…悲痛な叫びが耳から離れ無い。
「僕が憎いんだね…撃ちなよ…アレンのその手も兵器なんだからさぁ」
頭に突き付けられた銃を無視したロードは、扉に向かって歩きながら話し続けた。
「でもアクマが消えてエクソシストが泣いちゃダメっしょ~…そんなんじゃいつか孤立しちゃうよぉ?」
「ろーとタマ、レイタマはどーするレロ?」
「分かってるよ、傘ぁ~近いうちにレイを返してもらいに行くからねぇ…だからまた遊ぼぉ、アレン」
そう残してロードは扉の向こう側へと消え、アレンは震える左腕を下ろした。
「クソ…ッ」
無力な自分が酷く哀れで頭にきた。
何で自分はこんなにも無力なんだろう…そう考えていたら、世界が崩れ出した。
“こっちだ”と言うシャールに手を引かれ、気付いたら見覚えのある部屋の床に一人で倒れていた。
「ここは…ミランダさんのアパート…どうして」
先程までいたあの場所はどこだったんだろうか?
あれもロードの力なのだろうか…
「ッ…アレン君!アレン君、ミランダの様子が可笑しい!!」
辺りを見回したアレンは、直ぐにリナリー達の声のする部屋へ向かった。
着いた先…沢山の時計盤が浮いた部屋では、床にうずくまっているミランダをリナリーが支え、シャールがそれを傍観する様に見ていた。
「ヒー…ヒー…」
「ミランダさん……ッ」
か細く響くミランダの苦しそうな息遣いはミランダの状態を表していた。
「発動を止めて下さい!これ以上は貴女の体力が限界だ」
これ以上続けたらミランダさんは…
「ヒー…ヒー……ヒー…ダメよ…………停めようとしたら…」
ミランダが力を弱めると、周りに浮かんでいた時計盤がアレン達に吸い寄せられるように近付く。
「吸い出した時間も元に戻るみたいなの…また…あのキズを負ってしまうわ」
ボロボロとミランダから大粒の涙が溢れた。それは、酷く優しい涙だった。
「嫌よぉ…初めてありがとうって言ってもらえたのに……これじゃ意味無いじゃない」
ミランダがそう口にした瞬間、ヒールの音と共に部屋に姿を現したのはレイだった。
「「「レイ!!」」」
レイはミランダに歩み寄ると、目の前に片膝を付いてしゃがみ込んだ。直ぐにシャールがレイに後ろから抱き付く。
『ミランダ・ロットー…イノセンスの発動を止めなさい』
レイはシャールに抱き付つかれたままミランダに向かって優しく微笑んだ。
『貴女は良く頑張ったじゃない…ここからはアレンとリナリーが頑張る番だよ』
「そうですよ、ミランダさん!貴女がいたから今、僕らはここにいられる…それだけで十分ですよ」
アレン微笑むと、そっとミランダに手を差し出した。
「自分の傷は自分で負います。生きてれば傷は癒えますから」
リナリーも微笑み、レイはアレンの頭を優しく撫でた。
『アレンってば良い事言う~』
「アハハ…あ…すみません、レイ…僕……」
『ロードに私の居場所がバレたんでしょ?』
「はい………って、え?」
レイはアレンの頭撫でるのを止めるとニッコリと微笑んだ。
『予想してたよ』
「すみません……僕……一度、レイを疑ってしまいました…裏切ってるかと」
「サイッテー」
「ゔ…済みません」
『シャール』
「はーい」
『…大丈夫だよ、アレン』
「ぇ…」
『今、私の友達が手を打ちに行ってるし、それに私はアレンを信じてるもん』
レイはアレンの頭を一撫ですると影に手を突っ込んでヴァイオリンを取り出した。
そしてミランダと向き合う。
『大丈夫。私もフォローするから』
「ぇ…」
『さぁ、ミランダ…発動を止めなさい』
ゴ───ン…
懐かしい古時計の音色が聞こえた様な気がした──…‥
ポツポツと立てられた街灯の灯が浮かび上がる石畳の道。
着物に身を包んだ月は、ずれ落ちた羽織りをそっと直しながら漆黒の…空とも天井とも分からぬ天を仰いだ。
暫くすると、暗い道を一人の褐色の肌の少女と傘がやって来た。待ち人だ。
「誰ぇ~?ここは僕らしか入れないんだけどぉ」
ロードは月の前まで来るとピタリと足を止めた。
『こんばんは、ロード・キャメロット…それにレロ』
「何で名前知ってんのぉ?」
『さぁ?』
月は微笑みながら首を傾げてみせた。
「……まぁ、お姉さん綺麗だから良いやぁ」
「駄目レロ、ろーとタマ!!知らない人を勝手に入れちゃ駄目レロ!」
「勝手に入って来たんだよぉ」
確かにロードは何もして無い。私が勝手に入って来たのだから…
二人のやり取りを見て小さく笑った月が呟くと同時に、傍らに和服の小人が現れ、ロードは楽しそうに小人を覗き込んだ。
「スゴぉイ~なにこれ」
『記憶の一部、頂戴する』
月が微笑むと小人の持っていた大きな鈴が光を放ち、ロードとレロその場に崩れる様に倒れた。
『御疲れ様。条件保管しておいてくれるかしら?』
「御意」
小人はそう短く返事をすると消え去った。
『私もそろそろ帰るか…』
月は肩に掛けてあった羽織をロードにそっと掛けると、ロードの頭を優しく撫で…消え去った。
もう暫くは…
変わらぬ日々を進むと良い──…
『アレン…』
あまり干渉するとチィに気付かれてしまう可能性があるので手出しは出来無い。
だからただ見ていた。
『…アレン』
何も無い事を祈りながら、ロードの気紛れが終わるのを待った。
きっとチィにはシナリオがある。
けれどロードはそれに従わない。あの子はきっとシナリオから大きく逸れる事は無いが遊びたがる。
『アレン…』
現状は“チィらしくない”ロードのお遊びの筈だ。ならばただのエクソシストではないアレンを殺しはしない筈だ。
『シャール…』
早く三人を連れて帰っておいで…
=うそつき=
「ウギャアァアァアアァァァ!!!!!!」
アクマの悲痛な叫び声が響き渡る中“カチッ”と小さな音がした気がした。
伸ばしたその腕が届く事は無く、アレンの身体は横から来た何かに押し飛ばされ、アクマは一瞬の静寂を迎えた後、ロードの言う通りに自爆した。
タスケテ…
目の前で吹き飛び、形を失ってゆくアクマだったモノ…消えかけた魂が悲痛な声で最後の助けを求める。
救済…出来無かった……
リナリーに抱き抱えられながら地に転がったアレンの耳に、ロードの楽しそうな高い笑い声が痛い程に響いた。
アクマに向かったアレンを横から妨害したのは…助けたのはリナリーだった。
「ア゛ァ…グ、ァ」
左目が痛い、傷が疼く…左目が…泣いている…
「アレン君…!」
リナリー、リナリーが……リナリーが止メナケレバ…
「クソ…ッ、何で止めた!!」
怒りで声を荒げた瞬間、左頬に鈍い痛みが走った。直ぐにリナリーに叩かれたのだと分かった。
「仲間だからに決まってるでしょ!!」
リナリーの瞳から溢れ出るそれに正気に戻された気がした。
「リナリー…」
リナリーが泣いてる…僕が泣かせたんだ。
「スゴイ、スゴイ!!爆発に飛び込もうとすんなんて、お前予想以上の反応だよ!」
ロードが楽しそうに笑い続けているのを見て、怒りがぶり返した。
「お前…」
怒りをぶつける相手はリナリーじゃない。アイツだ。
「シャールもそう思うでしょぉ?」
「そうですね、ロード様」
ロードは笑いながらシャールの手を取ると、その場でクルクルと回り出した。
シャールの顔には笑顔が貼り付いている。
「タダでさえ愚かなのに、堕ちたものにまで命をかけるだなんてホントスゴイ!!」
「……」
「僕らにたてついたって勝てるわけ無いのに!終焉に向かう物語に抗う事なんて出来無いのにねぇ、シャール!」
「そうですね、ロード様…
「ッ、シャール…お前!!」
下唇を噛み締めたアレンは、そう声を荒げた。
シャールがロードに見えない様に僕を睨み付けていたが、そんなものはどうでも良かった。
「僕達を騙したのか?!」
シャールの発した言葉が信じられなかった。
味方じゃ無かった…シャールが味方じゃ無かった。シャールが味方じゃ無いならレイも…レイも……
──アレン…
頭に響くレイの声が相変わらず優しくて頭にきた。
敵なのに何故エクソシストになった。何で優しくした。
──アレン…
何で…皆を騙した。皆を…家族を……何で…何で…何で何で何でナンデ!!
──アレン…
「………レイ…」
でもレイは真剣だった…そう見えた。
アクマを助ける事に…
人間を助ける事に…
僕達は…騙されてたの…?
──アレン…教団の皆は私のもう一つの家族なの…
レイ…僕は君を信じて良いのか…?
だっていつだって君は──…‥
「レイを迎えに行かなきゃねぇ、傘ぁ」
「ッ…そんな事させるか!!レイは大事な仲間だ…家族だ!お前等なんかの所に帰さない!!」
そうだ…あんなに教団の皆の事を思ってる子が…レイが僕等を裏切るわけが無い。それなのに少しでも疑って勝手に幻滅して……馬鹿みたいだ。
アレンが声を上げた瞬間、ロードはニヤリと口角を上げて楽しそうに笑った。
「やっぱり!レイはお前等の所にいるんだぁ♪」
やっぱり…?
「………ッ…嵌めたな」
「引っ掛かる方が悪いんだよぉ…と言うか何もしてないし。僕はさ、唯聞いただけだよぉ…アレンが勝手に疑って混乱して吐いただけぇ♪」
「馬鹿レロ」
レイが教団にいる事にロード達は気付いてなかったんだ。気付いていても確信が無かったんだ。僕が渡さないだなんて言うまでは……だから自分やレイを疑い出した僕をシャールは睨んでたんだ。
僕が確証を与えてしまった…
「アーレーン〜良いのかなぁ、あっちの女の方は」
そう言われて慌ててミランダさんの方を向くと、残ったアクマがミランダさんに向かっていた。慌てて左腕を発動させるが、どう考えても間に合わ無い。
「ミラ…」
瞬間、何かがアレンの横を過ぎ去り、アクマとミランダの間へ爆煙を上げた。
アクマの動きが止まり、透かさずリナリーが止めをさす。
「シャールぅ、攻撃出来無いんじゃなかったのぉ?」
そう言われたシャールの表情は、笑顔を失って面倒臭そうに歪んでいる。大砲の用に変形した両腕の筒の先からは細く煙が出ていた。
「シャール、それは」
「アクマは攻撃して良いとレイに言われてますから」
ロードを振り返ったシャールは、アレンの声を遮ってロードの質問にそう無表情で答えた。
「レイがエクソシスト側にねぇ…」
そう呟いて傘を片手に歩き出したロードは、アレンの横を通り過ぎながら話し続けた。
「シャールを壊したらレイが怒りそうだし…今回はここまでで良いや。思った以上に楽しかったし」
地響きと共にロードの少し前に地から一枚の扉が姿を現した。
「じゃねェ~」
傘を片手に手を振って帰ろうとするロードの頭にアレンが発動した左手の銃を当てるが、ロードの表情は変わらない。
「優しいなぁ、アレンはぁ」
頬を伝う涙が何故か痛い。
ロードを見ていなくてはいけないのに目を閉じたくなる。
先程のアクマのダークマターが頭から離れ無い…悲痛な叫びが耳から離れ無い。
「僕が憎いんだね…撃ちなよ…アレンのその手も兵器なんだからさぁ」
頭に突き付けられた銃を無視したロードは、扉に向かって歩きながら話し続けた。
「でもアクマが消えてエクソシストが泣いちゃダメっしょ~…そんなんじゃいつか孤立しちゃうよぉ?」
「ろーとタマ、レイタマはどーするレロ?」
「分かってるよ、傘ぁ~近いうちにレイを返してもらいに行くからねぇ…だからまた遊ぼぉ、アレン」
そう残してロードは扉の向こう側へと消え、アレンは震える左腕を下ろした。
「クソ…ッ」
無力な自分が酷く哀れで頭にきた。
何で自分はこんなにも無力なんだろう…そう考えていたら、世界が崩れ出した。
“こっちだ”と言うシャールに手を引かれ、気付いたら見覚えのある部屋の床に一人で倒れていた。
「ここは…ミランダさんのアパート…どうして」
先程までいたあの場所はどこだったんだろうか?
あれもロードの力なのだろうか…
「ッ…アレン君!アレン君、ミランダの様子が可笑しい!!」
辺りを見回したアレンは、直ぐにリナリー達の声のする部屋へ向かった。
着いた先…沢山の時計盤が浮いた部屋では、床にうずくまっているミランダをリナリーが支え、シャールがそれを傍観する様に見ていた。
「ヒー…ヒー…」
「ミランダさん……ッ」
か細く響くミランダの苦しそうな息遣いはミランダの状態を表していた。
「発動を止めて下さい!これ以上は貴女の体力が限界だ」
これ以上続けたらミランダさんは…
「ヒー…ヒー……ヒー…ダメよ…………停めようとしたら…」
ミランダが力を弱めると、周りに浮かんでいた時計盤がアレン達に吸い寄せられるように近付く。
「吸い出した時間も元に戻るみたいなの…また…あのキズを負ってしまうわ」
ボロボロとミランダから大粒の涙が溢れた。それは、酷く優しい涙だった。
「嫌よぉ…初めてありがとうって言ってもらえたのに……これじゃ意味無いじゃない」
ミランダがそう口にした瞬間、ヒールの音と共に部屋に姿を現したのはレイだった。
「「「レイ!!」」」
レイはミランダに歩み寄ると、目の前に片膝を付いてしゃがみ込んだ。直ぐにシャールがレイに後ろから抱き付く。
『ミランダ・ロットー…イノセンスの発動を止めなさい』
レイはシャールに抱き付つかれたままミランダに向かって優しく微笑んだ。
『貴女は良く頑張ったじゃない…ここからはアレンとリナリーが頑張る番だよ』
「そうですよ、ミランダさん!貴女がいたから今、僕らはここにいられる…それだけで十分ですよ」
アレン微笑むと、そっとミランダに手を差し出した。
「自分の傷は自分で負います。生きてれば傷は癒えますから」
リナリーも微笑み、レイはアレンの頭を優しく撫でた。
『アレンってば良い事言う~』
「アハハ…あ…すみません、レイ…僕……」
『ロードに私の居場所がバレたんでしょ?』
「はい………って、え?」
レイはアレンの頭撫でるのを止めるとニッコリと微笑んだ。
『予想してたよ』
「すみません……僕……一度、レイを疑ってしまいました…裏切ってるかと」
「サイッテー」
「ゔ…済みません」
『シャール』
「はーい」
『…大丈夫だよ、アレン』
「ぇ…」
『今、私の友達が手を打ちに行ってるし、それに私はアレンを信じてるもん』
レイはアレンの頭を一撫ですると影に手を突っ込んでヴァイオリンを取り出した。
そしてミランダと向き合う。
『大丈夫。私もフォローするから』
「ぇ…」
『さぁ、ミランダ…発動を止めなさい』
ゴ───ン…
懐かしい古時計の音色が聞こえた様な気がした──…‥
ポツポツと立てられた街灯の灯が浮かび上がる石畳の道。
着物に身を包んだ月は、ずれ落ちた羽織りをそっと直しながら漆黒の…空とも天井とも分からぬ天を仰いだ。
暫くすると、暗い道を一人の褐色の肌の少女と傘がやって来た。待ち人だ。
「誰ぇ~?ここは僕らしか入れないんだけどぉ」
ロードは月の前まで来るとピタリと足を止めた。
『こんばんは、ロード・キャメロット…それにレロ』
「何で名前知ってんのぉ?」
『さぁ?』
月は微笑みながら首を傾げてみせた。
「……まぁ、お姉さん綺麗だから良いやぁ」
「駄目レロ、ろーとタマ!!知らない人を勝手に入れちゃ駄目レロ!」
「勝手に入って来たんだよぉ」
確かにロードは何もして無い。私が勝手に入って来たのだから…
二人のやり取りを見て小さく笑った月が呟くと同時に、傍らに和服の小人が現れ、ロードは楽しそうに小人を覗き込んだ。
「スゴぉイ~なにこれ」
『記憶の一部、頂戴する』
月が微笑むと小人の持っていた大きな鈴が光を放ち、ロードとレロその場に崩れる様に倒れた。
『御疲れ様。条件保管しておいてくれるかしら?』
「御意」
小人はそう短く返事をすると消え去った。
『私もそろそろ帰るか…』
月は肩に掛けてあった羽織をロードにそっと掛けると、ロードの頭を優しく撫で…消え去った。
もう暫くは…
変わらぬ日々を進むと良い──…