第1章 ノアの少女
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13
『あらあら、面白い事になってるわね』
ホントにもー…私の勘ってこういう時ばっかり当たる。
良いんだか悪いんだからよく分からないけど。
『どういう手で行こうか…』
『あら…シンプルに一番、二番、三番手で良いんじゃない』
それぞれを指差して楽しそうに笑う月に、レイは困った溜め息を吐いた。
『あんまり危険な事はしたくないなぁ』
月を人に見せる事は今は極力したくない。
したとしても本当に何も関係無い…聖戦の部外者相手にだ。
『私はもしもの場合の調節係さ』
『調節?』
『あぁ、ちょっと弄るのさ』
そう言った月の動きを見て、レイは“あぁ”と声を洩らした。
『なるほどね』
=ノアノア=
意味が分からない。
イノセンスの効果だろうか?
知らぬ間にどう見ても異空間であろう場所に居た事にも驚いたし、これまた知らぬ間に発動した左腕が壁に打ち付けられている事にも勿論驚いた。
黒いフリフリの服に着せ替えられて仮死状態で椅子に座るリナリーにも、杭で手を柱時計に打ち付けられているミランダさんにも驚いた。
しかし一番驚いたのは…
一番意味が分からなかったのは…
僕の団服を羽織った、どう見ても人間の子供に見える少女が…
まるで一国の女王の様に堂々と、喋って飛ぶ不思議な傘に腰掛けてアクマ達と楽しそうに話している事だ。
彼女もアクマかと思ったが、アクマの魂は見え無い。
彼女は、人間なのだ。
「人間がアクマと仲良しじゃいけないのぉ?」
「アクマは伯爵が人間を殺す為に造った兵器だ…人間を狙ってるんだよ?」
それなのに君は、アクマと一緒にいる君は…
一体何なんだ。
「何言ってんの?兵器ってのはさ、人間が人間を殺す為にあるものでしょ」
少女…ロードは馬鹿にした様にケラケラと笑うと、傘から飛び降りた。
「千年公は僕の兄弟…僕達は選ばれた人間なんだよ」
ロードの肌が褐色に染まり、額に十字架の痕が浮かび上がる…アレンはその光景に唯、目を見開いた。
人間の見た目だけど人間では無いもの。実際に見た事は無かったけど、まさかコレが…
「ノア…?」
「そう、ノアだ。ねぇ、エクソシスト…お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ」
偽りの神…?エクソシストが偽りの神に選ばれた存在?
「僕達こそ神に選ばれた本当の使徒なのさ。僕達“ノアの一族”がね」
全身の力が一気に抜けたのが良く分かった。
「ノアの…」
────アレン君、レイの事は絶対に…絶対に誰にも言っては駄目…秘密よ。
「……一族」
────レイは家族であると同時に、最後の切り札なの……
「人間…」
──アレン…
「ろ-とタマ、シ〜!!知らない人にウチの事喋っちゃ駄目レロ!」
「え~、何でぇ?」
喋る傘の説教にロードはそう不満そうに声を洩らした。
──アレン…
「駄目なものは駄目レロ!!大体、今回コイツ等とろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオには無いんレロロ!!レロを勝手に持ち出した上にこれ以上勝手な事すると伯爵タマにお尻ペンペンされるレロ!!!」
「それは傘だけでしょ。僕にはそんな事しないもん」
──アレン…
「物語を面白くする為のちょっとした脚色だよぉ。こんくらいで千年公のシナリオは変わんないってぇ」
物語だの脚色だのシナリオだの…言い方が頭にきて思わず杭で壁に打ち付けられていた左腕を無理矢理外した。全てが千年伯爵の承知の上だとしたら…命を懸けて掌の上で転がされているという事だ。多くの命が失われたのに。
大きな音を立てて外れた腕は肉が裂けて“ブシュウウウウウ”という音を立てる。イノセンスを解放した腕だからこれで済んだ。しかし見た目にも酷いし、当たり前だがイノセンスを宿した腕と言えど痛いのに変わりは無い。
「何で怒ってんのぉ?」
首を傾げたロードは、アレンに歩み寄ると目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。
「僕が人間なのが信じらんない?」
ふとロードに抱き締められた。人間らしい温もりがちゃんとあり、鼓動の音もちゃんと聞こえる。
この子は人間なのに…人間じゃない。
──アレン‥
「あったかいでしょ?人間と人間が触れ合う感触でしょぉ?」
「……ッ」
アレンは対アクマ武器である左腕を自分に抱き付くロードの頭に翳した。
敵ならば破壊しなければならない。今は格好のチャンスだ。
「同じ人間なのにどうして…」
でも傷だらけの左腕が痛む。
傷付いていない筈の心臓が痛む…
──アレン…
「同じ?それ、ちょっと違うよぉ」
ロードは自らアレンの左腕を掴むと、己の頭に対アクマ武器であるアレンの左腕を当てた。
“バンッ”と音を立ててロードの頭部の皮膚が吹き飛び、焼死体の様に焼け焦げる。皮膚が焼けた臭いが鼻についた。
「ッ…」
驚いて身体を引くアレンの胸ぐらを…変わり果てた姿のロードが掴んで、グッと引き寄せた。
皮膚の無い肉の顔がニヤリと笑う。
「僕等はさぁ…人類最古の使徒、ノアの遺伝子を受け継ぐ“超人”なんだよねぇ」
どう見ても生きていける様な状態じゃ無いのに動く姿も、徐々に回復して元の姿に戻っていく姿も…どう考えても僕等の常識では異常だし、人間じゃ無いと思った。
ノアの遺伝子…超人……
「お前らヘボとは違うんだよ」
半分近く回復したロードは、ニヤリと笑うと落ちていた杭でアレンの左腕目を突き刺した。
鈍い音が耳に届くと共に感じた事の無い耐え難い激痛が走る。
自分の悲鳴の様な叫び声と、ロードの楽しそうな笑い声が響く中、苦痛に表情を歪めたアレンは、杭を引き抜いて左目を押さえた。
震えながら黙って事の成行きを見ていたミランダは小さな悲鳴を上げるとギュッと目を閉じる。
──アレン…
痛みに震えるアレンを前に、完全に元の姿に戻ったロードは詰まらなそうに溜め息を吐いた。
「僕はヘボい人間を殺す事なんて何とも思わ無いよ、意味無いもん。それにヘボヘボだらけの此の世界なんて大ッ嫌い……お前らなんて…皆死んじまえば良いんだ」
──アレン…
「神だってさ、此の世界の終焉を望んでるんだ。だから僕等にアクマを与えてくれたんだしぃ」
ロードは羽織ったアレンの団服の袖を噛みながら口角を上げて笑った。
「そんなの神じゃない…」
──アレン…
「そんなのは神じゃなくて、本当の悪魔だ!!!」
──アレン…救って上げて…
「あのさぁ…どっちでも良いよぉ、んなモンさぁ」
アレンは立ち上がると、痛む目と腕に表情を歪めながらも、全力でロードに向かって走り出した。
ねぇ、レイ…これがレイの仲間なの?レイの家族なの?
レイも…
同ジモノナノ?
「僕は殺せないよぉ?」
そう言うロードとの間にアクマ達が立ちはだかり、アレンは繰り出される攻撃を避けたり凪払ったりするが、半分の視界と痛めた腕では限界というものがあった。
アクマ攻撃により壁際まで吹き飛ばされたアレンは、壁に背を打ち付けて床へ崩れた。
「アレン君!」
「ミラン、ダさ…ん…」
「その体でアクマ三体はキツイかぁ」
そう言ったロードがチラリとミランダを見ると、ミランダは恐怖で小刻に震え出した。
「ッ…い……嫌…助け、て」
ロードは口角を上げて笑うと、無数の蝋燭が浮かぶ天井に向かって腕を上げ、天を指差した。
「お前もそろそろ解放してやるよぉ」
ロードがミランダを指差すと、鋭く尖った先端をミランダを向けて蝋燭が放たれた。
──アレン、アレン……アレン、頑張って…
レイ…
アレンはミランダの前へと飛び出すと、左腕と身体をはってミランダを庇った。
蝋燭とは思えない地響きの様な音が頭に響く……が…
「……痛く…無い」
いつまで待っても痛みがこない事を不思議に思ったアレンは、伏せていた顔を上げた。目の前にはアレンとミランダを庇う様に一人の少女が立ちはだかっている。
ツインテールにメイド服、妙に頼もしいその姿は…
「シャール…?」
レイと別れた後に本部で出会った、レイのアクマだった。
「弱いね、アレン・ウォーカー」
軽く振り向いたシャールは、アレンを一瞥するとそう呟いた。
そしてロードの方へ向き直ると綺麗に一礼する。
「お久しぶりです、ロード様」
ロードはシャールに向かって無邪気に手を振った。
「シャールじゃん、久しぶりぃ~♪どぉ?レイは見付かったぁ?」
「はい、お陰様で」
幸せそうに微笑んだシャールを見たロードは目を輝かせた。
「へぇ~ドコにいるのぉ!て言うか報告は?!千年公に怒られるよ~?僕等も捜してるんだけど、全然見付からなくてさぁ」
「済みません、ロード様。命令でボクの口からは言えないんです」
「え〜、まぁレイ命令なら仕方な」
「人間に何ができんだよ!!」
シャールと話していた僕の声を遮って響いたアクマの罵声。それと同時に女の柱時計が光り始めた。
何なんだよぉ全く。折角レイに近付けそうなのにぃ…
……レイに会いたいなぁ。
「ろーとタマ!!」
レロの声に反応して、攻撃を仕掛けてきたアレンの手を避ける。しかしお目当は僕では無かった様で、折角可愛くしたリナリーとかいう子を取り返されてしまった。せっかく良いお人形を手に入れたのに…
空中で体勢を立て直してレロの上に着地すると、リナリーを掴んだアレンの手が吸い込ませれた光の中心を真っ直ぐ見る。
気のせいかな、今…
「あいつの手…ケガが治ってた」
喋ってる間に何が……もしかしてあの女、適合者か?
「ろーとタマ」
新しいエクソシストを見逃すわけにはいかない。何も知らない内に仕留めてイノセンスを破壊するのが最良だ。
「……いや、違うかぁ」
それよりも大事な事がある。
エクソシストなんかいつでも殺せる。それよりも…
「シャール」
今は確かめる事がある。
適合者かどうかなんて、どうでも良い事は後回しだ。
「何ですか、ロード様?」
「皆、殺しちゃってよぉ~♪シャールなら簡単でしょぉ?」
「…済みません、ロード様。ボク、レイがいないと攻撃出来無い事になってるんです」
「つまんないのぉ」
怪しい…さっきから何か隠してんなぁ。
大きな音と共に突風が吹き、アレン達に顔を向けると、丁度カボチャのアクマがアレンに壊 られた所だった。
「へぇ〜…」
リナリーもすっかり正気を取り戻して元気になっている。少しは楽しめそうだ。
「勝負だロード!」
戦闘態勢をとって自分を見据えるアレンとリナリーを見たロードは、ニヤリと口角を上げて笑った。
「レロロ…あいつ等どうしてピンピンしてるレロ!?」
あぁ、遊んでないでとっとと殺しときゃぁ良かった。
「どうせミランダって奴が適合者だったんでしょ。どうやったかは知んないけど…あの女あいつ等を元気にしちゃったみたい」
アレンとリナリーが話をしている。
僕がアクマか人間か。そんなどうでも良い話。
「A、LL、E‥N」
立ち上がったロードは、指で宙に“ALLEN”と書いた。
「アレン・ウォーカー“アクマの魂が見える奴”」
今日の本命はコイツだったけど、もっと大物が釣れそうだ。
「実は僕、お前の事千年公から聞いてちょっと知ってるんだぁ」
興味をそそられて会いに来るの我慢するのが大変だったよ。
「お前アクマの魂を救う為にエクソシストやってんでしょぉ?大好きな親に呪われちゃったから…だから僕、ちょっかい出すならお前って決めてたんだぁ♪」
ロードは嬉しそうにニッコリ微笑むと、側にいたアクマを指差した。
「おい、オマエ」
「ハイ!」
「自爆しろ」
今何て言った…自爆?
「傘ぁ、十秒前カウントぉ」
「じゅ、十レロ」
ロードが足場の傘をつっ突き傘は慌ててカウントダウンを始めた。
「九レロ」
「ロード様、お遊びで自爆は…」
シャールが止めるが、ロードはそれを無視して傘に腰掛けた。
「八レロ」
「ロ…ロード様、そんな」
指名されたアクマが流石に焦りだし、何とかしようと口を開く。
「七レロ」
「や、やっとここまで進化したのに」
「六レロ……五レロ!」
ロードはアクマの叫びにも無視を続ける。
「…ッ、ロード様」
「おい!!」
アレンは思わずそう声を上げた。
自爆をさせる意味が全く意味が分からない。
「一体何をし」
「シャール、教えてあげなよぉ」
ロードはアレンの言葉を遮ってそうシャールに話し掛けた。瞬間、シャールは嫌そうに眉を寄せたが、ゆっくりと話し出した。
「…イノセンス以外に破壊されたアクマは」
「三レロ」
「ダークマターごと消滅する」
ダークマターの消滅…それは完璧な消滅。
「そしたらさ、救済できないね」
楽しそうにそう言うロードの声が異様に頭に響いた。
「二レロ」
アレンがアクマに向かって駆け出した。腕や目の痛み何か関係無い。
「駄目、間に合わないわ!」
爆発する前に破壊を…!!
──救って上げて…
レイ‥僕が…
僕が助けなくちゃ…僕が…‥
「一レロ」
「ウギャアァアァアアァァァ!!!!!!」
僕が、救わなきゃ──…
『あらあら、面白い事になってるわね』
ホントにもー…私の勘ってこういう時ばっかり当たる。
良いんだか悪いんだからよく分からないけど。
『どういう手で行こうか…』
『あら…シンプルに一番、二番、三番手で良いんじゃない』
それぞれを指差して楽しそうに笑う月に、レイは困った溜め息を吐いた。
『あんまり危険な事はしたくないなぁ』
月を人に見せる事は今は極力したくない。
したとしても本当に何も関係無い…聖戦の部外者相手にだ。
『私はもしもの場合の調節係さ』
『調節?』
『あぁ、ちょっと弄るのさ』
そう言った月の動きを見て、レイは“あぁ”と声を洩らした。
『なるほどね』
=ノアノア=
意味が分からない。
イノセンスの効果だろうか?
知らぬ間にどう見ても異空間であろう場所に居た事にも驚いたし、これまた知らぬ間に発動した左腕が壁に打ち付けられている事にも勿論驚いた。
黒いフリフリの服に着せ替えられて仮死状態で椅子に座るリナリーにも、杭で手を柱時計に打ち付けられているミランダさんにも驚いた。
しかし一番驚いたのは…
一番意味が分からなかったのは…
僕の団服を羽織った、どう見ても人間の子供に見える少女が…
まるで一国の女王の様に堂々と、喋って飛ぶ不思議な傘に腰掛けてアクマ達と楽しそうに話している事だ。
彼女もアクマかと思ったが、アクマの魂は見え無い。
彼女は、人間なのだ。
「人間がアクマと仲良しじゃいけないのぉ?」
「アクマは伯爵が人間を殺す為に造った兵器だ…人間を狙ってるんだよ?」
それなのに君は、アクマと一緒にいる君は…
一体何なんだ。
「何言ってんの?兵器ってのはさ、人間が人間を殺す為にあるものでしょ」
少女…ロードは馬鹿にした様にケラケラと笑うと、傘から飛び降りた。
「千年公は僕の兄弟…僕達は選ばれた人間なんだよ」
ロードの肌が褐色に染まり、額に十字架の痕が浮かび上がる…アレンはその光景に唯、目を見開いた。
人間の見た目だけど人間では無いもの。実際に見た事は無かったけど、まさかコレが…
「ノア…?」
「そう、ノアだ。ねぇ、エクソシスト…お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ」
偽りの神…?エクソシストが偽りの神に選ばれた存在?
「僕達こそ神に選ばれた本当の使徒なのさ。僕達“ノアの一族”がね」
全身の力が一気に抜けたのが良く分かった。
「ノアの…」
────アレン君、レイの事は絶対に…絶対に誰にも言っては駄目…秘密よ。
「……一族」
────レイは家族であると同時に、最後の切り札なの……
「人間…」
──アレン…
「ろ-とタマ、シ〜!!知らない人にウチの事喋っちゃ駄目レロ!」
「え~、何でぇ?」
喋る傘の説教にロードはそう不満そうに声を洩らした。
──アレン…
「駄目なものは駄目レロ!!大体、今回コイツ等とろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオには無いんレロロ!!レロを勝手に持ち出した上にこれ以上勝手な事すると伯爵タマにお尻ペンペンされるレロ!!!」
「それは傘だけでしょ。僕にはそんな事しないもん」
──アレン…
「物語を面白くする為のちょっとした脚色だよぉ。こんくらいで千年公のシナリオは変わんないってぇ」
物語だの脚色だのシナリオだの…言い方が頭にきて思わず杭で壁に打ち付けられていた左腕を無理矢理外した。全てが千年伯爵の承知の上だとしたら…命を懸けて掌の上で転がされているという事だ。多くの命が失われたのに。
大きな音を立てて外れた腕は肉が裂けて“ブシュウウウウウ”という音を立てる。イノセンスを解放した腕だからこれで済んだ。しかし見た目にも酷いし、当たり前だがイノセンスを宿した腕と言えど痛いのに変わりは無い。
「何で怒ってんのぉ?」
首を傾げたロードは、アレンに歩み寄ると目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。
「僕が人間なのが信じらんない?」
ふとロードに抱き締められた。人間らしい温もりがちゃんとあり、鼓動の音もちゃんと聞こえる。
この子は人間なのに…人間じゃない。
──アレン‥
「あったかいでしょ?人間と人間が触れ合う感触でしょぉ?」
「……ッ」
アレンは対アクマ武器である左腕を自分に抱き付くロードの頭に翳した。
敵ならば破壊しなければならない。今は格好のチャンスだ。
「同じ人間なのにどうして…」
でも傷だらけの左腕が痛む。
傷付いていない筈の心臓が痛む…
──アレン…
「同じ?それ、ちょっと違うよぉ」
ロードは自らアレンの左腕を掴むと、己の頭に対アクマ武器であるアレンの左腕を当てた。
“バンッ”と音を立ててロードの頭部の皮膚が吹き飛び、焼死体の様に焼け焦げる。皮膚が焼けた臭いが鼻についた。
「ッ…」
驚いて身体を引くアレンの胸ぐらを…変わり果てた姿のロードが掴んで、グッと引き寄せた。
皮膚の無い肉の顔がニヤリと笑う。
「僕等はさぁ…人類最古の使徒、ノアの遺伝子を受け継ぐ“超人”なんだよねぇ」
どう見ても生きていける様な状態じゃ無いのに動く姿も、徐々に回復して元の姿に戻っていく姿も…どう考えても僕等の常識では異常だし、人間じゃ無いと思った。
ノアの遺伝子…超人……
「お前らヘボとは違うんだよ」
半分近く回復したロードは、ニヤリと笑うと落ちていた杭でアレンの左腕目を突き刺した。
鈍い音が耳に届くと共に感じた事の無い耐え難い激痛が走る。
自分の悲鳴の様な叫び声と、ロードの楽しそうな笑い声が響く中、苦痛に表情を歪めたアレンは、杭を引き抜いて左目を押さえた。
震えながら黙って事の成行きを見ていたミランダは小さな悲鳴を上げるとギュッと目を閉じる。
──アレン…
痛みに震えるアレンを前に、完全に元の姿に戻ったロードは詰まらなそうに溜め息を吐いた。
「僕はヘボい人間を殺す事なんて何とも思わ無いよ、意味無いもん。それにヘボヘボだらけの此の世界なんて大ッ嫌い……お前らなんて…皆死んじまえば良いんだ」
──アレン…
「神だってさ、此の世界の終焉を望んでるんだ。だから僕等にアクマを与えてくれたんだしぃ」
ロードは羽織ったアレンの団服の袖を噛みながら口角を上げて笑った。
「そんなの神じゃない…」
──アレン…
「そんなのは神じゃなくて、本当の悪魔だ!!!」
──アレン…救って上げて…
「あのさぁ…どっちでも良いよぉ、んなモンさぁ」
アレンは立ち上がると、痛む目と腕に表情を歪めながらも、全力でロードに向かって走り出した。
ねぇ、レイ…これがレイの仲間なの?レイの家族なの?
レイも…
同ジモノナノ?
「僕は殺せないよぉ?」
そう言うロードとの間にアクマ達が立ちはだかり、アレンは繰り出される攻撃を避けたり凪払ったりするが、半分の視界と痛めた腕では限界というものがあった。
アクマ攻撃により壁際まで吹き飛ばされたアレンは、壁に背を打ち付けて床へ崩れた。
「アレン君!」
「ミラン、ダさ…ん…」
「その体でアクマ三体はキツイかぁ」
そう言ったロードがチラリとミランダを見ると、ミランダは恐怖で小刻に震え出した。
「ッ…い……嫌…助け、て」
ロードは口角を上げて笑うと、無数の蝋燭が浮かぶ天井に向かって腕を上げ、天を指差した。
「お前もそろそろ解放してやるよぉ」
ロードがミランダを指差すと、鋭く尖った先端をミランダを向けて蝋燭が放たれた。
──アレン、アレン……アレン、頑張って…
レイ…
アレンはミランダの前へと飛び出すと、左腕と身体をはってミランダを庇った。
蝋燭とは思えない地響きの様な音が頭に響く……が…
「……痛く…無い」
いつまで待っても痛みがこない事を不思議に思ったアレンは、伏せていた顔を上げた。目の前にはアレンとミランダを庇う様に一人の少女が立ちはだかっている。
ツインテールにメイド服、妙に頼もしいその姿は…
「シャール…?」
レイと別れた後に本部で出会った、レイのアクマだった。
「弱いね、アレン・ウォーカー」
軽く振り向いたシャールは、アレンを一瞥するとそう呟いた。
そしてロードの方へ向き直ると綺麗に一礼する。
「お久しぶりです、ロード様」
ロードはシャールに向かって無邪気に手を振った。
「シャールじゃん、久しぶりぃ~♪どぉ?レイは見付かったぁ?」
「はい、お陰様で」
幸せそうに微笑んだシャールを見たロードは目を輝かせた。
「へぇ~ドコにいるのぉ!て言うか報告は?!千年公に怒られるよ~?僕等も捜してるんだけど、全然見付からなくてさぁ」
「済みません、ロード様。命令でボクの口からは言えないんです」
「え〜、まぁレイ命令なら仕方な」
「人間に何ができんだよ!!」
シャールと話していた僕の声を遮って響いたアクマの罵声。それと同時に女の柱時計が光り始めた。
何なんだよぉ全く。折角レイに近付けそうなのにぃ…
……レイに会いたいなぁ。
「ろーとタマ!!」
レロの声に反応して、攻撃を仕掛けてきたアレンの手を避ける。しかしお目当は僕では無かった様で、折角可愛くしたリナリーとかいう子を取り返されてしまった。せっかく良いお人形を手に入れたのに…
空中で体勢を立て直してレロの上に着地すると、リナリーを掴んだアレンの手が吸い込ませれた光の中心を真っ直ぐ見る。
気のせいかな、今…
「あいつの手…ケガが治ってた」
喋ってる間に何が……もしかしてあの女、適合者か?
「ろーとタマ」
新しいエクソシストを見逃すわけにはいかない。何も知らない内に仕留めてイノセンスを破壊するのが最良だ。
「……いや、違うかぁ」
それよりも大事な事がある。
エクソシストなんかいつでも殺せる。それよりも…
「シャール」
今は確かめる事がある。
適合者かどうかなんて、どうでも良い事は後回しだ。
「何ですか、ロード様?」
「皆、殺しちゃってよぉ~♪シャールなら簡単でしょぉ?」
「…済みません、ロード様。ボク、レイがいないと攻撃出来無い事になってるんです」
「つまんないのぉ」
怪しい…さっきから何か隠してんなぁ。
大きな音と共に突風が吹き、アレン達に顔を向けると、丁度カボチャのアクマがアレンに
「へぇ〜…」
リナリーもすっかり正気を取り戻して元気になっている。少しは楽しめそうだ。
「勝負だロード!」
戦闘態勢をとって自分を見据えるアレンとリナリーを見たロードは、ニヤリと口角を上げて笑った。
「レロロ…あいつ等どうしてピンピンしてるレロ!?」
あぁ、遊んでないでとっとと殺しときゃぁ良かった。
「どうせミランダって奴が適合者だったんでしょ。どうやったかは知んないけど…あの女あいつ等を元気にしちゃったみたい」
アレンとリナリーが話をしている。
僕がアクマか人間か。そんなどうでも良い話。
「A、LL、E‥N」
立ち上がったロードは、指で宙に“ALLEN”と書いた。
「アレン・ウォーカー“アクマの魂が見える奴”」
今日の本命はコイツだったけど、もっと大物が釣れそうだ。
「実は僕、お前の事千年公から聞いてちょっと知ってるんだぁ」
興味をそそられて会いに来るの我慢するのが大変だったよ。
「お前アクマの魂を救う為にエクソシストやってんでしょぉ?大好きな親に呪われちゃったから…だから僕、ちょっかい出すならお前って決めてたんだぁ♪」
ロードは嬉しそうにニッコリ微笑むと、側にいたアクマを指差した。
「おい、オマエ」
「ハイ!」
「自爆しろ」
今何て言った…自爆?
「傘ぁ、十秒前カウントぉ」
「じゅ、十レロ」
ロードが足場の傘をつっ突き傘は慌ててカウントダウンを始めた。
「九レロ」
「ロード様、お遊びで自爆は…」
シャールが止めるが、ロードはそれを無視して傘に腰掛けた。
「八レロ」
「ロ…ロード様、そんな」
指名されたアクマが流石に焦りだし、何とかしようと口を開く。
「七レロ」
「や、やっとここまで進化したのに」
「六レロ……五レロ!」
ロードはアクマの叫びにも無視を続ける。
「…ッ、ロード様」
「おい!!」
アレンは思わずそう声を上げた。
自爆をさせる意味が全く意味が分からない。
「一体何をし」
「シャール、教えてあげなよぉ」
ロードはアレンの言葉を遮ってそうシャールに話し掛けた。瞬間、シャールは嫌そうに眉を寄せたが、ゆっくりと話し出した。
「…イノセンス以外に破壊されたアクマは」
「三レロ」
「ダークマターごと消滅する」
ダークマターの消滅…それは完璧な消滅。
「そしたらさ、救済できないね」
楽しそうにそう言うロードの声が異様に頭に響いた。
「二レロ」
アレンがアクマに向かって駆け出した。腕や目の痛み何か関係無い。
「駄目、間に合わないわ!」
爆発する前に破壊を…!!
──救って上げて…
レイ‥僕が…
僕が助けなくちゃ…僕が…‥
「一レロ」
「ウギャアァアァアアァァァ!!!!!!」
僕が、救わなきゃ──…