第6章 EGOIST
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『行って、クロス…貴方には未来が待ってる』
そう口にしたコイツは何を考えているんだろうか。
出会ってからずっと口説き続けていた女がその口で俺を好きだと言う。ずっとそういう意味で俺を受け入れなかった女が俺を好きだと…
甘く囁いて、その唇でキスを落とし、優しく突き放す。
それがどんなに酷い事だと、コイツは気付いているんだろうか。
『どんな形であれ、いつか会いに行くわ。貴方が私を私だと分からなかったとしても』
「一緒に戻る事も、俺を連れて行く事も…無理なんだな」
『…えぇ。一緒に居ては皆を助ける事は出来無いし、助ければ回復するまで私は私の居場所に戻らなければならない。
その場所に貴方は連れて行けない。それを決める事が出来るのは私では無いから』
いつだったか…
満月の夜に現れて、俺に忠告や警告の様な脅しを掛けて消えた長い蒼髪に蒼眼の男。
何となく…アイツが“決める事が出来るヤツ”な気がした。
何とも腹の立つ話だが。
「会いに来ると言ったな」
『…言ったわ』
「俺がお前をお前だと分からないかもしれないと言ったな」
『言ったわ』
「お前は俺の女だ。俺がお前に気付かない訳が無いだろ」
沈み行く身体をもう戻す事は出来無い。
這い上がる事も出来無いし、引っ張り上げてもらう事も…相手が俺を沈めている本人である女しかいないのだから無理だろう。
ぐっと腕を伸ばして長い銀髪に触れると唇を寄せる。
「絶対に分かる、気付いてやる。だから必ずに会いに来い…必ずだ」
ふわりと笑ったその顔が、一番好きだった。
泣いた顔も照れた顔も怒った顔も…何もかも好きだったが、心底嬉しそうに笑うその顔が…一番好きだった。
『行って』
「麗…」
『貴方が好きよ、クロス』
だから生きて──…
=家族の名前=
建物は吹き飛び、人は沈む。
全てが消えた白い世界に、麗は座り込んだ。
見渡す限りの白に、麗の肌の色とドレスの黒が色を落とす。
麗を中心に広がり青白く浮かび上がった魔法陣もまた、色を加えた。
「また人助けか」
聞き慣れた不機嫌そうな低い声。
耳に心地よいその声に、閉じていた目を開くと、案の定、そこには見知った人物が立っていた。
『イアン…世界が閉ざされて帰れなくなったから…見放されたと思ったわ』
「本当にそう思うか」
『冗談よ。貴方はそんな事は絶対にしない…何かトラブルでもあったんでしょう?』
“帰るぞ”と言って伸ばされたイアンの手を麗がとる事は無かった。
『…折角貰った世界を滅ぼしたく無いわ』
“御免なさい”と小さく口にした麗を見下ろして、イアンは不機嫌そうに口を開く。
「いつだってそうだ…」
『…何が?』
「いつだって傷付くのはお前じゃないか」
『……』
“いつだって、いつだって”と言うイアンが何を考えているかは直ぐに分かった。
私がしてきた…犯してきた数々の無茶を思い出しているのだろう。
『じゃあ、護って』
「護る…」
『イアンが私を護って。イアンの事は私が護るから』
「お前が俺を護るだなんてそんな」
『護るよ。だって、貴方も私の大事な家族だから』
「……家族?」
そう問い返されて、少し驚いた。
『口にした事、無かったっけ?』
そんな事無いと思っていた。長い時の中で、家族と言った事が無いだなんて…
イアンの前で口にしなかっただけの可能性もあるが…そういう問題でも無いとも思った。
『…貴方は皆にそっくりね…形を気にするなんて』
これだけ長い時を…好きじゃないのに一緒に居るわけ無いのに。
『私の全てを教えてあげる。私の魂を縛る事の出来る真名を…』
目を閉じて皆を呼ぶと、魔法陣に沿って十人の男女が現れた。
形を気にする彼の為に、証人として呼んだ私の家族だった。
『ずっと傍に居るわ。貴方が飽きるまで…私の全てを使って護るわ。だから私の事も護ってね、イアン』
「お前は…狡い…」
『うん…知ってる。だから御免ね、イアン…』
魔法陣が大きく広がって世界を染める。
力を解放するのはいつぶりだろうか?
どれだけ消費するか分からないが、レイの最後の願いの為に頑張ろう。
『私達の帰るべき場所に帰ろう』
我が儘を言って…本来の仕事はイアンに任せて、力が戻るまでの間、家族とゆっくりしよう。
きっと身体は動かないだろうけど、皆が居れば楽しいし、そんな時間を皆も喜んでくれる筈だ。
重力に逆らって舞い上がる長い銀髪。
魔法陣が爆発する様に輝いた次の瞬間…
『私の真名は…』
世界は真白に染まる──…
『行って、クロス…貴方には未来が待ってる』
そう口にしたコイツは何を考えているんだろうか。
出会ってからずっと口説き続けていた女がその口で俺を好きだと言う。ずっとそういう意味で俺を受け入れなかった女が俺を好きだと…
甘く囁いて、その唇でキスを落とし、優しく突き放す。
それがどんなに酷い事だと、コイツは気付いているんだろうか。
『どんな形であれ、いつか会いに行くわ。貴方が私を私だと分からなかったとしても』
「一緒に戻る事も、俺を連れて行く事も…無理なんだな」
『…えぇ。一緒に居ては皆を助ける事は出来無いし、助ければ回復するまで私は私の居場所に戻らなければならない。
その場所に貴方は連れて行けない。それを決める事が出来るのは私では無いから』
いつだったか…
満月の夜に現れて、俺に忠告や警告の様な脅しを掛けて消えた長い蒼髪に蒼眼の男。
何となく…アイツが“決める事が出来るヤツ”な気がした。
何とも腹の立つ話だが。
「会いに来ると言ったな」
『…言ったわ』
「俺がお前をお前だと分からないかもしれないと言ったな」
『言ったわ』
「お前は俺の女だ。俺がお前に気付かない訳が無いだろ」
沈み行く身体をもう戻す事は出来無い。
這い上がる事も出来無いし、引っ張り上げてもらう事も…相手が俺を沈めている本人である女しかいないのだから無理だろう。
ぐっと腕を伸ばして長い銀髪に触れると唇を寄せる。
「絶対に分かる、気付いてやる。だから必ずに会いに来い…必ずだ」
ふわりと笑ったその顔が、一番好きだった。
泣いた顔も照れた顔も怒った顔も…何もかも好きだったが、心底嬉しそうに笑うその顔が…一番好きだった。
『行って』
「麗…」
『貴方が好きよ、クロス』
だから生きて──…
=家族の名前=
建物は吹き飛び、人は沈む。
全てが消えた白い世界に、麗は座り込んだ。
見渡す限りの白に、麗の肌の色とドレスの黒が色を落とす。
麗を中心に広がり青白く浮かび上がった魔法陣もまた、色を加えた。
「また人助けか」
聞き慣れた不機嫌そうな低い声。
耳に心地よいその声に、閉じていた目を開くと、案の定、そこには見知った人物が立っていた。
『イアン…世界が閉ざされて帰れなくなったから…見放されたと思ったわ』
「本当にそう思うか」
『冗談よ。貴方はそんな事は絶対にしない…何かトラブルでもあったんでしょう?』
“帰るぞ”と言って伸ばされたイアンの手を麗がとる事は無かった。
『…折角貰った世界を滅ぼしたく無いわ』
“御免なさい”と小さく口にした麗を見下ろして、イアンは不機嫌そうに口を開く。
「いつだってそうだ…」
『…何が?』
「いつだって傷付くのはお前じゃないか」
『……』
“いつだって、いつだって”と言うイアンが何を考えているかは直ぐに分かった。
私がしてきた…犯してきた数々の無茶を思い出しているのだろう。
『じゃあ、護って』
「護る…」
『イアンが私を護って。イアンの事は私が護るから』
「お前が俺を護るだなんてそんな」
『護るよ。だって、貴方も私の大事な家族だから』
「……家族?」
そう問い返されて、少し驚いた。
『口にした事、無かったっけ?』
そんな事無いと思っていた。長い時の中で、家族と言った事が無いだなんて…
イアンの前で口にしなかっただけの可能性もあるが…そういう問題でも無いとも思った。
『…貴方は皆にそっくりね…形を気にするなんて』
これだけ長い時を…好きじゃないのに一緒に居るわけ無いのに。
『私の全てを教えてあげる。私の魂を縛る事の出来る真名を…』
目を閉じて皆を呼ぶと、魔法陣に沿って十人の男女が現れた。
形を気にする彼の為に、証人として呼んだ私の家族だった。
『ずっと傍に居るわ。貴方が飽きるまで…私の全てを使って護るわ。だから私の事も護ってね、イアン』
「お前は…狡い…」
『うん…知ってる。だから御免ね、イアン…』
魔法陣が大きく広がって世界を染める。
力を解放するのはいつぶりだろうか?
どれだけ消費するか分からないが、レイの最後の願いの為に頑張ろう。
『私達の帰るべき場所に帰ろう』
我が儘を言って…本来の仕事はイアンに任せて、力が戻るまでの間、家族とゆっくりしよう。
きっと身体は動かないだろうけど、皆が居れば楽しいし、そんな時間を皆も喜んでくれる筈だ。
重力に逆らって舞い上がる長い銀髪。
魔法陣が爆発する様に輝いた次の瞬間…
『私の真名は…』
世界は真白に染まる──…