第6章 EGOIST
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方舟は消滅。
均衡を失った世界は終焉を迎えた──…
と、言ってもそれは裏歴史の終焉だ。
元々何も知らない…アクマという存在にさえ気付いていない者達は、聖戦という名の裏歴史の年代記が終わった事にも勿論気付く事無く、日常を送っている。
そういう者達の変化と言えば、奇妙な事件が減った事や黒服の不思議な連中を見なくなった事くらいだった。
=方舟の瞳=
…五年後───…
「室長──!!!」
バーン!と大きな音を立てて扉を破る様に押し開けたリーバーは、室内にコムイを見付けると、キッと睨み付けた。
「リーバー班長うるさ~い。扉壊したら給料から差っ引くよ~?」
「やっぱりココにいやがった!サボってないで仕事して下さいよ!!」
「貴様、やはりサボっていたか」
「バク支部長も…ウォンさんが半泣きで捜してましたよ」
「ゔ…」
「コムイ、リーバーに迷惑をかけては駄目だよ。バクも…補佐官が可哀想だ」
「ヘブくんまで酷いなー」
そう言われて、部屋の中心のベッドに座っていた長い白髪の女性、この部屋の主であるヘブラスカはニコッと笑った。
「私は正しき者の味方だよ」
「うっへぇ、仕事嫌だなぁ」
「今や教団を導いているのはお前とルベリエだ。欲に目の眩んだ大元帥共は使い物にならん…無理は禁物だが、しっかりしておくれコムイ」
「……」
「イノセンスを失い、老い先短い私を心配して毎日部屋に来てくれるのは嬉しいが、いつ死ぬか分からない私に付き合う事等無いよ」
「そうはいかないよ。君はずっと昔から教団で頑張ってくれていた。一人になんかするものか」
ヘブラスカは嬉しそうに笑うと、ふう…と息を吐いた。
「リナリーにべったりで、私にまで構うとは…完璧に婚期を逃したな、コムイ」
「いや、ヘブラスカ…この人婚期どころかそういう相手いねぇし」
「コイツと付き合う物好き等いないだろ」
「君ら二人共、酷い事言ってる自覚ある?」
「何の話?」
「リ~ナリ~、お帰り~♡」
ティーセットの乗ったトレーを持ったリナリーが部屋に入って来ると、コムイは凄い勢いでリナリーに駆け寄った。
跳び付きそうな勢いのコムイを止めたのは、リナリーの背後から出て来てコムイの前に立ちはだかった二人の子供だった。
「危険だ」
「熱い物持ってるんだよ、抱き付いたら危ないでしょ!」
「と言うかアウトだ」
金髪と銀髪の二人の少年にそう言われ、コムイは大人しく元いた椅子へと腰掛けた。
「ありがとう…ユエ、シャール」
リナリーはベッド脇のテーブルにトレーを置くと、手慣れた手付きでお茶を淹れていく。
「あぁ、兄さんはコーヒーね」
「ありがとう、リナリー」
「で?何の話をしてたの?」
「室長が婚期逃した話」
「あぁ…うん、何かそれはもう仕方無いと思うの」
「する気無いよね」
「そもそも出来無いだろ」
「君等までそんな…と言うかリナリーまで…」
“ボクにはリナリーがいるもん!”と騒ぐコムイを見てクスクス笑っていたヘブラスカは、リナリーから受け取った紅茶を一口口にした。
「冗談はさておき…教団の事を話していたんだよ、リナリー」
聖戦を終えた黒の教団は、エクソシストを失くした事により行動を大きく制限されていた。
もう世界中を回って力を振るう事は出来無い。
そもそも振るう力が無いのだから。
エクソシスト達はもう、身体能力が少し優れているただの人間でしかないし、元々戦闘向きでは無いミランダ・ロットーや、イノセンスの力で強靭な肉体を得ていたアレイスター・クロウリーに関しては、最早一般人と変わりが無い。
「終戦前にアクマの被害を受けた物や人のアフターケアに徹してはいるけど…やっぱり予算がねぇ。前の様に資金があるわけじゃ無いし」
もう、アクマや伯爵を恐れて資金援助していた者達の援助は無い。
もうそういうモノに命を脅かされる心配が無いと分かって、出資者達が援助を断ってきたのだ。
自分を優先して護って貰おう何て甘い考えを元から持っていなかった残った出資者達は僅かだ。
「でも…私はそれでもいいと思う」
ベッドの端に腰掛けたリナリーの長い黒髪が揺れる。
「いいって言い方が変なのは分かってるけど…でもね、私達はあの日、方舟の中で死ぬ筈だった。方舟の消滅と一緒に世界から消える筈だった…マナ・ウォーカーと心中したレイがコントロール出来無くなった方舟と一緒に……コントロール出来ていたとしても私達装備型じゃないエクソシストは“リスト”に入っていたしね」
“だからね”と言ってリナリーは笑った。
「私は生きていられて幸せ」
「そうだな…リナリーの言う通りだ。資金や人手は足りなくとも、世界は少しだけ平和になり、私達は生きている。それだけで十分だな」
「そうだねぇ…本当ならヘブくん以外、ボクらはここに居られなかった筈なんだから」
「しかし、何でエクソシストの中でヘブラスカだけ方舟に呼ばれなかったんだろうな」
「あぁ、確かにそうっスね」
「勝手に死ぬと分かっていたんだろう」
「死ぬ?」
「あぁ。ノアが滅び、私以外のエクソシストという存在が消え去った世界で私は存在する意味が無い。寧ろ存在してはいけない…争いの元になるからね。レイは私が自殺すると分かっていたんだろう」
「まぁ、いいじゃないか!皆生きている、いい結果じゃないか」
「いい結果?どの口が言っている!」
「バクちゃ」
「アイリーンが犠牲になった世界だぞ!!!」
「……」
「落ち着かないか、バク」
「落ち付いていられるか!!」
「大丈夫だ」
「何がだいじょ」
「アイリーンは生きてる」
「……生きてる?」
「あぁ、生きてる」
「本当なの?!ボク達また月に会えるの?!」
「あぁ」
「どういう事だ、ヘブラスカ!!」
「先日、クロスが来たんだよ」
「クロス?」
「最後の瞬間、アイリーンは言ったそうだ“会いに行く”と」
「会いに…行く…」
「私は彼女の事は良く知らないが…嘘や叶いもしない事をいう方ではないのだろう?」
「生き…てる……」
ふっと力の抜けたバクの目からポロポロと涙が溢れ出した。
「バクちゃん、泣き虫~」
「黙れ、ウルサイわ!!」
バクがコムイに殴り掛かり、リーバーがそれを止める。
それを見ながら嬉しそうに笑って涙を流すリナリーの隣で、シャールは俯いた。
「何でなんだろうね」
「シャール」
「何でここにレイが居ないんだろ」
この五年…レイが見付かっていない。
人間の体へ生まれ変わったボクとユエも色々問題はあったけど、こうして皆と一緒に居られるのに…
肝心のレイが…見付からない。
「シャール…アクマは君達二人だけだが、団員、サポーター等、アイリーンが関わった者達がそれぞれ生き返っている」
「……」
「何か事情があるだけの筈だ…きっとそのうちひょっこり現れるさ」
コムイにそう言われ、リーバーの大きな手が頭をポンポンと撫でた。
「…………レイ…」
呼ばれた気がした。
懐かしい声…
花の香りと仄かに香る懐かしい匂い…
もう鐘の音はしない。
ずっと私を呼んでいた鐘の音は…
──レイ…
もう私を呼ぶ事は無い──…
方舟は消滅。
均衡を失った世界は終焉を迎えた──…
と、言ってもそれは裏歴史の終焉だ。
元々何も知らない…アクマという存在にさえ気付いていない者達は、聖戦という名の裏歴史の年代記が終わった事にも勿論気付く事無く、日常を送っている。
そういう者達の変化と言えば、奇妙な事件が減った事や黒服の不思議な連中を見なくなった事くらいだった。
=方舟の瞳=
…五年後───…
「室長──!!!」
バーン!と大きな音を立てて扉を破る様に押し開けたリーバーは、室内にコムイを見付けると、キッと睨み付けた。
「リーバー班長うるさ~い。扉壊したら給料から差っ引くよ~?」
「やっぱりココにいやがった!サボってないで仕事して下さいよ!!」
「貴様、やはりサボっていたか」
「バク支部長も…ウォンさんが半泣きで捜してましたよ」
「ゔ…」
「コムイ、リーバーに迷惑をかけては駄目だよ。バクも…補佐官が可哀想だ」
「ヘブくんまで酷いなー」
そう言われて、部屋の中心のベッドに座っていた長い白髪の女性、この部屋の主であるヘブラスカはニコッと笑った。
「私は正しき者の味方だよ」
「うっへぇ、仕事嫌だなぁ」
「今や教団を導いているのはお前とルベリエだ。欲に目の眩んだ大元帥共は使い物にならん…無理は禁物だが、しっかりしておくれコムイ」
「……」
「イノセンスを失い、老い先短い私を心配して毎日部屋に来てくれるのは嬉しいが、いつ死ぬか分からない私に付き合う事等無いよ」
「そうはいかないよ。君はずっと昔から教団で頑張ってくれていた。一人になんかするものか」
ヘブラスカは嬉しそうに笑うと、ふう…と息を吐いた。
「リナリーにべったりで、私にまで構うとは…完璧に婚期を逃したな、コムイ」
「いや、ヘブラスカ…この人婚期どころかそういう相手いねぇし」
「コイツと付き合う物好き等いないだろ」
「君ら二人共、酷い事言ってる自覚ある?」
「何の話?」
「リ~ナリ~、お帰り~♡」
ティーセットの乗ったトレーを持ったリナリーが部屋に入って来ると、コムイは凄い勢いでリナリーに駆け寄った。
跳び付きそうな勢いのコムイを止めたのは、リナリーの背後から出て来てコムイの前に立ちはだかった二人の子供だった。
「危険だ」
「熱い物持ってるんだよ、抱き付いたら危ないでしょ!」
「と言うかアウトだ」
金髪と銀髪の二人の少年にそう言われ、コムイは大人しく元いた椅子へと腰掛けた。
「ありがとう…ユエ、シャール」
リナリーはベッド脇のテーブルにトレーを置くと、手慣れた手付きでお茶を淹れていく。
「あぁ、兄さんはコーヒーね」
「ありがとう、リナリー」
「で?何の話をしてたの?」
「室長が婚期逃した話」
「あぁ…うん、何かそれはもう仕方無いと思うの」
「する気無いよね」
「そもそも出来無いだろ」
「君等までそんな…と言うかリナリーまで…」
“ボクにはリナリーがいるもん!”と騒ぐコムイを見てクスクス笑っていたヘブラスカは、リナリーから受け取った紅茶を一口口にした。
「冗談はさておき…教団の事を話していたんだよ、リナリー」
聖戦を終えた黒の教団は、エクソシストを失くした事により行動を大きく制限されていた。
もう世界中を回って力を振るう事は出来無い。
そもそも振るう力が無いのだから。
エクソシスト達はもう、身体能力が少し優れているただの人間でしかないし、元々戦闘向きでは無いミランダ・ロットーや、イノセンスの力で強靭な肉体を得ていたアレイスター・クロウリーに関しては、最早一般人と変わりが無い。
「終戦前にアクマの被害を受けた物や人のアフターケアに徹してはいるけど…やっぱり予算がねぇ。前の様に資金があるわけじゃ無いし」
もう、アクマや伯爵を恐れて資金援助していた者達の援助は無い。
もうそういうモノに命を脅かされる心配が無いと分かって、出資者達が援助を断ってきたのだ。
自分を優先して護って貰おう何て甘い考えを元から持っていなかった残った出資者達は僅かだ。
「でも…私はそれでもいいと思う」
ベッドの端に腰掛けたリナリーの長い黒髪が揺れる。
「いいって言い方が変なのは分かってるけど…でもね、私達はあの日、方舟の中で死ぬ筈だった。方舟の消滅と一緒に世界から消える筈だった…マナ・ウォーカーと心中したレイがコントロール出来無くなった方舟と一緒に……コントロール出来ていたとしても私達装備型じゃないエクソシストは“リスト”に入っていたしね」
“だからね”と言ってリナリーは笑った。
「私は生きていられて幸せ」
「そうだな…リナリーの言う通りだ。資金や人手は足りなくとも、世界は少しだけ平和になり、私達は生きている。それだけで十分だな」
「そうだねぇ…本当ならヘブくん以外、ボクらはここに居られなかった筈なんだから」
「しかし、何でエクソシストの中でヘブラスカだけ方舟に呼ばれなかったんだろうな」
「あぁ、確かにそうっスね」
「勝手に死ぬと分かっていたんだろう」
「死ぬ?」
「あぁ。ノアが滅び、私以外のエクソシストという存在が消え去った世界で私は存在する意味が無い。寧ろ存在してはいけない…争いの元になるからね。レイは私が自殺すると分かっていたんだろう」
「まぁ、いいじゃないか!皆生きている、いい結果じゃないか」
「いい結果?どの口が言っている!」
「バクちゃ」
「アイリーンが犠牲になった世界だぞ!!!」
「……」
「落ち着かないか、バク」
「落ち付いていられるか!!」
「大丈夫だ」
「何がだいじょ」
「アイリーンは生きてる」
「……生きてる?」
「あぁ、生きてる」
「本当なの?!ボク達また月に会えるの?!」
「あぁ」
「どういう事だ、ヘブラスカ!!」
「先日、クロスが来たんだよ」
「クロス?」
「最後の瞬間、アイリーンは言ったそうだ“会いに行く”と」
「会いに…行く…」
「私は彼女の事は良く知らないが…嘘や叶いもしない事をいう方ではないのだろう?」
「生き…てる……」
ふっと力の抜けたバクの目からポロポロと涙が溢れ出した。
「バクちゃん、泣き虫~」
「黙れ、ウルサイわ!!」
バクがコムイに殴り掛かり、リーバーがそれを止める。
それを見ながら嬉しそうに笑って涙を流すリナリーの隣で、シャールは俯いた。
「何でなんだろうね」
「シャール」
「何でここにレイが居ないんだろ」
この五年…レイが見付かっていない。
人間の体へ生まれ変わったボクとユエも色々問題はあったけど、こうして皆と一緒に居られるのに…
肝心のレイが…見付からない。
「シャール…アクマは君達二人だけだが、団員、サポーター等、アイリーンが関わった者達がそれぞれ生き返っている」
「……」
「何か事情があるだけの筈だ…きっとそのうちひょっこり現れるさ」
コムイにそう言われ、リーバーの大きな手が頭をポンポンと撫でた。
「…………レイ…」
呼ばれた気がした。
懐かしい声…
花の香りと仄かに香る懐かしい匂い…
もう鐘の音はしない。
ずっと私を呼んでいた鐘の音は…
──レイ…
もう私を呼ぶ事は無い──…