第6章 EGOIST
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「貴方は…戦えないものだと思ってましたわ」
地に横になってそう口にした傷だらけのシギュンをイアンとトールは黙って見下ろした。
「戦えないと言うか…女はその対象では無いかと」
「……お前が手を出したからだろ」
「また…あの女ですのね」
ふっ、と鼻で笑ったシギュンは、血塗れの腹部にそっと手を置いた。
「あの小娘が憎い。殺したい程に、消滅させたい程に、貴方の記憶から抹消したい程に」
全てから消し去りたい。
貴方の全てから…
「でも無理なんですわね」
消そうとすれば色濃く染み付き、決して貴方を離しはしなかった。
貴方も…離そうとしなかった。
「私、持てる力を全て使いました。小娘を抹消する為のこの計画に…貴方とトール様と戦う事に」
本当に全てを使った。
自分の持てる全てを……
「運命を…私が信じた運命を…せめて私では無くそちらを呪って下さい」
「…あぁ、分かった。お前に助言したのは誰だ…術式は」
「私、貴方を手に入れる為に頑張りましたわ」
そう言うと、溜め息を吐いた貴方はしゃがみ込んで、そっと私の頭を撫でてくれた。
初めて…貴方から触れてくれたのが嬉しかった。
それだけの事が凄く嬉しかった。
「貴方の名前ですわ」
「名前…?」
「私の運命の貴方、絶対である運命を拒否した貴方、私を受け入れてくれなかった憎い貴方、人間の小娘なんかを愛した貴方、ずっと愛し続けてる貴方、私の大好きな貴方………そんな貴方の嫌いな名前が呪解の言葉ですわ」
“嫌になるくらい、私は貴方が好きですから”そう言って笑ったシギュンは、次の瞬間消滅した。
「……俺の…名前」
=選ぶ者=
ネアにキスをした白いレイがとんっ、とネアの肩を押して飛び退く様に離れると、ネアは一瞬でアレンに戻った。
状況を把握できていないアレンが目をぱちくりさせる中、ふわりと笑った白いレイは、崩壊した噴水の一部に寝かされたレイに溶け込む様にして消え去った。
「一体、何が…」
「レイちゃんはレイの中に戻ったんだよ」
背後から急にした声にビクリと肩を揺らしたリーバーとコムイが振り向くと、そこには白い扉を背にしたコムイが立っていた。
パリンと割れる様な音と共に扉が砕け散る。
「室長?!」
「貴様、何でここに!」
「本部から君達の様子を見てたんだ」
「見てた?」
「白い方舟を通してレイちゃんに見せてもらってた。でもレイちゃんが“自分はもう消えるからこれ以上映像を見せてあげられない”って言うから、最後にお願いをして僕だけここに送ってもらったのさ」
「消えるって…」
「消滅だね。レイの中に戻ってレイと一つになったんだ」
「…室長殿、お判りでしょうがここは危険です。賢明な判断だとは思えません」
「そうだね、ハワード・リンク監査官。でもね、皆ボクの大事な家族だから置き去りにするわけにはいかない」
クロス元帥と千年伯爵が戦う破壊音の中、コムイは“リナリーもいるしね”と続けてニッコリと笑った。
「退きなさイ、クロス・マリアン!!」
「断る、デブ」
クロスの撃った弾を自分の剣で弾き飛ばすと、千年伯爵はクロスに斬りかかった。
それを両手に持った銃を十字に構えてクロスは受け流す。
それを見て、地に仰向けに横になったアイリーンは顔色を悪くした。
『うわぁ…あれ絶対砕覇に怒られるわ』
あんな重たそうな剣を受けて…傷だらけな筈だ。
……私、砕覇に何されるのかな…あれ、絶対に御仕置き決定だもの。
「月、いい加減に離してくれないか?」
『あぁ…大人しくしてると約束するなら離してやろう』
隣に座り込むティキが“分かったよ”と言うと、アイリーンは掴んでいたティキの手首を離した。
「案外力強いんだな」
『んー…まぁね…それよりティキ、私をユウの所に運んでくれない?』
「ユウ?」
“私の可愛い剣士様よ”と言って指差せば、ティキは“あぁ”ともらして私を抱き上げると、ユウとユウを支えるラビの元に向かった。
ビクリと肩を揺らしたラビに“大丈夫よ”と言って下に降ろしてもらう。
地に座ったアイリーンは、イノセンスに腕を犯された影響で気を失っている神田の汗を浮かべる青い顔を覗き込むと“ふふっ”と笑った。
『また怒られちゃうわね』
「…あ、アイリーン、まさか…」
サッと顔色を悪くしたラビの向かい側で、ティキは首を傾げた。
しかしアイリーンは構わず神田に口付けた。
「あー…」
「おぉ」
“やっちゃったよ”と言いたげなラビの声と少し驚いたティキの声がした。
でも仕方無い。もうこの子には修復する力が殆ど残って無い挙句、イノセンスの所為で重傷を負っている。
助けるにはこれしか無かった。
だって私にももう殆ど“使っていい力”が残されていないのだから、略式でやるしかない。
イノセンスの残骸を消し、穢れを祓い、治癒させる。
そしておまけにもう一つ…
『もう大丈夫よ、ラビ』
唇を離し、そう言った瞬間、何かが眠るユウと私の間を通って地面に激突した。
足元を見てみると、小さな穴の開いた地面から細く煙が上がっている。
『これは…』
「お、おおおぉおおおお鬼が出たさ…」
青い顔をしてガタガタ震えるラビの視線を追って上を見ると、青筋を浮かべたクロスが銃を構えていた。
「一度ならず二度までも…」
『三度だけどね』
「アイリーン!!?」
「殺す」
涙目でブンブンと顔を横に振るラビと“いや、俺は関係無ぇし!”と、これまた青い顔で手を横にブンブン降るティキ。
『クロス…』
「黙ってろ、犯すぞ」
『……』
何か凄くコワイ事言ってる。
「し、師匠、何やってるんですか!!」
頭の追い付いていなかったアレンが剣を片手に走って来てクロスを注意するが、効果はなさそうだ。
「女性になんて事言ってるんですか!」
「黙ってろ、バカ弟子」
建物に向かって投げ飛ばされた挙句銃で身体の側を撃ちまくられて、アレンは涙目で“はい”ともらした。
「このいけ好かない餓鬼が」
そこまで話した瞬間、クロスの身体は横に吹き飛ばされた。
建物を三個も破壊して漸く止まったクロスの身体が瓦礫に埋もれる。
「師匠!!!」
「や~ッと、鬱陶しイ男を黙らせられましタァ♡」
“感謝しますヨ、淑女♡”と言ってニヤッと笑った千年伯爵は、次の瞬間、ティキの背後に立っていた。
「デ、何で貴方は人間と仲良くしてるんデスかねェ?」
「い、いやね、千年公、これは…」
「黙レ」
それは一瞬だった。
次に気付いた時には、もう私やラビ、ユウ、ティキは地に転がっていた。
散り散りになっている所をみると、吹き飛ばされたんだろう。三人は完璧に気を失っている。
アレンが千年伯爵に向かって行ってるが、アレン一人では太刀打ち出来無い。
化学班達に張った結界が未だに作動しているのが奇跡の様だった。
『Was yea ra chs…』
地に突っ伏したアイリーンが、もう詩ともとれない途切れ途切れの詩を謳い始める中、ふらりと立ち上がったのはジャスデビだった。
「イヤ~、我輩ジャスデビくんを見直しましたヨ!♡今回、他の子達は使えナイ使えナイ…」
アレンと戦いながら嬉しそうに話す千年伯爵に、アレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「コレで吹っ切れましたヨ。14番目を復活させる事はアリマセン!アイツはアレン・ウォーカー共々殺しましょウ♡」
体を引き摺る様にしてレイの元まで行ったジャスデビは、噴水の前に座り込むと、引き寄せる様にしてレイを噴水から下ろして抱き締めた。
虚ろな目は、レイだけをぼんやりと映す。
「起き、ろよ…レイ…」
「大丈夫ですヨ♡力を消費シテ気を失ってるダケデスカラ♡」
「レイ…」
「メデタイ事デス!35年前のレイがレイと一緒にナッタ!記憶が戻った二違いありまセン!!♡」
“ウフフ♡”と嬉しそうな千年伯爵の笑い声が響く中、ジャスデビは腕の中のレイの頬に触れた。
「レイ…レイ……」
緩く巻かれた長い黒髪が毛先から徐々に金に染まる。
徐々に徐々に…
「起きろ、レイ…今度、こそ…一緒に…」
「「“町に遊びに行こう”」」
「「“隣の町にも…どの国にだって連れて行ってあげる”」」
「「“世界中の楽しい事を満喫して、世界中の綺麗なものを見せてやる”」」
「“どこまでもどこまでも三人で…”」
黒髪が全て金色に染まった頃、レイがピクリと微かに動き、ジャスデビは頬を緩めた。
ゆっくりと瞼が閉じ、グラリと体が揺れる…ジャスデビの体は“二人”になって地に倒れた。
「オヤ、これは不味いデスかねェ♡全員、一応息はアリますが…何人もつやラ♡」
ボロボロになったアレンが膝を折る中…クルクルと回りながら“次の転生マデ待った方がイイですかネェ”と言う千年伯爵がピタリと止まってアイリーンを見下ろす直ぐ後ろでそれは起きた。
「人間は皆殺シ…淑女 はどうしまショウかネェ…♡」
浮かび上がる様に起きあがった金髪のレイ。
「アノ膨大な力は上手く利用すれバ、次の転生を待たなくてモ容易く世界に終焉ヲ与えられマス♡」
ゆっくりと開かれた瞼の先から青い瞳が姿を現した瞬間、千年伯爵はレイを振り返った。
「貴女はどう思いマス、レイ?♡」
「……レイ…」
アレンの掠れた声がした。
「金髪蒼眼に戻りましたネ♡黒髪黒眼も似合ってましたガ、ヤハリ貴女はそれが一番デスヨ♡」
『クロくん…ネアはアレンを解放して消滅しちゃったよ』
「おや、ナイスタイミングですネ♡厄介な子ヲ始末する手間ガ省けマシタ♡」
『……本気で言ってるの?』
「エェ、勿論♡」
『ネアは私達の家族じゃない』
「…アイツは家族であると同時二裏切り者デスヨ」
『ネアは貴方の兄弟じゃない』
「関係アリマセンヨ♡兄弟の誰であってモ我輩の邪魔をする者ハ必要無イ♡」
“全てを忘却した破壊人形”
チィはもう…元には戻れないだろう。
『分かったよ、チィ』
「ウフフ♡ジョイド、デザイアス、ワイズリー、ロード、ボンドムはダメそうデスネ…でも他は一応連れて帰りまショウ♡
淑女 を使って終焉ヲ…とも思いましたガ、七人が転生するマデ楽しく待ツのもイイですネ♡」
“旅行でもしまショウ”と楽しそうにクルクル回る千年伯爵に、レイが答える事は無かった。
『とっても楽しそうだけど…』
「レイ…?♡」
『その前に私が貴方に終焉を与えるわ』
これ以上…
歪まないように──…
「貴方は…戦えないものだと思ってましたわ」
地に横になってそう口にした傷だらけのシギュンをイアンとトールは黙って見下ろした。
「戦えないと言うか…女はその対象では無いかと」
「……お前が手を出したからだろ」
「また…あの女ですのね」
ふっ、と鼻で笑ったシギュンは、血塗れの腹部にそっと手を置いた。
「あの小娘が憎い。殺したい程に、消滅させたい程に、貴方の記憶から抹消したい程に」
全てから消し去りたい。
貴方の全てから…
「でも無理なんですわね」
消そうとすれば色濃く染み付き、決して貴方を離しはしなかった。
貴方も…離そうとしなかった。
「私、持てる力を全て使いました。小娘を抹消する為のこの計画に…貴方とトール様と戦う事に」
本当に全てを使った。
自分の持てる全てを……
「運命を…私が信じた運命を…せめて私では無くそちらを呪って下さい」
「…あぁ、分かった。お前に助言したのは誰だ…術式は」
「私、貴方を手に入れる為に頑張りましたわ」
そう言うと、溜め息を吐いた貴方はしゃがみ込んで、そっと私の頭を撫でてくれた。
初めて…貴方から触れてくれたのが嬉しかった。
それだけの事が凄く嬉しかった。
「貴方の名前ですわ」
「名前…?」
「私の運命の貴方、絶対である運命を拒否した貴方、私を受け入れてくれなかった憎い貴方、人間の小娘なんかを愛した貴方、ずっと愛し続けてる貴方、私の大好きな貴方………そんな貴方の嫌いな名前が呪解の言葉ですわ」
“嫌になるくらい、私は貴方が好きですから”そう言って笑ったシギュンは、次の瞬間消滅した。
「……俺の…名前」
=選ぶ者=
ネアにキスをした白いレイがとんっ、とネアの肩を押して飛び退く様に離れると、ネアは一瞬でアレンに戻った。
状況を把握できていないアレンが目をぱちくりさせる中、ふわりと笑った白いレイは、崩壊した噴水の一部に寝かされたレイに溶け込む様にして消え去った。
「一体、何が…」
「レイちゃんはレイの中に戻ったんだよ」
背後から急にした声にビクリと肩を揺らしたリーバーとコムイが振り向くと、そこには白い扉を背にしたコムイが立っていた。
パリンと割れる様な音と共に扉が砕け散る。
「室長?!」
「貴様、何でここに!」
「本部から君達の様子を見てたんだ」
「見てた?」
「白い方舟を通してレイちゃんに見せてもらってた。でもレイちゃんが“自分はもう消えるからこれ以上映像を見せてあげられない”って言うから、最後にお願いをして僕だけここに送ってもらったのさ」
「消えるって…」
「消滅だね。レイの中に戻ってレイと一つになったんだ」
「…室長殿、お判りでしょうがここは危険です。賢明な判断だとは思えません」
「そうだね、ハワード・リンク監査官。でもね、皆ボクの大事な家族だから置き去りにするわけにはいかない」
クロス元帥と千年伯爵が戦う破壊音の中、コムイは“リナリーもいるしね”と続けてニッコリと笑った。
「退きなさイ、クロス・マリアン!!」
「断る、デブ」
クロスの撃った弾を自分の剣で弾き飛ばすと、千年伯爵はクロスに斬りかかった。
それを両手に持った銃を十字に構えてクロスは受け流す。
それを見て、地に仰向けに横になったアイリーンは顔色を悪くした。
『うわぁ…あれ絶対砕覇に怒られるわ』
あんな重たそうな剣を受けて…傷だらけな筈だ。
……私、砕覇に何されるのかな…あれ、絶対に御仕置き決定だもの。
「月、いい加減に離してくれないか?」
『あぁ…大人しくしてると約束するなら離してやろう』
隣に座り込むティキが“分かったよ”と言うと、アイリーンは掴んでいたティキの手首を離した。
「案外力強いんだな」
『んー…まぁね…それよりティキ、私をユウの所に運んでくれない?』
「ユウ?」
“私の可愛い剣士様よ”と言って指差せば、ティキは“あぁ”ともらして私を抱き上げると、ユウとユウを支えるラビの元に向かった。
ビクリと肩を揺らしたラビに“大丈夫よ”と言って下に降ろしてもらう。
地に座ったアイリーンは、イノセンスに腕を犯された影響で気を失っている神田の汗を浮かべる青い顔を覗き込むと“ふふっ”と笑った。
『また怒られちゃうわね』
「…あ、アイリーン、まさか…」
サッと顔色を悪くしたラビの向かい側で、ティキは首を傾げた。
しかしアイリーンは構わず神田に口付けた。
「あー…」
「おぉ」
“やっちゃったよ”と言いたげなラビの声と少し驚いたティキの声がした。
でも仕方無い。もうこの子には修復する力が殆ど残って無い挙句、イノセンスの所為で重傷を負っている。
助けるにはこれしか無かった。
だって私にももう殆ど“使っていい力”が残されていないのだから、略式でやるしかない。
イノセンスの残骸を消し、穢れを祓い、治癒させる。
そしておまけにもう一つ…
『もう大丈夫よ、ラビ』
唇を離し、そう言った瞬間、何かが眠るユウと私の間を通って地面に激突した。
足元を見てみると、小さな穴の開いた地面から細く煙が上がっている。
『これは…』
「お、おおおぉおおおお鬼が出たさ…」
青い顔をしてガタガタ震えるラビの視線を追って上を見ると、青筋を浮かべたクロスが銃を構えていた。
「一度ならず二度までも…」
『三度だけどね』
「アイリーン!!?」
「殺す」
涙目でブンブンと顔を横に振るラビと“いや、俺は関係無ぇし!”と、これまた青い顔で手を横にブンブン降るティキ。
『クロス…』
「黙ってろ、犯すぞ」
『……』
何か凄くコワイ事言ってる。
「し、師匠、何やってるんですか!!」
頭の追い付いていなかったアレンが剣を片手に走って来てクロスを注意するが、効果はなさそうだ。
「女性になんて事言ってるんですか!」
「黙ってろ、バカ弟子」
建物に向かって投げ飛ばされた挙句銃で身体の側を撃ちまくられて、アレンは涙目で“はい”ともらした。
「このいけ好かない餓鬼が」
そこまで話した瞬間、クロスの身体は横に吹き飛ばされた。
建物を三個も破壊して漸く止まったクロスの身体が瓦礫に埋もれる。
「師匠!!!」
「や~ッと、鬱陶しイ男を黙らせられましタァ♡」
“感謝しますヨ、淑女♡”と言ってニヤッと笑った千年伯爵は、次の瞬間、ティキの背後に立っていた。
「デ、何で貴方は人間と仲良くしてるんデスかねェ?」
「い、いやね、千年公、これは…」
「黙レ」
それは一瞬だった。
次に気付いた時には、もう私やラビ、ユウ、ティキは地に転がっていた。
散り散りになっている所をみると、吹き飛ばされたんだろう。三人は完璧に気を失っている。
アレンが千年伯爵に向かって行ってるが、アレン一人では太刀打ち出来無い。
化学班達に張った結界が未だに作動しているのが奇跡の様だった。
『Was yea ra chs…』
地に突っ伏したアイリーンが、もう詩ともとれない途切れ途切れの詩を謳い始める中、ふらりと立ち上がったのはジャスデビだった。
「イヤ~、我輩ジャスデビくんを見直しましたヨ!♡今回、他の子達は使えナイ使えナイ…」
アレンと戦いながら嬉しそうに話す千年伯爵に、アレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「コレで吹っ切れましたヨ。14番目を復活させる事はアリマセン!アイツはアレン・ウォーカー共々殺しましょウ♡」
体を引き摺る様にしてレイの元まで行ったジャスデビは、噴水の前に座り込むと、引き寄せる様にしてレイを噴水から下ろして抱き締めた。
虚ろな目は、レイだけをぼんやりと映す。
「起き、ろよ…レイ…」
「大丈夫ですヨ♡力を消費シテ気を失ってるダケデスカラ♡」
「レイ…」
「メデタイ事デス!35年前のレイがレイと一緒にナッタ!記憶が戻った二違いありまセン!!♡」
“ウフフ♡”と嬉しそうな千年伯爵の笑い声が響く中、ジャスデビは腕の中のレイの頬に触れた。
「レイ…レイ……」
緩く巻かれた長い黒髪が毛先から徐々に金に染まる。
徐々に徐々に…
「起きろ、レイ…今度、こそ…一緒に…」
「「“町に遊びに行こう”」」
「「“隣の町にも…どの国にだって連れて行ってあげる”」」
「「“世界中の楽しい事を満喫して、世界中の綺麗なものを見せてやる”」」
「“どこまでもどこまでも三人で…”」
黒髪が全て金色に染まった頃、レイがピクリと微かに動き、ジャスデビは頬を緩めた。
ゆっくりと瞼が閉じ、グラリと体が揺れる…ジャスデビの体は“二人”になって地に倒れた。
「オヤ、これは不味いデスかねェ♡全員、一応息はアリますが…何人もつやラ♡」
ボロボロになったアレンが膝を折る中…クルクルと回りながら“次の転生マデ待った方がイイですかネェ”と言う千年伯爵がピタリと止まってアイリーンを見下ろす直ぐ後ろでそれは起きた。
「人間は皆殺シ…
浮かび上がる様に起きあがった金髪のレイ。
「アノ膨大な力は上手く利用すれバ、次の転生を待たなくてモ容易く世界に終焉ヲ与えられマス♡」
ゆっくりと開かれた瞼の先から青い瞳が姿を現した瞬間、千年伯爵はレイを振り返った。
「貴女はどう思いマス、レイ?♡」
「……レイ…」
アレンの掠れた声がした。
「金髪蒼眼に戻りましたネ♡黒髪黒眼も似合ってましたガ、ヤハリ貴女はそれが一番デスヨ♡」
『クロくん…ネアはアレンを解放して消滅しちゃったよ』
「おや、ナイスタイミングですネ♡厄介な子ヲ始末する手間ガ省けマシタ♡」
『……本気で言ってるの?』
「エェ、勿論♡」
『ネアは私達の家族じゃない』
「…アイツは家族であると同時二裏切り者デスヨ」
『ネアは貴方の兄弟じゃない』
「関係アリマセンヨ♡兄弟の誰であってモ我輩の邪魔をする者ハ必要無イ♡」
“全てを忘却した破壊人形”
チィはもう…元には戻れないだろう。
『分かったよ、チィ』
「ウフフ♡ジョイド、デザイアス、ワイズリー、ロード、ボンドムはダメそうデスネ…でも他は一応連れて帰りまショウ♡
“旅行でもしまショウ”と楽しそうにクルクル回る千年伯爵に、レイが答える事は無かった。
『とっても楽しそうだけど…』
「レイ…?♡」
『その前に私が貴方に終焉を与えるわ』
これ以上…
歪まないように──…